REAPPEARANCE   作:土地_0000

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第六話【ディスト、再登場】

第六話【ディスト、再登場】

 

 

 ラヴド軍一級兵士、ディストスター。

 二年前、かつての臆病な少年は伝説のフォーパーツ『エアスト』の適格者として覚醒し、大戦の趨勢を決定づける武勲を挙げた。

 今や彼の名は軍内に知れ渡り、その純粋な戦闘能力は、国王ビーストマスターと副王ブラックメイルを除けばラヴド最強と目されている。

 分厚い装甲から放たれる圧倒的な熱量と、鋭利な爪が放つ殺気。後輩の兵士たちは彼を尊敬するが、当の本人はその自覚が絶望的に欠落しており、その言動は未だ無邪気な子供のままであった。

 

 まだ夜の帳が降りぬ早朝のことだ。

 ラヴド本部の兵舎にて、ブラックメイルによって強引に叩き起こされ、不機嫌そうに目を擦りながらディストが拝命したのは、国境付近にてエデン側の協力者であるトゥルース、セルヴォとビートの両名に合流せよという極秘任務だった。

 ディストはデスクに地図を広げ、指先で目的地をなぞる。ラヴド本部からエデンとの国境までは、軍用車でまる一日は要する距離であった。

 

ディスト: 「よーし!ここは〝3PMCシステム〟の出番だな!」

 

 3PMCシステム――『3パーツメダチェンジ・システム』。

 本来、メダロットの機体構造を劇的に変化させる『メダチェンジ』は、四つのパーツすべてが同型、いわゆる純正でなければできない。しかし、左腕に規格外のフォーパーツ『エアスト』を装備したディストは、物理的に純正の条件を満たすことができない。そこで開発されたのが、三つのパーツのみで変形を完遂させる、彼専用の強引なシステムであった。

 

 ディストは右腕を天へ、左腕を地へと大きく広げる。

 

ディスト: 「メダ!」

 

両腕を風車のように激しく旋回させ、勢いのまま、彼は右腕を左腰へ、左腕を右腰へと交差させ『変身ポーズ』をキメる。

 

ディスト: 「チェーーーンジ!!」

 

 刹那、彼のティンペットに激しい電磁パルスが走り、装甲の隙間から青白い放電が迸った。

 

 ――ガチ、ガチガチガチッ!

 

 装甲板が高速でスライドし、フレームが悲鳴を上げて組み換わっていく。ディストの身体は低く伏せられ、滑らかな曲線を描く流線型の車両形態へと変貌を遂げた。これならば、通常一日かかる距離も、半日の爆走で踏破可能だ。

 ちなみに、メダチェンジをする際に特に『変身ポーズ』は必要ない。

 

ディスト: 「出発進ー行ー!!」

 

 ディストが本部の巨大な城門をくぐろうとした時、そこには非番の兵士たちが幾重にも重なって見送りに駆けつけていた。

 

「ディストさん、最高にカッコいいっす!」

「ディストさんバンザーイ! やっちゃってください!」

 

 一級兵士への敬意と、彼の気さくな性格を愛する者たちの怒号のような声援。

 ディストは車体の一部をパタパタと動かし、子供のようにはしゃぎながら応えると、路面を焼き切らんばかりの加速度で、地平線の彼方へと弾け飛んだ。

 

 

 ―

 

 

 爆走するディストの目的地であり、トゥルースとの合流地点として指定された場所――それはエデンとラヴドの境界に位置する巨大都市『メダロポリス』であった。

 

 終戦後、最も早く再建が始まったこの街は、わずか二年の月日で大陸一の規模を誇る大都市へと急成長を遂げた。天を突く高層ビル群が立ち並び、各陣営の技術が混ざり合った最新のインフラが、血管のように街中を走っている。

 都市中央の広場には、街の象徴とも言える巨大な噴水が鎮座していた。その頂上、水飛沫を浴びて神々しく輝いているのは、かつて大戦を終結させた『英雄ジョーカード』の銅像である。

 

 全メダロットの守護者として、自らを犠牲に世界を救った不世出の英雄。人々は像を見上げ、平和の恩人に祈りを捧げる。だが、実際にはそのジョーカードこそが、たった一人の人間の女性を救う代償として、世界から全メダロットを抹消しようとした張本人であった。

 その血塗られた執念は、トゥルースによる徹底した情報操作によって歴史の裏側へと塗り潰され、真実を知る者は、今や数えるほどしか残されていない。

 

 ディストがメダロポリスに辿り着いたのは、ラヴド本部を出発してから十時間が経過した頃だった。

 予定よりも大幅に早い到着。3PMCシステムの強制駆動によって熱せられた車体を冷却させながら、ディストはトゥルースが予約しているはずのホテルへと向かったが、そこに二機の姿はなかった。

 

 嫌な予感がした。

 ディストはかつての戦友たちの不真面目な顔を思い浮かべ、近くのバーの暖簾をくぐった。

 案の定、昼下がりの気だるい空気とオイルの匂いが混ざり合う店内の片隅で、ジョッキを片手に琥珀色の液体を煽る青と黄色の影を見つけた。

 

セルヴォ: 「さて?ディスト早かったじゃねえか?まぁ…久しぶりの再会だ。お前も飲めよ」

 

