東方仗助の能力を持って呪いの世界を生きる   作:大腿四頭筋

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今回のエピソードには、残酷な描写が含まれます。
閲覧に際しては留意ください。


第9話 崩壊

「え? オマエ来週誕生日なの?」

 

 反転術式の訓練を終え、教室に戻った一同。五条と夏油の頭には夜蛾の鉄拳制裁によるたんこぶができているが当人たちはケロッとしている。

 そんな五条の問いかけは、城崎に向けられたものだ。

 

「はい。7歳になりますね」

 

 城崎は現在小学1年生。誕生日を迎えれば7歳になる。

 

「だったら誕生日パーティーやろうぜ。七海と灰原も呼んでさ」

 

 誕生日を祝う経験というのは、実は五条はあまりしたことがない。五条家における彼の立場は次期当主として下にも置かない扱いをされるものだったため、常に祝われる側だった。高専入学後になって初めて、同級生の誕生日を祝う立場を経験したのである。

 つまり、五条が他者の誕生日を祝ったのはまだ2回のみ。そこに城崎丈という、新たな友人の誕生日だ。五条は早速、どんなケーキを買うか想像を膨らませている。しかしその楽しみに待ったをかけたのは城崎自身だった。

 

「あー、誕生日は家族で祝うことになってるので…」

「えぇー!? 家族なんて毎年やってるだろ」

 

 旧態依然とした実家から距離をとっている五条らしい発言だが、それは夏油が咎める。

 

「そんなことを言ってはいけないよ、悟。家族にとってこそ子どもの誕生日は特別なんだから」

「丈は大人びてるけどまだ6歳だしね。親子の時間は大事でしょ」

「硝子までそんな正論言うかよ……ちぇっ、わかったよ」

 

 高専に入れば寮生活だ。望んでそうした五条とは違い、家族と離れて暮らす夏油の言葉には重みがある。意外なことに家入まで夏油の発言に同調した。

 さすがの五条も一般家庭の価値観を持つ2人の言葉には折れたが、それで止まるような男ではない。

 

「だったらさ、再来週にもっかい誕生日パーティーやろうぜ。誕生日2週目だ」

「日なのに2週目があるのか…」

 

 夏油たちは呆れたが、城崎は目を輝かせた。

 

「いいんですか? だったらお言葉に甘えます」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 毎週のように高専を訪れる城崎だが、その交通手段は何か。答えは簡単。補助監督の運転する車だ。勿論彼らも暇ではないため、運転手を引き受けた者には1日に1万円の日当が出ることになっている。危険度も低く、往復で2時間もない運転だけの業務だ。加えて送迎するのは礼儀正しい子ども。補助監督の間では密かに人気のある業務で、志願する者は多い。

 そんなことを知らない城崎本人は「足にして申し訳ないな」と思っている。その分、より礼儀正しく振舞おうと心がけているため、なおのこと補助監督からの人気は高まっていた。

 

 この日、城崎の送迎を担当するのは山本という補助監督。城崎は彼女の正確な年齢を知らないが、30代前半だろう、女性の補助監督だ。

 山本の運転は城崎が乗っていることもあってか非常に丁寧で、揺れが少ない。車窓からの景色が流れてゆくのを尻目に、2人は談笑する。

 

「いつもすみません」

「いいのよ。丈君はまだ子どもなんだから、大人に頼れるうちは頼っときなさい」

 

 山本はまるで甥のように城崎を可愛がっている。城崎にとっても彼女は信頼できる大人だ。

 

「今日も特訓してたって聞いたわよ。学校もあるのに頑張るわねえ」

「俺自身が疲れるようなことじゃあないですから。学校もキツいことはないですし」

「そうかもしれないけど、せっかくの小学校生活くらいは目一杯楽しんだほうがいいと思うんだけどねえ。人生は一度きりなんだし」

「学校がつまらないってわけじゃあないですけど、俺にとっては呪術のほうが楽しいっていうか……」

「うーん、それはいいんだけどね。…そういえば、学校に好きな子とかいないの?」

「えぇ? いや、そういうのは考えたことないです」

 

 山本はまともな大人であるため、こうして城崎を心配しているのも善意によるものだ。それは分かっているが、城崎にとっては少々答えづらい質問をすることもある。

 

