魔法科高校の異端魔術師   作:もやしになりたい

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鎮圧

 講堂の空気は、討論という名にふさわしい熱を帯びていた。

 

 一科生と二科生。

 

 ブルームとウィード。

 

 入学以来、誰もが意識しながらも正面から語ろうとしなかった壁が、今この場に引きずり出されている。

 

 舞台上では、学内差別撤廃同盟を名乗る生徒たちと、生徒会長である七草真由美が向かい合っていた。

 

 同盟側の主張は、単純だった。

 

 一科生と二科生の格差をなくせ。

 

 二科生への差別をやめろ。

 

 待遇を平等にしろ。

 

 言葉だけを拾えば、間違っているとは言い切れない。

 

 実際、この学校には明確な差がある。

 

 指導教員の有無。

 

 周囲の視線。

 

 生徒会規定。

 

 そして、ブルームとウィードという蔑称。

 

 それらは確かに、生徒たちの間に壁を作っていた。

 

 だが、真由美はその壁を否定しなかった。

 

 代わりに、静かに切り込んでいく。

 

「差別意識が存在することは、否定しません」

 

 柔らかな声だった。

 

 しかし、その言葉は決して弱くない。

 

「ブルーム、ウィードという呼び方も、本来は禁止されているにもかかわらず、完全にはなくなっていません。それは、生徒会長として認めなければならない事実です」

 

 講堂が静まり返る。

 

 同盟側の生徒たちは、勝ち誇るように顔を上げた。

 

 だが、真由美の言葉はそこで終わらなかった。

 

「ですが、それは一科生だけの問題ではありません」

 

 空気が変わる。

 

「二科生の中にも、自分たちをウィードとして受け入れてしまっている人がいます。見下されることに怒りながら、その呼び名を自分の中に刻み込んでしまっている人もいます」

 

 雄馬は、講堂の後方寄りの席でその言葉を聞いていた。

 

 隣ではレオが難しい顔で腕を組んでいる。

 

 エリカは退屈そうに見せかけて、視線だけは舞台から外していない。

 

 美月は胸の前で手を握り、真由美の言葉を真剣に受け止めていた。

 

 雄馬もまた、黙って舞台を見ていた。

 

 真由美の言葉は正しい。

 

 おそらく、ここで提示できる答えとしてはかなり誠実なものだ。

 

 ただ、それでも雄馬の中には引っ掛かりがあった。

 

 沙耶香の姿がない。

 

 舞台上にも。

 

 同盟側の席にも。

 

 講堂の客席にも。

 

 彼女は、この騒動の中心に近い場所にいたはずだ。

 

 それなのに、今ここにいない。

 

 その事実が、雄馬の胸に小さな棘のように残っていた。

 

「限られた指導教員を、どう配分するのか」

 

 真由美の声が続く。

 

「全員へ不十分な指導を行うのか。それとも、半数へ十分な指導を行うのか。学校は後者を選択しています。その選択が正しいかどうか、議論の余地はあるでしょう」

 

 同盟側の生徒が何かを言い返そうとした。

 

 だが、言葉にならない。

 

 感情としては反発できる。

 

 しかし、具体的な対案を問われると口が重くなる。

 

 真由美はそこで畳み掛けなかった。

 

 責めるのではなく、示すように言葉を置いていく。

 

「少なくとも、授業内容そのものは一科生と二科生で同じです。課外活動の施設利用や予算配分も、一科か二科かではなく、活動実績と所属人数を基準にしています」

 

 講堂の熱が、少しずつ真由美の方へ傾いていく。

 

 声が大きい方が勝つ場ではなくなっていた。

 

 論点を整理し、現実を認め、できることとできないことを分ける。

 

 そうして真由美は最後に、自分の側の問題へ手を伸ばした。

 

「ただし、生徒会規定については、私にも思うところがあります」

 

 講堂内の視線が集まる。

 

「現行の規定では、生徒会長以外の役員は第一科の生徒から指名することになっています。これは、二科生の能力や人格を正当に見ない制度だと、私は考えています」

 

 同盟側の生徒たちが顔を上げた。

 

