『ドミニカの大砲』にデカめの感情を向けられていることに全然気づいていない重音テト選手の話   作:テトくんの顔ファン

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↓書くきっかけになった公式(?)絵
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ドミニカの大砲デロスサントスはたくさんのファンに囲まれているというのに ドミニカの大砲デロスサントスのすぐ隣、テトは顔ファンに表情をダメ出しされている──。

「──きのうデロスくんがめちゃくちゃ熱心にアドバイスをしてくれたおかげで打てたホームランなんで。打った僕よりも彼の方を褒めてやってください」

 

 デイゲームは快勝であった。

 

 きょうの試合も『ドミニカの大砲』デロスサントスは3安打を放った。

 せっかくデロスサントスがチャンスを作っても、重音テトが追い込まれて外スラを空振るのがここ最近の風物詩となっている。

 しかし今日は違った。テトは初球から思いっきりバットを振って勝負をかけ、打球はスタンドへ。これが試合を決定づける2ランホームランとなった。

 

 7連敗中だったチームに久しぶりの勝利をもたらした立役者として、テトはデロスサントスと共に試合後のヒーローインタビューを受けることになった。

 

「重音選手、最後にファンの皆さんに一言お願いします!」

 

「はい。……えーっと、ファンのみんな、明日も応援よろしくね~!」

 

 テトがそう言って大げさに両手を振ると観客席がワッと沸いた。

 ふだん球場で聞こえている平均的な歓声と比べると、ずっと黄色い声だった。

 

 テトは顔が良い。

 

 それは『野球選手の中では』とかいった枕詞のつく評価ではない。

 本当に、絶対評価でテトは顔が良い。芸能人やアイドルと比較しても引けを取らないどころか、あるいはその中でも上位に位置するかもしれない。

 

 重音テトは何を血迷ったのか今はプロ野球選手をやっているが、もしそうしない世界線があるならば、テトはトップアイドルとして君臨したことだろう。

 そんな事を声高に主張する人も世間には存在した。

 

 テトには多数の『顔ファン』がついていた。

 球場でテトを応援する声だけがやたらと黄色くて甲高いのも、つまりはそういうことだった。

 なお、最近のテトは外スラを空振って三振を積み重ねる情けない姿を見せつづけてているため、低く野太い声のヤジも少しずつ勢力を拡大してはいたが。

 

「いや~、まったく人気者は大変だよ」

 

 テトは試合後のロッカールームで調子に乗りまくっていた。

 ホームランを打ったときのバットを愛おしそうに撫でまわし、ツヤツヤになるまで丁寧に手入れ用ワックスを塗っている。

 心底嬉しそうに頬を緩ませてバットに話しかけているテトの姿を見て、ちょうど通りがかった数人のチームメイトがぎょっとした表情をしていたが、そんな些細なことは上機嫌なテトの視界には入らなかった。

 

 数ヶ月間の不振に苦しんでいたテトにとって本当に久しぶりに打ったホームランだ。それがチームの連敗を止める殊勲打になったわけで、調子に乗ってしまうのも仕方ないといえば仕方ないのだろう。

 しかし天狗になりすぎだ。普段はデロスサントスが作ったチャンスを潰しまくっているくせに。

 

「テトサン、オツカレ様デス」

 

「おっ、デロスくん~! おつかれおつかれ~!」

 

「ゴ機嫌デスネ」

 

「そりゃそうさ~! いつぶりのホームランだろう、って感じだよ」

 

「アシタモ、打チマショウ」

 

 デロスサントスも3本のヒットを打ってテトに負けず劣らずの活躍をしたはずだが、彼は淡々としていた。テトはこんなにも浮かれまくっているのに。

 黙々と自分のロッカーの整頓を始めるデロスサントス。しかしその表情がほんの少しだけ緩んでいるのをテトは見逃さなかった。嬉しいような、安心したような、なんとも形容しがたい感情をテトは抱いた。

 

 テトはさっさと自分の荷物をまとめ終えると、片付け中のデロスサントスを待たずに立ち上がった。

 

 今日はデイゲーム。試合が終わっても外はまだ明るい。球場の外には沢山のファンが残っているはずだ。

 外スラを空振って三振を量産している普段のテトであればとてもファンに顔向けなんてできないが、今日のテトは英雄だ。テトが球場から出てくるところを大勢が待ち構えているに違いないと、勝手にそう確信していた。

 

「じゃあ、お先!」

 

「ハイ。オツカレ様デス」

 

 バッグを肩にかけたテトは、デロスサントスに小さく手を振ってから軽い足取りでロッカールームを出た。

 

 

◇◇◇

 

 

「あ、重音選手だ! 重音選手サインください!!」

 

「テトくん! テトくんこっち見てー! テトくーん!」

 

「やっっば、顔良すぎるだろ……」

 

 球場を出るとそこは天国だった。

 

 選手たちの出待ちをしていたファンがテトの存在に気づき、群衆は一気に沸き立つ。

 サインをねだる野球少年、まるでアイドルの追っかけのようにテトの名前を呼ぶマダム、他の選手が目当てだったが思わずテトに目を奪われた若い男性などなど。その場にいる全員の視線がひとりに集中していた。

 

(ああ、これだよこれ! やっぱり僕ってスターなんだなぁ)

 

 テトはご満悦だった。

 

