魔法少女の幼馴染(♂)、悪の魔法少女に改造されてしまう 作:偽りの名つむぎん
「喧騒の裏側で戦う悪の魔奏者……。これは伏線になるパターンだよ。後々、僕がやってきたことがバレるところまでが一連の流れだ」
『何を言っとるんじゃお主は』
僕は魔族を撲殺しながらそう呟く。僕が戦うのは路地裏や人目のつきにくい雑居ビルの屋上がメインだ。
魔族はゲートというのを使ってこの世界にやってくる。基本的には大通りとかの人が多いところとかに出てくるのだが。
『しかし、大通りに目立つゲートを作って、目立たない場所に小規模なゲートを作るとは。魔族も小賢しくなったものよのぅ』
「僕が殺されたのもそれが原因だしね。こういうのは叩き潰すに限るよ」
僕の時も同じだ。街中の方にゲートを作って、アカネを誘導。人気のない道を歩いていた僕を急襲して殺してきた。
そう言った悲劇を抑え込み、卑弥呼の目論見を阻止するために僕はあえてこう言った小さなゲートを処理している。
表通りのゲートには魔奏者達が……。
「きゃああああ!!!」
「た、助けてくれええ!!」
「魔奏者は……!? 魔奏者はいないのか!?」
あっれぇ〜〜〜!? 大通りに魔奏者いない!? ナンデ!?
『いやおらんわけじゃなさそうじゃ。気配は感じる』
「どういうことなんだ? ちょっと見てみるか」
僕はビルの屋上から大通りの方を確認する。
大通りには巨大なトカゲのような魔族が周囲を破壊しながら人々に向かって歩いていた。
逃げる人々。一人だけ、魔族と向き合っている女の子がいる。
僕はつい、名前を呼んでしまう。
「……アカネっ!? なんであんなところに」
『逃げ遅れた子供達を庇おうとしておるのか。それにしても何故、魔奏者にならんのじゃ? あいつは?』
アカネは魔奏具を持ってはいるが、起動させようとしない。何故だ? 何があったんだ?
ここで助けるというのも選択肢の一つだ。……いや。
「ここは傍観だ。どうしてもやばくなったら、僕が出る」
『幼馴染なんじゃろ? 心配ではないのか?』
「心配だよ。けれどあれは俗にいう主人公への試練と見た。僕が手を出すのではなくて、アカネが自力で窮地を脱する。そう言ったドラマチックな展開に手を出すのは無粋というやつだ」
『お主、本当にそればっかじゃな……。ここまで来るといっそ清々しいぞ』
「ふふっ。そう褒めるな。本当にやばくなったらこっそりと助けるさ」
アカネに変身できない事情があるかもしれないが、アカネならその危機を乗り越えるはず。
だから今は腕組みをしながらアカネのことを見守ろう。後方腕組み師匠ならぬ、後方腕組み悪の魔法少女という奴だ。
『さて、どうなるかのぅ……?』
***
「変身できない……? どうして?」
ある日から魔奏具を手にしても何も反応しなくなった。
卑弥呼の大人達に検査をしてもらったけど、私の身体や魔力に異変が起きたわけじゃない。
けれど私……竜胆アカネはあの日以来、魔奏者としての力を失ってしまった。
「私は戦えなきゃ意味ないのに……」
それから数日、なんとなく学校をサボった。アオイが死んだ時とは違って理由はない。
寝て起きて、ご飯食べて、スマホを見て、目が疲れたら寝る。パジャマから着替えることなく、髪をセットすることもない。
ただ自堕落な生活を送っていた。沢山のメッセージが届いたけど返すのが億劫でそれもしていない。
一日、二日、三日と経過して、魔奏具を取り出してもうんともすんとも言わない。
「私には魔奏者としての資格がないってこと……?」
あの日、滅魔奏者を名乗る少女と出会った日。あの少女にアオイの姿を重ねてみてしまった。
あれから自己嫌悪に苛まれている。アオイがそんなことをするはずがない。アオイが誰かを傷つけるような真似をするはずがない。
だから変身できなくなった。自分が一番に信じなくちゃいけないものを信じられなかったから。
「なにやってんだろ、わたし」
このままベッドにいたら自己嫌悪で押しつぶされちゃいそう。そんな風に思ったから家から出て街を歩くことにした。
曜日感覚を失っていたせいで分からなかったけど、今日は土曜日らしい。街に出れば人が沢山いて賑わっている。
その喧騒が少しだけ気を楽にしてくれた。けれど、そんな日だからこそ、魔族は現れる。
『グギャアアアア!!!』
「た、助けてくれえ!!」
「魔族が、魔族が現れた!!」
「誰か魔奏者を呼んでくれ!!!」
大通りに現れた魔族。巨大な図体で、軽く旅客機並みの大きさを誇る。
それからみんなは背を向けて逃げている。
私は逃げていく人々の中で見つけてしまった。
「ママ……どこぉ?」
孤立した女の子。小さな女の子を目の当たりにした時、私は駆け出していた。
なんで? 力を使えないのに? 力があったとしても私は誰も救えなかったのに?