 セルヴォが、いつもの軽薄な笑みを浮かべてジョッキを差し出す。その不敵な佇まいは、数日前の ラヴド本部での激闘を感じさせないほどに弛緩していた。

 

ディスト: 「え~?じゃあ……オレンジジュース」

 

セルヴォ: 「ねぇよ!!!」

 

ビート: 「………子供か」

 

 ビートが呆れたように排熱音を漏らす。

 一級兵士としての実力を備えながらも、精神的にはまだ未成熟な「子供」であるディスト。その一言で、店内に漂っていた僅かな酒の酔いと再会の情緒は、一瞬にして冷え切っていった。

 三機は早々に店を後にし、ホテルの一室で本来の目的――フユーン攻略に向けた作戦会議へと舵を切った。

 

 メダロポリスのホテル。防音の施された一室で、三機のメダロットは地図を囲み、これまでに得られた情報を整理していた。

 

セルヴォ: 「さて、つーわけで何人かの協力を得てフユーンに乗り込むわけだが……」

 

ビート: 「やつらの実力は異常だ。並の一般人では逆に足手まといだ。……元軍隊であるのが好ましい。」

 

 ビートの懸念はもっともだった。かつて世界を蹂躙した空中要塞に立て籠もる「神」を自称する者たち。立ち向かうには、相応の覚悟と練度を積んだ兵士が必要不可欠だ。

 ディストはしばし考え込み、ふと脳裏に過った一機の面影を口にした。ここメダロポリスからほど近い、国境の荒野に佇む聖・ヴァレン教会のシスター。

 

ディスト: 「う~ん。ここからだとワンダの教会が近いけど行ってみる?」

 

 かつての戦友の名。一級兵士として成長したディスト、影から世界を守るトゥルース。彼らが再集結を誓おうとした、その頃――。

 

 

 ―

 

 一方、街の喧騒から切り離された一角に、その探偵事務所はあった。 『竜探偵事務所』。

 二階の壁一面を埋め尽くすサーバーラックが低く唸りを上げ、無数のモニターが青白い光を乱反射させている。

 

 部屋の主であるブラックスタッグの竜は、極端な猫背をさらに深く折り曲げ、自身が改造したスパコンに向かい合い、思考の海へと深く沈んでいた。

 

竜:(F・G・シャイン……まさかラヴドに襲撃をかけるとは)

 

 彼女がラヴド本部にハッキングを行った結果では、シャイン一行はラヴド本部の最深部まで侵入している。にも関わらず、『白メダリア』が奪われたという情報は上がってこない。 侵入のみならず逃走まで許しておきながら、重要物が奪われていないなどという事態があり得るだろうか。

 

竜:(本当は奪われたのか?いや、そうであれば事態はもっと深刻化しているはずだ)

 

 ならば、すでに白メダリアは別の場所に移動されているのか。 彼女の情報網に一切引っかからずにそれを遂行できる人物がいるとすれば――トゥルースしかいない。

 

竜:(ラヴド本部より安全な場所への移動……ビッグブロック、エデン本部、聖・ヴァレン教会……)

 

 竜の脳裏に候補地が浮かぶが、即座に否定した。いずれもラヴド本部より安全とは言い難い。 いっそトゥルース自身に持たせて身を隠させた方が確実だ。ならば、調査すべきはトゥルースの居場所ということになる。

 

 だが、そこで思考が引っかかった。これまでの行動パターンから見て、F・G・シャイン達がそこまで頭がまわるとも思えない。彼女らが取りうる手段は、もっと単純で、乱暴なものではないか。

 

竜:(最悪の場合、虱潰しにそこらじゅうを襲撃する可能性が……?)

 

 探偵としての冷静な思考。  彼女がシャインによる「虱潰し」という可能性に辿り着いた、その時だった。

 

タイン: 「テメー!!さり気にオレをイス扱いしてんじゃねえ!!」

 

 不意に、彼女が座っていた「椅子」が怒鳴り声を上げ、乱暴に揺れた。

 

竜: 「すいません…間違えました。」

 

タイン: 「嘘つけ!!」

 

 無機質な棒読みで謝罪する竜と、激怒するグレインのタイン。この事務所において、彼を家具のように扱うのは竜なりのコミュニケーション……という名の趣味であった。

 二階には、メダロット数機が並んで歩けるほど横に広い窓がある。かつて人間たちの娯楽にあった探偵漫画のそれを彷彿とさせるその窓が、平和な夕景を映していた――次の瞬間までは。

 

 ―――ッ、ガシャァァァァァン!!

 

 凄まじい破砕音と共に、分厚い強化ガラスが粉々に砕け散った。

 爆風のような熱気が室内に流れ込み、舞い上がるガラスの破片がモニターの光を撥ねてキラキラと輝く。驚愕に振り返る二機の視線の先。

 逆光の窓枠に腰掛け、八本の火柱を禍々しく揺らめかせる雅の機体――シャインが、狂気と熱量を孕んだ瞳で、室内の「獲物」を射抜いていた。

 

シャイン: 「クククク…初めまして。僕は天照大神型メダロット、F・G・シャイン……君達、神様を隠していないかい?」

 

 平穏は、砕けたガラスと共に消え去った。

 「神」を標榜する略奪者の降臨により、竜探偵事務所は瞬く間に、戦慄の戦場へと変貌を遂げたのである。

 

 

 第六話【ディスト、再登場】終わり

 

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