キリが良かったもので。
トウヤが暮らす村は、北の異民族の住む土地に程近い。
しかし、帝国へと向かう道よりも外れた場所に村が存在したのと一年を通して雪に囲まれている自然の砦によって北の異民族による襲撃を受けたことはなかった。
さらに、小さい村ながら村と村の経由地点としての役割も担っているため村の真ん中に位置する大きな広場では晴れた日に市場が開かれ、多くの人でにぎわうほどだ。
そんな村に一晩中降っていた雪が止んだ日のこと。
いつもは静けさを保っている村の大きな広場にて多くの住民が集まっていた。
普段はこの広場には来ない住人も合わさり、人で広場が埋め尽くされていた。
だが、市場が開かれるわけでもなくかといってお祭りがあるように人々が騒がしくしているわけでもない。
誰もが困惑と悲壮感あふれる表情を見せ、あるものは顔に手を当て俯き、あるものは親しい人物と不安そうに抱き合っている。
その中には、トウヤ、ハル、ミーナの三人の姿もあった。
ハルは怒りと諦観が織り交ざったような苦々しげな表情を。
ミーナは両手を胸の前で合わせ沈痛な面持ちで口を硬く結び。
トウヤは悔しそうに手のひらから血が出るくらい強く拳を握り締めていた。
三人もまた自分の目の前に掲げられたものに対して言葉を失っていたのだ。
「…これで何度目なんだろうな。この帝都からのお達しを見るのはよ…」
「わからない。せっかく村の皆の生活を父さんたちが安定させたって時に…」
「………………」
立ち直ったとは言いがたいものの今回の内容を無理やり理解させたハルとトウヤはもう何度見たかわからない通知に対して悔しそうに吐露する。
ミーナは何も言わずただただ悲しそうに俯くだけで、この事実を受け入れられてはいないようだった。
トウヤは隣にいたミーナの頭に手を置き小さな声で「大丈夫」とミーナを安心させるように気遣いながら言い、再び視線をあるものへと移す。
広場に大きく掲げられた通知は淡々と事実だけ伝えている。
”税率の引き上げ”
皇帝の名の下発せられたこの命令にも近い文は現在帝国に住んでいる住人の大多数を苦しめている。
特にここ最近はこの重税によってトウヤたちのような村に住む人間から帝都に住む市民にまで生活が困難であると言われているほどだ。
しかも今回のように税率は下がるどころか上がる一方なために、帝都周辺の村では夜盗や盗賊として生きるのを余儀なくされる人も少なくなかった。
だが帝国はこれを黙殺し、重税に苦しむ民を救うどころか様々な理由や因縁をつけて理不尽な罪に問われたり、軍のものに殺されたものが後を絶たない。
さらに、見せしめのように帝都中を引き摺りまわされたり、極悪人だというレッテルを張られたまま公開処刑された者も多く存在した。
辺境の村になればなるほど重税で苦しむ人間も多いが、帝都でも現状は変わらないのだというのが、今の帝国という国を表しているといえるだろう。
そんな中トウヤは自分の知識を動員させて自分のやるべきことを考えていた。
(重税がどんどん進んでいるっていうことは…この世界で起こる物語ももうすぐ始まるって思っていいのか?でも、主人公のタツミたちがいつ村から出たなんて無かったはずだし…それに俺はまだアンデットナイツの能力もBASARAの武器や技なんて使えないし…そもそも武器を指定したにしてもその武器が具現化できなかったらどうするんだ!?さらに他の転生者の情報は未だにゼロ…何人来てるかもわからないし…あぁぁぁもう!こんなことなら状況に流されずにしっかり話をつけていくんだったというかなんで俺がこんなこと考えなきゃいけないんだ?そうじゃん、この村から出たとしても最悪目立たないように生きれば!)
