誰もが召喚獣を持つ世界で俺だけ剣   作:いくら

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 昨夜、俺の召喚獣はランクアップした。

 夢ではなかったのだと確信するのは、二つの剣を呼び出してみればすぐに理解できた。

 

『おはようございますディーノさま』

『毎日睡眠する必要があるなど、人間の身体は不便よな』

 

 自分の意志で動けない刀がなにを言っているのかという疑問はさておいて、俺は彼ら? 彼女ら? わからないがソレらについて確認することにした。

 

 宿のベッドの上に二つの剣を並べる。

 俺の愛刀かつ召喚獣として今までも活躍してくれていたこれは『聖剣』だったらしい。レイソルシアなんて名前があったことも昨日初めて知った。

 

 そしてランクⅤになったことで得られた新しい魔刀、白夜。

 

「改めてお前らの力を教えてくれないか?」

 

 召喚者は召喚獣が持つ力を直感的に理解できる。

 だが、召喚獣の本人のイメージと俺のイメージに齟齬がないとは言い切れないし、自身の言葉で語ってもらう方が助かる。

 

『かしこまりました。私、聖剣【レイソルシア】はランクアップしたことにより【完全顕現】の能力を獲得いたしました。これを発動することで私は真なる姿を顕現させ、剣としての性能を高めながら使用者(マスター)に【身体強化】と【自動回復】の効果を付加します』

 

 身体強化に治癒能力か、召喚獣らしいというのは変だが今までの力が補助に近い能力だったから戦闘にここまで活かせる能力は新鮮味がある。

 

 それに、単純に強そうだ。

 

『我が魔刀の力は【精吸の呪印】。斬り付けた相手の能力を奪う力よ。膂力、速度、精度、反応、斬り付けるたびに相手のあらゆる力を減らし、その能力を貴様に一時的に付加する。それと今までのランクアップによって解放された力は儂も同様に備えておる』

 

 相手の力を奪う……どの程度の領域の話なのか要検証ではあるが、凄まじい力だ。

 

 どれだけ力量が離れた相手であったとしても、斬り続けることで力量を逆転させることができるということなのだからその有用性は疑いようもない。

 

「早く試してみたいな……」

『狂気的なその表情、惚れますね』

『その顔、嫌いではないぞ』

 

 なにを言っているのかわからんが、まぁいい。

 

「ひとまずギルドに行くか」

 

 昨日は夜遅くまでダンジョンにいたから素材を換金する時間を取れなかった。

 

 冒険者ギルドは大きい街には必ず一つ存在し、ダンジョンから持ち帰った素材を換金する機能がある。

 他にも依頼の斡旋なんかも冒険者ギルドの役割の一つだが、俺のような下っ端に声がかかることはない。

 

 二本の剣を送還し宿を出た俺はギルドへ向かった。

 

 ギルドの中に入ってまず向かうのは換金所の一角、強面な受付がいるカウンターだ。

 

「毎度めんどくせぇな。他の奴らみたいにあっちの可愛い子がいる方に行けよ」

「ここが一番空いてる」

 

 そう言って素材を並べていくと、受付の男はしぶしぶと言った様子で仕事を始める。

 

 男が書類を出し素材を記入している傍ら、男の召喚獣であろう灰色の小人が素材を奥へ運んでいく。

 

「銀貨22枚だな。装備に転用できそうな素材もあるがどうする?」

「必要ない。すべて売却してくれ」

「はいよ。それと一つ忠告してやる。しばらくダンジョンには入らん方がいい」

「なぜだ?」

「王都からこの街のダンジョンに調査隊が来てる。しかもSランクさままで同行してるって話だ。俺みたいな下っ端には何も知らされてはねぇが、こういう時は大抵なんかあった時だ」

 

 年季があるせいか、こういう事件に目ざといのもこの受付を利用している要因の一つと言える。

 

「お前は弱い。冒険者としてのランクもそうだが。召喚獣が市販品と大差ない剣じゃ、冒険者として大成するのは無理に近い」

「そうかもしれぬな」

「諦めろとは言わない。安全に、上手くやれって言ってんだ」

 

 実際、この男の忠告を聞いて難を逃れたことも何度かある。

 

「お前は弱いんだから」

 

 だが、今日ばかりは無理だな。

 俺は今、剣を試したくて仕方がない。

 

「悪いが俺は今日もダンジョンに行くことにする」

「……そうかい、それじゃあ精々気を付けな」

「あぁ、だが案ずるな。夕方には戻って来る」

「はぁ、俺は彼女じゃねぇんだぞ。さっさと行け行け」

 

 用事を済ませた俺はギルドを出た。

 

