東方仗助の能力を持って呪いの世界を生きる   作:大腿四頭筋

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第3話 暗雲胎動

「…アンタ、仲間が死ぬの初めて?」

同級生(タメ)は初めてだ」

 

 鬱陶しいくらいに広がる青空の下、石段に腰掛ける釘崎野薔薇と、伏黒恵。両者ともに、感情を押し殺している。

 

「ふーん、その割に平気そうね」

「……お前もな」

 

 しかしながら、虎杖が実は生きていると知っている伏黒と、報告通り死んだと思っている釘崎。両者の抱く思いはまるで異なっている。

 

(……気まずい)

 

 少なくとも伏黒は、五条の指示通りに虎杖の死を隠蔽しなくてはならないことに少しばかりの引け目を感じていた。呪術師は嘘で手の内を隠すものだが、同級生に対する偽装工作の片棒を担ぐことに罪悪感を覚えるくらいには伏黒も素直な人間だった。

 

「当然でしょ、会って2週間やそこらよ。そんな男が死んで泣き喚く程、チョロい女じゃないのよ」

 

 伏黒から見た釘崎は、気が強く、他者に依存しないことを是とする人間だ。生まれつきか、成長する過程でそうなったのかは知らないが、とにかくそういう気質だ。その釘崎が、悲哀と悔恨を押し殺しながら強がっている。歯を食いしばり、口元は何かに堪えるように歪んでいるのが見えた。

 

「暑いな」

「…そうね、夏服はまだかしら」

 

 伏黒は五条を殴ることに決めた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 都内某所、ファミリーレストラン。昼時で賑わう店内で異様な雰囲気を放つ客が1人。

 ……否、1人ではない。周囲には見えていないが、このテーブルには3体の異形が同席している。

 

 火山の火口に似た頭頂部を持つ単眼の呪霊。

 両眼にあたる部分から枝が生えた筋骨隆々の呪霊。

 布を被り蛸のような姿をした呪霊。

 

 いずれも、高専基準で特級に分類される「歩く災害」。彼らのうち1体でもその力を解放して暴れれば、この場はすぐに死の街へと変わり果てるだろう。

 そして、そんな危険な存在達と連れ立ってファミリーレストランに訪れる客が只者であるはずがない。特級呪霊たちを前にしながらも飄々とした笑みを崩さないのもそうだが、額に縫い目のある傷跡という容貌も異常性を醸している。彼らの会話内容も異常だ。呪霊たちの目的は、人間を滅ぼして呪いの時代を到来させること。そのためには何をすべきかを問うている。縫い目の男は指を3本立て、その問いに答える。

 

「戦争の前に3つ条件を満たせば勝てるよ。五条悟を戦闘不能にし、両面宿儺・虎杖悠仁を仲間に引き込む。そして、城崎丈を殺す」

「死んだのであろう? 虎杖というガキは」

「いいや。巧妙に偽装されてはいるが、生きているだろうね」

 

 英集少年院の一件で、宿儺に心臓を抉り出された虎杖悠仁は死亡した。これが表向きの事実であり、呪術師について彼らなりに調査した呪霊たちが掴んでいる情報でもある。だがそれは真実ではない。虎杖悠仁は城崎の反転術式によって治療されており、五条悟に匿われている。

 

「あの場には城崎丈がいた。虎杖悠仁は彼が治療したとみて間違いないだろう。……そして、両面宿儺もその器も心臓を失ったくらいでは死なないよ」

「ふむ。まあいい。……それで、城崎丈とは何者だ? 五条悟が“最強”と呼ばれていることは知っておるが」

「さっきも言ったけど、死んでさえいなければあらゆる負傷を瞬時になかったことにする。反転術式のエキスパートだ。君達呪霊にとっては天敵だろう?」

「……確かにな」

 

 呪霊は呪力―――負のエネルギーで肉体が構成されている。反転術式により生み出された正のエネルギーは負のエネルギーを中和する効果もあるため、呪霊にとっては致死性の猛毒のようなものだ。触れられただけでも死にかねない。

 

「とはいえ、そやつを殺すのは不可能ではないのだな。五条悟と違って」

「そりゃあね。城崎丈は確かに強いけれど、あくまで一般的な術師の範疇だ。五条悟は違う。生物として別のステージに立っているといったほうがいいかな」

 

