開明高等学校にて女生徒:山本華蓮の遺体が発見された。
現場は中庭の花壇の付近。
容疑者候補は二学年生徒:中嶋佳織(以下A)、教員:佐々木伸彦(以下B)の2名。
Aは遺体発見日、花壇の手入れをする係を任されており、現場付近を往復している。
Bは現場付近に自車を駐車しており、中庭と隣接している扉から校内へ入ったと推測されている。
(なんで私がこんな目に…)
開明高等学校、2年生・中嶋佳織。
彼女は一ヶ月ほど前の事件の容疑者候補とされていた。この学校の中庭で遺体が見つかったのだ。犯人はこれまでの期間で判明していない。彼女はすでに何度も事情聴取を受けていたが、証拠不十分として事件は進展していない。もう1人の候補は佐々木先生…佳織の担任の教師である。
何より辛いのは他の生徒からの目線だった。ほとんどの生徒は佐々木先生が殺人などするはずがないと信じきっており、疑いの目は佳織に吸い込まれるように向いていたのだ。それは想像していたよりもずっとストレスが溜まり、心を病む寸前だった。どうしてみんな私のことは無条件で信頼してくれないの…。佳織は学校の階段をゆっくりと登りながら思った。
とは言え、例外がいないわけではなかった。
「おはよ、佳織ちゃん!」
後ろから声をかけられた。
「凛ちゃん…!おはよ」
佳織は咄嗟に明るい態度を取り繕って挨拶を返した。凛ちゃんと呼ばれた少女は愛想良く微笑んだ。彼女は2週間ほど前に転校してきた3年生で、佳織が疑われていることなど知る由もないのだ。凛の表情は明るく、なんの悩みもないようにすら見える。
「最近寒いよね…そのジャンバー似合ってる!」
佳織が自分の気持ちと裏腹に何気ない言葉を投げかけた。凛ちゃんに心配はかけたくない。この純粋な先輩に余計な迷惑をかけたくない。佳織は強くそう思っていた。そんなこととは知らず、凛は茶色っぽい髪を靡かせて嬉しそうに頷いた。
しかし、本当にこの関係を続けていてもいいのか、とも心のどこかで思っていた。佳織は殺人事件の容疑者と思われている。攻撃的な視線を常に浴び続けている。そんな自分と仲良くしていては、その矛先が凛にまで向いてしまうかもしれない。
佳織は凛に軽く手を振って自らの教室へ入った。背負っているものが重すぎると今更になってふと思った。教室の様子はいつも通り。佳織に向かって一部から冷ややかな目線が飛んでくる。佳織は自分の席でちらりと教室の隅を見た。遺体で発見された生徒…華蓮と関わりがあったクラスメイトの玲奈はもう気持ちを入れ替えることができたらしく、新しいカレシの話をしている。佳織は机に突っ伏して、ただ時が過ぎるのを待った。
昼休み、佳織は目的もなく校庭のベンチに腰掛けて物思いに耽っていた。当然それもいい考えではない。疑いがこのまま晴れなかったら私はどうなるんだろうか…。そばに立った木が大きな影を落とし、ベンチはひんやりとしている。佳織は無意識にその座面をペシペシと叩く。ストレスが爆発しそうだった。奥のグラウンドで走っている生徒たちの姿がぼんやりとしか見えない。もう楽になりたい…。
「何やってるの?」
不意に後ろから声をかけられ、佳織は飛び上がった。振り向くとそこには、自分を信じてくれる友人の姿があった。その後ろには、玲奈の姿もある。どういう組み合わせなんだろう。
「凛ちゃん。ちょっとぼーっとしてただけだよ」
「ウソ。私気付いてるもん」
凛がすぐに遮るように言った。佳織は心では驚いたが、驚く反応を出すことにすら疲れたのか無言で座っていた。それどころか、自分の気持ちに寄り添ってもらえるかもしれない、と不純な期待が心に広がった。
気まずい沈黙が流れる。
「…玲奈ちゃんは…」
「あたし、あんたがやったとは思えないんだよね」
玲奈が高めなテンションで言った。私なんかと違って切り替えができて偉いなぁ…。
「だって動機とかないっしょ?クラスメイトなんだし信じていたいって言うか」
ペラペラと当然のように話す玲奈。それでも、佳織はその一言一句に救われるような感じがした。凛の方を見ると、彼女はいつも通りの明るい笑顔を向けて立っていた。佳織はその時初めて自分の頬を涙が伝うのを感じた。
「信じてくれてありがとう…!」
佳織は声を絞り出した。2人はそこにいることが当たり前のように立っている。
「きっと犯人は他にいるんでしょ!あたしらで突き止めちゃう?」
玲奈が言った。テンションの割に声が震えている。
「玲奈ちゃん〜?声震えてるけど。本当は怖いんでしょー?」
「は!?ち、違うし!」
佳織は2人のやりとりを眺めて、ここ最近で初めて本心の笑顔を見せた。