「池達のテスト対策は想像より順調だな」
放課後の教室で日に照らされた堀北を見ながら喋りかける。
堀北の雰囲気は入学当初のそれと違い、少なからず柔らかくなった。
「月宮さんのおかげね。あのガイドブックと用意してくれたプリントが無かったら、そう上手くいかなかった。そして綾小路くんのおかげでもあるわ。あなたが居なかったら手が足りなかったもの」
あまりの変わりように驚いて返事も出ない。ここまで変わるなんて入学当初のオレに言ったって絶対に信じないだろうな。
人というのはこんなにも早く変われるのか...初めて知った
また一つ彼処に留まっていれば知れなかったであろう事を知りこの選択をして良かったと思う。
そして知って良かった事の一つにツンデレが追加された。今までツンが100%でデレが一切なかったから分からなかったがいいも―
堀北の絶対零度の視線が降り注ぐ。まるで見るもの全てを凍らせんとする勢いだ、まるで氷版メデューサ。
心の中とはいえ冗談はよした方が良さそうだ。
堀北は内心で思った事を何故か当てられる特技があるからな。
「あなたが分かりやすいだけじゃないかしら?」
「なあ、何で月宮の弱みを 利用しなかったんだ?」
口からいつの間にかこぼれ落ちていた。溢れた言葉はもはや留められず、少しの後悔を抱きながら言葉を続ける。
単純な疑問だった。
月宮の正体をバラして無理矢理協力せざるを得ない状況に追い込んでもいい。
クラスメイトとの協力が必要なこの学校に置いて協力しない生徒のレッテルはたとえ月宮だったとしても手痛い痛手だ。
月宮がこの学校選んだ理由は関係者以外一切受け入れない、その特異性だ。
この学校の代わりは存在しないそれを堀北だってよく理解してるはずだ。
正体を協力しないと暴露すると脅しても良い。そうすればAクラスになるの夢ではなく、実現可能な物事と化すだろう。
月宮を敵に回すのはリスクだが、一人の生徒を退学させたり、地位を落とすにはそれ相応の行動をする必要がある。その行動は正体を隠したい月宮にとって致命的だ。
契約書書かせるなり、色々対策はあるが人の口に戸は立てられない。月宮の方にもリスクは常に付きまとう。
それか、正体をバラさなかった恩を利用して協力してもらうのもありだ。月宮の正体を知ってると恩返しするような性格じゃないと思ってるかもしれないが。
実際は受けた恩は返す性格だから、性格を把握していたら一番リスクの少ない選択肢の一つだろう
「確かに月宮さんが協力してくれれば、Aクラスになるのはそう遠くない未来の話になるでしょうね。」
「だったら、何故―」
「でもそうすれば私は何をするにしても月宮さんに頼る事になるでしょうね。それじゃ兄さんに認められないし追いつけない。それに自分自身を認められないもの」
堀北はそう言い切る一切の迷いがないように、その姿には一種のリーダーになる資質、カリスマ性すら見え隠れするほどだ。
それは堀北学との血縁関係を想起させるに足るほどに。
「そうか。認められたい、追い付きたいか」
そんな感情をオレは抱いたことのないが、この学校に居たらいずれ知ることが出来るのだろうか?いずれ知ればいいか。時間はあるのだから。
「今話題にしてた月宮からの贈り物だ」
堀北は困惑した表情でオレの手から月宮からの贈り物を受け取る
「これはテストの過去問と少し前の小テストの過去問?小テストの過去問が前回受けた小テストと全く同じ.....まさか!今回の中間テストも過去問と全く同じ問題が出るというの!?」
「そうだろうな。それは堀北の自由に使っていいって言ってたぞ、もし配るのならテスト2日前がオススメだ。その方が必死に覚えるだろうから」
「何故、私に?」
恩返しが本音だろうが、その感情を利用されるかも知れないし一応誤魔化しておくか。
「最低限のポイントは欲しいだろうし、月宮の正体知ってるからじゃないか?理由は聞いてないから分からないが。」
「それの使い方は任せた」
堀北に背を向け、手を軽く振りながら離れていく。
後ろから声が聞こえてきた気がしたが気の所為だろう。
「今ここに居る全員に大切話があるわ。聞いてちょうだい。」
「これは今回の中間テストの過去問よ、これと全く同じ問題が出ると思われるわ」
黒板の前に立ち、過去問を片手にクラスメイトに見せながら発言している。
「堀北さんは何でそう思うのかな?」
櫛田がクラスメイトの総意を告げる。何故その結論にたどり着いた理由が分からなければ、それはただの願望でしかない。
「勿論、理由はあるわ。茶柱先生の言葉だけではなく、前回の小テストと去年の小テストの問題が全く同じ、これが茶柱先生の言っていた答えの一つよ」
この反応は前から予想していたのだろう。一気の情報を叩き込むよりも情報を分けて喋ったら方が頭に入る
「流石堀北ちゃん!!頭いい!」
「まじか!助かるぜ」
「何だよ、こんなんあるなら勉強無理に頑張らなくても良かったな」
山内の発言にイラッとしてるのを表情に表さないように耐えてるな。堀北の前で良くあんな事を言えるな怖くないのか?