「私が生徒会長でいる間に、この規定の撤廃を提案します。それを、私の任期最後の仕事にするつもりです」

 

 静寂。

 

 そして、拍手。

 

 最初はまばらだった。

 

 だが、すぐに講堂全体へ広がっていく。

 

 一科生だけではない。

 

 二科生も、手を叩いていた。

 

 レオも渋い顔をしながら拍手している。

 

 エリカは肩をすくめながらも、きちんと手を叩いていた。

 

 美月は、どこか泣きそうな顔で拍手していた。

 

 雄馬も拍手した。

 

 だが、胸の奥の棘は抜けない。

 

 真由美はこの場を収めた。

 

 それは間違いない。

 

 けれど、この拍手で全てが終わるとは思えなかった。

 

 沙耶香がいない。

 

 その事実だけが、やけに重い。

 

 そして次の瞬間。

 

 轟音が、講堂を震わせた。

 

 拍手が途切れる。

 

 悲鳴が上がる。

 

 窓がびりびりと震え、壁の向こうから破裂音が連続した。

 

 講堂の空気が、一瞬で討論の場から非常事態へ変わる。

 

「来たか」

 

 雄馬は低く呟き、立ち上がった。

 

 舞台周辺では、風紀委員と部活連がすでに動き出していた。

 

 講堂内に潜んでいた同盟関係者を押さえる者。

 

 出入口へ展開する者。

 

 生徒たちを避難させる者。

 

 だが、観客として集まっていた生徒の数が多い。

 

 全員がすぐに状況を理解できるわけではない。

 

 立ち上がろうとして隣の椅子に躓く者。

 

 出口へ殺到しかける者。

 

 その場で震えて動けなくなる者。

 

 小さな混乱が、広がりかけていた。

 

「おい、雄馬!」

 

 レオが勢いよく立ち上がる。

 

 雄馬はその肩を押さえた。

 

「まだ動くな」

 

「何でだよ!」

 

「今飛び出したら、避難する連中の邪魔になる。敵がここへ入ってきてからでいい。今は出口を塞ぐな」

 

 レオは悔しげに歯を食いしばったが、雄馬の目を見て踏み止まった。

 

 エリカが横から声を張る。

 

「ほら、押さない! 走らない! 転んだら余計に危ないでしょ!」

 

 美月も近くで立ち尽くしている生徒に声を掛けている。

 

「大丈夫です。順番に出ましょう。急がなくても大丈夫ですから」

 

 雄馬は一瞬だけそれを確認し、講堂前方へ視線を向けた。

 

 達也と深雪が動いている。

 

 迷いのない足取りだった。

 

 おそらく、図書館方面。

 

 この襲撃の本命が、単に講堂を混乱させることではないと判断したのだろう。

 

 雄馬も、それには同意だった。

 

 ただし、自分が達也たちを追う必要はない。

 

 あちらには達也と深雪がいる。

 

 ならば、自分は別の場所を見るべきだ。

 

 その時、講堂の外、爆発音がした方向とは反対側から、複数の足音が近づいてくるのを感じた。

 

 普通の生徒のものではない。

 

 重い。

 

 速い。

 

 そして、殺気が混じっている。

 

「エリカ、美月。ここ頼む」

 

「雄馬君?」

 

「別口が来る」

 

 それだけ告げて、雄馬は人の流れから外れた。

 

 エリカが何か言いかけた気配があった。

 

 だが、雄馬は振り返らなかった。

 

 今振り返れば、止まる理由を探してしまう。

 

 だから前だけを見る。

 

 講堂脇の通路を抜け、校舎裏へ続く連絡廊下へ出る。

 

 人気はない。

 

 だが、奥から近づいてくる気配は明らかに増えていた。

 

 雄馬が足を止めた直後。

 

 連絡廊下の先にある非常扉が、内側へ弾け飛んだ。

 

 

 ◇

 

 入ってきたのは、二十人ほどの男たちだった。

 

 防毒マスク。

 

 軽量の防刃ベスト。

 

 伸縮式警棒。

 

 スタンパトン。

 

 短銃型CAD。

 

 中には、ナイフを手にしている者もいた。

 

