第七話【さり気に、そして情熱的に】
――竜探偵事務所。
夕暮れの静かな事務所に、突然、ガラスの割れる音が響いた。
窓を破って現れたのは、オレンジ色の装甲を持つ女型メダロットだった。背後には八本の赤い柱が浮かび、炎が揺らめいている。
女王襲撃事件の主犯格として指名手配されている、F・G・シャインである。
竜とタインは、突然の侵入者を前に言葉を失った。
シャイン:「神様を隠していないか聞いてるんだけど?無視しないでほしいね」
シャインは、二機が黙っていることに苛立っているらしい。
竜が先に口を開いた。
竜:「神様……それは白メダリアの事ですね?」
シャインの言う「神様」が、N・G・ライトに関係する白メダリアを指していることは、竜にも分かっていた。
シャイン:「隠しているのかい?隠していないのかい?」
竜:「残念ですね……。ここにはありません……」
竜は表情を変えずに答えた。
すると、シャインは楽しそうに笑い始めた。
シャイン:「クククク…まぁ仮に本当に隠していたとしてもそう言うだろうね」
シャインは、最初から素直に答えが返ってくるとは思っていなかったようだ。
シャイン:「クククク…だからさ、僕、自分でここを探るから少し気絶しててよ」
シャインが腕を上げる。
竜:(まずい…ここで戦闘されると大切な機械や装置が……)
事務所には、竜が改造したスーパーコンピュータをはじめ、調査に使用する機器や資料が数多く置かれている。
ここで戦闘になれば、無事では済まないだろう。
竜が対処を考えた、そのときだった。
――ガアアアアアアアアアアッ!!
隣の「椅子」……タインが、突然シャインへ飛びかかった。
不意を突かれたシャインは、咄嗟に防御姿勢を取る。
しかし、タインは殴りかからなかった。
そのまま両腕でシャインの胴体を抱え込み、割れた窓へ向かって突進する。
二機は勢いよく窓から飛び出した。
事務所は建物の二階にある。地面までは数メートルの高さがあったが、かつて十二使徒のエースと称されたタインにとって、その程度の落差は問題にならなかった。
竜:(助かった……しかしタイン……何故……?タインにここの機器を心配するような知恵があるとも思えない……いや、この場合は……)
竜は窓際へ駆け寄り、階下を見下ろした。
シャインは着地の直前にタインの腕から抜け出し、少し離れた場所へ降り立っていた。
一方、タインはそのまま地面へ着地すると、シャインを指差して怒鳴った。
タイン:「バトルがしたいならさり気に相手してやる!!だが、事務所の中は駄目だ。なぜなら…………あそこのイスが1つ壊れる毎に、竜のオレへのドS行動がさり気に悪化するからだぁ!!!」
竜:「やっぱりそれですか……」
竜は溜息をついた。
日頃の自分の「教育」が、結果として事務所の機器を守ることにつながったらしい。
それならば、これからもタインに対する折檻の手を緩めてはならない。
竜は、静かに心に誓うのだった。
シャインは左腕の手刀『クサナギソード』を構えた。
シャイン:「クククク…まぁいいさ、どちらにせよ君達は邪魔者さ……」
タイン:「竜、邪魔はするなよ。さり気にタイマンでやるからな!」
竜:「勝手にしてください……」
タインが地面を蹴った。
タイン:「さり気ぇぇぇぇーーーーーー!!!」
強靭な拳から、連続パンチが繰り出される。
シャインは左腕のクサナギソードで、その攻撃を次々と受け止めた。拳と手刀がぶつかるたびに、金属音が響く。
タインの連撃を防ぎきると、シャインは後方へ跳び、頭部パーツ『オクトバーン』を起動させた。
――ゴォォォォォォォッ!!
八本の赤い柱から、広範囲に炎が放たれる。
タインは回避することもできたが、あえて炎の中へ飛び込んだ。
装甲が熱を帯び、損傷していく。
それでもタインは勢いを緩めず、炎を突き破ってシャインの懐へ入り込んだ。
――ドガッ!!
