狭間の島のテンペスト   作:卍錆色アモン卍

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14十階層攻略 中

 

 あれから何度かの襲撃を凌いだシアンたちは、巨大な鉄扉の前へと辿り着いていた。

 その扉の周囲には侵食するように石造りの壁が広がっており、そこには様々な動植物の彫刻がされている。

 明らかに一つの区切りであり、迷宮ガイドでいうところの、序盤を踏破したことは確実であった。

 

「やったね、ジェイ君!」

「せやな! いい活躍やったで! ディアベルはん!」

「マルちゃん、お疲れ様!」

「ツムギもお疲れ様でよ!」

「シアンさん、やりましたわね!」

「ああ、ひとまず安心だ」

 

 シアンたちは互いに労い、喜びを分かち合う。そして一段落つくと、ディアベルとマルが協力をして、巨大な鉄扉を押し開いた。

 その扉の先に広がっていた景色とは延々と続く広大な通路だ。壁や床は全て同じような石造りであり、天井は暗闇に飲まれるほどに高い。また、等間隔に並んだ松明が照らし出すのは、呆然と立ち尽くす生きる屍、リビングデッドであった。

 

「なんや、今度はゾンビかいな」

「なんか臭そうで嫌でよ」

「すえた臭いは勘弁だな」

 

 少しテンションの下がったシアンたちではあるが、ここから先の中盤では純粋な殴り合いが始まる。そのため、彼らは気を持ち直した。

 

 

 

 個別にいたリビングデッドを各個撃破したシアンたちは、通路の先から重苦しい金属音が鳴り響いていることに気付いた。やがて、それが巨大な鉄の板がさながらギロチンのように通路へ振り下ろされる様を視界に収める。それは間違いなく凶器であり、もしも挟まれようものなら一撃で死に至ることは確実であった。

 

「どんだけデカいギロチンだよ。横幅何メートルあるんだ」

「迷宮ですもの、何でもありですわ。ですがよく見てください、あのギロチンはチェーン駆動ですわよ!」

「本当だ」

 

 通路を塞ぐように振り下ろされる巨大過ぎる凶器は、端っこにどでかいチェーンが連結されていた。やろうと思えばあのチェーンを切断することで安全に渡れるのだろう。

 

「ギロチンの先にアンデッドが纏まっとるなあ。ちょいと雰囲気が違いそうな連中や」

「そうだね、気を付けて進もうか」

 

 ジェイの忠告を受けたシアン一行は、慎重にギロチンを乗り越えた。

 

 ギロチンの仕掛けは一定間隔にあるようで、断続的に重苦しい音が残響として残る。そんな中、シアンたちは目の前にいるアンデッド集団へ睨みを利かせていた。

 ボロ切れ同然の衣服を纏ったリビングデッドの中に、角の生えた鉄兜やハーフプレートを身に着けたスケルトンがいる。恐らく男と思われる彼は、刃幅が広く反りのある斧、所謂バトルアックスを二本両手に持っていた。

 

 両者は動く事はなかったが、次の瞬間。シアンたちが奇襲を仕掛ける。ローズの唱えた『火球』とシアンの唱えた『氷の嵐』が彼らに炸裂をしたのだ。

 

 アンデッドたちの中心で火球が爆発、そして爆炎を撒き散らし、彼らの頭上に渦を巻く黒雲が発生すれば鋭く尖った氷が彼らの体を削ぐように、嵐を引き起こす。

 それらはほんの数秒の間に起こった事象ではあるが、数十体はいたリビングデッドの大半は駆逐されていた。

 

 『氷の嵐』の影響により迷宮内に冷風が吹き荒ぶ中、シアンたちは油断せずに前方を見据える。何故なら、件のスケルトンと明らかに体格の良いリビングデッドたちが残っていたからだ。

 

「ここからはわたしたちの出番でよ!」

「そうだね、僕たちも仕事をしなくちゃ」

「あーしも活躍するよー!」

「ワイも頑張るやで〜〜‼」

 

 シアンとローズは役目を果たしたため、やる気十分といった様子の彼らに後を託すことにした。

 

 

 

 悍ましい叫び声を上げ、リビングデッドたちがぞろぞろとこちらへやってくる。マルは意識を切り替えると彼らへ突貫した。

 

 右腕が肥大化した奴、頭部が異様に大きい奴、やたらと人間らしい奴。様々なリビングデッドたちがいるが、まずは手前にいる巨体のリビングデッドへマルは襲い掛かった。

 

 大口を開け、こちらへ噛み付こうとしてくるリビングデッドにマルは横一線、刀を薙いだ。そして、横を通り過ぎる。

  

 次にマルへ襲い掛かってきたのは、頭部が異様に大きいリビングデッドと右腕が肥大化したリビングデッドだ。しかし、頭部が異様に大きいリビングデッドはジェイの正確な射撃により頭を射抜かれていた。マルはその僅かな隙を突き、肥大化した右腕を振り抜いてきたリビングデッドへ反撃を繰り出す。

 

 空気を叩きつけるような音と共に薙ぎ払われる豪腕。それは純粋な暴力の塊であり、もしも直撃しようものなら肉片と化すのは間違い無しだ。しかし、マルは刀を逆手に持ち、豪腕の下を潜り抜けながらも刀を振るった。

 その瞬間、彼女は確かな手応えを感じる。そして、マルは即座に体を起こすと、そのまま体を回転させて逆手持ちの刀で持ってしてリビングデッドの脇腹を切り裂いたのだ。

 右腕を斬り落とされ、脇腹の筋肉を断ち切られたリビングデッドの動きはぎこちない。マルは軽く一別だけをすると、本命の相手へと向き直った。

 