 制服ではない。

 

 生徒ではない。

 

 少なくとも、第一高校の人間ではない。

 

 先頭の男が、通路の中央に立つ雄馬を見て足を止めた。

 

「生徒か。どけ」

 

 低い声だった。

 

 脅し慣れている声。

 

 人を退かせることに慣れている声。

 

 だが、雄馬は半歩も動かなかった。

 

「悪いけど、ここから先は通せない」

 

「ガキが」

 

 男がスタンパトンを振り上げる。

 

 その瞬間、雄馬は踏み込んでいた。

 

 速い、というより近い。

 

 男が反応した時には、すでに間合いが潰れている。

 

 左手で手首を押さえ、右肘を鳩尾へ沈める。

 

「ぐっ……」

 

 息が詰まる。

 

 男の膝が折れた。

 

 雄馬は落ちかけたスタンパトンを奪い、振り返りざまに二人目の膝裏へ叩き込む。

 

 関節が抜ける。

 

 倒れる。

 

 そのまま三人目の顎へ掌底。

 

 意識が飛んだ。

 

 三人。

 

 ここまで、十秒もかかっていない。

 

「囲め!」

 

 後方の男が叫ぶ。

 

 判断は早い。

 

 だが、遅い。

 

 雄馬は下がらなかった。

 

 むしろ、さらに奥へ入る。

 

 人数で押すなら、広さが必要になる。

 

 だが、ここは連絡廊下だ。

 

 同時に雄馬へ届くのは、せいぜい三人。

 

 それ以上は味方の背中と肩が邪魔になる。

 

 雄馬は四人目の手首を掴んだ。

 

 警棒を握った腕を内側へ折り畳み、その肘を隣の男の顔面へぶつける。

 

 骨が軋む音。

 

 呻き。

 

 武器を奪う。

 

 足を払う。

 

 倒れた身体を盾にする。

 

 短銃型CADを構えた男の照準が向く前に、雄馬は床に落ちた警棒を蹴り上げた。

 

 回転した警棒が、CADを持つ男の手首を打つ。

 

 発動しかけた魔法が天井を削った。

 

「なっ――」

 

 驚きの声は最後まで続かなかった。

 

 雄馬の拳が、男の喉元の少し下を正確に打つ。

 

 呼吸だけを奪う打撃。

 

 殺さない。

 

 だが、しばらく立てない。

 

 五人。

 

 六人。

 

 七人。

 

 倒される速度に、男たちの理解が追いつかなくなっていく。

 

「下がれ、距離を取れ!」

 

「馬鹿、押せ! 一人だぞ!」

 

 指示が割れた。

 

 その迷いを、雄馬は見逃さない。

 

 前へ出た男の肩を掴み、半身で引き込む。

 

 その身体を、後ろから突っ込んできた別の男へぶつけた。

 

 二人まとめて崩れる。

 

 雄馬は倒れた身体を踏み台にせず、足の甲で手首だけを押さえた。

 

 逃げようとする手。

 

 武器を拾おうとする指。

 

 それを一つずつ潰すように止め、警棒だけを蹴り飛ばす。

 

 次の男がナイフを抜いた。

 

 雄馬の目が、そこで冷えた。

 

 空気が変わる。

 

 ナイフを向けた男自身が、それに気づいて一瞬止まった。

 

 その一瞬が致命的だった。

 

 雄馬は刃の内側へ入る。

 

 手首を外へ捻る。

 

 肩が軋む。

 

「ぎっ……!」

 

 ナイフが落ちる。

 

 雄馬はそれを蹴り飛ばし、相手の後頭部を壁ではなく自分の掌で受けながら床へ落とした。

 

 殺さない。

 

 だが、容赦もしない。

 

 相手は武器を持ち、人の集まる講堂へ向かっている。

 

 遠慮する理由はなかった。

 

 十人。

 

 十一人。

 

 十二人。

 

 男たちの動きが鈍る。

 

 痛みではない。

 

 恐怖だ。

 

 何をされているのか分からない。

 

 攻撃を仕掛けた者から順に倒れる。

 

