第八話【運命…デスティニーを感じる出会い】
――竜探偵事務所の庭。
タインとシャインの戦闘が続く中、赤い影が駆け込んできた。
深紅の装甲を持つブロッソメイルのレッドは、四脚の獣のような形態へメダチェンジしていた。その背には、カブトムシ型メダロットのリーブが乗っている。
リーブ:「あんさんがコスモスさんを襲撃した、2億円の賞金首F・G・シャインやな?」
レッド:「…………………」
二機は、シャインをどう捕まえるべきか竜に相談するため、事務所を訪れたところだった。まさか、その本人が目の前にいるとは思っていなかった。
タイン:「おっ!ありゃあ、さり気にリーブとレッドじゃねえか。」
竜:「お久しぶりですね……。」
竜は割れた窓から身を乗り出し、二機へ声をかけた。
これで、かつて十二使徒として戦った四機が、この場所に揃ったことになる。
シャイン:「クククク…流石に僕でもこの状況はまずいね。……帰らせてもらうよ」
シャインは四機を見渡し、後退しようとした。
リーブ:「そうはさせへんで!!」
リーブの声に応じて、レッドが駆け出した。
四脚の身体を低く構え、シャインの逃走経路へ回り込む。リーブを背に乗せたまま、鋭い牙をシャインの喉元へ向けた。
シャイン:「クククク…悪いけどまだ捕まるわけにはいかないんだ、神様のためにね」
シャインが頭部パーツ『オクトバーン』を起動させた。
――ゴォォォォォォォッ!!
八本の赤い柱から炎が噴き出し、周囲へ一気に広がった。
先ほどの戦闘を上回る熱波に、リーブたちは追撃を止めざるを得なかった。炎と黒煙が視界を遮り、シャインの姿が見えなくなる。
炎を消し止めた頃には、シャインの姿はどこにもなかった。
庭には、焦げた芝生だけが残されていた。
―
――エデン本部の外縁、ビッグブロック。
夕暮れの空の下、ナギサは要塞を見下ろす小高い丘に立っていた。
ナギサ:「全ての事件の発端の地、ビッグブロック。2年前にはここでいくつもの争いが起こり、悲しみの連鎖を引き起こしていたんだね」
かつての戦いを思い返しながら、ナギサは静かに要塞を眺めていた。
その背後へ、一機のメダロットが忍び寄る。
左腕には、重厚なハンマーが備わっていた。
――ガギィィィィィィン!!
突然、ナギサの頭部へ向けてハンマーが振り下ろされた。
しかし、その一撃は、ナギサへ届く直前に見えない壁によって阻まれた。
攻撃の衝撃がそのまま跳ね返り、襲撃者の腕を弾く。
ナギサ:「おや、いきなり殴りかかってくるとは穏やかじゃないね。僕は争いは好きじゃないのだけれど」
ナギサの得意とする『反射行動』。
彼が「心の壁」と呼ぶその能力は、ダイレクト攻撃以外の攻撃を相手へ跳ね返すものだった。
反射の衝撃を受けたのは、エイシイスト2のマイルだった。
マイル:「お前ぇ、元十二使徒のナギサだなぁ?……神様の在りかを知ってるかぁ?」
ナギサ:「フフフ……神の在りかどころか、その存在を確認出来る者ですらこの世にはいないさ。ところで君は例の女王襲撃事件の実行犯……マイルだね?このような形で出会うとは運命……デスティニーを感じるよ」
ナギサは、マイルの言う「神様」を神学的な意味で受け取ったらしい。
マイルが探しているのは白メダリアだったが、話は噛み合っていなかった。
マイル:「よく分からないけどもぉ……とりあえずお前が持ってるかもしれないからなぁ。ちょっと気絶しててもらうぞぉ?」
マイルは背中の大きな鞘へ手をかけた。
そこから引き抜いたのは、刀身に髑髏の横顔が刻まれた大刀だった。
マイル:「……さっそく『斬鉄剣』が役に立ちそうだなぁ」
それは、フユーンを出発する直前にシャインから受け取った、特注の武器だった。
ナギサ:「斬鉄剣とはさぞかし素晴らしい刀なのだろうね……でも僕の心へ直接語りかける破壊のバラード、ダイレクト攻撃でなければ心の壁は貫けないのさ」
マイル:「じゃあやってみなぁ!」
マイルが地面を蹴り、斬鉄剣を振り下ろした。
ナギサの前に、再び反射の壁が現れる。
だが、今度は違った。
マイル:「この斬鉄剣が、『ダイレクト攻撃』なのさぁ!」
――バリンッ!!