 不調が続いていたこともあって近頃のテトは散々な扱いを受けていた。

 球場のファンからはヤジを浴びせられ、ネットでは叩かれておもちゃにされ、三振してベンチに戻るたびに監督のため息は露骨に大きくなっていく。

 それゆえに、ちやほやされている今の状況は、テトにとって何よりの癒やしだった。

 

 たちの悪いことにテトには自分の顔が良いという自覚があった。

 野球の成績に見合わないほどにちやほやされても「まあ僕は顔が良いからな~」と思ってしまうぐらいにはたちが悪かった。

 しかし事実として、テトはいるだけで野球の試合が面白く感じるような、あるいは球場が明るくなるような、そんな華のある選手だった。

 

 そしてテトは自覚があるぶんファンサもしっかりしていた。

 サインを書くときや握手をする時はまっすぐ目を見て会話をするし、届かない場所にいるファンにもひとりずつに目線を合わせる。

 そして今日のようにヒーローインタビューを受けることがあれば、大げさなぐらいに愛想を振りまいてみせる。テトはあざといやつだった。

 

「はい、サインだね~ ボクは名前何ていうの? そっかそっか! これからも応援よろしくね!」

 

「応援ありがとう~! 明日もテレビか配信かで試合見てね! え、明日も球場に来るんだ!」

 

「はーい、今日からはデロスくんだけじゃなくて僕のことも応援してね~」

 

 上機嫌極まりないテトはそれはもう大盤振る舞いであった。

 何百枚でもサインを書けそうな気がしたし、この場の全員と握手をしたっていい。テトはそんな錯覚を覚えた。

 普段のテトは外スラを空振りまくっているどうしようもない5番打者だ。しかし、時間を忘れてファン対応をする姿は間違いなくスター選手のそれだった。

 

 ──だが、楽しい時間がずっと続くことはなかった。

 

「あ、デロスサントスだ! デロスサントスー!! サインください!!」

 

「デロスサントスかっけー!」

 

「デロスサントス! Vamooos!!!」

 

 残ってロッカーの片付けをしていたデロスサントスが出てきたのだ。

 

 途端にそちらへ押し寄せるファンの群れ。

 目を輝かせてテトのサインを眺めていた野球少年は一瞬でデロスサントスに鞍替えし、テトに話しかけられてどぎまぎしていた若い男性ファンはデロスサントスの応援タオルを取り出してスペイン語を叫びながら走っていった。

 テトの周囲に集まっていたファンのほとんどが彼の方に吸い寄せられていった。

 

 まあ、当然と言えば当然だろう。

 久しぶりにホームランを打ったとはいえここしばらく良いところのなかった5番打者と、今日も大活躍した球界最強打者の『ドミニカの大砲』。ファンがどちらを選ぶかなど、考えるまでもなかった。

 

「オウエン、アリガト」

 

 デロスサントスは真面目な男だ。

 ファン対応も誠実にこなす。誰かと違ってむやみに愛想を振りまいたりもしない。ストイックに自分のできることだけをこなすという点においては、野球に対する姿勢と共通するものがあった。

 

 ただし、テトにとって不可解なことがひとつあった。

 かなり自在に日本語を操れるはずのデロスサントスが、ファンの前ではまるでほとんど日本語が喋れないかのように振る舞うのだ。「アリガト」を連呼するばかりでそれ以上の言葉は口にしない。

 とはいえ、テトはその理由を追求しようとは思わなかった。もっと日本語が上手になってから喋る計画だったりとか、何か彼なりの考えがあるかもしれないからだ。

 

 それはさておき、ちやほやしてくれるファンを根こそぎ持っていかれたテトである。

 

(あ、あんにゃろ……! せっかく僕が久しぶりにファンとの交流を楽しんでいたのに……!)

 

 テトは心の中でデロスサントスへの恨み節をつぶやいたが、その態度を表には出さなかった。

 少数とはいえ、まだファンが残っていたからだ。デロスサントスよりもテトを選ぶ熱心なファンが。

 

 では、残ってくれた人たちがどういった層かというと。

 

「テトくーん! こっちこっち、目線ちょうだーい!」

 

「やば、顔整いすぎるでしょ」

 

「素晴らしいよね……Eラインがね……」

 

 圧倒的顔ファンであった。

 

 その集団には若い女性が比較的多いが、ご高齢なマダムや若い男性も一定数を占めている。

 個々人がバズーカのような一眼レフを持って球場に乗り込み、SNSでは鍵アカウントどうしでネットワークを形成してテトの写真を交換しあい、ネットでテトを誹謗中傷する不逞の輩は絶対に許さない。『Yesテトくん、Noタッチ』を信条とする訓練された軍隊だった。

 たぶん野球の成績はあんまり気にしてない。

 

 別にいいんだけど、なんか違う気がするんだよな。テトはそう思いながらもカメラに向かって表情を作った。

 とびっきりの笑顔だ。テトはまだまだファンサービスをしたかった。

 

「テトくんその顔やめて!」

 

「▽^ワ^▽ ←こんなんなってるから!!」

 

「テトくんヒーローインタビューの時もそれだったよ! もっと普通の顔して!!!」

 

「……あ、はい」

 

 すん……とテトは真顔になった。

 ファンの集団が一斉に黄色い声をあげる中、テトのピースサインがへにゃりとしおれた。

 

 

 

 ドミニカの大砲デロスサントスはたくさんのファンに囲まれているというのに。

 ドミニカの大砲デロスサントスのすぐ隣、テトは顔ファンに表情をダメ出しされている──。




なお次の試合、テトは4打数4三振だった模様
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