魔法科高校の異端魔術師   作:もやしになりたい

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模擬戦

クラス表を確認したあと、佐藤雄馬はそのまま教室へ向かわなかった。

 

一年E組。

司波達也。千葉エリカ。柴田美月。

そして、自分。

 

それだけ確認できれば十分だった。

 

最初の顔合わせに出たところで、今日のところは大した意味もない。むしろ、もうこの学校の空気をかなり吸い込んだ気がしていた。講堂の自由席が、誰に指示されるでもなく一科生と二科生で綺麗に分かれていた光景だけでも、第一高校という場所の性質はよく分かった。

 

「……今日はここまででいいか」

 

誰に言うでもなく呟き、雄馬は人の流れから外れた。

 

そのまま校舎脇の通路を抜け、帰路に就こうとした時だった。

 

向こうから、見覚えのある一団が歩いてくる。

 

先頭にいるのは司波深雪。

その後ろには、生徒会のメンバーらしき上級生たち。

 

歩く方向を見れば分かる。おそらく達也のところへ向かっているのだろう。

 

雄馬はそれを一目で判断し、そのまま脇を抜けることにした。今の自分が関わる場面じゃない。そういう距離感だけは、最初に間違えたくなかった。

 

すれ違いざま、集団の中の一人と視線が合う。

 

七草真由美だった。

 

朝に構内で会った時と同じ、こちらをきちんと認識した目。

雄馬は歩みを止めず、軽く一礼だけする。

 

真由美もまた、ほんのわずかに目元を和らげた。

声は掛けない。止めもしない。

 

それで十分だった。

 

雄馬はそのまま通り過ぎる。

 

背後では深雪の声が聞こえた気もしたが、振り返らない。

今日の自分はまだ、この学校の外縁に立っただけだ。

 

その感覚を持ったまま、第一高校をあとにした。

 

家に帰ると、いつもの空気がそこにあった。

 

電子化され、管理され、視線で分類される学校の空気とは違う。

ここにはここで、英霊たちの気配が満ちている。

 

「帰ったか」

 

中庭へ続く方から、アキレウスが声を掛けてくる。

もう準備は半分終わっている顔だった。

 

「帰った。早いな」

 

「初日だからって鈍るつもりはねえだろ?」

 

「まあな」

 

雄馬は苦笑して部屋へ戻り、制服を脱いで動きやすい服に着替えた。

強化魔術と縮地を使うなら、少しでも引っかかりの少ない方がいい。

 

着替えを終えて居間へ戻ると、何人かがすでにこちらを見ていた。

 

エミヤは椅子に腰掛け、湯気の立つカップを片手にしている。

アルトリアは静かに座ったまま、こちらへ視線を向けた。

ジャンヌは柔らかく微笑み、クーフーリンは壁に寄りかかって面白そうに片眉を上げている。

沖田はぱっと表情を明るくした。

 

「お帰りなさい、雄馬さん。第一高校はどうでしたか?」

 

「思ったより露骨だった」

 

雄馬はそう言って、冷たい水を一口飲んだ。

 

「講堂って本来は自由席なんだろ? でも自然と手前に一科生、奥に二科生って分かれてた。誰かが言ったわけじゃないのに、最初から空気で線が引かれてる感じだった」

 

「なるほど」

 

アルトリアが静かに頷く。

 

「制度だけでなく、場の空気そのものが線引きを補強しているわけですね」

 

「そんな感じ」

 

「息苦しそうだな」

 

クーフーリンが鼻で笑う。

 

「面倒くせえ学校だ。戦場なら、強いかどうかで話は済むんだがな」

 

「いや、この学校も一応はそうなんじゃないか。ただ、その“強さ”の測り方が面倒なんだろ」

 

雄馬が肩をすくめると、エミヤが小さく息を吐いた。

 

「数字と評価が先に立つ組織は、だいたいそうなる。珍しい話でもない」

 

「それで、誰か気になる者はいたのですか?」

 

ジャンヌの問いに、雄馬は少し考えてから答えた。

 