 距離を取れば、味方が邪魔になる。

 

 近づけば、武器を奪われる。

 

 逃げようとすれば、足を払われる。

 

 雄馬は叫ばない。

 

 怒鳴らない。

 

 ただ、淡々と前へ進む。

 

 その無言が、余計に男たちを追い詰めた。

 

「化け物かよ……」

 

 誰かが呻いた。

 

 雄馬は、その言葉にも反応しなかった。

 

 化け物。

 

 そう呼ばれるほど、自分は強くない。

 

 本当の怪物を知っている。

 

 音より速く踏み込む槍兵。

 

 剣筋だけで場を支配する騎士王。

 

 速度そのものを武器にする大英雄。

 

 一拍の間に首を落とす剣士。

 

 そして、いつも一歩引いた場所で最適解を選ぶ弓兵。

 

 その背中を知っているから、この程度で止まるわけにはいかない。

 

「まだ来るなら、早くしろ」

 

 雄馬が初めて、はっきりと口を開いた。

 

 低く、冷えた声だった。

 

「こっちも時間がない」

 

 十三人目が突っ込んでくる。

 

 雄馬は相手の肘を叩き、武器を落とさせる。

 

 十四人目が横から蹴りを放つ。

 

 軸足を払う。

 

 十五人目が短銃型CADを構える。

 

 発動前に、倒れた男の身体を滑らせて射線を塞ぐ。

 

 十六人目の警棒を受けず、踏み込んで肩をぶつける。

 

 十七人目は逃げようとした。

 

 雄馬は落ちていたスタンパトンを足先で跳ね上げ、持ち手ではなく柄尻を掴む。

 

 投げた。

 

 回転したそれが、逃げる男の足首を払う。

 

 男が前のめりに倒れた。

 

 十八人目が背後から掴みかかる。

 

 雄馬は振り向かず、肘を後ろへ入れた。

 

 肋骨の間に正確に入る。

 

 相手の力が抜ける。

 

 十九人目は、ナイフを投げた。

 

 雄馬は首を傾けるだけでかわし、次の瞬間には距離を詰めていた。

 

 拳を握る。

 

 しかし、打ち抜かない。

 

 掌底に変え、胸へ押し込むように打つ。

 

 男は壁に叩きつけられ、声もなく崩れ落ちた。

 

 最後の一人は、もう攻撃の意思を失っていた。

 

 短銃型CADを構えたまま、手が震えている。

 

 雄馬は、その男へ歩いていく。

 

「撃つなら撃て」

 

「く、来るな……!」

 

「撃たないなら、置け」

 

 男は答えられなかった。

 

 雄馬は踏み込む。

 

 CADを持つ手首を掴み、指を開かせ、床へ落とす。

 

 そのまま首筋へ手刀を入れた。

 

 男の身体が崩れる。

 

 二十人。

 

 廊下に残ったのは、呻き声と、床に転がる武器の金属音だけだった。

 

 雄馬はゆっくり息を吐いた。

 

 背中に鈍い痺れがある。

 

 どこかでスタンパトンを受けたらしい。

 

 肩も痛む。

 

 指先も少し震えている。

 

 だが、動ける。

 

 全員、生きている。

 

 ただし、すぐには動けない。

 

 それで十分だった。

 

 

 ◇

 

 数十秒後、廊下の向こうから複数の足音が響いた。

 

 今度は生徒のものだった。

 

 風紀委員。

 

 その先頭にいたのは、渡辺摩利だった。

 

 さらにその後ろには、七草真由美の姿も見える。

 

「こっちです!」

 

 風紀委員の一人が叫ぶ。

 

 摩利が角を曲がり、そこで足を止めた。

 

 真由美も、続いて現場を見て言葉を失う。

 

 廊下の端から端まで、外部の襲撃者が倒れていた。

 

 武器は全て弾き飛ばされ、CADは床に転がり、何人かは関節を押さえて呻いている。

 

 その中央で、雄馬だけが立っていた。

 

 肩で息をしているわけではない。

 

 血まみれでもない。

 

 ただ、制服の袖が少し破れ、背中に焦げた跡がある。

 