斬鉄剣の刃が触れた瞬間、反射の壁が砕け散った。
ナギサの「心の壁」は、ダイレクト攻撃を跳ね返すことができない。
この剣には、その特性が備えられていたのである。
マイルは、かつての大戦で強力な防御能力を持つメダロットたちが活躍していたことを知っていた。
『完全防御』『絶対ガード』『反射』。そうした能力への対抗手段を持たなければ、いずれ戦闘で不利になる。
ジーヴァスには、ダイレクト攻撃である『デストロイ』がある。シャインには、損傷を何度でも立て直せる『回復』がある。
しかし、マイルには、それらに対抗する手段がなかった。
近年のパーツには、旧来のダイレクト特性を持つものがほとんどない。稀に見つかる大昔のパーツは、性能が低いうえに値段も高い。
ならば、自分で用意すればいい。
マイルはシャインに製作を依頼し、ダイレクト攻撃の性質を持つ斬鉄剣を手に入れたのだった。
ナギサ:「……ッ!?これは……!」
反射を突破した刃が、ナギサの装甲へ深く食い込んだ。
ナギサは咄嗟に後退し、反射体勢を解除する。
そして、メダチェンジを開始した。
変形を終える前にもいくつかのパーツが損傷したが、反射を維持したまま攻撃を受け続けるよりは、別の方法で対抗する方がよかった。
ナギサ:「僕の取柄は心の壁だけではないよ。癒し……ヒーリングの力」
パーティクルのもう一つの強みは、自己修復能力だった。
『継続リペア』によって、斬鉄剣で傷ついた装甲が少しずつ修復されていく。
マイル:「気に入らないなぁ……」
マイルは斬鉄剣を握り直し、再び攻撃を仕掛けた。
ハンマーとソードによる連続攻撃が、ナギサを追い詰める。
ナギサは回避しながら、ドライブCの『カウントアタック』で反撃した。
――シュン、シュン……。
光弾が放たれる。
しかし、マイルはその攻撃を次々とかわしていった。
マイル:「なんだぁ?お前本当に当てる気があるのかぁ?」
ナギサは答えず、再びカウントアタックを放った。
カウントアタックは、使用回数を重ねるほど威力が上昇する攻撃である。
相手に命中しなくても、攻撃を重ねた分だけ、次の一撃は強くなっていく。
ナギサは、マイルの攻撃を受けながらも、その機会を待っていた。
――今だ。
マイルが斬鉄剣を大きく振りかぶり、ナギサへ迫った。
鋭い刃が装甲を深く切り裂く。
ナギサは致命的な損傷を負い、継続リペアでも完全に回復するには数十分を要する状態となった。
だが、マイルが剣を振り切った瞬間、わずかな隙が生まれた。
ナギサは砲門を持ち上げる。
狙いはマイルではない。
彼が握っている、斬鉄剣だった。
ナギサ:「僕は平和主義者……パシフィストでね。君ではなく、君の暴威と慢心の象徴を奪わせてもらうよ」
これまでの攻撃によって威力を高めたカウントアタックが、斬鉄剣へ向けて放たれた。
――ドォォォォォンッ!!
強烈な一撃が剣を捉えた。
マイルの手から、斬鉄剣が弾き飛ばされる。
刀は回転しながら、空高く舞い上がっていった。
ナギサは、頭上へ消えていく剣を見上げる。
――パシッ。
ナギサ:(おや?……いま上空で誰かが刀を取る……キャッチする音がしたような……。)
空耳だろうか。
ナギサが空を見上げた、そのときだった。
マイルが再び襲いかかってきた。
斬鉄剣を失った今、ナギサに反射体勢へ戻られると、マイルは不利になる。
だからこそ、マイルは変形する隙を与えないよう、攻撃を続けた。
ナギサは継続リペアで損傷を修復しながら、必死に攻撃を避ける。
しかし、マイルの攻撃による損傷は、回復量を上回っていた。
このままでは、いずれ耐えきれなくなる。
そのときだった。
――ド、ドォォォォォォォォン!!
上空から何かが落下し、ナギサとマイルの間へ着地した。
激しい衝撃と共に、土煙が舞い上がる。
煙の向こうから現れたのは、真っ赤なマントを翻すメダロットだった。
背中には剣と杖を背負い、左手には大きな盾を持っている。
そして右手には――先ほどナギサが弾き飛ばした斬鉄剣が握られていた。
『2本目をくれたのはあんた……』
男は、マイルを見つめた。
どうやら、マイルが二本目の剣を「くれた」と思っているらしい。
『ん?……ひょっとしてナギサにここまでの傷を負わせる事に成功したのはお前なのか……?………ならばオレの剣をかわせるはず……いくぞ!!』
男は斬鉄剣を構え、横一文字に振り抜いた。
――ゴォォォォォォォッ!!
剣の一振りから、凄まじい衝撃波が放たれる。
マイルは回避する間もなく、その攻撃を受けて吹き飛ばされた。
赤いマントの男は、斬鉄剣を手にしたまま、静かに呟いた。
『どこに在るやら次元の狭間……』
第八話【運命…デスティニーを感じる出会い】終わり