狭間の島のテンペスト   作:卍錆色アモン卍

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15十階層攻略 下

 

 昼食を終えたシアンたちは装備の最終確認を終わらせて、酒場の奥にあった巨大な鉄扉の前へとやってきた。

 ここから先に広がるのは迷宮ガイドでいうところの終盤であり、強大な敵が待ち構えている。シアンたちは互いに顔を見合わせると、覚悟を決めて鉄扉の先へと進んだ。

 

 大理石の床が延々と続く荘厳な廊下。そこには緻密な彫刻の施された柱が等間隔に並んでおり、それは鏡写しのように続いていた。また、アーチを描く天井には明かりとなるランタンが吊るされ、ぼんやりとした灯りが大理石の床を照らしている。

 シアンたちが警戒をしながら進んでいくと、やがて遥か先の前方で明かりが灯った。それは炎色反応のような緑色をした炎だ。

 

「出たやで! 迷宮十階層のボス、リッチや!」

 

 シアンもジェイと同様に【鷹の目】を持っているため、その姿を捉えていた。

 古びたローブを纏う一体のスケルトン。彼の右手には緑色の炎を灯した長杖が握られており、その逆の左手には禍々しい水晶玉が抱えられている。そして、彼が長杖を掲げると多くの魔法陣が周囲に展開されては、そこから数多のアンデッドが召喚をされた。

 スケルトンやリビングデッドに加えて、彼らの上位個体であるスケルトン・ウォリアーなどが確認できる。彼らの総数は四十ほどもあり、まともに衝突しようものなら間違いなく数で押しつぶされるだろう。だが、そこは探索者の腕の見せ所である。

 

「まずは前進しよう! 僕たち前衛が壁をつくるよ!」

「かかってこいでよ!」

「いいねいいねー! テンション上がってきたー!」

「任せたやで、ディアベルはんたち〜!」

 

 ディアベル、マル、ツムギが横並びとなり、ゆっくりと前進を開始した。それと同時に、リッチを総大将としたアンデッド軍団も進軍を始める。やがて、互いに後衛職の範囲へ入った瞬間、戦いの火蓋が切られたのだ。

 

「消し炭となりなさい! 〈ウォール・オブ・ファイア〉!」

「ジェイ、『火の壁』の手前に『トゲ密集』を。俺はその隣に『水の生成』を唱える」

「了解やで! 〈スパイク・グロース〉!」

「〈クリエイト・ウォーター〉」

 

 先手を取ったのはローズだ。彼女はスケルトンとリビングデッドが大半を占める最前列へ『火の壁』を放った。それにより、半数以上のアンデッドが豪炎の立ち上る壁に飲み込まれる。

 荘厳な廊下を飲み込む炎は眩いばかりの光を放ち、僅かな影を残すアンデッドたちを燃やし尽くしていく。それに加えて、硬いトゲで覆われた床と水浸しとなった床がその手前に広がっていた。

 

「まずは雑魚を減らすぞ。もしも強引に突破してきたら『トゲ密集』でもたつく奴らをジェイが射抜くんだ。俺は奴らの行動次第で水を凍らせるか『電撃』を放つかを決める」

「了解や! 相変わらずのガチガチ作戦やね!」

「頼もしい限りさ。任せたよ、ジェイ君、シアン君」

 

 シアンたちの作戦とはとにかく数を減らすことである。もしもアンデッド軍団が強引に突破をしてくるのなら『火の壁』を最大限活用して数を減らせる。逆に一度引くのならこちらはシアンとローズ、ジェイの布陣でもう一度迎え撃つのだ。

 だが、この作戦には懸念材料がある。それは敵の総大将が魔法詠唱者であるという点だ。

 

 しばらくの間は動きがなかったアンデッド軍団だが、突如としてシアンたちの居る場所に真緑色の雲が発生した。シアンはその魔法を知っており、仲間たちへ忠告をしようとするがあまりの悪臭にむせてしまった。

  

「ごほっ、これは『悪臭の雲』だっ、ああっ臭い⁉」

「あか〜ん⁉ 臭過ぎて魔法の維持が、ごっほぉ〜⁉」

「一旦下がりまっ、うげぇ〜臭いですわ〜⁉」

 

 視界を埋め尽くす真緑色の雲は目と鼻を的確に潰してきており、シアンたちは不利を悟って後退する。その際に精神集中を必要とする『火の壁』と『トゲ密集』が解かれてしまったが、ある程度の雑魚を減らしたのなら費用対効果は悪くないだろうとシアンは考えた。

