第四十五話【無限大な夢のあとのやるせない世の中】
――――エデン国・王宮。
コスモス: 「感謝状。竜殿。貴殿の本事件における我が国への多大なる援助を称え、ここに感謝状と賞金を贈ります。――エデン国女王、コスモス」
N・G・ライトとヴァレンの死闘から、一週間。
無事に生還を果たしたコスモスは、修復されたメダルをその身に宿し、再び女王としての重責へと戻っていた。
広大な王宮のホールを埋め尽くすのは、多くの観衆と、新たな時代の幕開けを祝う熱気。壇上では、今回の『女王襲撃事件』において三頭神像を撃破し、未曾有の危機を救った五機の戦士たちが、エデン国最高栄誉の表彰を受けていた。
壇上のコスモスの脇を、ボディガードとしてセルヴォとビートが固め、鋭い眼光で周囲を走査している。竜、タイン、レッド、リーブ、ナギサ。元・十二使徒の名が次々と読み上げられ、彼らは誇らしげに(あるいはナギサのように陶酔しながら)感謝状を受け取っていく。
そんな晴れ舞台を、ホールの隅から恨めしそうに見つめる少女と、それを呆れ顔で見守る少年がいた。
ワンダ: 「なんで私たちが表彰されないわけぇぇぇぇ~~~!!!」
ディスト: 「仕方ないよ。マイルとジーヴァスに関しては、結局最後はトゥルースがトドメを刺しちゃったからね。厳密には僕らの貢献とは見なされなかったらしいよ」
納得した様子で淡々と答えるディスト。その平然とした態度が、ワンダの火に油を注いだ。
ワンダ: 「ディスト! あんた、悔しくないわけ!? 完全にトゥルースに美味しいとこ持っていかれた感アリアリなんだけど!!」
ディスト: 「あ、僕は……今回の一件、特殊任務手当として普通に給料に加算されることになったから、大丈夫だし」
ワンダ: 「クゥゥゥゥソォォォーーーー!!!!」
ワンダは溢れ出す悔しさを拳に込め、鋼鉄の床板を力任せに叩いた。ガィィンッ! という虚しい音がホールに響く。ディストはそんな彼女の姿を、もはや掛ける言葉も見つからないといった様子で眺めていた。
ディスト: 「……ところで。ローラは?」
ワンダ: 「あぁ。ローラなら、ちょっとラヴド本国に用事があるってさ…………。……ムッフッフッフッフッ」
ディスト: 「ど、どうしたのさ。その嫌な笑い方は……」
先ほどまでの荒れっぷりはどこへやら、ワンダは突然いじわるな笑みを浮かべると、ディストの脇腹を肘で執拗に小突き始めた。
ワンダ: 「そんなにローラのことが気になるか! このっ! このっ!」
ディスト: 「べ、べべ、別に!! なんとなく聞いただけでしょ!!!!」
必死の弁解。だが、その顔面の温度上昇と、僅かに泳ぐレンズの動きは、誰の目にもバレバレであった。
しかし、ディストもただ一方的に
ディスト: 「あ、ワンダ。見て、ナギサさんが今、最高の笑顔で表彰されてるよ」
ワンダ: 「えっ、ホントに!? ――って、だ、だ、だからどうしたっていうのよ!?」
一瞬、歓喜の表情で壇上を振り返ってしまったあと、慌てて強がるワンダ。だが、彼女の反応もまた、ディストに負けず劣らず分かりやすかった。
ディスト: 「フッハッハッハッ。やっぱりワンダはナギサさんのこと――」
ワンダ: 「 ギ ャ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ム ! ! ! 」
ディストの言葉を、耳を
ワンダ: 「そういうディストだって、ローラのことが――」
ディスト: 「 ウ ボ ァ ー ー ー ー ー ー ー ー ー ! ! ! 」
やはり奇声で応じるディスト。
ディスト: 「ナギサさ――」
ワンダ: 「 う ご ご ご ご ! ! ! ! ! ! 」
