「ゴプリンか?」 黄金の「ゴプリン」消失事件 ―初犯編― 作:Darth Tail
「……尋問を開始する。これは、兵站管理上の重大な背信行為だ。……まず、槍使い、重戦士、女騎士、貴公らからだ」
ゴブリンスレイヤーの声は、食堂の喧騒を強制的に冷却する冷気を孕んでいた。彼は手に持った松明を低く掲げ、床の石材を舐めるように照らし出す。
槍使いは、朝酒の入ったジョッキを乱暴に机に置き、不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「はぁ? 俺かよ。言っただろ、興味ねえって。そんなプルプルした得体の知れないもんに、俺が手を出すと思うか?」
重戦士は、持っていた朝食のパンを皿に置いた。
「俺か。見ての通り、俺が動けば床が鳴り、鎧が鳴る。隠密なんて芸当は、俺のこの身体には向いていない」
ゴブリンスレイヤーは、槍使いや重戦士、その背後に控える女騎士を一瞥する。
「貴公らの甲冑、および体格では、この壁と冷却箱の間の十五センチの死角に入り込み、頂点の一基のみを垂直に抜き出すことは不可能だ。貴公らの質量ゆえに床の埃が舞い、冷却箱の設置位置は数ミリ単位でズレる。……全員、除外だ」
「身の潔白が証明されたってんなら文句はねえ。せいぜい、その『ごプリン』とかいうのを盗んだマヌケを吊るし上げるんだな」
槍使いは吐き捨てるように言い、再び酒に口をつけた。
「助かったぜ、あんたの追及から逃れられるならな。」
重戦士は豪快に笑い、女騎士と共に朝食のパンを千切った。
ゴブリンスレイヤーは、一切の情動を排除したまま、次に
「……鉱人道士。貴公の指だ」
「わしを疑うか、小鬼殺し。わしが甘いものを食うくらいなら、その横の火酒をもう一本空けとるわい」
「……貴公の指先には、常に火酒の揮発成分、および触媒となる鉱石の粉末が染み付いている。鉱人道士の代謝と、その執拗なまでの
「……もし、貴公のその指が、あの純白の硬化樹脂容器に触れれば、容器の表面に特有の化学反応による白化、あるいは、酒に含まれる揮発成分の移り香が生じる。……今朝、俺が現場に残された四基、および設置面を嗅覚と視覚で走査したが、それらの残留物質は一切検出されなかった。……貴公も除外だ」
「へっ、わしを疑うなら酒瓶の中身が減った時だけにしな。もっとも、その時は犯人を捜すまでもなく、わしが酔い潰れておるだろうがな!」
鉱人道士の笑い声が食堂に響くが、ゴブリンスレイヤーは笑わない。彼は既に最後の一人、耳をぴくぴくと動かしながら自分を見つめる妖精弓手へ、冷徹な矛先を向けていた。
「……妖精弓手。貴公は昨夜、何を食べた」
「何よ、藪から棒に! 私は自室で、保存用の『木の実入り干し果実』を食べてたわよ。エルフの口に合うように、エルヴンの森で加工された、それはそれは栄養価の高いやつなんだから!」
「……加工された糖分か」
「勘違いしないで! それは自然の甘みよ。……エルフの鼻にとって、あんな魔法の箱から出てくる人工的で、甘ったるい匂いは、不快な汚染以外の何物でもないわ。」
「近くに寄るだけで、あんたの兜の使い古した革の匂いと同じくらい、頭が痛くなるのよ!」
「……そうか。エルフの特異な嗅覚、および、精製された糖分への激しい
「……ふん、当然よ。あんたに疑われるなんて、千年早いわ!」
妖精弓手は鼻を鳴らし、手に持った蒸しパンを乱暴に頬張った。
ゴブリンスレイヤーは、彼女の言葉を額面通りに受け取ったわけではなかった。彼はただ、彼女の主張する「匂いへの拒絶」が、現場の状況――すなわち『不自然なほどの無臭状態』と矛盾していないかを、脳内の戦略図と照らし合わせていただけだった。
(……残るは、四つ。
ゴブリンスレイヤーは、食堂の喧騒から一歩退き、影の中に佇むその三人を見据えた。
窓の外では、依然として雨が激しく石畳を叩いている。その規則的な音だけが、彼の思考を加速させる唯一のBGMであった。
「……さて」
ゴブリンスレイヤーは、松明の火をじっと見つめ、その揺らめきの中に、次なる「包囲網」の形を描き出していた。