 

 後退したシアンたちの前方に広がる『悪臭の雲』は、彼らの視界を埋め尽くしており、アンデッド軍団が確認できない。一度作戦を考える必要があるだろう。

 

「どうするやで、あいつらが来るのを待つか?」

「いや、それは駄目だ。向こうにはスケルトン・プリーストがいる。放置すれば倒したアンデッドが起こされる。俺が道を切り開けるからどうにかして妨害したい」

「あーしが『静寂』を唱えられるよ?」

「『静寂』か……。確か、ジェイも『静寂』を唱えられたよな? ここはジェイに任せてもいいか。『静寂』は精神集中を必要とするし、ツムギには前衛で働いて貰いたいんだ」

「おっけー、了解!」

「任せるやで!」

 

 作戦が決まったので、シアンは『悪臭の雲』目掛けて『突風』を放った。

 

「〈ガスト・オブ・ウィンド〉」

 

 すると爆風が吹き荒び、魔法によって生み出された悪臭の雲が吹き飛ばされる。『突風』はこのように霧や雲を吹き飛ばすことが可能なのだ。

 

「シアンの予想通り、味方を起こしとったなあ! 〈サイレンス〉!」

 

 視界の通った先では古びた三角帽子とロングコートを纏ったスケルトンが、怪しげなランタンを掲げてアンデッドを蘇らせていた。しかし、そこへ半径六メートルほどの防音の玉が生み出され、彼を中心に覆ったのだ。

 『静寂』の範囲内にいる者は話すことができず、言語要素のある魔法を唱えることができない。そのため、魔法詠唱者を大幅に制限することが可能であった。しかし、無敵というわけではなく、無詠唱で放てる魔法も存在し、先ほどシアンが述べた通り精神集中を必要とする。

 だが、雷鳴魔法を無効化する、魔力消費量が少ない、魔法の効果時間が非常に長いなどの利点があり、『静寂』という魔法が強力無比であることに間違いはなかった。

 

 再び前進をしたシアンたちは再度魔法で数を減らすことにした。しかし、今回は精神集中を必要としない魔法である。先ほどの焼き直しを嫌ったためだ。

 

「〈ファイア・ボール〉!」

「〈ライトニング・ボルト〉」

 

 そして、シアンとローズの魔法が炸裂し、アンデッドたちの数が減っていく。やがて、アンデッド軍団の数が二十を切ったあたりでディアベルたち前衛が突撃をした。

 ついに衝突をした両者は激しい争いに発展し、ディアベル、マル、ツムギが次々とアンデッドたちを粉砕していく。だが、そこへバトルアックスを持ったスケルトン・ウォリアー、グレートソードを担いだリビングデッド・ナイトが複数となって参戦をしたのだ。

 ディアベルたちは互いの長所を活かして連携を取り、各個撃破を狙っているがそこへ邪魔をしようと画策するアンデッドが現れた。それは、リッチである。

 

 

 

 振り下ろされたグレードソードを盾で受けたツムギは、思わず歯を食いしばった。左腕を伝う衝撃は骨にも響き渡り、僅かな硬直が生まれてしまう。だが、彼女は気合で持ってしてグレートソードを弾き返したのだ。

 

「ごめん皆! 【聖戦士のマント】を解除するよ!」

「了解でよ!」

「問題ないよ!」

 

 ツムギは交戦前に自身とマル、ディアベルの武器に聖属性を付与していた。それは確かにアンデッドに対して有効ではあったが、激しさを増す彼らの猛攻には忍びなかった。そのため、ツムギは精霊を呼び出し、自らを守護すると同時にアンデッドたちへ反撃を繰り出すことにしたのだ。

 

「〈スピリット・ガーディアンズ〉!」

 

 ツムギを中心にして、召喚された光の精霊たちが舞い踊る。彼らは召喚主へと近づくアンデッドたちを浄化の光で焼き尽くし、不浄なる彼らを現世から解放していった。

 そのような姿のツムギはまさしく聖職者然としており、泥臭い戦場であってなお彼女は慈愛の光に満ちていた。

 

「おお、美しいね。思わず見惚れてしまうよ」

「これ、わたしたちに影響ないの神でよ」

「皆、軽口叩いてないで手を動かそ⁉」

 

 ツムギに恐れをなしたアンデッドたちが引き下がる中、ディアベルとマルが笑った。しかし、複数のスケルトン・ウォリアーとリビングデッド・ナイトたちがすぐさま襲い掛かってくる。不浄なる彼らは、光の精霊たちに浄化をされながらも自慢の武器を振り下ろしてきたのだ。