 縫い目の男の言うとおり、城崎丈を殺すのならば呪霊たちだけで十分な戦力たり得るだろう。相性が悪いとはいっても、呪力量や出力といった基礎スペックではこちらが上。指3本分とはいえ宿儺の領域を凌ぎ切ったのは驚嘆すべきことだが、領域ならば呪霊たちも扱える。

 触れられれば負けが確定するというのは裏返せば、触れなければいいということ。触れずに殺す手段ならば、火山頭の呪霊―――漏瑚は豊富に持っている。

 

「五条悟については、殺すのは諦めたほうがいい。封印することだけを考えるのをオススメするよ」

「封印? 手立てがあるのか?」

「特級呪物『獄門疆』を使う」

「獄門疆…? 持っているのか!! あの忌み物を!!」

 

 蒐集家でもある漏瑚にとって、特級呪物の中でもひときわ珍しい獄門疆は垂涎もの。興奮のあまり頭頂部から炎が噴き出す。漏瑚は更に、店内にいた客や店員たちを一人残らず火だるまにしていく。指の一振りで、先ほどまで賑わっていた昼時のレストランが火の海に変わる。危険を察知して逃げ出したアルバイトスタッフ以外は、誰一人生き残りはいない。特級呪霊の中でも飛びぬけた強さを持つ漏瑚にとって、この程度は戯れですらないのだ。

 

「儂は宿儺の指何本分の強さだ?」

「甘く見積もって8、9本分ってとこかな」

「十分」

 

 その答えに満足したのか、漏瑚は歯茎を剥き出して獰猛な笑みを浮かべる。

 

「獄門疆を儂にくれ!! 蒐集に加える。……その代わり」

 

 もはや店内には、悲鳴を上げる者すらいない。既に骨まで焼き尽くされているからだ。

 

「五条悟と城崎丈は、儂が殺す」

 

 

 

 漏瑚ら呪霊たちと別れてから少し。縫い目の男はこの場にいない彼らに向けて、見下すような独り言を呟く。

 

「五条悟と城崎丈を殺す…ね。後者はともかく前者は天地がひっくり返ろうが無理だろうに」

 

 会談場所のファミリーレストランは既に原形を留めていない。炎が立ち上り、崩れていく。スマートフォン片手に撮影する野次馬たちの隙間を縫って、縫い目の男は立ち去った。

 

「12年前からかな。…やれやれ、城崎丈のせいで計画が狂いっぱなしだ」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 時は、両面宿儺の受肉より12年ほど前に遡る。

 2006年1月。城崎丈は呪術師として覚醒しておよそ1年半の間、呪霊を祓い続けてきた。幼い肉体であっても、反転術式のアウトプットを駆使すればほとんど触れるだけで呪霊は祓える。

 ほとんど毎日のように呪霊を祓い続けてきたおかげか、城崎の身体能力は未就学児とは思えないほど鍛えられている。呪力の扱いも、独学で習得できている。転生者にありがちなチート…というほど大それたものではないが、恩恵は確かにある。

 

 反転術式に関しては、呪力に目覚めたときから使えていた。おそらくは、生得術式にデフォルトで反転術式が組み込まれているのだろう。死滅回游泳者の黄櫨折もこのタイプなのではないかと城崎は考えている。ただし、城崎は反転術式を自分自身の治療に使うことはできない。原因はなんとなく理解できており、天与呪縛によるものだろうと確信していた。

 加えて、城崎丈の術式は、触れた物を修復するというものだった。破壊された物体でも、術式を発動しながら触れれば元通りに戻る。

 

 これらの事実に気づいたとき、城崎は跳び上がって喜んだ。触れた物を直す術式と、生物を治療する反転術式。城崎が最強と信じてやまない、クレイジー・ダイヤモンドの能力に酷似しているではないか!

 自身を治癒できないという重すぎる天与呪縛も、東方仗助と同じと思えば何のデメリットも感じない。城崎は端的に言って頭がおかしかった。

 

 そんな城崎は現在、廉直女学院中等部の礼拝堂前の茂みで張り込みをしていた。

 

 




次回、過去編。みんな大好き前髪の人も出ます。

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