空白の変幻自在   作:NIGHTMARE⭐︎

2 / 3
2.被害者B

佳織は凛と玲奈と共に校舎へ戻った。

「現場検証ってやつだね?」

凛が口を開いた。佳織は真剣な表情で頷く。彼女は死体遺棄事件の犯人扱いされ続けている。それでも自分を信じてくれる人はいる。その実感がようやく湧いてきた。それと同時に、本当の犯人に対して深く憤りを感じ始めた。

3人は遺体が発見された中庭へ辿り着いた。先日まではブルーシートが配置されていたがそれもう無くなり、いつも通りの平和な中庭、生徒同士の交流の場所に戻っていた。

佳織は花壇のそばに近づく。まさにこの場所が事件現場だ。妙なのは周囲には血痕が飛び散った様子はほとんどなかったことだ。

「佐々木先生がやったと…思う?」

玲奈が小声で佳織に話しかけた。緊張からか汗がすごい。佳織は少し考える。

「うーん…そういうことする人かなぁ。好かれてはいないけど悪人には見えない…」

佳織が曖昧な答えを返した。佐々木伸彦、28歳。担当教科は英語で、高いコミュニケーション能力を持った男だ。しかしその発言はあからさまに女子を贔屓したものが多い。そのため男子生徒からは嫌われ、半数の女子生徒からは気持ち悪がられているようだ。しかしもう半分は、自分たちを贔屓してくれるいい先生 と認識しているらしい。佳織はあまりいい印象は持っていなかった。

「まー悪いやつではないんだろうけど…ヤダよね。きもい」

玲奈が小声ながらもズバッと言った。凛は真剣に考えている様子で立っている。

「犯行現場はここじゃないのかなぁ…?血痕はなかったぽいし」

凛が珍しい小声で言った。佳織は少し目を見開くようにして凛を見つめる。

「…わざわざここに運んできたってこと…?」

「うん…そうかな?でもなんでだろうね…」

佳織は当時の様子を想像して身震いした。佐々木がどこかの部屋で華蓮ちゃんを殺して、この場所まで連れてきた…。生々しい血の匂いのする妄想は玲奈の声で打ち消された。

「いやいや!どこで反抗されたかわかんないとか怖過ぎるんですけど!ってかそれだと佐々木がやったかどうかわからないんじゃね?」

「あー、そっか。わざわざ自分の車の近くには連れてこないか…」

凛は再び黙り込んでしまった。佳織は落胆した。ここまで手掛かりが無いものなのか。一筋の希望を見出せた仮説もあっけなく消えてしまった…。

佳織は帰りまで全く授業に集中できなかった。自分をここまで悩ませる犯人を絶対に許せない。

「佳織?大丈夫かー?」

佐々木先生がぼーっとしていた佳織に声をかける。佳織にはその黒い目が殺人鬼の目に見えてならない。

「大丈夫です…」

「寝不足か?夜までゲームでもしてた?」

「…。」

佐々木がベラベラと喋っている。ゲームなんかできたもんじゃないよ。そう思っている間にも佐々木はくだらないゲーム話を展開していた。こいつは犯人だとしても、そうじゃないにしても嫌いだと実感した。

 

下校時間となり、佳織は校門を出た。進展はなかったが、自分を信じてくれる友達がいるというだけでも世界が少しだけ明るくなったように感じた。昨日よりも風景がカラフルに見える。その時佳織は、机の中に教科書一式を忘れたことに気がついた。過去の自分を一喝する。上の空すぎるって。

佳織はくるりと身を翻して、来た道を戻り始めた。

階段を登り、4階の教室へ向かって歩いていくと、何か違和感を覚えた。どうして屋上に続く階段のドアが開いてるの…?

佳織は夕日で赤く照らされた扉をゆっくりと押して、屋上へ続く階段へ足を踏み出した。何か胸騒ぎがする。屋上に近づくに連れて、何か声が聞こえる。男女が争っているように聞こえる。自然と階段を登るペースが上がる。恐怖よりも興奮が勝り、佳織は屋上へ出た。

 

屋上には、2人の人物がいた。2人は取っ組み合っているようにも、抱き合っているようにも、倒れているようにも見える。1人は佐々木。そしてもう1人は…玲奈だった。

「玲奈ちゃ…」

佳織は駆け寄ろうとしたが、あることに気づいて足を止めた。玲奈は腹部から出血しており、佐々木は緊迫したような様子でそれを抱き抱えるようにしていた。そして2人の1mほど離れた場所に、血糊がついた彫刻刀が落ちていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。