『ドミニカの大砲』にデカめの感情を向けられていることに全然気づいていない重音テト選手の話   作:テトくんの顔ファン

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↓書くきっかけになった公式(?)絵
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ドミニカの大砲デロスサントスが相手エースの攻略法を教えてくれるのに ドミニカの大砲デロスサントスの指導もむなしくテトは追い込まれ外スラを空振る──。

 シーズンは終盤に差し掛かっていた。

 

 ペナントレースは佳境を迎えている。

 優勝争いをしているチームの試合には大勢の観客が押し寄せ、街はどこか落ち着かない雰囲気に包まれる。地元テレビ局が試合結果を伝えるのが日常の光景になり、試合の行われている時間は誰もが心なしかスマホを気にしている。

 野球が最も熱い時期。それが今だった。

 

 一方そのころ、すっかりデロスサントス個人軍と化していた某チームは熾烈な最下位争いを繰り広げていた。

 

 球場では、最下位を押し付け合っているチームどうしの直接対決が行われていた。

 両チームの勝率は完全に並んでいる。つまり、きょう勝ったチームは一時的とはいえ最下位を脱出し、反対に負けたほうは単独最下位に転落することになるわけだ。

 残り試合数も少なくなってきている。たった一つの勝敗が、とても重い時期だった。

 こういう試合を俗に『裏天王山』と呼ぶ。

 

 相手の先発ピッチャーは球団のエースだった。

 浮き上がるような速球と、鋭く曲がるスライダー。この2つを軸に三振を奪いまくるのが特徴的な投球スタイルの選手だ。つまり、外スラに弱い重音テトにとっては天敵のような存在といえる。

 

 そんな球界屈指の好投手を擁していても、相手チームは最下位争いをしている。野球は1人では勝てないスポーツだった。

 

(1人じゃ勝てないのはこっちも同じだもんなぁー)

 

 ベンチで相手ピッチャーの投球を眺めながらテトは心の中で呟いた。隣に座っているデロスサントスにちらりと視線をやる。

 彼もまた、最下位争いをしている球団には不釣り合いな選手のひとりだ。

 しかし絶好調の相手先発の球を、かの『ドミニカの大砲』ですら打ちあぐねていた。今もデロスサントスは相手エースの投球の軌道を食い入るように観察し、私物のノートに何やら書き込んでいる。

 

 4番デロスサントス、5番重音テトはそれぞれ一度ずつ打席に立ったが、ふたり揃って三振に切って取られていた。

 もっとも、5番のアレが三振するのは見慣れた光景ではあったが。

 

 続く下位打線が手も足も出ずに翻弄される姿を眺めつつ、テトは小声でデロスサントスと作戦会議を始めた。

 

「……今日の先発やばいね。絶好調すぎて打てる気がしないや」

 

「カンタンニハ、打タセテクレマセンネ」

 

「あーあ、また三振だ。こっちのアウト全部三振じゃないの?」

 

「タイミングハ合ッテルノニ……」

 

「だねぇ。球がキレキレすぎてバットに当たんないよ」

 

「ハイ。スライダーハイツモ通リデスガ、ストレートノ回転数ガ多イデス」

 

「えっ? ああ、ストレートね。……そ、それぐらい僕も気づいてたし」

 

「ヤッカイデスネ」

 

 例のごとく外スラを豪快に空振って三振したテトは、相手先発が絶好調な理由としてスライダーの切れ味を指摘したつもりだった。

 しかしデロスサントスは違った。スライダーではなく、普段よりも回転数が多くて質の向上したストレートこそが原因だと分析した。

 変化球でカウントを稼ぎ、追い込んでから直球で仕留めに来る黄金パターンだ。直球をなんとか打ち崩さないと攻略はできないと彼は判断し、しかしその難易度に歯噛みしていた。

 

 テトはちっともそんな事に気づいていなかった。

 いつもスライダーのことで頭がいっぱいだ。

 

「デロスくんは次の打席、どうアプローチするの?」

 

「ストレート狙イデス。ボールノ上ヲ叩クイメージデイキマス」

 

「了解。出塁できたら、その後は僕に任せてよ」

 

「ハイ。……テトサンハ、プランガ有リマスカ?」

 

「え、僕? い、いや~、とりあえず苦手なスライダーには警戒しないとだね! あ、でもストレートにも気をつけないといけないし……」

 

「プランハ、有リマスカ?」

 

「…………えっと、いつも通り行こうかなって」

 

「……ハァ」

 

 デロスサントスは分かりやすくため息をつくと、私物のノートを取り出してパラパラとめくった。紙面には彼が丁寧に収集・分析した相手チームのデータが書き込まれており、デロスサントスの生真面目な性格がそこに表れている。

 ページをめくる手が止まり、デロスサントスはノートをテトに見せた。

 

「テトサン、コレ」

 

「ん? ……これ、僕のデータじゃん」

 

「ハイ。アノピッチャート対戦シタ打席ノデータデス」

 

「凄いね、ここまで丁寧に……こうやってデータで見ると露骨に外角を攻められてるなぁ」

 

「弱点ガバレバレデスネ」

 

「うるさいな。で、つまりは外角の球を打てないと攻略は難しいってことかな」

 

「チガイマスヨ、テトサン。逆デス」

 

「逆?」

 

「外角ハ捨テマショウ。マンナカト内角ダケ狙ッテクダサイ」

 

「…………そっか。外角に来る球はほとんどスライダーだから振らなければボールになるのか。カウントを取りにきたストレートやカーブのほうが打ちやすいね」

 

「ソウデス。甘イ球ダッタラテトサンデモ打テマスヨ」

 

「『でも』は余計だよ。けど、なんだかいけそうな気がしてきた! ありがとうデロスくん!」

 

