「ゴプリンか?」 黄金の「ゴプリン」消失事件 ―初犯編― 作:Darth Tail
辺境の街を黄金色の夕刻が包み込む頃。
ゴブリンスレイヤーは、ギルドの
夕焼けが、牧草地を黄金色に染めている。その色は、彼が今日、
「おかえりなさい、遅かったわね。また大変な依頼だったの?」
牛飼娘が、空のミルク桶を抱えて歩み寄ってきた。彼女の髪は、夕陽を受けて柔らかく輝いている。
彼女は、ゴブリンスレイヤーの無機質な鉄兜を見て、ふっと微笑んだ。
「ねえ、昨日のプリン、みんなで食べた? 味が薄くなかったか心配で。隠し味に蜂蜜を少し多めに入れてみたんだけど。喜んでくれた?」
「……供給源は、貴公だったのか」
「ええ? 知らなかったの? 私が、余った材料をこっそり入れてるのよ。あなたが管理してるから、口を出しちゃ悪いと思って。」
牛飼娘は、可笑しそうに笑った。
「
「『夜に少しだけ楽しみます。』なんて言って。……あなたに内緒にしておいてって、あの子に強く頼まれてたんだけど。……バレちゃった? 叱ったの?」
ゴブリンスレイヤーは、一瞬だけ、沈黙した。
鉄兜の奥で、彼の「論理」が、一瞬だけスパークした。
(……地母神の奇跡を、私的な口封じに流用。……
(もしこれが実戦であれば、敵の破壊工作を見逃す致命的な隙となっていたはずだ。防衛線の崩壊を招た。……敵は身内ではない。……俺自身の管理不足だ)
「……更なる訓練が必要だ」
「あら。また女神官ちゃんをいじめてるの?」
牛飼娘は、彼の肩を軽く叩いた。
「たまには、あなたも一緒に食べればいいのに。美味しいものを食べると、少しは肩の力が抜けるわよ。」
「……そうか、そうだな」
彼はそう答えると、明日への準備のために、自室の地下室へと降りていった。
彼の脳内には、既に次の「秩序」が構築されていた。
プリンは五個。
それが、彼が守るべき世界の、最小単位の平和であった。
たとえその平和が、一人の少女の涙と、一人の幼馴染の献身によって支えられていたとしても。彼はその「秩序」を、冷酷なまでに愛し、守り続ける。
「……次は、十個……いや。『十基重畳(デカ・スタック)』の検証が必要だ。……供給速度を上げる必要がある。……」
「小鬼(ゴブリン)が現れる前に。……防衛力を二倍にする。……そのためには、更なる原材料の確保が不可欠だ」
地下室の暗闇で、彼の瞳の赤光が、静かに、そして執拗に輝いた。彼の戦いは、まだ終わらない。一個のプリンを巡る規律が、世界の終わりを食い止める唯一の鎖であると、彼は信じて疑わなかった。
(完)