次世代魔法少女養成所   作:匿名

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第1話 指導

「便器の掃除が終わってなくてよ?」

「今、しているところです……」

 

ここでのトイレ掃除は一年生の役割。上級生は高みの見物をして、指示してくるだけ。

 

 

「さっきこのトイレを使っている一年を見ちゃったけど、それって良かったんでしたっけ?」

「そもそも、一年はトイレ使用禁止って言わなかったかしら?」

 

上級生が群れるとさらにエスカレートする。偉そうに腕を組んで私の足を踏む。

 

「トイレを使ってはいけないって、そんなこと言われても……」

 

上級生に壁へと叩きつけられる。追い打ちで顎をグッと抑え込まれ、頬をきつく握り潰される。

 

「言い訳をするな?」

 

後ろにいた上級生たちも、ニヤリと嫌な笑みを浮かべながら私の周りを囲んでくる。

 

「この間の連帯責任で、一年生は全員そのようにしたはずですけど、話聞いてましたか?」

「もしも使ってしまったのならしょうがないですけど……。舐められるくらい綺麗にしておきなさいね? 後で便器を舐めた証拠写真を提出すること」

「悪い態度が続くようだと、誤って流出してしまうかもですわよ? そうならないことを願っておきなさいね? ははは」

 

上級生たちは高笑いをしながら、洗いかけのトイレへと入っていく。

その間私たちは、待っているしかない。聞きたくもない音が個室から響いてくる。

 

用事が終わった上級生から出てきて、クスクスとこちらのことを笑って、この場を去っていくのであった。

 

その場で私たち一年生は、その間も立ちつくしかなかった。

 

「せっかく綺麗にしたっていうのに、またやり直しだよ……」

「しょうがないよ、薊ちゃん。くよくよしてても終わらないし、ササっとやっちゃおう」

 

西園寺朱里が言う。

少し大柄の身長とふくよかな身体。こういう体型が男受けするんだろうという身体付きをしている一年生。

 

前向きな朱里と同じ寮部屋になったことが、この施設での唯一の救いだ。もしも一人だったら、こんな虐めに耐えられなかっただろう。

 

「うん……。頑張うか」

 

 

次世代魔法少女育成センター。

ここが、こんなにも厳しい世界だと思っていなかった。

 

魔法少女に憧れを持って入所してくる新入生は後を絶たない。

入所試験の難易度もさることながら、公にはされていないが面接試験での容姿チェックや親の職業等も審査の対象になるらしく、魔法少女養成所の中でも最難関とされている。

入所してからの厳しさも想像を絶するなんていう噂があったが、その噂は本当だったようで、ただただ虐めに耐え抜く生活が待っていた。

せっかく入れた養成所なのに、入所一カ月も経たずに辞めていった一年生も出てきている。

 

「こんな厳しくされているのも、教育カリキュラムのうちらしいよ」

「それって本当かなぁ……。ただの下級生虐めな気がするんだけどね……」

 

呆れたように言うと、朱里はフルフルと首を振った。

 

「最近の怪人はとっても強いから、魔法少女デビューできたとしても、すぐに怪人にやられる人も多いんだって。あと、怪人側に寝返っちゃう人もいるらしくって。だからこそ、精神も鍛えられるようにっていうことで、この厳しさらしいよ」

「そうだとしたら逆効果なんじゃないか……。まぁ、効果はあるかもしれないけど……」

 

この虐めによって精神が鍛えられるのだろう。これに耐えられないようであれば、怪人からの拷問を受けた場合でもすぐに仲間を売るような魔法少女になってしまうのも事実だろうけれども。上級生の表情を見ると、ただ意地が悪いだけな気がしてくる。

 

「ただの理不尽な気もするけどね」

「愚痴言ってないで、さっさとやっちゃおう!」

 

「うぇい」

 

