なんでも話せるダウナー系の美少女と、「試しに付き合ってみる?」ってなって付き合ってみたら最高のパートナーすぎた 作:オリウス
笹原が薪を積み上げ、火をつける。キャンプ馴れしているのか手際がかなりいい。火が着いたのでその上に鍋を乗せる。隣で飯盒炊飯の窯も添える。
火は勢いよく燃え上り、すぐにいい匂いが漂ってくる。
栞のお腹が鳴った。
「恥ずかしい」
「お前に羞恥心なんてあったのか」
「あるよ。琢磨の前だし」
「他はいいのか」
「他の人は別に気にならない」
栞と付き合い出してから、いろんな顔を見せるようになったなと思う。栞はこういう野外活動にはあまり積極的じゃない。学校の体育でも、大人しくしている。まあそれは運動すると胸が揺れて男子に見られるからと言っていたが。胸の大きい女子は女子でいろいろ苦労しているのだろう。
鍋の周りを俺たちのグループは取り囲みながら、火の様子をうかがう。天貝は栞にべったりくっついており、俺が近づこうとすると威嚇してくる。
「雫も男子に慣れたほうがいいよ」
「私はいいの。男の子とは喋れなくても」
「恋はいいよぉ」
「なんか栞ちゃん顔変わったね」
天貝は呆れたように溜め息を吐く。実際、俺と付き合い出してから栞は少し変わった。学校でも笑うことが増えたし、その笑顔に他の男子たちが心臓を撃ち抜かれているシーンも目撃した。今まであまり笑わなかった栞が、笑顔を見せるようになったのはいいことだと思う。
それでも授業中は相変わらず寝ていることが多いし、その辺は要改善なのだが。
ご飯とカレーが出来上がり、皿によそう。全員にいきわたったところで、俺たちは手を合わせる。
飯盒炊飯で炊いたご飯はかなり熱い。栞は猫舌なので、冷まさないと食べられないだろう。
俺はスプーンにご飯とカレーを乗せると、息を吹きかける。それを栞の口元に持っていく。
「あーん」
そう言って栞は俺のスプーンにぱくついた。ゆっくりと咀嚼し、「美味しい」と呟く。
「いちゃつくなよなお前ら」
篠田が眉を吊り上げ、呆れたような声を出す。
「それにしてもびっくりしたよ。君たちは付き合わないのかと思ってたから」
笹原が不思議そうにそう言う。
「君たちが仲がいいのは知ってたけど、友達のままでいるのかと思ったから」
「まあ俺もそのつもりだったんだけどな。でも気付いちまったんだよ。栞のことが好きだって」
「私も。琢磨以外に好きになれる人いないなって思った」
「惚気るなぁ」
笹原は苦笑する。確かに俺たちは惚気ているのかもしれない。だが、二人のことを話そうと思ったらどう足掻いても惚気る結果になる気がする。
「まあ恋愛がいいなって思ったのはある」
「栞がそんなこと言うなんて珍しいな」
「中学の時、クラス公認のカップルいたでしょ」
「いたな」
「あの二人、別れちゃったんだって」
栞が淡々と呟く。そうか、別れたのか。
「中学の時あれだけ眩しかった二人が破局したのがちょっとショックだった」
「その気持ちはなんとなくわかるな」
「だから確かめたくなったの。私と琢磨なら、上手くいくんじゃないかって」
確かに俺は栞と友達としてうまくやってきた。喧嘩もしたことがないし、馬鹿な話だってできる。何でも話せる相手だ。だからこそ俺は栞を女として見ていなかったのかもしれない。だが、それは俺の勘違いだった。俺はちゃんと栞のことを女として見ていたのだ。栞の体に興奮したことも一度や二度じゃない。
「恋は冒険だよ」
栞はそう言うと人差し指を立てる。
「いつも綱渡りしてる感じだもん」
「確かにな。付き合ってからお前の見方が変わったしな」
「どう変わったの?」
「そりゃ、彼女として意識するようになったっていうか」
「ん。私も琢磨のこと彼氏として意識するようになった」
一番大きく変わったのはお互いの意識だろう。これまで口にしてきたことも言わなくなってきた。それこそ、昔なら互いのオナニーのことを口走ったりしていたぐらいだ。それが付き合い出してからそういう話を互いにしなくなった。
「まあ二人が幸せならなによりだよ」
笹原が笑顔で頷く。篠田は涙目になりながらカレーを頬張っていた。
「雫も恋したら変わるよ」
「私は恋なんて無理。まず男の子が無理」
天貝は身震いすると、お茶を飲んだ。
「ていうかお前らどっちから告ったんだよ」
「私だね」
「意外だな。こういうのは男からだと思ったが」
「俺は自覚してなかったからな」
栞とお試しで付き合っていなかったら俺は自分の気持ちに一勝気付かなかったのかもしれない。
「どうせ肝試しも二人で行くんだろ」
「そのつもりだが」
「肝試しって男の子と組まなきゃいけないの?」
天貝が涙目になりながら問いかける。
「そういう決まりだな」
「そんなぁ……」
男子が苦手な天貝にとっては苦行だろうな。俺は栞と非日常を経験できるのが今から楽しみで仕方がないが。
栞はカレーを残さず食べると、手を合わせる。
「ごちそうさま。私でも食べられる辛さだった」
甘口しか食べられない栞にとっては死活問題だったのだろうが、幸いカレーは甘口だった。
ご飯を食べ終えた俺たちは作業分担して洗い物や後かたづけにうつる。