ワンダ: 「ローラ――」
ディスト: 「 ぎ に ゃ あ ー ー ー ー ー ー ー ! ! ! 」
式典の厳かな空気など微塵も気にせず、文字通り「狂乱の鳴き声」を上げ続ける二人。
耐えかねたセルヴォが、警備位置を離れ、二機の首根っこを掴まんばかりの勢いで詰め寄ってきた。
セルヴォ: 「さて!! そこのクソガキ共! 昔のFFのラスボスみたいな断末魔を上げるんじゃねぇ!! うるせぇんだよ!!」
セルヴォによる、やたらと説明的でメタな叱責。
しかし、ワンダとディストは、申し合わせたかのような完璧な呼吸で、セルヴォへ向けて同時に吠えた。
ワンダ&ディスト: 「『サイファー』はラスボスちゃうわボケェェーーーー!!」
それは、関東圏の者が無理にエセ関西弁を真似たような、ネイティブが聞けば「関西なめとんか」と激怒されかねないほどに胡散臭い、疑似関西弁による逆ギレであった。
――――ラヴド国・慰霊墓地。
ラヴド本部の外縁に位置するその場所には、かつての戦争で命を落とした者たちのための集団墓地が静かに広がっていた。
潮風が錆の匂いを運び、整然と並ぶ墓石が午後の陽光を鈍く反射している。弔いのために足を運ぶ兵士は少なくないが、本日その場所に佇んでいたのは、現役の軍人ではない一機の女性だった。
ローラ: 「二年ぶりだな……」
無数の墓石の中から一つの前で足を止め、ローラは哀愁を込めてその墓標を見つめた。刻まれているのは、忘れもしない親友の名。
〝 ラ ヴ ド 軍 二 級 兵 士 デ ス フ ェ ニ ッ ク ス こ こ に 眠 る 〟
ローラは傍らの手桶から
水は、その下に眠る者の意志に同調しているかのように、元気よく、清らかに流れていった。彼女は墓前に跪き、静かに両手を合わせて黙祷を捧げる。
しばらくして目を開け、自らの赤い右腕――かつての戦いで炎を操る力を覚醒させた「ダブレスト」を見つめると、彼女は何かを思い出したように前言を撤回した。
ローラ: 「……いや。違うな」
ローラは立ち上がり、墓石に背を向けた。そして、頼もしき相棒の重みを感じるように右腕を握りしめ、囁く。
ローラ: 「妾とお前は……常に一緒だったな」
その場を去ろうと歩みを始めた彼女の視界に、向こうの方から駆けてくる小さな影が映った。プリミティベビーだ。
ベビー: 「ローラァ! なんとかラヴドに復帰できそうでちゅよ。過去の経歴と、今回の活躍が評価されたようでちゅね!」
ニコニコとセンサーを輝かせるベビーに、ローラは慈母のような柔らかな笑みを向け、その頭を優しく撫でた。
ローラ: 「そうか。良かったな、ベビー」
ベビー: 「ローラは……また、行くんでしゅね」
ベビーが突然、しんみりとした声で呟く。ローラは僅かに寂しげな陰りを瞳に宿して応じた。
ローラ: 「あぁ。この後エデン国に用事があるので一度立ち寄るが……その後は再び、旅に戻るつもりだ。妾が居なくても、しっかりするのだぞ」
ベビーは頷きながら、力強く首を縦に振った。
しばらくの間、二機は互いの顔を見つめたまま動かなかった。親子のような、師弟のような、言葉を超えた絆。やがて、ベビーが思い出したように自身のハッチから何かを取り出した。
ベビー: 「そうだ。これをローラにあげるでちゅ」
ベビーから手渡されたのは、手の平サイズの無骨な端末だった。ローラはそれを不思議そうに眺め、首を傾げる。
ベビー: 「ラヴド兵専用の通信機器でちゅよ。これがあればこの世界のどこに居ても、同じ機種とは連絡が取れるんでちゅ……。これで、ディストとでも連絡を取ってあげればいいんじゃないでしゅか~?」
ローラ: 「……? 礼を言う。……しかし、別にかまわぬが、何故そこでディストの名を出すのだ?」