 

 ディアベル、マルと協力をし、ツムギは彼らと対抗する。その時、前方にあった『静寂』の中にリッチがいないことに彼女は気付いた。その瞬間、スケルトン・ウォリアーと斬り合っていたマル目掛けて、『静寂』を脱していたリッチより『火球』が放たれたのだ。

 それは溢れんばかりの炎を内包した致死に至る一手であり、威力はローズによって証明されている。そんなものをまともに食らえば間違いなく教会送りだ。ツムギはすぐさまマルのカバーへ入ろうとするが、目の前にリビングデッド・ナイトが立ちはだかった。

 

「くっ、マルちゃん‼」

「ここは僕に任せて‼」

 

 グレートソードを盾で受け流すツムギが見たものとは、燃え盛る『火球』を盾で受け止め、爆炎に飲まれるディアベルであった。

 

 

 

 最前線で派手な爆発が発生した。それはリッチによって放たれた『火球』が原因であり、ディアベルが爆炎に飲まれる様をジェイは見てしまう。

 

「ディ、ディアベルはーん⁉」

「くそっ! ジェイ、リッチを射抜け! 前衛が倒れるとまずい!」

「あわわ、どうしましょう……!」

「ローズ、俺たちはとにかく前衛を守るんだ。最優先はリッチ、次点でスケルトン・プリーストだ!」

「わ、分かりましたわ!」

 

 シアンの指示に従い、ジェイはリッチに狙いを定めて矢を放つ。しかし、リッチはこちらを嘲笑うようにはたと姿を消したのだ。

 

「ええっ⁉ リッチが消えたやでぇ⁉」

「もしや『不可視化』まで使えるのか? だとしたら不味いな……。ジェイ、『濃霧』をリッチのいた場所へ広げろ」

「りょ、了解や!」

 

 ジェイが『濃霧』を唱えると、戦場の一部が深い霧に包まれた。そこは内部を確認出来なくなり、無闇矢鱈に攻撃をする事が出来なくなる。だが、それは相手側も同じで『濃霧』の影響により、こちらを視認出来なくなったのだ。

 ひとまず前衛を援護しようと矢を放つジェイは、シアンが『みぞれ交じりの嵐』を唱えたことに気付いた。それによって、荘厳な廊下内に分厚い雨雲が発生してはみぞれの交じった嵐が吹き荒ぶ。

 床を凍てつかせ、視界を遮る猛吹雪は『静寂』と隣合っており、そのさらに隣にはジェイの『濃霧』が発生している。たとえ脅威的なリッチであろうと、視界と口を防がれてしまえば何もできはしないだろう。ジェイは今のうちに戦況を有利に運ぼうと、懸命に矢を放ち続けた。

 

 

 

 全身が燃えるように熱い。だが、気合で耐えることに成功した。

 走馬灯が一瞬流れたディアベルは辛うじて無事であった。しかし、赤熱した盾は防具越しであっても腕を焼き続けており、爆炎に飲まれた下半身はほとんどの感覚が鈍かった。悲惨なことに、彼は全身に火傷を負っていたのだ。

 

「ぐっ、予想以上に魔法は脅威的だね……」

「ディ、ディアベルー⁉ 死んだら許さないでよー⁉」

「大丈夫、この程度で僕は死なないよ……!」

 

 動揺したマルがディアベルを心配してくるが、彼女はそれと平行して流れるような動作でアンデッドたちの処理をしている。その様子に頼もしさを覚えたディアベルは前方に広がる『濃霧』などの魔法を確認すると、少し後ろへ下がる。そして、急いでこちらへやってきたツムギの治療を受けた。

 

「〈キュア・ウーンズ〉! 〈エイド〉! あと、ポーションを掛けたら熱を逃がせるかな⁉」

「うおおっ……⁉ 急に体が軽くなっていく‼」

 

 ツムギの治療により、ディアベルは驚異的な回復をした。先ほどまでは満足に体を動かすことも出来なかったが、今や何不自由なく体を動かせるようになったのだ。ディアベルは魔法すごい……!と驚き、自身を助けてくれた仲間たちに感謝をした。

 

「皆、ありがとう! 僕は無事だよ!」

「はあ、流石に焦ったよー!」

「生きててよかったがね!」

 

 後衛の仲間たちにも無事を知らせるように盾を掲げたディアベルは、早速とばかりにリビングデッド・ナイトと交戦をした。彼の隣には精霊を引き連れたツムギが並び、二人で協力をして奴を倒すことに成功する。