『あの男、実はつんでれという奴か?』

『口調の割りに死ぬほど親切でしたね』

 

 これ、相手が話しかけたい時は召喚してなくても意志疎通できるのか。

 

 ちょっと面倒くさいな。

 

『儂の声が面倒くさいとは何事じゃ!』

『マスター、酷いです!』

 

 なっ、こっちの声も聞こえてるのか。

 しかも思っただけで伝わるとか、さらにメンド……やば……

 

『貴様!』

『マスター!』

 

 

 ◆

 

 

 なんとか二人……二本の機嫌を直し、俺はダンジョンまでやって来た。

 

 やっと性能テストができる。

 

 今日来たのは『石像の宮殿』第三階層。

 一階層はゴブリンが多く出没する地帯だったが、この階層からは剣士にとって面倒な相手が現れる。

 

「グググググ……」

 

 岩を纏った肌。圧倒的な質量。さらには飛行能力を有する。

 

 ガーゴイル。剣士にとっては難敵だ。

 なにせ刃が通らない。

 

「来い。レイソルシア、白夜」

 

 二本の剣が俺の両手に姿を現す。

 

「完全顕現」

 

 その能力を起動するに言葉に出す必要はないが、最初だからな、しっかり能力が発動するように言葉にした。

 

 無骨な鋼鉄の剣はその姿を一新していく。

 錆が剥がれるように鉛色が取れ、その中から純白の刀身が姿を現す。それに少し光ってる。

 

 なるほど、聖剣という名称に相応しい造形だ。

 

「いくか」

『よろしくお願いいたします』

『儂の恐ろしさを刻み付けてやれ』

 

 今までは一刀流が主体だったが二刀流の経験がないわけじゃない。

 ランクアップで複製の能力を得た時から、二刀流の修練は何度もしてある。

 

 ガーゴイルに向けて、俺は地を蹴り接近する。

 

 そのままガーゴイルの横を通りぬけ、『俺の身体は壁に激突』した。

 

『……大丈夫ですか?』

『……まぁ、そういうこともある』

 

 ふぅ……身体が軽すぎるし力加減もおかしい。

 これが【身体強化】の影響か。

 

 だが、今ので強化量は大体わかった。

 

 適切な力で、再度接近し白夜を振るう。

 

 ガーゴイルは防御の構えだ。両腕を眼前でクロスし、俺の剣を受けた。

 傷といえるほどのダメージはない。体表が少し欠けた程度か。

 

 

 ――【石化】10%。

 

 

 なんだ? 頭に直接情報が流れ込んでくる……

 

『貴様は今、儂の能力によってガーゴイルの能力の10%を奪ったのじゃ。膂力、強度、速度、それだけではなくその種族が持つ固有の力すら、儂にかかれば簒奪の対象よ』

 

 触れば、たしかに俺の皮膚の硬度が上がっている。

 

『能力簒奪の効果時間は十分といったところじゃが、その時間が終わる前にさらに斬り付ければさらに能力を奪うことができ、そして効果時間も更新される』

「なるほど……おもしろい」

 

 言われてみればたしかに身体がさっきより軽くなった。

 石化の能力だけではなく、ガーゴイルの速度や膂力も奪ったということだろう。

 

 逆にあいつの石化は若干弱まっているのだろう。

 なら、このまま攻撃を続けていればいずれ刃が通るようになるはず。

 

「では、このまま押して参る」

 

 どちらかといえば、その戦いは己との勝負のようであった。

 強化された身体能力、しかも斬り付けるたびに僅かに力が増加していくのは、奇妙な感覚だ。

 

 聖剣に魔剣、今まで俺が使ってきた普通の剣とはまったく使用感が違う。

 

 それでも、これが俺にだけ許された特別な力であることは疑いようもない事実。この力を制してこそ、今までの研鑽の意味がある。

 

 

 ――【石化】20%

 ――【石化】30%

 

 ――【石化】50%

 

 

 ――【石化】90%

 

 

 斬り付けるたびに、ガーゴイルの皮膚は柔らかくなっていく。最終的に竹にも負けるほど柔くなったその身体は、俺の剣戟によって地に伏せた。

 

 ガーゴイルは牙がかなりいい値で売れる。それ以外はあまり価値のある素材ではないので捨て置くことにした。

 魔獣の死骸は自然にダンジョンに吸収されるので腐敗などを心配する必要はない。

 

 そのままより奥へ歩いて行く。この分なら第四階層へ行っても問題なさそうだ。明日は次の階層に挑戦してみようか。

 

 そう考えていると、生物の気配があった。

 曲がり角の向こうから足音がゆっくりとこちらに近付いてくる。

 