(俺からしたら小学1年生ってメチャクチャ幼いってかんじなんだよなあ…コナン君の気持ちが分かるっつーか…)

「でも丈君モテるでしょ? 勉強も運動もできるんだし」

「いやいや、モテないですよ」

「そーお? 私が小学生の頃なんてどの男子が一番イケてるかって話ばっかりしてたわよ。それこそ背が高くて足が速い、丈君みたいな男子が人気だったけどねえ」

「だとしても、小学生どうしでの恋愛なんてごっこ遊びみたいなもんでしょう」

「それはそうなんだけど、丈君ってときどき物凄く可愛げないこと言うわよね…」

 

 こんな会話をしている間に、城崎の住むマンション前に到着する。山本は周囲の安全確認をしてから路肩に車を停め、運転席から降りて城崎の座る後部座席のドアを開ける。まるで、御曹司に対する扱いだ。

 

「いつも言ってますけど、そこまでしてもらわなくても…」

「いーじゃない! こういうのもちょっとやってみたかったのよ」

 

 良い人なんだけどお節介すぎるよなあ、と城崎が内心思っていると、「それにね」と山本が言葉を続ける。

 

「さっきも言ったけど、呪術なんて高専に入れば嫌でも勉強することになるんだから、今のうちに楽しいことしといたほうがいいわよ? おばさんからのアドバイスだと思って聞いてちょうだい」

「おばさんって、山本さんまだお若いじゃあないですか」

「まったく、相変わらず大人みたいなこと言うわね」

(まあでも、俺のためを思って言ってくれてるんだろうし)「わかりました。それじゃあ、来週は高専に行かずに家族やクラスメイトと過ごしますよ」

「ああ、そういえば来週誕生日なのよね? 少し早いけどおめでとう」

 

 城崎の誕生日パーティーがどうのという話は昼間にも五条が騒いでいたため、多くの者に知れ渡っていた。山本もその1人だ。

 

「ありがとうございます。送り迎えもそうですけど、誕生日のことまで」

「いいのよ。それじゃあ、おやすみなさい」

「はい、山本さんも帰り気を付けてください。それじゃあ」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 城崎は山本と別れた後、エレベーターで部屋のあるフロアまで上がっていた。

 精神的にはもうすぐ26歳だが、近しい人間から誕生日を祝福されるのは悪い気はしない。来週は両親がパーティーを開くと言っていた。城崎の欲しがっていた漫画も買ってもらえる。

 呪術について学ぶのも苦ではない。前世から漫画好きの城崎にとって、能力バトルものの登場人物になるというのはやはり心が躍ることだった。

 

「ただいまー! …?」

 

 いつも通り玄関のドアを開ける。しかし様子がおかしい。

 普段は両親かそのどちらかが返事をするはずだ。それに、電気が点いておらずやけに静かだ。

 

「2人とも出かけてるのか? でも鍵は空いてたしなあ…」

 

 首を傾げつつも廊下を進み、ドアを開けてリビングに入る。その瞬間、僅かな違和感は明確な形を以って目の前に現れた。

 

(血の匂い!? いったいなにが―――)

 

 漂う血の匂いに、慌ててリビングの電気をつける。一瞬で明るくなる室内に目を細め、明るさに慣れた城崎は再び目を開く。

 

「な、んだよこれ……!!」

 

 城崎の視界に飛び込んできたのは、テーブルを挟むように着席した両親。しかし、2人の様子は異常だった。

 父と母の頭部が、本来あるべきところにない。父の肉体の上には母の首が、母の肉体には父の首が繋がれており、外からの力によって強制的にその位置を入れ替えられたような状態だ。更に異常性を際立たせているのは、首が切断されているのにも関わらず出血量が少ないこと。本来、首を切られると頸動脈が傷つき、拍動に合わせて血が噴き出す。だが、流れ出たと思しき血の量は傷から想定されるものよりも遥かに少ない。もっと多量の血が流れていれば、玄関扉を開けた時点で城崎は異常事態に気づいていただろう。

 

 考えるより早く、城崎は両親に駆け寄った。両者の挿げ替えられた首をもとの位置に戻し、反転術式による治療を施す。その際に流れ出た血を頭から被っても気にも留めず、最大出力で反転術式を流し込み続けた。