 やがて、あらかたのアンデッドが魔石となった。だが、未だに残っているアンデッドがいたのだ。

 

「ツムギ、後ろでよ‼」

「え⁉」

 

 それは、リッチである。彼は『不可視化』で姿を消し、奇襲の形で『火球』を放つ戦闘方法をとっていた。

 自らの誇る魔法と、有り余る魔力を駆使した力技とも言える。しかし、その動きこそが脅威的であり、ディアベルが『火球』に盾を投げ当てていなければ、ツムギもまた先ほどの彼のように重症を負っていたのかも知れなかった。

 

 だが、魔法を放つと『不可視化』は解けてしまう。そのため、リッチが再び姿を消そうとした、その時。空気を切り裂く音と共に現れた矢が彼の頭部を貫いたのだ。

 

 砕かれた骨片が散らばる中、大気を劈く『電撃』がリッチの体を粉砕し、遅れてやってきた『火球』が全てを吹き飛ばす。哀れなことに、それでリッチは息絶えた。

 

 終わりこそ呆気ないものだったが、ディアベルたちにとって驚異的な魔物として、リッチは記憶された。

 ディアベルは思う、個人ではどうにもならない相手だったが、仲間たちと協力したからこそ倒せたんだ、と。

 

 

 

 激戦を繰り広げたシアンたちは疲れた様子を隠しもせずに歩き続け、やがて黄金の扉へと辿り着いた。彼らは顔を見合わせると、全員で協力をして扉を開く。すると、そこには一本の長剣が台座に突き刺さっていたのだ。

 

「なんやこれ、勇者の剣かいな?」

「迷宮ガイドによると、『勇者の剣』らしいな。資産価値は500万ポイントだとか」

「ホンマに勇者の剣かい⁉ てか500万ポイント⁉ めっちゃ高く売れるやん‼」

「売るのは反対でよ! これはとっとくべきだかね‼」

「じょ、冗談やんか〜〜⁉」

 

 マルに詰められるジェイがたじたじする中、シアンはようやく十階層を攻略できたことを実感してきた。そして、それは他の面々も同様なのだろう。

 

「僕たち、十階層を攻略出来たんだね……!」

「本当にね! あーしたち、結構凄いよ!」

「物凄〜く濃密な一日でしたわ!」

「楽しかったでよ!」

「めっちゃ大変やったけど、凄い楽しかったやで〜‼」

 

 各々が感慨にふけっているとシアンはある一つの提案を思いつき、それを仲間たちに共有した。

 

「この勇者の剣、欲しい人いるか? もし居なかったら、ディアベルに受け取って欲しいんだが」

「ええっ⁉ いやいや、僕は受け取れないよ!」

「ええやんか〜! ディアベルはん、めっちゃ頑張ってたし!」

「わたしは構わないでよ!」

「あーしも賛成ー!」

「ディアベルさん、ぜひとも受け取ってくださいな。それに、長剣を扱える人なんて貴方しかいないんですわよ?」

 

 優しげに笑うローズの言葉を聞き、ディアベルは困ったような笑みを浮かべた。しかし、すぐに満面の笑みへと変わったのだ。

 

「……皆、ありがとう。とても大切に使わせていただくよ」

「ああ、思う存分使ってくれ」

「ヒューヒュー! 勇者ディアベルの誕生やで〜〜‼」

「いよっ! 勇者さまーー‼」

「さあさあ勇者様、一気に引き抜いちゃって!」

「フフ、勇者誕生の瞬間に立ち会えるなんて、感動ですわ!」

 

 茶化されるディアベルは恥ずかしそうであったが、彼は勇者の剣を握り込むと勢い良く引き抜いた。そして、天高く掲げる。

 ドームを描く天井より差し込む光に照らされ、勇者の剣は輝いていた。白銀に煌めく刀身は美しく、豪華な装飾の施された鍔は黄金に輝いている。それはどこをとっても高級な一品であり、勇者が持つに相応しい一振りであった。

 

「皆さーん! 最後に記念撮影はいかがですか? ワタシが撮りますよ!」

 

 その時、影に徹していたシャーロットが声を上げた。シアンたちは彼女の提案に乗ると、今しか味わえないこの気持ちを形として残すことにしたのだ。

 やがて、勇者の剣を持ったディアベルを正面にして、彼らは一枚の写真を撮った。上手く撮れたのかは分からない。だが、全員が心の底から笑っていたのは紛れもない事実であった。

 

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