東方仗助の能力を持って呪いの世界を生きる   作:大腿四頭筋

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当作品は作者の解釈をもとにした独自設定を多分に含むので、ご了承ください。
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第2話 相補

呪術高専は東京・京都両校ともに、基本的に寺社仏閣を模した造りになっている。端的にいえば和風だ。これは天元の結界を最大限機能させるためのイメージに沿って造られたという面もある。だが、現代に至っても古めかしい建築様式を貫いているのは総監部の意向によるところが大きい。受け継がれてきた伝統を守るといえば聞こえはいいが、五条悟に言わせれば「思考停止の老害」だ。(表向きは宗教系の私立学校という体裁をとっているために仕方のない部分もある)

とはいえ、外観はそれこそ寺社そのものだが中はその限りではない。トイレは洋式だし、学生たちが寝泊まりする寮も洋室で統一されている。医務室もその一つだ。

 

虎杖悠仁は医務室のベッドに腰掛けて任務の報告を兼ねた診察を受けていた。虎杖の正面には担任教師である五条悟。椅子に前後逆向きに座り、背凭れの上に両腕を組んで顎を乗せている。右手側には先ほどまで虎杖の診察をしていた家入硝子が回転するタイプの丸椅子に腰かけている。家入の隣には補助監督の伊地知が、その向かいには伏黒恵と城崎丈が立っている。

家入とは初対面だが、白衣を身に纏っていることや先ほどの診察から高専における養護教諭のような立ち位置であることは推察できた。

 

城崎とは既に会ってはいるが、厳密には宿儺が戦っていただけである。先ほど軽く自己紹介は済ませたものの、どんな人物なのかはあまりわかっていない。少なくとも、自分などより圧倒的に強いことは明らかだ。

……それから。自身の失った心臓と右腕を治したことも確かだ。あの時は死ぬとばかり思っていたので状況の理解がそこまで追いついていなかったが、城崎に触れられたとほぼ同時に肉体が治癒していた。呪術師には呪力を扱える以外にも、それぞれに特異な能力があることは薄々気づいていた。伏黒は動物を模した式神、釘崎は相手の体の一部を使って遠隔でダメージを与える能力、といった具合に。とすると、城崎には相手の負傷を治す能力が備わっているのだろうか。

 

「それはね、反転術式だよ」

「ハンテンジュツシキ?」

 

虎杖の疑問を察したらしく、五条が説明する。とはいえ、いきなり未知の用語を出されても虎杖は首を傾げるばかりだ。五条の視線を感じたのか、説明を家入が引き継ぐ。

 

「呪力は負の感情から生まれる、それ自体も負の性質を持ったエネルギーだ。そこで、呪力同士を掛け合わせることで正のエネルギーを生み出すことができる。それが反転術式だ」

「マイナス×マイナスはプラスってこと?」

「その理解で間違ってないよ」

「俺にもできる?」

「理論上は可能だ。反転術式は呪力操作を応用した技術の範疇を出ないからね。呪術師であれば誰にでも習得できる可能性はある」

「へー」

 

負傷したという事実すらなかったかのように思える自身の右腕を見つめる。反転術式が誰にでも習得可能なら、虎杖も訓練次第で使えるようになるはずだ。

 

『お前は強いから人を助けろ』

 

アレが使えるようになれば、助けられる人の数はさらに増える。折角助けられたこの命。宿儺の指をすべて取り込んでから死ぬと決めてはいるが、そこに至る過程でできる限りのことをする。そう決意した虎杖に、五条のセリフが突き刺さる。

 

「ま、反転術式はセンスがないと習得できないし、他人を治療できるのもさらに一握りだけどね~」

 

僕だって死にかけてようやく習得したし、と続ける。実際に、現代の呪術師で反転術式を習得した者は10人もいない。そのうえで、他者に治療を施すには呪力を掛け合わせて生まれた正のエネルギーをアウトプットしなければならない。アウトプットが可能でも、治療として実用可能なレベルにまで至っている者は更にごく少数だ。高等技術を超えた究極の技術。六眼を持つ五条ですら不可能なのだから、それ自体に適性があるかどうかで決まるといっていい。

 

決意に冷や水をぶっかけられた虎杖は意気消沈。その場にいた者たちの冷たい視線が突き刺さるが、五条はどこ吹く風だ。デリカシーがないにもほどがある。しかし、ヘタに中途半端な希望を持たせては、いつか決定的な絶望に直面する羽目になることもある。それを知っているからこその言い方だ。

 

「そう悲観すんなよ虎杖。やってみなきゃ分からねーこともあるからな」

「うっす……」

 

落ち込む虎杖を見かねた城崎が励ます。城崎にしてみれば、虎杖悠仁が(正攻法でないとはいえ)反転術式を習得する未来を知っているからだ。転生者である城崎丈は、ここが漫画『呪術廻戦』の世界だと認識している。自身の存在によって展開が変わっているものの、虎杖悠仁に反転術式の適性があること自体は揺るがないだろう。アウトプットまでできるかは不明だが。

反転術式の話題が一段落したタイミングを見計らって、五条が手を叩く。

 

「話はここまでにして、今後の方針を決めようか。表向きは今回の一件で悠仁が死んだことにする。その間、悠仁は修行ね。伊地知は報告よろしく」

「おお、修行…!」

(上に報告するのは私の仕事……隠せるか心配……)

「恵はこれまで通り授業と任務。悠仁のことは秘密にしとくように」

「はい」(秘密って……釘崎にもかよ)

「交流会までは僕はほとんど悠仁につきっきりになるから、1・2年の訓練は丈が見てあげてね~」

「了解っス」

 

修行というワードに「それっぽい…!」と目を輝かせる虎杖とは対照的に、雑務を押し付けられた伊地知は胃が痛んだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