 

 しかし、両親の首が繋がることはない。

 

 城崎は本能的に、両親に施していた反転術式を術式順転によるものに切り替えた。その途端に、両親の首は元通りに繋がる。

 

 しかし、両親の目が開くことはない。彼らの心臓が、再び鳴り出すこともない。

 

 これが意味することは一つ。両親は既に、事切れているということ。

 彼らの肉体は反転術式による治療の対象外であった。反転術式で治せるのは、生きている者だけだ。死者の肉体を“治癒”することはできない。

 死体は既に「モノ」であり、城崎の術式で“修復”することしかできない。

 修復できても、彼らが息を吹き返すことはない。死者の魂はもう、戻ってくることはない。

 

(傷に比べて出血量が少ないということはこれをやったのは呪霊いや呪詛師の仕業かもしれないでもなんで俺の両親を狙った2人の身体はまだ暖かかったなら犯人はそんなに遠くに行っていないはず―――)

 

 凝縮された脳内で、思考が加速する。犯人の正体、その目的、様々な疑問が湧き上がる。

 その答えは、自ら姿を現した。

 

「いやあ、死者の肉体を修復できるとはね。触れたものを直すって術式は眉唾じゃなかったわけだ」

 

 パチパチと拍手をしながら、一人の男が城崎の背後に立つ。

 軍服に似た白い服を纏い、黒いマスクで口元を覆った長髪の男だ。被っている帽子には「Q」の文字。

 その文字が示すように、呪詛師集団「Q」の構成員。男はQの最高戦力と名高いバイエルであった。

 

「なんで」

 

 城崎の両親は非術師だ。一般家庭よりは多少裕福だが、呪詛師が殺すほどの財産を持っているわけではない。

 

「君、最近呪術高専に入り浸ってるだろう? しかも反転術式が使えるときた。おかげで呪術師の活動が前より活発になってね、我々としては目障りなことこの上ない」

 

 両親が狙われるとしたら、その理由は城崎本人にある。

 だが、城崎が訊きたいのはそんなことではない。

 

「なんで父さんと母さんを殺した…! 俺が邪魔なら俺を殺せばいいだろ!!?」

「いくら優秀でもやっぱり子どもか。君を消えれば親が警察に被害届を出すに決まってる。どうせ遅かれ早かれ殺すんだ。仕事はまとめて片づけるに越したことはないからね」

「殺す」

 

 城崎の身体は弾丸のごとき速度でバイエルに迫った。

 

(速い! とても小学生とは思えない…が、やはり子どもだ)

 

 その速さにはQの最高戦力として戦い抜いてきたバイエルも目を瞠るものがあったが、動きが直線的すぎる。マスクの下でニヤリと嗤い、バイエルは術式を発動する。

 

「!!」

 

 城崎に向かって、5本のナイフが飛来する。このまま突っ込めば間違いなく頭、首、胸、腹といった致命的な部位に突き刺さる。

 だが、城崎は原作の知識でバイエルがナイフを飛ばせることを知っていた。

 

「ドララララァ!!」

 

 両の拳に呪力を纏い、ナイフを全て叩き落す。高い呪力操作技術により、刃に触れてもその拳には傷ひとつつかない。

 

「まさかこれほどとは、ねっ」

 

 ナイフを弾いたことで生まれた隙に、今度はバイエルから距離を詰める。爪先が腹にめり込み、城崎の身体は吹き飛ばされて天井に激突する。

 防御が間に合ったため骨や内臓までは傷ついていないが、成人男性の膂力に呪力を乗せて繰り出される蹴りは、呪力操作に優れる城崎でも食らえばダメージを負う。

 

「分かったと思うけど、私の術式【匕首操術(ひしゅそうじゅつ)】は長さ一尺*1以下の刃物に呪力を込めて操ることができる。同時に操作できる数は両手の指と同じ、つまり10本までという制限はあるが、私自身の意思で術式を解除しない限り操作継続時間には制限がないんだよ」

(術式の開示!! 関係ない、殴る!!)

