なんでも話せるダウナー系の美少女と、「試しに付き合ってみる?」ってなって付き合ってみたら最高のパートナーすぎた 作:オリウス
栞の顔がすぐそばにある。俺の心臓の音が高鳴っていく。
俺の手は栞の肩に触れている。その手に力がこもった。
「ただいま。栞ちゃん来てるの?」
玄関の方で声がして、母親が帰ってきたことが伝わる。
「残念」
栞が俺の上から退く。
階段が上がってくる音が聞こえ、ドアが開く。
「栞ちゃんいらっしゃい」
「お邪魔してます」
「私、お邪魔よね。飲み物持ってくるわね」
そう言って母さんは部屋から出ていく。栞がにやりと笑う。
「惜しかったなぁ。おばさんが帰ってこなかったらいけそうだった」
「…………」
あのまま母さんが帰ってこなかったら、俺は栞を押し倒していた? いやいや。あれほど頭では否定していたのに。
俺は何をしようとしていた? 栞とやろうとしたのか。俺が?
内心の動揺を見透かしたように、栞が顔を覗き込んでくる。
「琢磨、顔真っ赤」
栞に指摘され、俺は顔を背ける。顔が熱い。こんな感情、初めてだ。いったい俺はどうなってしまったのだろうか。
「はい、お待たせ」
母親が戻ってきて、飲み物を置ていく。母親の顔がにやにやしている。
母親が出て行ったあと、栞が小さく呟く。
「ごめんね」
「え?」
突然の謝罪に俺は困惑する。
「琢磨は嫌がってたのに、無理やり体の関係迫ったりして」
「それは……」
「でも、私は琢磨とそういう関係になりたいの」
「栞……」
「それだけは知っておいて」
栞の真剣な表情に俺は戸惑う。胸がうるさい。心臓の鼓動が激しく昂っており、動揺が収まらない。
「栞」
俺は栞を抱き寄せる。
「俺の胸の音聞いて」
栞は頷くと、そっと俺の胸に耳を当てる。
「すっごく鼓動が速い」
「どうやら俺もお前の事が好きみたいだ」
「ん。嬉しい」
栞ははにかむと、心地よさそうに耳を胸に当てる。
「琢磨の気持ちがずっとわからなかった。私のこと、本当に友達としてしか見てないのかなって思ってた」
「俺もそう思ってたんだけどな」
「今、自覚したの?」
「そうだな。お前に押し倒されてキスされて、すっごく胸が苦しくなった」
栞を抱き寄せているのが心地よい。だが、正直言って寸止めを喰らったので欲望が首をもたげてくる。
「苦しそうだね」
「わかるか?」
「ん。目線がエッチだもん」
俺の目線は栞の胸に吸い寄せられていた。栞は嫌がる素振りは見せず、俺の耳元で囁く。
「今日は、私で抜いてね?」
「っ⁉」
破壊力が凄まじい。俺はいつかこいつにキュン死にさせられるのではないか。
「じゃあ、正式に付き合うってことでいい?」
栞が眠たげな眼を向けてくる。
「そうだな。よろしく頼む」
「ん。よろしく」
お試しで付き合い始めた俺たちだが、想像よりも早く、互いに好意を抱いていることが発覚した。今は栞のことを抱きたくてしょうがない。だが、そんな欲望をぶつけるだけみたいな関係にはなりたくない。あくまでセックスはコミュニケーションだ。愛情確認ともいえる。だが、栞が誘惑して来たら、次は耐えらえる気がしない。俺自身、栞のことが好きだと自覚した今、好きな子に誘惑される辛さは同じ男ならわかるだろう。
「次は私の家に来て。私の家なら邪魔は入らないから」
「考えておくよ」
俺は苦笑しながら栞の頭を撫でる。綺麗な髪だ。だが、いつも授業中寝ている栞の髪は寝ぐせがついている。俺は髪を梳きながら栞の目を見つめる。
「琢磨の手、気持ちいい」
「栞の髪こそ気持ちいいぞ」
「琢磨の好きにしていいからね。私、琢磨にならなにされても喜んじゃう」
「お前、その発言はいろいろとやばいだろ」
「どんな性癖にも答える彼女、嫌い?」
「嫌いな男なんているわけないだろ」
そんな従順な彼女、男の最高の夢だろうが!
だが、栞の意思はそれでいいのだろうか。栞だって俺とやりたいことがあるはずだ。それを俺は言ってほしいと思う。
「栞もやりたいことあったら言えよ」
「ん。それは要求する」
「ならいいが」
栞は自分の意見を飲み込むところがある。特に俺の前だと俺に合わせる傾向がある。
「栞も俺にあんなにドキドキしてるのか」
「してるよ?」
「あんまそんな風には見えないんだよな」
「私、顔に出にくいから」
栞はそう言うと、俺の頭を抱き寄せる。頬に柔らかな感触が伝わる。
――ドクドクドクドク……
激しい鼓動が俺に耳朶を打つ。俺の鼓動の速さと同等かそれ以上ぐらいの鼓動の速さだった。
「伝わった?」
「伝わった」
栞は頷くと、俺の頭を解放する。
そうか。栞も俺にドキドキしてるのか。顔に出にくいからわかりにくいけど、ちゃんと俺の事意識してくれているんだな。
それを実感すると、すごく幸せな気持ちになってくる。
「栞が恋愛に沼るって言ってたの、ちょっとわかるかも」
「だよね。周りが何にも見えない」
栞の言うように、周りが全く視界に入らない。栞に夢中になっている俺がいる。案外、栞と付き合うのは運命だったのかもしれない。そんなロマンティックな思考に支配されている。
栞の顔を見るだけでドキドキする。栞も同じだと思うと嬉しい。正式に付き合うことになったから、これからは栞を大事にしていきたいと強く思った。