「司波達也と司波深雪は見た。あと――七草真由美と会った」

 

その名に、居間の空気が少しだけ動いた。

 

「七草真由美……」

 

ジャンヌが記憶を辿るように首を傾げる。

 

「たしか、その学校の生徒会長をしている方、でしたか」

 

「そう。俺も詳しく知ってるわけじゃないけど、この世界だと有名側の人」

 

「ほう」

 

アキレウスが扉のところで腕を組む。

 

「その七草真由美ってのが、雄馬に声掛けてきたのか?」

 

「朝、構内を歩いてた時にな。しかも向こう、最初から俺の名前を知ってた」

 

「それはまた、随分と見られているな」

 

エミヤの声は淡々としていたが、目はきちんとこちらを見ていた。

 

「七草真由美……たしか、校内でも相当に顔が利く立場だったか」

 

「そのくらいの認識で合ってると思う」

 

「有名人、なんでしたっけ?」

 

沖田が小首を傾げる。

 

「そうですね。学校で偉い方、という認識です」

 

ジャンヌが補うと、沖田は「なるほどです」と頷いた。

 

アルトリアが続ける。

 

「その人物が、あなたを事前に把握していた。興味深い話です」

 

「筆記が良くて、実技がぎりぎりだったのが珍しかったんじゃないかって言ってた」

 

「ふむ」

 

エミヤがカップを置く。

 

「良くも悪くも、埋もれてはいないということだ。最初から認識されているなら、振る舞いには気を付けた方がいい」

 

「分かってる」

 

「それで、教室には行かなかったのですか?」

 

ジャンヌが穏やかに尋ねる。

 

「行ってない。そのまま帰った。帰る途中で深雪が生徒会の連中を連れて歩いてきたから、多分、達也のところに行くんだろうなって思ってさ。横を抜ける時に七草真由美と目が合ったから、軽く会釈だけしてそのまま帰った」

 

「ははっ」

 

アキレウスが愉快そうに笑う。

 

「いいじゃねえか。初日から妙なとこで首突っ込まねえのは正解だ」

 

「無闇に動くよりは賢明でしょう」

 

アルトリアも同意するように言う。

 

クーフーリンが肩をすくめた。

 

「ま、しばらくしたら嫌でも絡む相手なんだろ。なら初日はそれでいい」

 

「ええ。最初から急いで縁を作る必要はありません」

 

ジャンヌがそう言って微笑む。

 

沖田もにこにこと頷いた。

 

「雄馬さんらしいと思います」

 

雄馬は少しだけ息を抜いた。

 

学校で張っていた神経が、ようやく緩んでいく。

 

だが、その空気をアキレウスが軽々と壊した。

 

「さて、話はその辺でいいだろ」

 

にやりと笑う。

 

「中庭行くぞ。今日は何でもありだ」

 

「分かってる」

 

「槍でも剣でも蹴りでも投げでも好きにしろ。使えるもん全部使ってみせろよ」

 

「最初からそのつもりだ」

 

それを聞いたクーフーリンが口元を吊り上げる。

 

「お、面白そうじゃねえか。見物してていいか?」

 

「好きにしろ」

 

雄馬が答えるより早く、アキレウスが笑って返した。

 

「どうせ皆来るだろ?」

 

「行きます行きます」

 

沖田がすぐに立ち上がる。

 

「雄馬さんとアキレウスさんの模擬戦、見応えありますからねえ」

 

「では、私たちも」

 

ジャンヌが立ち、アルトリアも続いた。

エミヤは最後に静かに腰を上げる。

 

夕方の中庭は、少し冷え始めた空気を抱えていた。

 

雄馬が中央へ進み、軽く肩を回す。

向かい側では、アキレウスが長槍をくるりと遊ばせていた。

 

その槍こそ、宙駆ける星の穂先――

ディアトレコーン・アステール・ロンケー。

 

星を裂いて駆けるような名を持つ槍は、こうして構えられているだけで場の空気を支配する。

 

「ほう」

 

アルトリアが静かに目を細めた。

 