「つまり、こういうこともできる」

 

 バイエルが右手をくいっと動かすと、それに応じるように、先ほど城崎が弾いたナイフが飛び上がる。城崎がそれらを踏み越えようとした瞬間に合わせて術式を発動した。これを躱せた者は少ない。

 さらに駄目押しで、懐から取り出した5本のナイフを投げる。計10本。前と下からの攻撃だ。

 

 それに対して城崎が選択したのは、下からの攻撃を弾くこと。脚が傷つけば近づいて殴ることができなくなるという判断だった。

 下から迫る5本のナイフを蹴り飛ばす。それらは窓を割って外へ飛び出した。操作できる以上はいずれ戻ってくるだろうが、今この瞬間、この場にはナイフは5本だけ。

 呪力を全開にし、前方から飛来する5本を受ける。下からの攻撃を弾くために無理な体勢をとったため、迎撃は間に合わなかった。防御しても城崎の身体にはナイフが突き刺さるが、これで10本全てを一時的に封じた。

 

「なんだと!?」

(とった!!)

 

 バイエルの近接戦闘能力は決して低くないが、城崎を蹴り一発で沈められない程度。城崎の呪力を乗せた拳なら、当てれば大ダメージを与えられるだろう。

 勝利を確信する城崎。一撃でバイエルを戦闘不能にするために、頭部への殴打を選択。体格差を考慮し、跳び上がって顎を狙う。

 

 だが、このシチュエーションはバイエルの掌の上だった。

 

 ドスリ、という音とともに城崎の背に刃が突き刺さる。

 

(これは―――家の包丁!? 今投げた5本のうち1本は術式の操作対象外だったのか!!)「仕込んでた、のか」

 

 術式開示には偽りはなかった。バイエルが同時に操作できるのは10本まで。

 だが、操作対象外のナイフでも投げて攻撃することはできる。事前に城崎家の包丁に呪力でマーキングしておいて、城崎が勝利を確信した瞬間に背後から刺す。

 ここまでの仕込みを全て使わされたのはバイエルも想定外だったが、なんにせよ全て計算通りに事が運んだ。

 

「才能がある奴ほど自分を過信して早死にする。君もそうだったってわけだ」

 

 膝をついた城崎にバイエルが迫る。その背後には、先ほど城崎が蹴飛ばした5本のナイフが浮かんでいる。切っ先は全て城崎に向けられており、バイエルの匙加減一つで城崎を襲うだろう。

 

「…はっ、皮肉なもんだな」

「?」

 

 城崎は吐き捨てるように笑った。その意図が分からず、バイエルは首を傾げる。

 

「自分を過信して死ぬっつーんなら……お前のことじゃあねえか」

「なんだと…!!?」

 

 その一言にバイエルは激昂した。

 

(ナイフではなく直接甚振ってから殺してやる…!!)

 

 ただ殺すだけではない。心を折って、命乞いをさせてから殺す。

 そう決めて、バイエルは脚を振り上げた。先ほどと同じように蹴り飛ばすつもりだ。

 

「馬鹿なガキめ…! 大人しくしていれば楽に殺してやったものを…!!」

「馬鹿はお前だ」

「なにを…」

「俺の術式を知ってて、直接触れるなんてなあ!!」

 

 全身全霊の力で、城崎はバイエルの足を掴んだ。

 

「術式反転」

 

 

*1
約30.3cm




山本(33)
補助監督。
かつてはシン・陰流を駆使して戦う2級術師だったが、呪霊との交戦中に利き腕を負傷。刀を握れなくなったため裏方に回ったという経歴を持つ。
ネームドモブなのでこの先特に活躍はしない。

匕首操術(ひしゅそうじゅつ)
みんな大好きバイエルさんの生得術式。名前や効果は作者が勝手に設定しました。
呪力でマーキングした長さ一尺以下の刃物を10本まで同時に操れる。ワートリのバイパーみたいなもん。操作継続時間には制限がないが、その代わり射程は15メートルとやや短い。
あまりに精密な操作をするとそちらに集中力が持っていかれるため、直線的にナイフを飛ばす運用しかできない。
アニメを見返したところ明らかに10本より多いナイフを五条に向けて放っているが、それは我々がMAPPAに見せられた存在しない記憶ということで。。。

1話当たりの文字数はどのくらいが良いですか?

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