次世代魔法少女養成所   作:匿名

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第3話 変身

「では、実技開始!」

 

実技を教えてくれる教官と一緒に、所長も授業に参加するようになった。

相変わらず鋭い眼光で生徒たちのことを観察しているようだった。今までは和やかだった訓練が、所長が来てからというもの引き締まっている。

 

今日は屋外での実技訓練で、魔法少女へ変身をするというものだ。

生徒の中では人気がある訓練の一つだったりする。やはり、魔法少女への変身シーンは女子たちの憧れである。

 

「……変身!!」

 

最初に実践するのは、桜小路咲子先輩。教官の指示により、実技の披露を始める。変身の宣言と共に、桜小路先輩の身体が光り始めた。

普段はおっとりとした性格をしているのだが、変身した姿はギャップがある。ぴっちりと身体のラインが浮き立つような際どい衣装になるのだ。

 

怪人と戦うには、可愛いだけのフリルは邪魔になる。より戦闘に向いたスーツタイプ――身体のラインに沿ったタイプの衣装になるのが最近の主流。

一部外見には、旧性代の魔法少女の名残があり、ささやかな短めのスカートや肩を見せるタイプの袖が付いたりする。

 

光りの中から、桃色のスカートをなびかせて一歩踏み出すと、上半身もスカートに合わせた桃色の魔法少女の衣姿に変身した。

 

上級生の変身シーンは誰がやっても綺麗だが、特に桜小路先輩の変身は格別。

春に華が咲いたかのように、周りの風景とは一線を画すような存在感を放つ。

 

「うむ!」

 

実技担当の教官は、これ以上教えることがないというように満足して頷いていた。

皆のお手本になるようにと桜小路先輩が先陣を切ることが多い。今日もそのパターンだったのだろう。

 

「それでは、次も上級生で……」

「待て」

 

次の生徒の順番にしようとする教官であったが、それを制して所長が一歩前へと出る。

 

「貴様は変身に無駄が多い。時間がかかり過ぎている」

 

なんの感情も籠っていないように淡々と言う。

桜小路先輩の変身は、一年生の私から見れば完璧なものだった。教科書に載るような、お手本とすべき変身であると感じたのだが、所長の才ーダーは違った。

 

「一秒以内」

 

「…………?」

 

所長の発言にこの場にいる者は耳を疑った。一秒以内に変身をしろということだろうか。先ほどの変身は、宣言してから三十秒程度は経過していたと思う。魔法少女の変身シーンはそれくらいがデフォルトだろう。それを、一秒で……?

そんなこと出来るわけない。

 

一秒以内に変身をしろという発言に聞き間違いはなかったのだろう。

無理難題と思われる命令だが、所長は続ける。

 

 

「早く準備をしろ。一度変身を解け」

 

桜小路先輩は言われるまま、おずおずと変身を解いた。元のジャージ姿へと戻る。

 

 

「綺麗に変身にできたからと言って、怪人は待たない」

 

「……はい」

 

逆らうとどうなるか分かっているからだろう桜小路先輩は、すぐに変身準備を整える。変身ブレスレットに手をかけ、構える。

出来る限り、最速の変身をしてやるという気概を感じる。

さすがに一秒とは言わないまでも、桜小路先輩ならこの養成所の最速記録は狙えるだろう。

 

 

「では、あらためて変身をしろ。一秒以内でなければ、お前は戦場で死ぬ」

 

所長はそう言いながら、桜小路先輩に近づき、腕についている変身ブレスレットを奪い取って後ろ手で放り投げた。

 

 

「えっ!? そ、そのブレスレットが無いと変身ができな……」

 

「一秒経過。お前は死亡した」

 

 

この光景を見ていた周りの生徒たちがざわつく。

 

「いや、今の不意打ち卑怯だろ……」

「一秒だって無茶なのに、なにあの仕打ち……」

「さすがに今のは変身の実習と関係ないじゃん……」

 

 

所長が声のする方を睨む。

すると、所長への批判の声はすぐに止んだ。

 

 

「魔法少女の心得。いついかなる時も、変身道具は肌身離さず持っていろ。大原則」

 