ローラのあまりに真面目な問いに、ベビーは軽くショックを受けたように目を丸くした。
ベビー: 「え? 分かんないでしゅか?」
ローラ: 「さっぱり分からぬ」
微塵の嘘も
ベビーはしばらくキョトンとしていたが、突然、これはこれで面白い事態だと悟ったのか、いたずらっぽく笑ってその場を走り去った。
ベビー: 「知~~~らないでちゅよ~~♪」
ローラ: 「あ、ちょっと待ってくれベビー! おい待て! 妾が尋ねたいことが……! ベビー……!!」
叫びも虚しく、ベビーはそのまま角を曲がって見えなくなった。
ローラは溜息をつくと、眉間に深い皺を寄せて、手の中の最新端末を敵機でも見るかのように睨みつけた。
ローラ: 「…………電源の入れ方が分からぬ」
――――エデン国本部・最深部。
厚さ数メートルに及ぶ三重の防護扉を抜けた先。そこには、限られた特権階級と、その許可を得た者以外は足を踏み入れることさえ許されぬ特殊会議室が存在していた。
天井の冷たい照明が、幾何学的に配置された四つの長机を照らし出している。中央に設けられた広い空洞を囲むように、机は冷徹な「四角形」を形作っていた。少し離れた壁際の一角には、この密談を傍観するための観覧席が設けられ、独特の緊張感が室内の空気を重く沈ませていた。
現在、その四角形の席に腰を下ろしているのは、ラヴド国の王ビーストマスターと副王ブラックメイル、そして各部門の最高責任者たち。対面には、エデン国女王コスモス、トゥルース主任デュオカイザー、運搬部部長ロケットランチを筆頭とした、エデン政府の重鎮たちが並んでいる。
そして、傍聴席には――ワンダ、ナギサ、ディスト、ローラ、リーブ、レッド、竜、タイン、セルヴォ、ビート。
今回の事変を最前線で戦い抜き、歴史の「裏側」に隠された真実を共有する十機の勇士たちが、息を呑んで戦況……ならぬ審判の行方を見守っていた。
すべての視線が、部屋の中央――逃げ場のない「空」のスペースへと注がれる。
そこに独り、静かに浮遊しているのは、三本の角を持つ白き龍、カヲスであった。
エデン側の上層部から選出された一機の執政官が、氷のように冷たい眼光をカヲスへと浴びせ、議事録を読み上げるように口を開いた。
「本事件において、二年前の戦役で死亡と公表されていたカヲスが突如として姿を現し、敵と交戦する姿がメダロポリスの多くの住人によって確認された。その後、カヲスは空中要塞フユーンへと向かい、主犯F・G・シャインとの死闘の末、女王コスモスのメダルを奪還。その亀裂を自らの手で復元させ、女王の全機能を回復させた」
執政官は一度言葉を切り、傍聴席に座る十名へと視線を投げた。表情だけで「相違ないか」と問う。十機は無言のまま、重く頷いた。
執政官は僅かに眉をひそめ、冷淡に話を続けた。
「死亡したはずの男の目撃情報は瞬く間に拡散され、一時は国内が騒然となったが、トゥルースによる迅速な情報操作により現在は沈静化している。具体的には、三頭神像がカヲスの姿に擬態していた事実を逆手に取り、『街に現れたカヲスはF・G・シャインが放った偽物である』という情報を公式発表とした」
トゥルースの尽力により、カヲスの生存という「不都合な真実」は、寸前のところで一般大衆の目からは覆い隠された。だが、ラヴドとエデンの上層部を欺き続けることはできず、結果としてこの秘密法廷が開かれるに至ったのだ。
「本会議の目的は、前エデンリーダー、カヲスの処遇を最終決定することにある。尚、真実を共有する十名にも、ここで下される決定には絶対的に従ってもらう。……そのために、特別に招待した次第である」
静寂。
逃れようのない裁きの
第四十五話【無限大な夢のあとのやるせない世の中】終わり