「コノ試合、勝チマショウ」

 

「おー!」

 

 

◇◇◇

 

 

 ふたたび回ってきた打席で、デロスサントスは宣言通り相手エースの直球を弾き返した。

 あわやホームランかという打球はフェンスを直撃し、送球の間にデロスサントスは悠々と二塁まで到達した。長距離砲のイメージがどうしても強いが、足もそこそこ速い。

 

 そしてバトンを渡されたテトが打席に向かう。

 いまだ両軍のスコアは0対0。ヒットを打ってデロスサントスが生還すれば貴重な先制点となる。

 野球とは『流れ』のスポーツだ。絶好調の相手エースから連打で点をもぎ取ることの意義は非常に大きい。

 

 最初の打席よりも引き締まった表情でテトは打席に入った。

 二塁ベースに立つデロスサントスの姿が自然と視界に入る。自分は打ったぞと言わんばかりの佇まいにテトは奮い立ち、マウンドに立つ相手をにらみつけた。

 

(外角を捨てて……ここで絶対に打つ!)

 

 今日はじめてのクイックモーションで、初球が投げられた──。

 

 

 

(……や、やばい。全っ然打てる気がしない)

 

 テトは一瞬で追い込まれていた。

 ストレートが全くバットに当たらないのだ。浮き上がるような球質のボールは、振ったバットよりもずっと上を通ってキャッチャーミットに吸い込まれていく。

 こんなもの、打てるわけがない。まだ打席に立っているのにテトは軽く絶望していた。

 

 この球をデロスサントスは打ったのだ。

 たった1打席見ただけで『ボールノ上ヲ叩クイメージ』と解決法を見出し、いとも簡単に二塁打にしたのだ。

 自分とデロスサントスとの距離が想像していたよりもずっと離れていたことを、テトは思い知った。ちょっとだけ泣きそうだった。

 

 テトは縋るように二塁上に立つデロスサントスを見た。

 彼はコクリと小さく頷いた。「テトサンナラ、打テマス」と言っているようだった。ベンチでは頼もしかったアドバイスが、今はテトの足枷となっていた。

 それでもテトは打席に立ち、向き合わなくてはいけない。

 それがプロだ。

 

 2ストライク2ボール。

 見送った球がゾーン内だったら終わり。空振っても終わり。テトはどうしようもなく追い込まれていた。

 そして投手が投球モーションに入った。

 

 投げた。

 

(──外角!)

 

 テトは直感した。

 

 ボールが打席に到達するまでのコンマ数秒でテトは思考した。

 

 外角は捨てろ。

 デロスサントスの理屈に従うならこの球は振ってはいけない。

 見送るのが無難だ。

 

 でも、もしスライダーじゃなかったら?

 今日の投手はストレートで打線をねじ伏せ続けている。テトもストレートを全く捉えられていない。

 だったら、わざわざスライダーを投げなくてもいいはずだ。

 

 見送ったらボールになってしまう変化球よりも、ストライクゾーン内で勝負できて空振りを取れるストレートのほうが強いに決まってる。

 少なくとも自分が投手の立場だったら、ここは敢えてストレートを選ぶ。

 

 テトは決断した。

 

(僕はプロだ。最後に信じるのは自分自身だッ──!)

 

 

 

 球は鋭く曲がっていき、バットは空を切った。

 

 球場はため息に包まれた。

 

 

◇◇◇

 

 

「ひーん」

 

「……テトサン」

 

「ごめんよぉ、ごめん」

 

「……ドンマイデス」

 

 『ドミニカの大砲』デロスサントスが作ったチャンスで追い込まれ外スラを空振ったテトは、ベンチに戻ってすっかりしょぼくれてしまった。

 デロスサントスは小さくなった背中をぽんぽんと叩いて慰めたが、かえってテトは縮こまるばかり。

 

 せっかくのアドバイスを無視して外スラを空振ったのだから、テトはどんな顔をしてデロスサントスの隣に座ればいいのかわからなかった。

 テトなりに考えて決断したうえでの行動だったとしても、プロでは結果が全てだ。

 

「デロスくんって本当に凄いんだねぇ」

 

「テトサンモ、凄イデスヨ」

 

「はは、まさか。僕はあのストレートすら打てなかったんだよ。君が簡単に打ったストレートを」

 

「デモ、テトサンハ凄イデス」

 

「なにさ。ひょっとして嫌味でも言ってるつもり?」

 

「違イマスヨ。テトサンニハ天性ノ才能ガアリマス。アナタノホームランハ美シイ」

 

「……は」

 

「ドウヤッテモ、アノ放物線ハ真似デキマセンデシタ」

 

 デロスサントスは真剣だった。

 近頃はめったに見られないものの、滞空時間の長いテトのホームランは芸術的なアーチとして定評があった。

 その美しい軌道に魅入られるのは、ファンだけとは限らない。

 

「テトサン、アナタハコノママ終ワル選手ジャナイ」

 

「……そうかな」

 

「ダカラ、イッショニ特訓ヲシマショウ」

 

「うん。……えっ」

 

「腕ノイイトレーナー、紹介デキマス」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ。デロスくんと同じメニューをやったら僕死んじゃうよ!」

 

「大丈夫デス。テトサンガ耐エラレルヨウニシマスヨ。データハ有リマス」

 

「勘弁してくれよぉ……」

 

「楽シミデスネ」

 

 オフシーズンが地獄になることを悟り、テトは天を仰いだ。

 

 

 

ドミニカの大砲デロスサントスが相手エースの攻略法を教えてくれるのに。

ドミニカの大砲デロスサントスの指導もむなしくテトは追い込まれ外スラを空振る──。




なおオフシーズンはメキシコに派遣される模様
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