 角の生えた鉄兜、そして、ハーフプレートを身に付けたスケルトンだ。彼は間違いなくマルを見据えており、ポッカリと空いた眼窩に浮かぶ仄かな光がゆらゆらと揺らめいていた。

 一瞬の静寂が場を支配するが、次の瞬間には、両者は共に動き出す。

 

 スケルトンが二本のバトルアックスを束ねるように両手を振り上げ、石造りの床を踏み砕きながらもマルへ飛びかかってきた。その動きは目にも止まらぬ速さを誇り、これまでの相手とは格が違うことが見て取れる。

 マルは即座に横へかっ飛ぶと、床を砕くほどの一撃を回避した。しかし、スケルトンの猛攻は止まらずバトルアックスを薙ぎ払ってきたのだ。

 

 マルは身長の低い少女であり、それに比べてスケルトンは細身でありながらも背が高い。その影響により、腕のリーチが両者で異なる。だが、刀とバトルアックスという武器種のおかげで両者に致命的なほどのリーチの差は生まれなかった。

 

 マルは薙ぎ払われたバトルアックスを刀で弾く。その際に火花が舞い散り、甲高い金属音が迷宮内に鳴り響いた。それが幾度となく繰り返されたのだ。

 叩きつけ、薙ぎ払い、突き。あの手この手でマルを追い詰めようとするスケルトンだが、マルは時に受け流し、時に回避し、時に弾いては凌ぎ続ける。彼女はどれだけの猛攻を仕掛けられようとも動じることはなかった。

 

 やがて、大きく体勢を崩したスケルトンへ今度はマルが猛攻を仕掛ける。彼女は真っ向斬りでスケルトンの右手首を斬り落とすと、返す刀で左腕を斬り落とそうとした。しかし、スケルトンにバトルアックスを差し込まれたことにより、それは叶わなかった。

 

「いたみ入るでよ、楽しい時間を与えてくれて」

 

 だが、バトルアックスは宙に待ったのだ。何故ならば、スケルトンがしたのは無茶な行動であり、マルがそのことを見抜いていたから。

 くるくると回転し、何処か遠くへバトルアックスが飛んでいく中、マルは袈裟斬りを放ち、スケルトンの肩から脇の下へと刀を走らせる。その結果、鎖骨、肋骨と砕かれたスケルトンは地面へ倒れ付した。

 

 ろくに抵抗もしないスケルトンは、何に対して思いを馳せているのか。迷宮の魔物に心があるのか分からないマルだったが、せめて安らかに終わらせてあげようと彼の首を一刀の元に断った。

 

「敵将、討ち取ったり‼」

 

 マルが後ろへ振り向き、勝利宣言をした時。既に粗方の戦闘は片付いており、パーティーメンバーたちが固唾を飲んで見守っていた。そして、歓声が巻き起こる。特にジェイが派手に騒ぎ立てる中、残りの面々はマルを称え、その様子をシャーロットが写真に収めていた。

 

 

 

 その後、シアンたちはギロチンを乗り越えるたびに戦闘があったが、無事に勝利を収めることに成功した。特異なリビングデッドや強力なスケルトンたちが立ちはだかったが、皆が一丸となって彼らに打ち勝ったのだ。

 やがて、広大な通路の先にある小さな扉を潜ったシアンたちはセーフエリアである寂れた酒場へと辿り着いた。そこに店主や客は居なかったが、その代わりとしてなのか多くの食料や酒が用意をされており、自由に使って良いと迷宮ガイドに記載があった。そのため、シアンたちは遅めの昼食も兼ねてここで休息を取ることにしたのだ。

 

 厨房に立つディアベルとツムギが料理を作る最中、シアンを含めた面々は大きな丸テーブルを囲い、会話に花を咲かせていた。話題は勿論、つい先ほどまで繰り広げていた戦闘についてである。

 

「ワイら、結構凄いんちゃう? めっちゃ順調やで⁉」

「そうですわね! この調子なら、十階層を踏破できそうですわ!」

「凄い戦いやすかったでよ! これも皆のおかげがね!」

「流石に、探索者としての自信がついてきたな」

 

 思い思いに語っていると、食欲を刺激する香りが厨房より漂ってくる。やがて、コック服姿のディアベルと麻のシャツというラフな格好をしたツムギが、満面の笑みで料理を持ってきた。

 

 心待ちにしていたシアンたちは、大きな丸テーブルに載せられた様々な料理に目を輝かせる。

 輪切りにされたライ麦パン、川魚のムニエル、薄くスライスされたカマンベールチーズとベーコン、そして、主役としてどかんと置かれた、七面鳥の丸焼き。

 その他にも様々な料理が用意され、どれもこれもが輝いて見えるほどに美味しそうであった。

 

「あ、あかん! はよ食べたいで〜〜‼」

「ジェイ君、落ち着いて。シャーロットさんも、席についてくれるかな?」

「お構い無く! ワタシは皆さんの食事風景を、カメラに収める使命がありますから!」

「そ、そう。じゃあ、いただこうか」

 

 席についたディアベルの号令で、各々が食前の感謝を述べる。そして、楽しいディナーが始まった。

 

「びゃああ美味いやでぇ‼」

「肉! わたしに肉を寄越すでよー‼」

「お前ら落ち着けよ」

「まあ、大変美味しいですわ! ディアベルさんとツムギさんは、お料理が得意なんですのね」

「異世界の料理があまり美味しくないのは、定番だからね。こっそりと【料理】スキルを上げてたのさ」

「あーしもディアベルと同じ理由だよー!」

 

 和気あいあいと食事を楽しむシアンたちは皆笑顔であり、テーブルに置かれた燭台の明かりが、彼らの生き生きとした表情を照らし出す。その様子を必死に写真に収めるシャーロットもまた楽しげな表情を浮かべており、いつしか彼らの時間は瞬く間に過ぎていった。

 

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