「アキレウス、本気で迎えるつもりですね」

 

「手を抜く方が失礼だろ?」

 

アキレウスは肩を鳴らしながら笑った。

 

「特に今日は、初日帰りの雄馬だ。頭の中に余計なもんが溜まってる顔してやがる」

 

「見ただけで分かるんですか?」

 

沖田が感心したように言う。

 

「分かるさ」

 

クーフーリンがにやりと笑う。

 

「こいつは戦う前の顔でだいたい分かる。今日は少し噛みたい日ってな」

 

「クー、それ犬みたいだぞ」

 

雄馬が呆れたように言うと、クーフーリンは肩を揺らして笑った。

 

「間違ってねえだろ」

 

エミヤが静かに口を開いた。

 

「無駄口はそこまでにしておけ。始まるぞ」

 

雄馬は両脚へ意識を落とす。

 

魔力を流す。

強化魔術。筋肉、関節、腱。すべての駆動を一段上へ引き上げる。

 

すう、と空気が変わった。

 

ジャンヌが小さく息を呑む。

 

「……きます」

 

「来い!」

 

アキレウスの声と同時、雄馬は地を蹴った。

 

一歩で距離を喰う。

 

強化した脚へ縮地の要領を重ね、視界を引き剥がすように一気に間合いを潰す。

次の瞬間、雄馬の身体はもう宙にあった。

 

そのまま胸元へ、渾身のドロップキック。

 

「あっ」

 

沖田が声を上げる。

 

「初手から飛び蹴りですか!?」

 

「らしいな」

 

クーフーリンが笑う。

 

「遠慮がねえ」

 

だがアキレウスは、それを難なく躱した。

 

「甘――」

 

言い終わる前に、雄馬の身体が空中でひねられる。

 

勢いは死なない。

殺さない。

 

横向きに返った身体がそのままバネとなり、今度はサマーソルト気味の蹴りがアキレウスの側頭部へ走った。

 

「……!」

 

アキレウスの反応が、ほんのわずか遅れる。

 

咄嗟に片腕を上げて受けたが、鈍い衝突音が中庭へ響いた。

 

「今の二段は上手いですね」

 

アルトリアの声が鋭くなる。

 

「最初を見せ技にして、空中で軌道を変えた」

 

「うん、いい蹴りだった」

 

アキレウスも口の端を上げる。

 

「だが――ここからだ!」

 

雄馬は着地と同時に、両手へ像を結ぶ。

 

黒と白。

干将、莫耶。

 

投影された双剣を握り、そのまま踏み込んだ。

 

袈裟。逆袈裟。返し。足払い。刺突。

速度を落とさず、連続で畳み掛ける。

 

それをアキレウスは、ディアトレコーン・アステール・ロンケーを滑らせるだけで捌いていく。

 

長槍とは思えない。

いや、長槍だからこそ、届く。制する。弾く。

 

「うわあ」

 

沖田が目を丸くした。

 

「速いですねえ……」

 

「アキレウスさんはともかく、雄馬さんもかなり踏み込めています」

 

ジャンヌが真剣な眼差しで戦いを追う。

 

エミヤは腕を組んだまま、低く言った。

 

「投影の繋ぎは悪くない。だがまだ正面から通しすぎている」

 

「だな」

 

クーフーリンも頷く。

 

「真っ向勝負であいつの槍捌きを崩すなら、もう一枚汚え手が欲しい」

 

雄馬もそれを感じ取っていた。

 

このままでは届かない。

 

双剣が弾かれた勢いを利用し、一度大きく飛び退く。

呼吸をひとつ。

 

その瞬間。

 

アキレウスが視界から消えた。

 

「っ!」

 

考えるより早く、雄馬は双剣を交差させた。

 

直後、横殴りの衝撃が炸裂する。

 

見えない。

だが、受けた。

 

「やるじゃねえか!」

 

アキレウスの声がすぐ近くで響く。

 

「今のを勘で止めますか」

 

沖田が思わずそう漏らす。

 

「すごいですね、雄馬さん」

 