とにかく皆、突然現れた幸福に喜んでいる。
前より丸くなり、多少良くなった堀北の印象はこれを期に爆発的に上がるだろう。クラスの中心人物とは行かないが、今後試験の時は殆どの生徒は堀北の発言を無視する事は出来ないほどに。
月宮の予想通り、堀北はDクラスをAクラスに変える為の最低の資格を持った訳だ。
前に会った時に貰った電話番号掛ける。ワンコール、ツーコール、スリーコール、しても電話に出ず反応がない。
今は電話に出れない状況にある可能性が高いと思い、またかけ直そうとした直前に電話が繋がる。
「いきなり電話を掛けてくるとは何の用だ?月宮。もしやあの話に乗り気になったか?」
「そうゆう訳じゃないですけど。ちょっとお願いがあって。」
「時間なさそうですし、単刀直入に言いますね。過去問を売ってくれませんか。」
「何故過去問が欲しいんだ?君はクラス競走に興味がないと思っていたが。」
興味深そうに、返答を待っている。全く理由を言わずに買えることはなさそうだ。
「クラス競走に興味はないですけど、ちょっとした恩返しです」
中間テストが終わり、綾小路くんの部屋に向かいながら思考に耽る。
堀北さんは過去問を理想通りの使い方をしてくれた。
堀北さんの事をよく知らないから、クラスメイト達に過去問の存在を明かし配るかは正直分からなかったけど。もし配らなかったとしても綾小路くんがその事を提案していたはずだ。
そのおかげで退学者は一人も存在しない。クラスメイト達はいつも通りの日常生活を楽しめている。
これで堀北さんは相当動きやすくなる。クラスから浮き、嫌われていてはAクラスを目指すのは不可能に近かったから少しはハードルが下がったはず。
最初は堀北さんへの恩返しだけだったが、手伝う理由がもう一つ増えた。それは綾小路くんが堀北さんのAクラス目指すのを協力すると言った事だ。
別におかしな話ではない。堀北さんは綾小路くんと私の次に喋ってる。友達だから手伝う理由はそんなもので十分過ぎる。
目立ちたくなかったら、功績の全ては堀北さんが考えた事にすれば綾小路くんは目立たなくて済むし、堀北さんの影響力は増すそう簡単にバレる事もない。
何よりクラスメイトと協力することで見えてくる物もあると思うから。最初に会った際の異質の雰囲気や何処か歪んでると感じる事は減ったけど、未だ存在する。
それがなくなれば良いと思ってる、それが私が堀北さんに協力するもう一つの理由だ。
まあ、あんまり協力しないと思うけど。手を出し過ぎると堀北さんも成長しないし、堀北さんが考えた事じゃないと勘付く者も現れる。
それに綾小路くんが居れば大丈夫でしょ。
問題は綾小路くんに協力頼まれたら断れる気がしないことだけど、そんなに頼まれる事もないはず。
そんな事を考えているとのあっという間に綾小路くんの部屋の前に着いた。
スマホの位置情報で中に居ることが分かってるので、合鍵も持っているけど当然ドアの横に付いたインターホンを人差し指で押す。
唐突に部屋の中に入って来たら男子高校生だし困る事も大量にあるだろうしね。
「悪い、後で来てくれ。直ぐに連絡する」
えっと...インターホンから女の子の声が微かに聞こえてきた。つまり綾小路くんの部屋の中に女の子が居るということだ。
つまり彼女?う〜む。綾小路くんも隅に置けないなぁ、彼女がいる気配なんてしなかったのに。
お家デートしているなら、今は都合が悪いよね。
直ぐに退去するとしよう。今はいいけど結婚式の友人代表スピーチの内容考えておかないと。
「ごめんね、彼女がいるなら都合が悪いよね。直ぐに帰るね」
今の私の顔は慈愛に満ち溢れているだろう。まるで子の成長を喜ぶ親のように
「ちょっと待て。何かとんでもない勘違いしてないか。」
冗談はこれくらいにして、焦ってる綾小路くんを見れただけで満足するとしよう
「分かってるよ。連絡は後でいいよ」
「やっぱり。勘違いしてるじゃないか!」
祝勝会でも開いてるのを理解してるって意味で分かったと伝えたけど、言い方が悪かったから伝わってなかったらしい。
「分かってるよ、祝勝会でも開いてるんでしょ。勘違いしてないから安心して」
それを聞くとようやく安心したようで一息ついている。
「後で連絡する」
そう長く通話してるのは誤魔化しにくく不都合なのだろう。私が理解してると分かった後に要件だけを伝えると直ぐに切れた
まさか綾小路くんの部屋で祝勝会を開いてるなんてね。そう簡単に部屋の中で祝勝会なんて受け入れないと思ってたのに意外だ。
どうしてこうなったんだ?