渾身の右ストレートが、シャインを捉えた。
シャインの身体が後方へ吹き飛ぶ。
タイン:「さり気……それは漢の極意なり!!!」
タインは拳を突き出したまま、得意げにポーズを決めた。
しかし、倒れたシャインはすぐに立ち上がった。
右腕の『ヤサカニボール』から光が放たれ、タインの攻撃によって生じた損傷が修復されていく。
タイン:「ゲッ!お前、さり気に回復とかできんのかよ!?」
竜:「馬鹿ですね……」
二階の窓から戦闘を見ていた竜が、呆れたように言った。
タイン:「んだと!?」
竜:「得体の知れない敵に突っ込んでいって、挙句、敵に与えたダメージは回復され、自分にはファイヤーのダメージが残る……最悪です」
タインの格闘能力は、元十二使徒のエースに相応しいものだった。
だが、相手の能力を確かめずに突っ込むだけでは、今回のような相手には通用しない。
タイン:「だったら、お前ならさり気に勝てるのかよ!?」
竜:「いえ、難しいです。身体能力では明らかにタインの方が上ですから。そこでタイン、今から私の指示に従って動いてください……」
普段は自分を罵倒してばかりの竜が、身体能力では自分の方が上だと認めた。
タインは少し嬉しくなった。
タイン:「おうよ!!じゃあさり気に頼んだぜ!!」
竜は頭部パーツ『ブラックインコム』を起動させた。
このパーツは、敵の動きなどを探る『索敵』を得意としている。戦闘力よりも戦法を重視する竜にとって、重要なパーツだった。
さらに、索敵によって得た情報を味方へ送信することもできる。
竜はここ数年の鍛錬によって、その能力を応用し、簡単なメッセージも送れるようになっていた。
竜はシャインの動きを観察しながら、タインへ指示を送る。
『右45度へ回避』『左にフェイント』『また右』『ジャンプ』『2秒後にアサッシン』『右腕で防御』……。
タインは次々と送られてくる指示に従った。
シャインの攻撃を避け、隙ができれば反撃する。
先ほどまでのように、ただ正面から突っ込むだけではない。
竜の判断とタインの身体能力が組み合わさったことで、シャインも容易には攻め込めなくなっていた。
シャイン:「クククク…君の指示が厄介だね!」
シャインは標的を変えた。
浮遊脚部で一気に上昇し、二階の窓際にいる竜へ向かう。
竜は、その動きを見ていた。
シャインの進路と、タインの反応。
そして、自分が射線から退避できる位置。
それらを確かめたうえで、竜は新たな指示を送った。
『3回まわってワンと言え』
タイン:「よし!3回まわって……ってさり気にするかぁーーーー!!!」
タインは反射的に『タイムアタック』を放った。
光線が、竜のいた窓際へ向かって飛んでいく。
竜はすでに窓際から身を引いていた。
そして、その射線上には――竜へ斬りかかろうとしていたシャインの背中があった。
シャイン:「!!?」
不意を突かれたシャインは、空中で姿勢を崩した。
そのまま地面へ叩きつけられる。
竜:「計算通り……」
竜は、シャインの進路とタインの反応を見越していたのである。
もっとも、多少の危険を承知で、タインをからかって遊びたかった面もあったのかもしれない。
シャインはすぐに立ち上がり、『ヤサカニボール』で損傷を修復し始めた。
シャイン:「クククク…これがある限り僕は負けないのさ。君達を倒した後ゆっくりと事務所の中を探させてもらうよ」
しかし、シャインも竜の指示を警戒するようになっていた。
タインの身体能力に、竜の戦術が加わる。
正面からの戦闘だけで、簡単に倒せる相手ではなくなっていた。
戦いは、長引くかに思われた。
そのときだった。
風を切る音と共に、赤い影が戦場を横切った。
『お竜さん、なんやよー分かりませんけど…助太刀させてもらいますわ!!』
第七話【さり気に、そして情熱的に】終わり