上級生がいないところで影口を言い合うことで結束力が高まるっていう効果はあるかもしれない。共通の敵というのは、役に立つ時もあるという例だ。一年生で辞めないでいるメンバーは、日に日に結束力が高まっている気はする。

無事に辞めないで卒業出来る同期がいれば、怪人たちも圧倒出来るかもだな。

 

「あ、そういえば、薊ちゃん聞いた? このセンターの所長が新しく就任するらしいよ。私たちが入所した時のおじいちゃんが定年退職らしいの」

「なんの口も出さなかった所長ね……。新しく所長が良い方向に変えてくれればいいけどね」

 

養成所をまとめる長がなにもしなかったせいで今の現状があると言っても過言ではない。講師たちは実技を指導しているだけで、不足している心身の鍛錬は上級生が指導するという状況だった。そんなやり方が前時代の異物だ。

 

「今のご時世に合わせて、コンプライアンスを守るような組織に変わってくれればいいんだけどね」

 

 

 

 

次の日。

噂通り、新しく所長が来たようであった。

 

寮のレクリエーションルームで朝礼が開かれた。所長が挨拶をしている。

 

皆の前に立つ姿は三十代、四十代といったところだろうか。所長という役職にしては若い風貌をしている。淡々と表情を変えずに挨拶をしていく様は、少し好感を持てるものであった。

 

「ねぇねぇ。そういえばさ、いままでの所長はおじいちゃんだったから気にしていなかったけど、この養成所って男子禁制だよね?」

「そうだね、全寮制だからね。男子禁制なんだけど、所長だけは特別だよ。夜の見回りとかあるし」

 

 

そう考えると、若い男性がこんなところに来るような人じゃない気がしてきた。

 

所長は手短に自分の経歴か何かを話していたようだったが、私たちがひそひそと話している間に終わってしまっていた。

 

 

「挨拶は終わりだ。現場を見せてもらおう」

「現場って、私たちの練習室のことですか?」

 

「そうだ、案内してくれ」

 

所長の言葉に対して上級生の一人――私をいびっていた天龍院が鼻で笑った。

 

「ここは、男子禁制ですわ? 練習室もそう。魔法少女は変身する過程で、どうしても肌が見えるんです。そんなところは、所長と言えども見せられないです」

 

天龍院は誰に対しても態度を変えない。所長に対しても物怖じしないところは相変わらずだった。

ただ、今回は相手が悪いだろう。

 

「だからどうした?」

「話を聞いてらっしゃいましたか……? だから……」

 

「人前で変身できないのであれば、魔法少女になる資格は無い。お前は今日をもって退所しろ。すぐに準備を整えろ」

「いやいや……、退所…………?」

 

所長は今まで会話をしていたというのに天龍院を無視して、こちらへと向きを変えて話を振ってくる。

 

「練習室とやらへ案内してくれ」

「あ、えっと……」

 

「貴様も退所するのか? 限られた時間を有効に使えないものは、戦場においても殺されるだけ。このまま魔法少女を目指すよりも、退所を勧める」

 

毅然と言い放つ。そこに冗談は含まれていないのだろう。

これに答えないと、せっかく虐めに耐えてきたというのに強制的に退所させられる……。

 

「……案内します。こちらです」

 

私がすぐに案内を始めようと歩き出そうとすると、所長は表情を変えずに言ってくる。

 

 

「――ペナルティ一つ。服を一枚脱げ」

 

「……?」

 

「応答が遅れている。ペナルティ二つ目。服を二枚……」

 

この受け答えも、退所へ向けての勧告が始まっているんだ。この状況での行動も、全てが所長によって判断されている……?!

所長の言葉が言い終わる前に、私は上着と靴下を脱ぎ捨てた。

 

「脱ぎました。早速向かいましょう!」

 

「……うむ。良い反応速度だ。及第点」

 

周りの寮生は何が起きたかわからないようであったが、今までの上級生の比じゃないくらいの厳しい生活が待っていることを私は直感した。

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