それぞれが自分のやるべきことに向かい、医務室を出ていってから5分ほど後のこと。室内には家入と彼女に呼び止められた城崎の2名だけが残っていた。

 

「よし、服を脱げ」

 

誰かが聞いていればとんでもない誤解をされそうなセリフだが、言われた城崎は特に狼狽することもない。

 

「あー…、やっぱバレてましたか」

 

気まずそうに苦笑いして、制服のボタンを外す。上着の下に着ていたシャツも脱ぎタンクトップ1枚になると、その両腕には細かい切傷が無数についていた。

両面宿儺の領域展開を受けてこれだけの負傷で済んでいることが奇跡的だが、家入からすれば真逆だ。城崎が実戦で傷を負ったのを見るのは片手の指で数えられるほど。ここ数年は一度もなかった。

 

「お前の怪我を治せるのは私だけだ。誤魔化せると思うなよ」

「? 治せるっつーんなら乙骨もそうじゃあないんスか?」

 

家入はその問いには答えず、城崎の両腕に反転術式による治療を施していく。

 

「……少なくとも」

「?」

「お前は自分自身を治せない。無茶ばかりするなといつも言ってるだろ」

「いやあ、後輩の前ではカッコつけたくなるのが先輩ってもんでしょ」

 

虎杖と伏黒からの事情聴取で、当時の状況は理解している。城崎が乱入していなければ、おそらく宿儺は伏黒と釘崎を嬲って殺していただろう。そうなれば虎杖の心は再起不能なほどに折れていた。

そんなことくらい、家入はわかっている。城崎のおかげで多くの人間が救われた。1年生だけでなく、彼らがこの先助ける人たちをも間接的に救ったといっていい。……それだけで納得できるほど、家入の心は整理できていない。

 

「それに、家入サンだって自分を治せないじゃあないスか」

「私はいいんだよ、戦わないから」

 

城崎丈。家入硝子。反転術式が使える数少ない術師の中でもさらに限られた、他者の治療を可能とする者たち。彼らにはある明確な弱点があった。

 

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これは“縛り”だ。自分自身を治療できなくすることで、他者に対する治療効率を大幅に上げるという縛り。本来、反転術式の治療効率はその対象が自分か他人かで天と地ほども差がある。自身の腕を生やせるほどの反転術式使いでも、他者相手ではそうはいかない。

反転術式のアウトプットが可能という希少性ゆえに学生時代から治療専門の術師として活動してきた家入だが、力及ばず助けられなかった者を幾度も見送ってきた。一命を取り留めても、戦えない身体になったために引退した者もいた。

 

元来、家入は他者にそこまで入れ込むような人間ではない。助けられなかったことを残念に思いこそすれ、無理なものは無理と切り替えることができる。だとしても、心が磨り減らないわけではなかった。

この“縛り”は、城崎丈が生まれつき結んでいたものだった。すなわち、天与呪縛による最高の治療師(ヒーラー)。それは家入にとっての模範解答でもあった。すぐさま、城崎の天与呪縛を参考に自身も縛りを行使。それ以来、死者や再起不能者の数は劇的に減った。跡形もなく消し飛ばされたり、頸や腹部といった致命的な部位が泣き別れになっていたりしない限り、命を救うことができるようになったのだから。

 

全員が出ていってから城崎の治療にあたっているのも、彼が自身を治療できないということを宿儺に気取られないようにするためだ。それに加え、虎杖に責任を感じさせたくないというのもある。

これらがバレているかもしれないし時間の問題かもしれないという懸念はあったが、可能性はできるだけ排除しておきたかった。

 

「戦いに出なくても、呪詛師に狙われることだってあるでしょ」

「高専にいる間は天元様の結界があるし、外に出るときは学長の呪骸たちが護衛してくれる。お前のほうが遥かにリスクを負ってるんだからな」

「それはそうっスけど。宿儺ほどの相手とやることなんて滅多にないんですから、心配しすぎなくても大丈夫でしょ」

 

確かに、城崎に傷をつけられるほどの相手はそうそういない。呪霊相手なら高出力の反転術式でカタがつくし、野良の呪詛師では才能でも技術でも足元にも及ばない。でもそれは、心配しない理由にはならない。

 

(いっそのこと、両手足を捥いでしまえば……)

「? どうかしたんスか?」

(……なんてな)

 

自力で生活できないようにすれば、治せるのは家入硝子のみ。城崎がこれ以上傷つくリスクもなくなるし、家入に頼らなければ日常がままならない。そんなことをしてしまえば、城崎が自身に心を開くことはないだろうが。

その考えを振り払うように、コーヒーに口をつけた。

 

「なんでもないよ。……この後はどうすんの?」

「五条サンに言われた通り、1・2年の訓練に付き合いますよ。交流会も近いし」

「そうか、気をつけてな」

「ウス」

 

治療を終え、城崎は立ち上がって制服を着直した。医務室を出る直前、家入に向かって頭を下げる。

 

「そんじゃあ、ありがとうございました! 今度は怪我しないようにうまくやりますよ」

「ああ」

 

扉が閉まった後、口元に手を伸ばして気づく。

 

「煙草、やめたんだった」

 

 




城崎丈(19)
東京高専の4年生にして1級呪術師。転生者でもある。
基本的な戦闘スタイルは徒手空拳によるものだが、呪具もそれなりには扱える。
天与呪縛により、自分自身を治療できない代わりに他者に対する高出力の治療が可能。これに加え、「反転術式のアウトプットを両手からのみに限る」縛りで、東方仗助と同等の治療能力を得ているがこのことは誰にも話していない。

五条悟(28)
同級生に対し、教え子に向ける視線じゃないでしょ、と思っている。

家入硝子(28)
9歳差はセーフだろ、と思っている。

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