「違う……!」
私は女の子の前に立って、魔族と相対する。
巨大だ。いつもならなんとも思わないのに、魔奏者に変身できない今だといつもの何倍以上に感じられる。
「おねえちゃん……?」
「大丈夫だよ。私に任せて、君は私が助けるから」
ジャージのポケットから魔奏具を取り出す。けれどうんともすんとも言わない。
「どうして!? 今、ここで変身できなきゃ意味がないのに!!」
私に何が足りないの?
私は魔奏者に相応しくないの?
「君は魔奏者の力を失ったわけじゃない。戦う目的を見失っているだけさ」
不意に時が止まる。世界が灰色になって、私だけが動ける状態だ。
魔奏!? なんで、こんな時に? 誰が?
「君達は運命を巡る大きな戦いに巻き込まれたんだ。太古より封印されてきた魔王の魂。その魂が解き放たれた時、新たな戦いが始まる」
私の目の前に少女が現れる。白髪で青い瞳をした少女だ。魔奏者のような黒色のドレスを着用している。
どことなくアオイの昔の姿に似ている感じがした。そういや悪ふざけで私の服を着せたこととかあったけ。
「魔王の力は史上最強。このままだと多くの人が傷ついちゃうよ。それでもいいのかい?」
「私は……」
私はなんのために戦うのか。アオイを失い、アオイにそっくりな滅魔奏者が現れた。彼女と出会った時に、私は戦う力を失った。
私の中で覚悟が揺らいだからだ。この子の言う通り、私は戦う目的を見失っている。私は胸に手を当てて、戦う目的を探し出す。
『アカネは凄い力を持っているじゃないか。アカネの力は、みんなを笑顔にするものだ。だからその力でみんなを明るくしてね』
アオイの言葉を思い出す。そうだ。私の戦う目的は……!
「私はみんなを笑顔にしたい! みんなの希望を灯したい! この魔奏者はそのための力だ!」
「ふふっ。いいね。きっとあそこにいる彼女も満足しているだろう」
指さされた先。ビルの屋上に、あの日出会った滅魔奏者がいた。あの子は一体……。
時が進みだす。灰色の世界に色が戻って、目の前の魔族が動き出す。いつの間にか少女は消えていた。あの子は一体なんだったの……? いや、それよりも!
「応えて……私の魔奏具!」
魔奏具が光り出す。私の象徴であるルビーの宝石に輝きが戻った。
「これなら!
大きなルビーの宝石が私の前に現れる。こんな風に変身したのは初めて以来だ。きっと、アオイなら特撮とかアニメの1話目みたいってはしゃぐんだろう。
ルビーの宝石が私を包んで、私はいつものドレスを纏う。そしてルビーが大剣に変化する。
「みんなの希望は私が灯すよ!
変身……できた!!
「おねえちゃん! おねえちゃんはまそうしゃだったんだね!」
「うん。だから安心していいよ。君も、みんなも私が助けるから!」
炎の大剣を構えて魔族に立ち向かう。炎の斬撃が魔族を斬り飛ばす。
『グギャア!?』
「久しぶりに必殺技っていうの見せてあげる!」
私は大剣に装着された魔奏具のボタンを押す。魔奏具から魔法陣が浮かびあがる。
「
炎の斬撃を十字に放つ。斬撃が当たった魔族の身体がルビーに変化して砕け散る。それは宝石の雨のように地上へと降り注ぐ。
「あの子は……!?」
私は視線をビルの屋上へと向ける。ビルの屋上にいた滅魔奏者の口元が見えた。その口元はどこか笑っているようだ。その直後、滅魔奏者は黒い物体に覆われて姿を消してしまう。
きっと、あの子とはまた出会うことになるだろう。その時に、アオイのことについて何か知れるはずだ。
「待ってて。いつか君のところにも行ってみせるから」
けれど先ずはみんなを助けることができたことに安堵するとしよう。
***
『しかし魔奏者というのも色々おるものじゃのぅ』
「時間の止める魔奏者もいるもんだね。中々トリッキーな力を使うね」
世界が灰色になった時はちょっと焦った。まさか時間を止める魔奏者がいるなんて思ってもいなかったからだ。
しかし、あの時間を止める演出といい、アカネの変身といい。
「あれって完全に一話目だよなあ。もしかして、ここまでが序章か一話ってマジ?」
悪の魔法少女って中盤くらいに登場するイメージだったけど、これは序盤から登場するパターンか。ということはあれか?
「これは魔法少女VS悪の魔法少女がコンセプトの世界観か、アニメ2期、いや2クール目ということもありえるか」
『お主はまた何を言っておるんじゃ……』
いや、これは悪の魔法少女ムーブをするうえで大切なことなんだよ?