もはや思考を放棄して混乱するしかないトウヤは今更になって自分が転生してきた意味とこれから起こる危険と今までそんなことを軽々しく考えていた自分に対する怒りで頭を抱えるしかなかった。
「……ヤ…い、…ウヤ!聞いてるかトウヤ!!」
ハッとそんな声で現実に戻されたトウヤは顔をあげ目の前にいた幼馴染二人に目を向ける。
「大丈夫か?なんか考え事して唸ってたけどよ」
「…トウヤ、大丈夫…?」
心配した表情を浮かべ自分のことを気にしてくれる目の前の親友に対してトウヤは申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
周りにあった懸念事を振り払うように頭を振り一息ついて笑みを浮けべて言う。
「ごめん、何でもないよ。気にしないでくれ」
ハルとミーナは顔を見合わせ首を傾げるが、トウヤがそういうならと身を引く。
反面トウヤは心の中で安堵した。
「フレールさんとアルティシアさんが今からなんか言うらしいぜ。ちゃんと聞いとけよなトウヤ」
「あぁ」
ハルが指差しながらそういうと広場の中央にある看板の横に設置された台の上へと壮年と見られる男女が執事に案内されながら上っていく。
彼らこそほかならぬ村の頭首を務めこの近辺を統治しているトウヤの両親であった。
180はある身長と銀髪を自身の顔の右斜め前へと整えた独特の髪型。
全身黒のスーツに身を包みまるでパーティーへと参加する貴族のような衣装。
銀髪によって映える深紅の瞳は左側を眼帯によって塞がれている。
この寒さの中杖をついているもののその気迫は衰えることはなくまるで編む差を感じていないかのように凛と立つ男性。
その隣では腰まで伸びた金髪のロングヘアを揺らし豪華とはいえない厚めの防寒具に身を包んでいるものの淑女の見本ともいえる佇まいから、裕福な家の出身であることが伺える女性。
男性―フレールは杖で台を軽く叩き集まった民衆を前にして口を開いた。
「皆ごくろう!今日は寒い中ここで待たせてすまなかった!」
フレールはそう大きな声で、威厳を感じさせる声でいうと横にいた女性―アルティシアとともに頭を下げる。
村人からは何も発せられない。発する必要もなかったからだ。
それだけフレールが村人にとって大きな存在であるという証拠だろう。
フレールは頭を上げ広場を見渡しながら次の言葉を紡ぎ始める。
「皆はもう皇帝陛下からの詔は見ただろうと思う。また税が増えこの中にもすでに苦しい生活を強いてしまっている者もいることは事実だ。私がこの村の頭首として長く統治を行ってきてはいるが改善できない自分が無力だということを許してほしい。不満がある者もいるだろう、声を上げて抗議したい者もいるだろう。その気持ちは、十二分に理解している。今回集まってもらったのは他でもない、私に変わる統治者を紹介するためだ」
紡がれたその言葉に村人たちはいっせいに困惑の声を上げ始める。
突然自分たちの村を守ってきてくれた守護神のような人物が頭首を辞めると言い出したのだから無理も無い。
その話を聞かされていなかったトウヤもまた困惑していた。
フレールは村人たちを怒鳴ることはなく言葉を続けた。
「皆が戸惑う気持ちもわかる。頭首である私がこんなことをいきなり言い出しては無理も無い。言い方を変えよう。私の代理としてこの村にいてもらう人物を紹介すると言うことだ」
「代理人?そんな話あったか?」
「いや、少なくとも父さんからそんな話は聞いてないから本当に最近決まったことなんだと思う」
「…アルティシアさんも、何も言ってなかった…と思う」
最前列で聞いていたわけではないトウヤたちは三人とも疑問を浮かべていた。
少なくとも血縁者であるトウヤでも分からないことであった。
フレールはそんなトウヤたちの考えを知ることなく話を進めていく。
「私が元帝国軍人であったことは皆の周知の事実だ。そのころの縁で交流のある人物だ。紹介しよう。こっちだ、上がってきてくれ」
そうフレールに言われるとフレールよりも少し若い男が壇上に上がり礼をした。
そしてキリッとした表情で話し始める。
「初めましてだ諸君。私はカイ。元帝国軍の所属で帝都でバーのようなものをしながら剣術の指導を行っていた。私の盟友フレールに代わりこの村をしばしの間見守ることとなる。彼の代わりが務まるように精進するつもりだ。皆!よろしく頼む!」
そうして男―カイは礼をする。
村人たちはしばし呆然としていたが、やがて少しずつカイを認めるように拍手で迎えていった。
トウヤ自身戸惑っていたが周りの拍手に釣られ自身も拍手する。
こうしてこの村は新たな統治者を向かえ、一旦の平穏を得たのだった。
この選択が、村人たちの、トウヤの絶望へとつながることを知らずに。
というわけで白鷺です。
色々忙しくて昼に投稿する予定がこんな時間に。
すみません。
さて、そろそろアカメ本編に向けて動き出しました。
後2,3話ほどでプロローグに似たこの序章を終わらせます。
オリジナルで流れを考えると後からつらいですし…
今現在トウヤと衝突する転生者は3人です。
話の展開で増えるかもしれないですが、ぐだぐだになるのが怖いので増えても4人か5人が限界ですし、まぁちょっと決めかねてますがなんとか工夫してみます。
最大ナイトレイドに二人、帝国側に三人ぐらいかな…
次回に原作キャラを出せたらいいなとは思っていますがどうやって絡ませようか悩みますね。
今年の更新はこれでラストにします。忙しいですし…
それでは皆様よいお年をノシ