「いい反応です」

 

ジャンヌの声にも少し熱が混じる。

 

雄馬は歯を食いしばり、その一撃を真正面で受け切らずに下へ流した。

 

押し返すのではなく、逸らす。

軸を外し、力の通り道をずらす。

 

「そこは正解だ」

 

エミヤが小さく言う。

 

「受け潰し合いなら分が悪い」

 

槍の圧を抜いた瞬間、雄馬は逆に跳んだ。

 

懐へではなく、上へ。

 

視界が開き、空が近くなる。

 

その時、雄馬の手にあったのはもう干将莫耶ではなかった。

 

木槍。

 

空中からそれを投げ下ろす。

 

真っ直ぐな軌道を、アキレウスは身を捻って避けた。

だが、次の瞬間にはさらに木剣が飛ぶ。

 

「投げ分けたか」

 

アルトリアが僅かに目を細める。

 

「意識を散らしにいっていますね」

 

「いいぜ」

 

クーフーリンが口元を歪める。

 

「そういう小細工は嫌いじゃねえ」

 

木剣が一瞬だけアキレウスの視線を引く。

 

その刹那。

 

雄馬の手には木刀が握られていた。

 

「――そこだ!」

 

縮地。

 

間合いが消える。

 

居合の構えから、一息で斬り抜く。

 

「……!」

 

しかし、手応えは空を切った。

 

嫌な感覚に振り向くより早く、首筋へ冷たい感触が触れる。

 

穂先。

 

ディアトレコーン・アステール・ロンケーの先端が、雄馬の首元へぴたりと突きつけられていた。

 

アキレウスはすでに背後にいた。

 

「そこまでだな」

 

雄馬は数秒、動きを止めたまま息を吐き、両手を上げる。

 

「……降参」

 

「いやあ、今のは見応えあったなあ」

 

最初に口を開いたのはクーフーリンだった。

 

「最後の縮地は良かったぜ。あと一息で通ってた」

 

「惜しかったです、本当に」

 

ジャンヌも頷く。

 

「木槍、木剣、木刀と段階的に意識を散らして、最後に最短へ入った流れはとても綺麗でした」

 

「はいはい、綺麗でした、で終わらせちゃ駄目です」

 

沖田がぴし、と人差し指を立てる。

 

「最後、ちょっとだけ止まりましたよね? 雄馬さん、あそこで『どの形で斬るか』を選びましたよね?」

 

雄馬が目を瞬かせる。

 

「……分かるのか」

 

「分かりますよ。剣を使う人間ですから」

 

沖田はにこっと笑った。

 

「一瞬だけ、腰が迷いました」

 

「その通りです」

 

アルトリアが静かに続ける。

 

「間合いをゼロにしたところまでは素晴らしい。ですが、そこから“最も当たる形”を探した。あの一瞬が、アキレウスには十分だった」

 

「迷ったな、雄馬」

 

アキレウス自身がそう言って、槍を肩へ担いだ。

 

「初手の蹴りは良かった。二段目のサマーソルトも悪くねえ。双剣からの連撃も、途中まではちゃんと圧になってた。木槍と木剣で目線を散らしてから木刀に繋いだのも、発想はいい」

 

そこまで言って、にやりと笑う。

 

「だが、決めに行く瞬間に少し頭を使った」

 

エミヤが短く補足する。

 

「詰める前に勝ち筋を用意するのと、詰めてから最適解を探すのは別だ。今回は後者になっていた」

 

「……耳が痛いな」

 

「痛い方が覚える」

 

エミヤの返しは淡々としていた。

 

クーフーリンが笑う。

 

「だが、初手で英雄相手にドロップキックかます胆力は大したもんだ」

 

「そこ、やっぱり言うのか」

 

雄馬が半目になると、アキレウスが豪快に笑った。

 

「言うさ! いいじゃねえか、ああいうのは!」

 

「アキレウスさん、ちょっと楽しみすぎでは?」

 

沖田が笑いながら言う。

 

「楽しむだろ、そりゃ」

 