 ガーゴイルにしては質量を感じない音だが、ゴブリンにしては重い。

 

 多少の警戒の色と共にその曲がり角を見ていると、白い腕が伸びて角を掴んだ。

 

 現れたのは高そうな鎧を纏った金髪の女だった。

 

 その女は俺を見た瞬間、目を見開いて――

 

「逃げろ!」

 

 そう叫んだ。

 

 瞬間――なにかが凄まじい速度でその女の身体を吹き飛ばした。

 

 俺はすぐに剣を召喚する。

 吹っ飛んだ女は……息はあるが気絶したらしい。

 

 さっきの白い腕とは真逆。巨大な黒い腕が姿を露わす。

 

『逃げよ』

『マスター、今の戦力では無理です』

「なるほど、王都からわざわざ調査隊が出向いてくるわけだ」

「グルルゥゥゥ……」

 

 そこにいたのは『黒い龍』だった。

 

 下層から迷い込んだのか?

 だとしたら都合がいい。迷宮は階層の変化によって環境が大きく変わる場合がある。

 

 このダンジョンの下層には溶岩地帯があると聞いたことがあるが、きっとこの黒龍はそこの出身だろう。

 

 だが、ここは第三階層の洞窟だ。

 剣士にとっては十分だが、龍にとっては広いと言える空間ではない。

 

 勝機はある。それに逃がしてくれるとも思えない。

 

 俺は『白夜』と『レイソルシア』を構える。

 

 身体能力の強化量と一度の斬撃で奪える能力量は概ね把握した。

 

 勝てるかどうか、そんなことは常にやってみなければわからない。

 だが、勝てば俺は強くなれる。それだけがこの場に存在する純然たる事実だ。

 

「いくぞ。覚悟を決めろ」

 

 龍が唸る。お前に向けた言葉ではないのだがな。

 

『かしこまりました。この命、懸けましょう』

『貴様と儂らは一心同体。なれば貴様を信じることも儂の務めじゃ』

 

 良い剣だ。ただ、そう思った。

 

 翔ける。狙いは龍の足下。巨大な体躯が俺の位置を視界より隠すように滑り込む。

 

 

 ――【龍鱗】1%

 ――【ブレス】1%

 

 

 こいつの固有能力は2つか。

 しかし、ガーゴイルに比べて奪えた能力量が少ない。

 

『より高次元の生命体ほど一刀で奪える量は少なくなっていく。あれの力を上回るには五十近い斬撃が必要になるぞ!』

「承知した。そして感謝しよう。白夜、お前のお陰で勝機が生まれた」

『よかろう。感謝を受け取ってやる』

『むぅ……』

 

 レイソルシアの拗ねたような声を聴きながら、俺は斬撃を放つ。

 

 

 ――【龍鱗】3%

 ――【ブレス】3%

 

 

 傷はつかない。龍の鱗が硬すぎる。

 それに、無抵抗で切られてくれるほど龍という生物は甘くない。

 

 その口内に炎が揺らめく。

 

「まさか……自分にも当たるぞ」

 

 真下へ向けて、黒龍は炎のブレスを吐き放つ。

 

 まずい。そう思うと同時に跳躍するが、炎の勢いが速すぎる。

 

 俺の身体が炎に飲まれた――

 

 

 

 

 

 

 

 なんだ……どういう状況だ?

 

 酸素が欲しいのに呼吸が辛い。

 身体が動かない。

 焦げた匂いが辺りを満たしている。

 下半身の感覚がない。

 

 違う……俺が今考えべきことは、周囲の様子を知ることじゃなく、この状態を回復する方法。

 

 意志の力だけでも、俺は剣の力を発動できる。白夜を送還。

 

 複製――【レイソルシア】。完全顕現。

 

 俺の身体は一気に治癒されていく。

 

『さすがですマスター。私を複製して治癒能力を強化するとは』

「世辞はいい。奪った能力は保持されているか?」

『あぁ、問題ない。儂が送還されようとも呪いの効果は時間が経つまで終わらない』

「レイソルシア、身体強化は足し算か? それとも乗算か?」

『後者です』

「理解した」

 

 立ち上がる。

 

 身体が、さっきよりも更に軽い。

 それに3%とはいえ龍の力も奪っている。

 

 これにも身体強化が乗っているのだとしたら俺の力は今、どれほど強化されている?