それは、所長の言う通りだ。

座学でもやる、魔法少女の基礎中の基礎。どんな状況になったとしても、いつでも変身して戦えるようにという魔法上の大原則。魔法少女でいるための、第一原則と言ってもいい。

 

「教科書だけを読んでいても、魔法少女にはなれない。だからこその実習だ。教科書で学んだ一番大事な原則も守れないのか?」

 

「…………すいません」

 

これは所長の言うことにも一理ある。

今は実技の訓練中であることに変わりはない。その状況下で変身道具を奪われてしまうのは御法度だろう。

 

 

「ペナルティニ枚」

 

「……はい!!」

 

桜小路先輩は、所長の言葉にすぐに反応して上下のジャージを脱ぐ。下着を露わにした姿となり、正しい姿勢で起立する。

 

「变身、一秒以内……」

 

「は、はい?」

 

「スタート」

 

所長は再度訓練を始めるようだった。

桜小路先輩は、慌てて地面に落ちている変身ブレスレットを拾おうと地面に手を付けようとしたところで、所長が桜小路先輩の腕をつかむ。

 

「俺が怪人なら、今の状態のお前を仕留める」

 

所長は合気道でも習得しているのだろうか。手首に捻りを加えると、桜小路先輩は軽々と後ろへと倒れて尻餅を突く形で転んでしまった。

 

「いたたた……」

 

「ペナルティニ枚」

 

「…………!」

 

桜小路先輩は、ふいにことに反応が遅れていた。この状況で脱ぐということは、全裸になれと言っているようなもの。一瞬遅れて脱ぎ出そうとするも、その一瞬の反応の遅さが命取りとなった。

 

「遅い。貴様は一週間服を着ないで過ごせ」

 

「…………はい」

 

「今から」

 

「…………」

 

今度はすぐに反応した。

下着も全て脱ぎ、桜小路先輩の隠れていた素肌が露わになる。

所長は桜小路先輩の身体を一瞥すると、振り返り全員の方を向く。

 

「如何に変身を早くするか!」

 

所長はこの場にいる全員に向けて話しだす。

 

「変身中に身体を隠すための『光』を纏うのも無駄だ。これより禁止とする。それよりも、一秒でも早く変身出来るようにしろ」

 

「は、はい!!」

 

生徒たちが答える。

 

所長には従うしかない。

それは、今まで訓練してきた変身の訓練――身に着けて来た技術を全て捨てるということにも等しい。

 

綺麗で可愛くて、キラキラしている魔法少女。

そんな姿へ憧れて養成所へ入所してきた生徒が大半だろう。この養成所に入れば魔法少女になれる可能性が高い。それを夢見て、厳しい入所試験にも合格できたというのに。

 

幻想が全て打ち砕かれた。

 

 

桜小路先輩が裸で起立している前で、所長は続ける。

 

「では次は、貴様」

 

「は、はい!」

 

天龍院先輩が指名された。

散々一年生を虐めてきた先輩だ。一年生へ威張るだけあって、成績も実技もかなりのものである。

 

「スタート」

 

「変身!」

 

張り詰めた緊張感の中、初速は早かった。すぐに変身を始めるのだが、身体が光に包まれる前段階で自身が着ているジャージを脱ぐことを躊躇してしまったようであった。

変身ブレスレットから放出される光りに包まれた後で、ジャージを脱いで魔法少女の衣を身に纏おうとする。

しかし、そこで所長が天龍院の腕をつかむ。変身途中、ちょうど裸となっている状態で止められたことで、変身中に放出されていた光は雲散した。

 

「遅い」

 

「……はい」

 

「貴様も同じく、一週間服を着ることを禁じる」

 

「…………はい」

 

 

どうやっても、所長の要求に答えることはできないだろう。

誰だって――私だって、変身中に光に包まないでこの場にいる人たちに裸シーンを見せるのには躊躇する。だが、所長から言わせれば、その羞恥心が戦場だと命取りということだろう。

 

今まで私たちを必要以上に脱がせていたのは、このためなのだろうか。

 

 

この後、訓練を受けていた生徒全員が所長の要望に応えることができず、一週間裸で過ごすというペナルティを受けることとなった。

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