 異様だった。

 

 倒れている人数に対して、立っている雄馬があまりにも静かすぎた。

 

「……雄馬くん」

 

 摩利が、ようやく声を出した。

 

「これは、君がやったのか?」

 

「はい」

 

 雄馬は短く答えた。

 

 真由美の目が、倒れている男たちを順に追う。

 

「一人で?」

 

「はい」

 

「CADは?」

 

 摩利の声が硬くなる。

 

「使ってません」

 

「魔法も?」

 

「使ってません」

 

 その答えに、周囲の風紀委員が息を呑んだ。

 

 二科生。

 

 一年。

 

 CADなし。

 

 魔法なし。

 

 それで、武装した外部襲撃者二十人を制圧した。

 

 普通に考えれば、あり得ない。

 

 だが、現実に廊下はそうなっていた。

 

 摩利は雄馬を見た。

 

 警戒。

 

 評価。

 

 驚き。

 

 その全てが混ざった目だった。

 

「怪我は?」

 

「少し痺れてます。でも動けます」

 

「保健室へ行け」

 

「まだ敵が残っています」

 

「それは私たちが引き受ける」

 

 摩利の声は、有無を言わせないものだった。

 

「雄馬くん、これは命令だ。保健室へ行け」

 

 雄馬は一瞬だけ黙る。

 

 本当なら、図書館方面へ向かいたい。

 

 達也たちが向かった場所。

 

 事件の本命があるはずの場所。

 

 だが、自分の役割はここだった。

 

 この二十人を講堂へ通さなかった。

 

 それ以上を求めれば、ただの無茶になる。

 

 そして無茶をすれば、きっと家に帰ってからエミヤに低い声で説教される。

 

「……分かりました」

 

 雄馬は頷いた。

 

 真由美が、少しだけ表情を和らげる。

 

「ありがとう、雄馬くん。あなたがここを止めてくれなかったら、講堂側が危なかったわ」

 

「間に合っただけです」

 

「それを間に合わせるのが、すごいことなのよ」

 

 真由美の声は優しかった。

 

 だが、その目にはまだ驚きが残っている。

 

 摩利は風紀委員へ指示を飛ばした。

 

「全員拘束! CADと武器を回収しろ! 意識がある者は魔法を使わせるな!」

 

「はい!」

 

 風紀委員たちが一斉に動く。

 

 雄馬は壁に預けていた鞄を拾おうとして、少しふらついた。

 

「雄馬くん」

 

 摩利が支えるように手を伸ばす。

 

 雄馬はそれを受ける前に、壁に手をついて体勢を整えた。

 

「大丈夫です」

 

「大丈夫そうには見えないな」

 

「歩けます」

 

「そういう問題ではない」

 

 摩利は短く息を吐いた。

 

「君は、自分が何をしたか分かっているのか?」

 

「外部の襲撃者を止めました」

 

「そうだ。だが、それを一年生が一人でやった」

 

 雄馬は答えなかった。

 

 答えようがなかった。

 

 摩利は少しだけ声を落とす。

 

「今後、事情を聞くことになる」

 

「分かりました」

 

「ただし今は保健室だ」

 

「はい」

 

 その時、遠くでまた爆発音が響いた。

 

 図書館の方角。

 

 雄馬は反射的に顔を上げる。

 

 だが、足は動かさなかった。

 

 ここで動けば、今の返事が嘘になる。

 

 それに、あちらには達也がいる。

 

 深雪もいる。

 

「司波」

 

 雄馬は小さく呟いた。

 

「そっちは任せた」

 

 その声は、誰にも届かなかった。

 

 けれど、それでよかった。

 

 雄馬は摩利に促され、保健室へ向かって歩き出した。

 

 背中にはまだ、電撃の痺れが残っている。

 

 肩も痛い。

 

 指も少し震えている。

 

 それでも、足取りは崩さなかった。

 

 講堂へ続く通路は、誰一人として突破させなかった。

 

 そして、真由美と摩利が駆けつけた時には、もう全て終わっていた。

 

 廊下に積み重なった二十人の襲撃者だけが、雄馬がそこにいた証拠だった。

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