REAPPEARANCE   作:土地_0000

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第五話【各々の思惑】

第五話【各々の思惑】

 

 

 シャインたちの暴挙によって『ラヴド国』の本部が蹂躙されてから、二日の月日が流れた。

 未だ混乱の熱が冷めやらぬ外界を他所に、深く険しい山々の懐に抱かれた一軒の別荘には、涼やかな静寂が停滞していた。

 

 そこは、エデン国女王直下諜報部『トゥルース』が極秘に管理する、数多の拠点のひとつ。全国各地に点在するこれらの「隠れ家」は、任務の合間の休息地であると同時に、有事の際の絶対的な安全圏として機能している。彼ら影に生きる者たちが、何時、如何なる場所へ派遣されても活動を継続できる理由が、この山小屋の古びた木材の匂いの裏側に隠されていた。

 

 無事、白メダリアの奪取を阻止し、本部から離脱したトゥルースの三機。そのリーダーであるデュオカイザーは、到着するや否や、相棒同士であるセルヴォとビートへ向き直った。

 

デュオ: 「セルヴォちゃん、ビートちゃん……ここからは別行動とぃきましょぅ」

 

 その声音は相変わらず浮ついた調子を保っていたが、デュオの提案した内容は極めて冷徹なものだった。

 すなわち、白メダリアをデュオの手で「安全な場所」へと隔離すること。そして、その隠し場所については、長年苦楽を共にしてきたセルヴォとビートにさえも一切明かさない。残された二機は、ラヴドの王ビーストマスターとの約束通り、彼と連絡を取りその指示に従う――それが彼女の出した「最適解」だった。

 

セルヴォ: 「さて、白メダリアの在りかを知るのはデュオさんだけ……か」

 

ビート: 「しかし、もしシャイン達に目をつけられた時に、デュオさんだけで奴ら3人を相手できるのですか?」

 

 ビートの懸念はもっともだった。シャイン、ジーヴァス、マイル。あの日、ラヴド本部で見せた三機の実力は、まさに「神」の如き蹂躙であった。いかにトゥルース主任といえど、三対一の真正面からの激突を凌ぎ切ることは、不可能に近い。

 

デュオ: 「ふっふっふ~ん♪ たしかに戦っては勝てなぃけど、トゥルースの持ち味は戦ぅ事じゃなぃゎょねぃ?」

 

 デュオは艶やかにレンズを細め、含みのある笑みを漏らした。

 その瞬間、セルヴォとビートに、ある種の戦慄が走った。普段のおちゃらけた言動の裏側、彼女の本質に刻まれているのは、冷徹なまでの盤面掌握と、相手が「痛い目」を見るまで決して歩みを止めない執念。

 一度狙いを定めた獲物を、決して力押しではなく「絶望」という名の網で絡め取る。それこそが、この恐ろしい女性の真の武器であることを、二機は直感的に理解していた。

 

セルヴォ: 「さて、デュオさんに何か考えがあるなら了解した」

 

ビート: 「では、ひとまずここで別れましょう」

 

 これ以上の追及は無意味であることを悟り、二機は短く別れを告げた。

 山小屋の扉が開き、セルヴォとビートの影が、木漏れ日の差す森の奥へと消えていく。残されたデュオカイザーは、手元で静かに拍動する『白メダリア』を見つめ、誰に聞かせるでもない不敵な鼻歌を奏で始めた。

 

 

 ―

 

 

 一方、ラヴド本部の包囲を突破したシャインたちは、一時的に活動の拠点を戻していた。

 そこは、かつて『空中要塞』として大きな事件を起こした地――『フユーン』。百余年の昔、フユーンストーンと呼ばれる神秘の石がもたらす浮力によって天空に君臨したその要塞も、今や随所が欠落し、鳥さえも近寄らぬ巨大な鉄と岩の墓標と化している。だが、その忘れ去られた静寂こそが、彼ら略奪者にとっては格好の潜伏先であった。

 

ジーヴァス: 「おい!!シャイン!!次はどうするんだ!?」

 

 静寂を物理的に叩き割るような、ジーヴァスの怒声。落ち着きのない彼は、一刻も早く次の戦場を求めて右腕をガチャつかせ、周囲の瓦礫を蹴り飛ばしている。

 

マイル: 「だからぁ、怪しい場所を虱潰しに探るって言ってるだろぉ?」

 

 マイルが、深いため息と共に相棒をなだめた。三機の中で最も冷静な彼は、逸るジーヴァスの制御を日常のルーチンワークとしてこなしている。

 

 その中央。要塞のテラスに腰掛け、八本の火柱を静かに揺らめかせるシャインが、不敵な笑みを湛えて顔を上げた。

 