「ですが、本当に良かったですよ」

 

ジャンヌが柔らかく言った。

 

「学校で受けたものを、そのまま抱えたままでも、ちゃんと身体を動かしてぶつけにいけていましたから」

 

「……抱えてるように見えたか」

 

「見えました」

 

アルトリアがきっぱりと言う。

 

「あなた自身は平気な顔をしていましたが、初日で見たものは確実に残っていたのでしょう。一科生と二科生。七草真由美。司波達也。そういったものが、最後の一瞬の迷いに出た」

 

雄馬は少し黙った。

 

否定はできない。

 

学校のことは切り替えたつもりだった。

けれど、完全には落とし切れていなかったのだろう。

 

アキレウスが肩を竦める。

 

「まあ、初日だ。仕方ねえさ」

 

「そうですねえ」

 

沖田も明るく頷く。

 

「むしろ、あれだけ動けたなら上々じゃないですか。私なら初日で知らない学校行ったあと、もっとぼんやりしますよ?」

 

「沖田、それはお前がすぐ昼寝するからだろ」

 

クーフーリンが笑う。

 

「失礼ですねえ、私はちゃんと起きてますよ?」

 

「食う時だけな」

 

「クーフーリンさん、それは偏見です!」

 

そのやり取りに、場の空気が少し和む。

 

雄馬もようやく肩の力を抜いた。

 

するとエミヤが、最後にひとつだけ付け加えた。

 

「もう一点だけ言うなら、今日は武器の切り替えそのものは良かった。投影の速度も、判断の発想も悪くない」

 

「珍しく褒めるな」

 

「必要な時は褒める」

 

エミヤは表情をあまり変えないまま続ける。

 

「だからこそ、最後の迷いが余計に惜しい。そこが抜ければ、もっと面白くなる」

 

アキレウスが大きく頷いた。

 

「そういうことだ。技の選び方じゃねえ、飛び込んだあとの腹の括り方だな」

 

「腹の括り方、か」

 

「おう」

 

アキレウスは槍の石突で地面を軽く叩く。

 

「今日の学校で何を見たかは知らねえ。だが中庭で戦う時まで引きずる必要はねえよ。学校には学校の戦い方がある。ここにはここで、別の戦い方がある」

 

雄馬は首筋を軽くさする。

 

穂先を突きつけられた感触が、まだ少し残っていた。

 

負けた。

だが、得たものもある。

 

「……分かった」

 

そう言うと、アキレウスが満足そうに笑った。

 

「よし。じゃあ、どうする?」

 

「何が」

 

「もう一本やるか、今日は終わるかだ」

 

雄馬は落ちていた木刀を拾い上げる。

 

握り直す。

感触を確かめる。

 

そして、口元を少しだけ上げた。

 

「やるに決まってるだろ」

 

「ははっ、そう来なくちゃな!」

 

アキレウスの目が獰猛に細まる。

 

周囲でも、それぞれ反応が返った。

 

「いいですねえ」

 

沖田が楽しそうに笑う。

 

「次はもっと速くなりそうです」

 

ジャンヌも穏やかに目を細める。

 

「今度は最後まで迷うなよ、雄馬」

 

クーフーリンが挑発気味に言う。

 

「ええ。今の指摘をどう反映するか、見せてもらいましょう」

 

アルトリアの声は静かだが、確かな期待があった。

 

エミヤは短くひとことだけ告げる。

 

「考えるな、とは言わない。だが、斬る瞬間に考えすぎるな」

 

雄馬は頷いた。

 

学校で見たもの。

七草真由美と交わした短いやり取り。

達也たちのこと。

一科生と二科生の空気。

 

そういったものは確かに頭に残っている。

だが、それはそれだ。

 

今ここで必要なのは、次の一手だけ。

 

雄馬は木刀を構え直し、静かに腰を落とした。

 

向かいでは、アキレウスがディアトレコーン・アステール・ロンケーをゆるく構え、獣のように笑っている。

 

夕暮れの中庭に、再び張り詰めた気配が満ちていった。

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