次世代魔法少女養成所 作:匿名
「ああぁー……」
同じ寮部屋に暮らしている朱里。
部屋の隅で気持ち良さそうな声を漏らしている。こちらを向いて、恍惚とした表情を浮かべて、じょろじょろと音を鳴らしている。
朱里の匂いが部屋を満たしていく。
やっぱり、この匂いは慣れないな……。
所長からの命令により、共同のトイレの他に、部屋でのトイレも禁止された。
人権を無視するようなことも、この養成所であれば許される。魔法少女の育成が国としても急務となっているからだろう。
エリートの育成を目的としたこの養成所ではなんでもありらしい。
以前の所長がいた時から一変してしまった生活は、独房の中と変わらないものになり果てたと言えるかもしれない。もしくはそれよりも悪い環境だろう。
なにせ、服さえも着せてもらえない状況なのだから……。
どこか悦びに満ちた顔の朱里は、股のあたりを手で拭いながら溜まったペットボトルを持って帰ってくる。
「我慢の限界だったから……、ごめんね?」
「別に私は気にしないからいい」
「薊ちゃんも出したくなったら言ってね? コツを教えてあげるから!」
「い、いや……。私は絶対に出さないから……」
朱里は自信のペットボトルを揺すって、「こんなに出ちゃうんだよ?」とアピールしてくる。
排尿をする際には、やりたくないのだがペットボトルに出すしかない。そこら辺の床を汚すわけにはいかないから。
そして、出て来た液体は捨てに行くところも無いので、部屋の端に並べられる。
トイレが禁止されてから、まだ一日しか経っていないというのに、五百ミリのペットボトルが三本も並んでいる。朱里は初めから我慢などしていなかっただろう。
光りに照らされて、綺麗に黄色い輝いている。
「私のばっかりじゃ、恥ずかしいじゃん? 一緒にしようよ? 私、薊ちゃんのするところも見てみたいなー?」
「……私は我慢することも訓練だと思ってるから。所長の言う通りで、身体に取り入れたものは私は全てをエネルギーに変える」
「えー、そんなの無理だよー!? 堅いことばっかり言ってたら、逆に成長できないよ? 環境に適応することこそが、この訓練のキモだよ、絶対!」
「んー……、所長の言葉を信じると、そんなことはないはず……、だと思うけど……? 環境適用か……」
所長曰く、「いつ、いかなる時も有事に備えろ」っていうことらしい……。
確かに、それを試す訓練であれば、リラックスしている時に不意打ちをしかけてくるような訓練をするだろう。けれども、課された訓練はそうではない。どちらかというと耐えるような訓練だ。長期ゲリラ戦を生き抜くために用意されたような訓練。ひたすら我慢をするような訓練。
朱里が言っていることの方が正しく思えてくる。……が、私は断じて排尿はしたくない。人前でなんて恥ずかしくて全然出ないし……。
本当の訓練の意図も知らされないで、我慢し続けるというのは精神に来るものがある。
私だって本当はしたいし、相当我慢している。
「我慢している状態って身体に悪いんだよ? それに、いざって時に力がでないと思うよ? 今、本当に怪人が出て来ちゃったら、薊ちゃんはお荷物だよ」
「んー、そうかもなのかな……。我慢し続けるっていうのは、かなりきつい……」
「じゃあ、出そうよ! 一回出したら、楽になるよっ! あと、ちょっとした快感に目覚めるかもだし。私が手取り足取り教えてあげるからさ?」
「け、けど、やっぱり恥ずかしいし……」
朱里は嬉しそうに私の下腹部へと手をかけてくる。
「初めはそういうものだよ? 一回すると病みつきになっちゃうからさ? そのくらい気持ちいいから……」
「い、いやだよ……」
ゆっくりと手を押し込んで来る。私もかなりの限界だっていうのに……。
「恥ずかしかったら、私も出すから。大丈夫だよ? 一緒に出そう?」
「うぅ……」
朱里に追い詰められたところで、放送が流れた。
「今すぐ、すべての者は第二訓練場へ集まれ」
聞こえてきたのは、所長の声だった。
急ではあるが、次の訓練が始まるのだろう。
朱里と目を合わせると、「残念だよ!」といった風に不貞腐れていた。
◇
第二訓練場は、畳が敷き詰められた武道場の総称である。
集められた生徒たちは、皆言いつけを守って裸の状態だ。それだけでも異様な光景だというのに、誰一人文句は言わなかった。
上級生たちに関して言えば、既に裸の状態に適用しているのか、普段と変わらない堂々とした立ち姿をしていた。
やはり朱里が言うように、適用力を付けるための訓練ということだろうか?
所長が話し始める。
「今から訓練を開始する。種目は柔道」
所長の宣言に対して、皆疑問を持ったと思うがあまり口には出さないようであった。下級生数人がヒソヒソと話しているのが聞こえた。
「柔道って柔道着があって初めて相手を掴めるんじゃないの?」
「裸の状態で、どうやってしろって言うんだろう?」
「寝技に持ち込んでってことなのかな……?」
どういう意図なのか、やはりわからない。今まで実施している訓練と、どのように結びつくのかどうかも、全くわからない。
裸の状態では柔道自体ができないということもあるけれども、私のように排尿をひたすら我慢している生徒にとっては大変なことである。
朱里の言う通り、こんな状態では力も入らない。もしも、下半身に力を入れて踏ん張るようなことがあれば、その時点で漏れ出てしまうことだろう。
「朝比奈薰子、桐生薊。前へ出ろ」
早速、私の名前が呼ばれてしまった。
訓練なのであれば、やるしかない。いついかなる時も、その時に応じた最善策を見つけて、臨機応変に対処する。それを身に着けることこそが、この養成所のありようであり、魔法少女としてあるべき姿。
朝比奈薫子。
私と同じ期で入所した同期だ。
清楚な雰囲気をしていて、通常の学園にいればアイドル的な存在になれたことだろう。腰まで伸びるような、長い黒髪を揺らしながら所長の前までやってくる。スレンダーな身体には、私には無い豊満な膨らみがある。
私もその隣へと立つと、差は歴然。
「柔道のルールの『一本』を先に取った方が勝ち。相手を殺す以外、何をしても構わない。相手を怪人だと思って戦え」
「はい!」
「わかりました!」
「それでは試合を開始する。お互い構えろ」
こんな状況で、私は戦えるのだろうか……。
立ち位置について対峙すると、朝比奈は不安そうな顔付きをしていた。もしかすると、私と同じく尿意を我慢してきたのかもしれない。
本気でやりあえば、どちらかが漏らしてしまうことになるだろう。もしくは、どちらも……。
……朝比奈には悪いが、私は漏らす訳には行かない。こんな大勢の前でなんて、絶対に嫌だ。
「開始!」