シャイン: 「クククク…そうだなぁ。じゃあ、ジーヴァスは女王が訪れているのが何度か確認されている『聖・ヴァレン教会』。マイルは、エデンの重要な基地『ビッグブロック』。僕は……エデンと密接な関わりがあるといわれている『竜探偵事務所』でどうだろう?」

 

 シャインの提案は、極めて合理的な分断捜査だった。マイルとジーヴァスは無言で首を縦に振り、彼女の指揮に同意を示した。

 この歪な三人組において、シャインの言葉は絶対の法に等しい。女王襲撃から始まった一連の脚本は、すべて彼女の頭脳から生み出されたものだ。

 

シャイン: 「クククク…じゃあまたこの場所で会おう」

 

 その言葉を合図に、ジーヴァスが動いた。

 脱兎のごとく、どころではない。弾かれたように、瞬時にその場から姿を消したのだ。

 あとに残されたマイルは、やれやれと大袈裟に肩をすくめる。

 

マイル: 「まったく、せっかちなヤツだなぁ」

 

 呆れ混じりに、歩き出そうとしたその背にシャインの声が突き刺さる。

 

シャイン:「──そうだ、マイル。……頼まれていた『例のモノ』、仕上がっているよ」

 

 

 ―

 

 

 一方、ラヴド国の心臓部たる『ラヴド本部』。

 先日の襲撃事件の傷跡は深く、回廊には未だ焦げた絶縁材の臭いが停滞し、随所で復旧作業にあたる重機の振動が床を揺らしている。整然とした威容は影を潜め、本部は泥臭い戦後処理の喧騒に包まれていた。

 

ブラックメイル: 「どうするビーストマスター?まだ軍を動かす準備は難しいが、シャイン達は放って置けないぃ~…ぞッ」

 

 王室の間に隣接した作戦会議室。ブラックメイルが、苛立ちを隠さず問いかけた。

 ラヴド軍の主力は今、二手に分かれている。破壊された設備の再建に駆り出された工兵たちと、シャインたちの蹂躙を受け、メンテナンス・ベッドで再起動を待つ満身創痍の兵士たちだ。

 発信機の反応により、敵のアジトが空中要塞『フユーン』であることは既に特定している。だが、そこへ即座に送り込めるだけの余剰戦力は、今のラヴドには一機たりとも残されていなかった。

 

ビーストマスター: 「エデンも今のままでは、まともに軍を出せない……。ならば、一般市民の協力を要請するしかないです」

 

 ビーストマスターは、山積する被害報告書から顔を上げ、静かに断言した。

 一般市民の中には、かつての大戦を生き抜き、正規軍にも劣らぬ実力を備えたメダロットたちが存在する。リーブやレッドといった賞金稼ぎたちがその最たる例だ。彼らは既に国家という枠組みの外にいるが、その「力」は今、この停滞を打破するための希望であった。

 

ビーストマスター: 「……という事で、一般人との関わりが深く、高い実力を持った兵士を1人選んで任務につかせましょう。トゥルースの方々との連携も取りつつ、一般の協力を得て、フユーンに攻め込ませましょう」

 

 ――ピー、ピー、ピー……。

 

 その時、作戦卓の通信機が、タイミングよく緊急信号を拾い上げた。

 山中の隠れ家を後にしたセルヴォとビートだった。二機はデュオと別れ、自由行動に入った現状を簡潔に報告すると、ラヴドの王へ次なる指針を仰いだ。

 

 ビーストマスターは、先ほど下したばかりの決断を、冷徹なまでの正確さで二機へ伝える。

 

ビーストマスター: 「こちらから1人、優秀な兵士を送りますので彼と合流した後、一般人の協力を得てフユーンに攻め入ってください」

 

 セルヴォは、ラヴドが既に敵の潜伏先を掌握しているという事実に、僅かな驚きと感心の混じったため息を漏らした。

 

セルヴォ: 「さて、ところで『優秀な兵士』って誰だ?」

 

 その問いに、ビーストマスターは僅かな沈黙を置いた。

 二年前。大戦の終盤、自らの弱さと向き合い、ラヴドの勝利に多大なる貢献をした英雄の一人。

 

ビーストマスター: 「失礼しました。その兵士は………ラヴド軍一級兵士『ディストスター』です」

 

 その名が告げられた瞬間、会議室に一筋の期待と緊張が走った。

 ラヴドの明日を担う一級兵士――ディスト。彼の真っ直ぐな意志が、再び世界の命運を懸けた戦いへと投じられようとしていた。

 

 

第五話【各々の思惑】終わり

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