強化人間がTSしたら魔法少女が戦う世界でメカ美少女になってました 作:Yura0628
何故こうなった。
「ホラこっちこっち!」
「待て引っ張るな、もう少し落ち着…」
「2人共早く早くー!」
品川アリスが腕を組む横で、月宮ハルカの声が響き、それに応えるかの様に八雲スズがこちらの腕を掴んでグイグイと歩みを進めていく。…俺の制止は意味を成さないらしい。
また、
…何故こうなった。
現時刻は朝9時。場所は名古屋市栄町。
首都圏きっての繁華街に連れ出された俺は、状況を飲み込むのに苦労していた。
今から遡る事1時間。俺はチームルームにて、先日行われた任務のデータを提出するために作業を行っていた。すると突然、朝早くに部屋から消えていた八雲スズ、月宮ハルカ、品川アリスの3人が乱入して来て俺を拘束。無抵抗な俺を支部から連れ出した、らしい。
らしいというのは、この時俺は情報の整理に集中するべく、脅威存在の探知を除いて一切の外部情報を遮断していた上、受け答え等もシステムが自動で行っていたため、誇張抜きに気が付いたら外に居た、という状況に陥ったのだ。
ただ、受け答えの記録を遡ればある程度の状況は把握出来るはず…
-会話ログ 記録無し-
(何故だ)
重要度の低い会話と判断され記録が消されたか。だとしても、せめて概要を纏めておいて然るべきでは。システムに文句を言っても仕方ないが。
-
「異常は疑っていないんだが…」
「何か言った?」
「いや、何も…」
(データの解析も急を要する物では無い。彼女達の趣味嗜好を把握するのも後々活きてくるか…)
-戦闘データ並列処理一時停止-
さて、これで思考領域にかなりの空きが出来た。なんでも来い、受けて立つ。
…この時の判断を評するなら、愚かの一言に尽きるだろう。
誤解を恐れずに言う、俺は人間を、魔法少女を、完全に
◇
「それでスズ、イナズマを連れ出して一緒に買い物に行こうとは聞いたけど、プランはあるの?」
「もちろん!先ずはイナズマちゃんのバリエーションに乏しい服を買いに行きます」
服、言われて自身の格好を見下ろす。
…砂原ユキに渡された無地のTシャツに、紺色のズボン。サイズがやや合っておらず、この服装で八雲スズと対面した際には「イナズマちゃんになんでこんなだらしない服装させてるんですか」など、上司に当たる人物にも関わらず、砂原ユキが叱責されていた。
前の世界で基本戦闘衣しか身に纏っていなかった俺からしたら、具体的な問題点を列挙する事は現時点で不可能だ。
無論、この世界における
「支部長がサイズ合って無いお古渡したせいでスズちゃんめっちゃ怒ってたもんね」
「当たり前でしょ?後これ以外にジャージしかくれないのは流石に見てられない」
「まぁ支部長本人がズボラだから…」
すまない、砂原ユキ。恐らく貴官の与り知らぬところで魔法少女達からの評価が急速に落ちている。
これを止める術を持たない故、内心で謝罪を述べるしか出来る事はないが、貴官の判断能力や先を見据える力は高く評価している。
…俺は誰に言い訳をしているのだろうか。
それから歩く事数分。
道中で趣味趣向や好む食事などを尋ねられ、事前に答えを用意していたにも関わらず
「んー、これどっちが可愛いくて着たいと思う?」
言って八雲スズが見せてくるのは、英字が刻まれた白色のパーカーと薄水色のブラウス。可愛いという概念自体を理解出来ていない強化人間に問うなと言いたい。
「…少し考えさせてくれ」
「おっけー、じゃあ私は他のも見てくるね」
正直どちらでも良い…という回答では、やはり問題があるだろう。
彼女達から歩み寄ろうとしてくれているのは、俺でも分かる。故に、正確に答えられないのを心苦しく思った。
これなら、完全に感情を喪失している方が良かったかもしれな————
『感謝する、イーグル1』
『隊長がそんなだから、俺らでやらなきゃなんですよ。まぁ大歓迎ですけど』
『君が思い切り笑うところ、初めて見たかも』
(っ…)
今のは、一体。
-
-
…嘆くべきではない。システムにそう言われたのは気のせいだろうか。まぁ確かに、今すべきなのは彼女達との距離を縮める事。
無論理性に基づいた合理的判断を重視するのは変わらない。だが…
『任務が無い時位は人間に戻れ』
ヘルハウンドの言葉が再び蘇る。決して今の俺の状況を予期した言葉では無いだろう。しかし、その言葉は暗い海を照らす灯台の如く俺の思考に、光をもたらした。
戻ってきた八雲スズに、選んだ服を手に取り見せる。
「パーカー…を、希望する」
「あ、こっち?おっけいサイズは…よしじゃあ着てみて!それからハルカとアリサは今の内に向こうにあるパンツで良いの探索!」
「任せろー!」「分かったわ」
2人を見送り、ギラついた目…と表現せざるを得ないような視線でこちらを見る八雲スズ。
…判断を誤ったかもしれない。
◇
日本国国防軍 三重県 笠取山レーダーサイト
首都防衛の要たるこの場所には、通常のレーダー設備の他に魔力濃度を測定する大型センサーが配備されていた。
魔獣が出現する際、周辺の魔力濃度が著しく上昇するため、この魔力センサーにより事前に魔獣の出現を予測出来る様になったのは西暦2000以来最大の発明とまで言われている。
無論このレーダーサイトも今まで数多くの魔獣の出現を予測し、首都圏の防衛に多大な貢献をしてきた。だが…
「ん?なんだ今の?」
「どうした」
このサイトを運用する部隊のレーダー監視員が声を上げ、部隊長が問い掛ける。
先程、監視員の目にはレーダー上に一瞬光点が映っており、思わず声を漏らしてしまったのだ。しかし、画面に再び光点が映る事はなく、監視員は今しがた見えた光点について、ある仮説を導き出した。
「……んー、今画面…名古屋市栄町付近に魔力集約点っぽいのが映ったんですけど、すぐに消えちゃいまして…」
「なるほど、だとするとノイズの可能性が高いな」
「えぇ…ただノイズにしてはかなり濃度が高く見えたんで、少し気になるんですよね」
監視員自身、それなりに長い期間この仕事に就いており、職を全うする中でノイズに遭遇した事は一度や二度ではない。しかし、今回のノイズは他とは少し異なると感じたため、こうして歯切れの悪い事しか言えなかった。
「いや、お前が引っ掛かると感じるなら念の為観測機を出させる。例え99%の確率でノイズだったとしても、残り1%を引いた際に備えるのが俺達の役目だ」
「そう…ですよね。すいません、手間かけさせてしまって」
「構わん、上官に叱責されるのを恐れて報告を怠るような奴より100倍マシだからな」
最も、この国の軍人にそんなアホはそう居ないが。と部隊長は付け加え、席に戻った。
…数十分後、サイトに観測機から異常なしとの報告が入り、これに各員は胸を撫で下ろしたのだった。
しかしその更に数十分後、突如としてS級魔獣に匹敵する魔力反応が名古屋市栄町に出現。まごう事なき緊急事態が、発生した。
なお、観測機のパイロット及び各監視所の人員は全力を尽くして捜索に当たった。ただ現れた敵がそれら総てを掻い潜り、上回っただけである事も、併せて明記しておく。