魔法少女の幼馴染(♂)、悪の魔法少女に改造されてしまう 作:偽りの名つむぎん
「僕は知っているよ。アオバがどれだけクールに振舞っていても、裏でいっぱい努力していること」
私にとってその言葉は戦う理由であり、私を形成する上で大切な言葉。
留学していた時、彼の言葉、彼の笑顔を想いながら厳しい訓練と戦いに耐えていた。帰国した時、彼はなんて言うんだろうって、密かに微笑みながら。
「何がともあれ終わったわね。卑弥呼に要請をしたわ。後処理は卑弥呼に任せて、私達は帰るわよ」
「やっぱり……あの子は」
「ちょっと!? 聞いているのかしら?」
私の親戚、竜胆アカネ。竜胆家は代々卑弥呼に仕える家系だ。同時に私達は巫女でもある。つまるところ実家が神社なのだ。
アカネは正直、天性の才に恵まれている。魔奏者にならずとも人間離れした身体能力、獣のような直感。私に持ちえないものを持っている。
その代わりなのか、ちょっと抜けているというか、時折ボーっとしているというか。頼りない一面を見せたりする。
「ご、ごめん。ちょっと考え事に夢中で」
「珍しいじゃんアカネが考え事に夢中になるなんてさ」
「いや~~、二人がいない間にも色々ありまして」
アハハと笑うアカネ。その笑みがいつもとは違うのを感じた。
……無理をしている? 何か事情があるかのような笑みだ。けれど、それを追及したところで本人は何も答えてくれないだろう。
「そうだ! 二人とも帰ってきたしさ! 一緒にカフェでも行こうよ!」
「お、いいですな~~。アオバも来るやんね?」
「仕方ないから付き合ってあげるわ」
とアカネとヒスイに連れられてカフェへと向かう。
……そういえば、帰国してから彼の姿を見ていない。いつも彼はアカネの傍にいたというのに。
いやいや、あれだけの戦いの後だ。きっと避難していて、そのまま家に帰ったとかそういうのだ。
明日、学校に行けば会えるはず。密かに彼と出会うことを楽しみにしていたんだ。なんて反応してくれるか、今から楽しみだ。
「あ! アオバが笑っている! ねえねえアカネ見た? 珍しくない?」
「本当だ。アオバも笑うんだね。何かいいことでもあった?」
「人が微笑んだくらいで大袈裟ね。私をなんだと思っているのかしら?」
本当、私ってなんでこんなデリカシーの欠片もない人達と組まされているのかしら?
***
「留学から帰ってきた竜胆アオバです。これからよろしくお願いします」
翌日、私はアカネ達が通う学校に帰ってきた。
私はアカネと同じクラス。ヒスイは隣のクラスだ。ヒスイはクラスメイトと再会できることを楽しみにしていた。
一方で、私も楽しみにしていたことがある。
アカネと同じクラスには彼がいる。そう、ずっと会いたかった彼が。けれど。
「あれ……?」
つい言葉を失った。彼はアカネの隣の席だったはずだ。なのに、その隣の席には別人が座っている。
教室を見渡しても彼の姿がない。空席も私の分しかない。
だというのにアカネも、クラスメイトも、それが自然かのように日常を過ごしている。それが私には受け入れ難いものだ。
「アカネ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「うん、そうだよね。そう言われると思ってた。放課後、ちょっとだけ時間をちょうだい」
アカネの悲しみを押し殺したかのような表情。一体、アカネは何をしっているというの?