祝勝会を開くのに反対しなかったのが悪かったのか?とはいえ皆賛成してるのに反対なんてできるわけもないしな。
「はあ」
「どうしたんだよ。溜息なんか付いて、皆無事に中間テスト乗り切ったんだぜ?」
「祝勝会を開くことは賛成だったが、まさかオレの部屋だと思ってなかったからな。」
「そう言うなよ。本当は自分の部屋に櫛田ちゃんや堀北が来てうれしいだろ?」
その視点はなかったな。残念ながら別にオレは嬉しくないんだよなあ。
「それにしても意外ね。あなたのことだから必要不可欠な物以外買ってないと思ってたんだけど。」
「ベッドの上に兎のぬいぐるみが置いてあるなんて。それ以外にもローテブルにカーペットにクッション予想外に部屋の中が充実してるわね。」
「綾小路お前、ギャップ萌え狙いなのか?!ベッドの上に兎のぬいぐるみ置いてるとか。く...こんなことなら自分の部屋を常日頃から掃除しておくんだった...」
心底悔しそうに池が言う。
ギャップ萌え狙ってないし、こんな事言う奴は自分の部屋を常日頃から掃除しておくなんて無理だと思うぞ。
「なあ何で、コップがペアのやつ買ってるんだ?クッションも2個あるし。」
ゲーム機だけじゃなく、クッションやセットになってたコップは隠しとくべきだったか。
「セットだとお得になっててな。クッションもその店で2品以上買うと更に割引。丁度、部屋の中に何も無かったから買ったんだ。」
「綾小路に彼女が居ると勘違いするところだったぜ。驚かせんなよな!」
インターホンが鳴る。こんな時間に来るのは一人しかいない月宮だ。突如として、祝勝会がオレの部屋に決まったから月宮に伝え損ねた。
「悪い。注文してた荷物が届いたらしい」
「ずいぶん、長くインターホンで通話してたわね」
「悪いな。インターホン出て直ぐ自分の頼んだ商品違うことに気が付いてなそれを説明するのに時間が掛かってたんだ。」
「そうゆう事にしといてあげるわ。」
堀北は月宮が来てたことに気づいてるらしいが話を合わせてくれるらしい。
池達は櫛田との会話に夢中で、オレのことなんか気にも留めてない何とか危機は免れたらしい
クラスポイントが87ポイントになったが、トラブルでプライベートポイントの支給が遅れた6月の初日にダラダラ過ごしていると。いきなり須藤が部屋の中に現れる。
いや確かに鍵は閉めたんだが。
「どうやって部屋の中に入り込んで来たんだ?」
「ここは俺達のグループが集まる部屋だろ?だから池達と相談して部屋の合鍵を作ったんだ。知らなかったのか?当然俺だけじゃなくなくて他の連中も持ってる」
知らないんだかそんな事...月宮が居る時に池達が来る最悪の自体は避けられたのが不幸中の幸いか。
鍵は返して貰わないとな。
「今初めて知ったんだかそんな事。」
「今はそんな事どうでもいい。マジやべえんだって!助けてくれよ」
全然どうでもよくはないが、鍵を返してもらうのは後でも良いか
予想していた通りだが状況は思ったより悪いらしい。6月は前途多難な滑り出しから始まった。
1話から5話まで一部編集しました。誤字とかスペース空けたり、多少追加したり。
見直しても気付くのは一話と3話気付くか気づかないか位な気がする。
後、茶柱先生が月宮の下の名前を言ってた事に見返して気付いたので変えときました。本当にすまない...
ちょっと時間経ったら見返す癖つけたほうがいいですね...