 

 考えている余裕はない。実験しているゆとりはない。

 

 今ここで最新の肉体の感覚を掴めばいいだけだ。

 

「死にたくないな。まだ剣を極めてないんだ……」

 

 余裕綽々と言った様子で俺を見る黒龍を睨み返す。

 

 俺は世界一の剣士になる。お前なぞ、その通過点に過ぎぬのだと理解せよ。

 

「はぁ!」

 

 踏み込み一つの速度が、数秒前の比ではない。

 圧倒的な速さを得た俺は、一気に龍の眼前に突っ込む。

 

 俺の速度が突然加速したせいか、龍の反応が一瞬遅れる。

 そのままレイソルシアを龍の眼球へ捻じ込んだ。

 

「グォォォォォォォォォ!」

「レイソルシア、送還。白夜召喚!」

 

 絶叫を上げる龍の顔に取り付き、白夜によって顔を斬り付けていく。

 

 ――【龍鱗】5%

 ――【ブレス】5%

 

 何度も。

 

 ――【龍鱗】9%

 ――【ブレス】9%

 

 何度も!

 

 ――【龍鱗】13%

 ――【ブレス】13%

 

 何度でも!

 

「黒き龍よ! 俺はお前を殺して先へ行く」

『はははは、それでいい。それでこそだ。その在り様在り方を儂は忘れぬ。貴様がここで死ぬとしてもな! 我が担い手はそうあるべきだ』

『マスター! 避けてください!』

 

 龍の口内に炎を蓄える。

 だが、退いてなるものか。

 

 斬れ、刺せ、殺せ!

 

 眼球を潰せたのは運が良かっただけだ。俺の速度をこの龍が誤認したおかげだ。

 

 もう一度同じ速度で迫っても、きっと次は油断しない。龍という種はそれほど馬鹿じゃない。

 

 この一時こそが最初で最後の好機!

 

 ここで殺し切れぬのなら、俺はどうせ死ぬ。だったら最後まで足掻くのみ。

 

 

 ――【龍鱗】23%

 ――【ブレス】23%

 

 

 まだ20%か。しかし実感できるほどに鱗が柔らかくなってきた。それに俺の膂力も上がっている。

 

 このままいけば勝てる。

 

「グルルルルルル!!!!」

 

 だが、ブレスが来る。猶予がない。時間がない。これを食らえば俺は死ぬ。回復力の強化など無関係に、俺は消し炭になる。

 

「来い。それでも俺は斬るのをやめんぞ!」

 

 俺の目を見た黒龍が、その目を少し細めた気がした。

 そんなはずはないのに、その瞳はまるで俺に敬意を示しているかのようにも感じられた。

 

「グラァ!」

 

 鼻先に乗る俺に当たるように、龍は天井を向いてブレスを放った。

 炎によって瓦解した天井の瓦礫が炎を纏って落ちてくる。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!」

 

 それでも俺は斬り続ける。刺し続ける。

 俺の死は確定したのかもしれない。

 だが、俺の息の根が止まる前に、お前の息の根を止める!

 

「ソフィア、光陣結界(ホワイトベール)!」

「ラララララ~~~」

 

 歌のような声が聞こえた瞬間、俺の身体を光が包んだ。

 半透明な黄金の膜のようなその光は、龍のブレスによって発生した瓦礫が俺に降って来るのを阻む。

 

「なんだ?」

「あんたが誰かは知らない。てかそんなことどうでもいい。できるのなら、さっさと龍を殺しなさい!」

 

 誰の声か。知らぬ。どうでもよい。

 

「承知した」

 

 俺のやることは、なにも、誰も、変えられぬ。

 

 両の剣を眼球にもう一度突き刺す。

 やっとだ。やっと、瞼の龍鱗を貫けた。

 

 瞬きより早く動けた最初の突撃は眼球を貫けたが、それ以降は龍が目を瞑ったせいで刃が通らなかった。

 

 だが、龍鱗の防御力を奪い続けたことで俺の刀の切れ味と膂力が龍の鱗を上回ったのだ。

 

 俺は突き立てたレイソルシアの柄尻を咥える。

 

『ひゃっ、マスター!?』

 

 そのまま黒龍から奪った能力を――【ブレス】を一気に吐き出す。

 

 炎が剣を伝い、眼球の奥の脳を焼いていく。

 龍鱗に護られていなければ、お前とて焼かれないなんてことはないはずだ。

 

「グッ……」

 

 黒い龍は顔にあるすべての穴から黒い煙を出した後、身体を地面に横たわらせる。

 

 そのまま息の根を止めた。

 

「勝った……勝ったぞ……俺は……」

 

 なんだ……眩暈がする……意識が……

 

『想定以上の身体強化係数と回復効果に身体が追い付いていません。休息が必要です』

『案ずるな、おそらくはあの女がどうにかしてくれる。今は眠るがよい』

 

 抗えない。俺は意識を微睡みに落した。

 

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