その問いの答えが帰ってくるのは、放課後になってからだ。
その日の授業は身が入らず、ただボーっとして過ごしていた。気がつけば放課後になっていて、私はアカネとヒスイと共にいつもとは違う帰り道を歩いている。
「着いたよ。言葉で説明するよりも、見てもらった方が早いと思って」
「なんで? 彼のことを説明するのに、どうしてこんなところに来ないといけないの?」
アカネに連れられて着いた場所は霊園だった。なんで? いや、そんなはずはない。
私が留学にいく半年前までは元気だったじゃない。そんな急に亡くなるなんてありえない。
「そうだよね。そう思うよね。けれど、ここにあるものが全てなんだ」
私はそれを見た時、思考が止まった。目の前の現実を受け入れるのを拒否した。こんなの絶対におかしい。何かの間違いだ。
「アカネ。アオイの姿が見えなかったのって、もしかしてそういうこと?」
「うん。二人に話すかは悩んでいたんだ。けれど、隠し通せるものでもないから」
「そっか。何があったか聞かせて――」
ヒスイの言葉を遮って、私はアカネに飛びかかっていた。アカネの胸倉を掴んで、地面へと押し倒す。
「どういうこと!? どうして!? あなたがいながら、なんで、なんで白銀君が死んでいるのよ!?」
そこにあったのは白銀家之墓と書かれた墓石だった。墓石には白銀アオイの名前も刻まれている。
許せない、許せない、認めたくない。
なんで、この子は最愛の幼馴染を亡くして、平然といられたのか理解できない。今すぐにでも私は……!
「アオバやめなよ! アカネを責めたところで何も起きないじゃん!!」
「黙れ!! 私はそんなことが聞きたいんじゃない!! 現代最強と呼ばれている貴女がいて、どうして、人一人守ることすらできなかったのか!! それを聞かなくちゃならないのよ!!」
私がこえだけ声を荒げて、怒りを表情に表しても、アカネの表情はピクリとも動かない。覚悟が決まった目で、私を射抜くだけだ。
「答えなさい。一体誰が!? どうして!? 一体何が彼を殺したというのよ!!」
「私だよ」
「…………は?」
即答された答えに私の思考はフリーズした。
私? 私って誰? 私ってアカネ? アカネがアオイを? そんなはずは。
「私がアオイを殺したんだ。嘘も否定もない」
「アカネエエエエ!!!!」
私が拳を振り上げる。アカネを殴る直前に、ヒスイに止められてしまう。
「放しなさいヒスイ!! 私はこいつを許せない!!」
「落ち着けって言ってんじゃん!! こんなところで私達が争ったところで何も起きないよ!!」
「はあ!? 落ち着ける訳ないでしょ!? 私はあんたらのような冷血とは違うのよ!!!」
「ナマ言うのも大概にしなよアオバ。これ以上は本気でやらなくちゃいけなくなるじゃん」
「やってみなさいよヒスイ。私の邪魔をしないで」
私は手首に巻いている魔奏具に手をかける。ヒスイも同じく、魔奏具に手をかけた。
「二人ともやめて。そんなことアオイが望まないよ」
私達よりも早く、アカネは魔奏具を構えていた。このままでは先にアカネが変身して、私達は軽々と制圧される。
「私は決めた。アオイがいなくても未来に向かって歩き続けるって。魔奏者として戦い続けるって」
「随分ないいようね。人殺しの分際で。あなたがどんなご高説垂れ流そうとも、あなたの罪が消えるわけじゃないのよ!」
「アオバ、マジで言い過ぎ。考えたくないけど、こういうことは起きちゃうよ。二人の間にどんなことが起きたのか分からないけど」
こういうこと……?
こういうことって……ナニ?
コウイウコトッテ、ナニ?
「私のことを恨んでもいいよ。憎んでもいい。魔奏者としての責務を果たせるなら、私はどんな言葉だって受け入れるよ」
ナニヲ……なんで?
なんであんたは今にも泣きそうな顔で、そんな強いことが言えるの? 私はあんたをそういう風に思いたいわけじゃ。
「魔族に隙を突かれないでね。滅魔奏者との戦いも始まったんだ。気は引き締めてね」
「なんで……どうしてあんたはそんな平気な顔で」
「平気なわけないよ。けれど、悲しむことも、涙を流すことも、全部やり終えたから。アオバやヒスイがそれを終えるまで、私が全部倒すから」
そういってアカネが去っていく。
私はその後ろ姿を何も言えないまま、見つめることしかできなかった。