今際の国で飯を食う。   作:有栖結華

1 / 19
はあとのろく(1)

これは、とあるいかれた世界の話。

 

(0/23)

 

大きなショッピングモールに、幽鬼は足を踏み入れた。

もし鬼ごっこをしたら楽しそうな――そんな、歩いているだけで迷子になりそうな広さだった。

休日には何人もの家族連れが買い物に来る。

以前までならほとんど訪れることもなかった場所だ。だが今は違う。

幽鬼は迷うことなく中へ進む。

フォン――。

軽い電子音が鳴った。

建物自体から鳴る、ゲーム会場への入場を知らせる音だ。

幽鬼は足を止めず、そのまま歩き続ける。この音を聞くのは初めてではない。

案内された会場へ向かうと、簡易的な机が置かれていた。紙が一枚、スマートフォンが一台。

紙にはこう書かれていた。

 

参加人数 6名

一人一台まで

 

幽鬼は周囲を見回す。どうやら自分が最後の参加者らしい。

 

(1/23)

 

少し歩いたところで、騒がしい声が聞こえた。曲がり角を抜けると五人の女の子がいた。

一見、若い女の子たちが買い物をしている光景――だが雰囲気はまるで違った。

一人はおどおどしている。

一人は泣いている。

一人はそれをなだめている。

一人は周囲を警戒している。

そしてもう一人は、壁にもたれてどうでもよさそうにその様子を眺めていた。

仲が悪いわけではなさそうだ。だが、仲良しというわけでもなさそうだ。

幽鬼が姿を現すと、五人の視線が一斉に向いた。

幽鬼は軽く手を上げる。

「どうも」

そして言った。

「幽鬼です。よろしく」

数秒の沈黙の後、誰かが小さく答えた。

「……よろしく」

ぎこちない空気だ。

幽鬼は肩をすくめ、軽く呟いた。

「みんな、結構待ったのかな」

警戒していた少女が答える。

「いえ……一時間くらいだと思います」

「ごめんね。もう少し早く来ればよかった」

別の少女が小さく言った。

「やけに落ち着いてますね」

幽鬼は少し違和感を覚え、恐る恐る聞く。

「みんなは……今回が初めて?」

珍しいことではない。しかし、ここまで揃うのは初めてだ。

この世界では、ゲーム初参加は珍しくない。だが普通は、経験者がもっと多く混ざるものだ。

「えっと……事情が分からない人は何人?」

幽鬼は手を挙げながら訪ねる。

「この世界のこと、これから何をするか分からない人」

「手を挙げてみて」

四人の手が挙がった。残り一人は手を挙げず、少し気だるそうに口を開いた。

「私は二回目です」

「さっき皆さんにも説明しました。ゲームをクリアしないと死ぬって」

肩をすくめて続ける。

「まあ、それ以外は私もよく分かってないんですけど、色々ご教授願います」

そう言われても困る。

幽鬼は頭の中を整理しながら言う。

「そろそろアナウンスがあると思う……」

間を置き、ゆっくりと告げる。

「今から、私たちはゲームをする」

誰も動かない。

「ただのゲームじゃない。正真正銘のデスゲームだ」

「この世界で生き残るには、ゲームをクリアしないといけない」

その瞬間、全員のスマートフォンが同時に鳴った。

 

(2/23)

 

エントリーが終了しました

ゲームを開始します

難易度 はあとのろく

ゲーム:「かいもの」

ルール:

今から皆さんに買い物をしてもらいます。

案内する五つの店で商品を選び、買い物します。

一つの店には代表者一人だけが入店可能。

入店後の買い物制限時間は10分。

各店舗には最低購入金額が設定されており、下回るか支払額不足で決済するとゲームオーバー。

ゲームオーバーになった場合、次のプレイヤーが1分以内に入店して買い物を行います。

五つの店すべてで買い物を成功させればゲームクリア。

ゲーム全体の制限時間は2時間。

今、財布を渡します

 

(3/23)

 

ゴトッ。鈍い音が響き、全員がそちらを見る。

六つの財布――百円ショップのジッパー付き透明袋――が落ちていた。かなり使い古されたもので、各袋に十万円ずつ入っている。

「やけに汚いな……これを財布扱いしたくないです」

 

「別に使えれば何でもよいと思います」

 

各々が財布を手に取る。

 

「私のだけチラシが入っています」

声のする方に集まる。広告チラシだ。肉・服・家電などの安売り情報が並ぶ。

幽鬼はアイスの欄がないか軽く確認するが、特になかった。少しだけ残念だ。

「これを見ながら買い物するんでしょうか」

誰かが言う。

すると別の少女が言った。

「とりあえず移動しながら考えましょう」

チラシの端を指差す。

そこにはこう書かれていた。

1F 駄菓子屋へ

「それって、あそこかな」

幽鬼は指差した。

すぐ近くに、わかりやすく駄菓子屋があった。

 

私たちは駄菓子屋に向かう道すがら、軽く自己紹介を済ませた。

おどおどしていた子は青井。

泣いていたのが桃乃。

それをなだめていたのは紅野。

周囲を警戒していたのは金子。

壁にもたれて様子を見ていたのは黒糖。

幽鬼は今回のゲームは自分にとって大変かもしれないと感じていた。

幽鬼もある程度この世界で生き残ってきており、自分でベテランと名乗ってもおそらく問題はない程度にゲームに参加してきてはいるものの、こういったリーダー的な立場を任されるのは初めてだった。

これまではゲームの中で自分よりも熟練した人が毎回誰か一人くらいはいたため、頭を悩ませる必要などなかった。

しかしここにきて、幽鬼は自分のリーダー経験のなさを呪った。

「リーダーシップ経験がありますか」と採用面接で聞いてくる面接官がいるらしいが、その理由が少しわかったような、わからなかったような気もする。

ここはみんなが和むような、何かうまい話題を提供すべきか……

幽鬼が口を開けようとしたとき、背後から金子が訪ねた。

「あの……このゲームってどのくらい難しいんですか。例えばどのくらいの人が死んだりするのかとか」

もっともな疑問だ。

「そうだね。ゲームにもよるから何とも言えないけど、今回は難しいほうのゲームだよ。何人か死ぬくらいなら良いほうで、全滅しても全くおかしくない。でも今回のゲームはハートだから……私の経験上、ハートは全員クリアも十分あり得るゲームが多かった」

 

私たちは駄菓子屋のそばにたどり着いた。

 

(4/23)

 

「代表者はどうしますか」

 

紅野が尋ねたその瞬間。

全員が視線を逸らした。

当然だ。

最初に行く役は、誰だって嫌だ。

幽鬼が手を挙げようとしたときだった。

先に手が挙がった。

「私、やってみます」

桃乃だった。

「こう見えても、お菓子大好きなんです」

「いつも買って食べてるので」

意外ではなかった。

その見た目を見れば、なんとなく分かる。

桃乃が駄菓子屋に入った瞬間、アナウンスが流れた。

 

買い物を開始します

最低購入金額は1000円です

 

ゲームの難易度とジャンルは、トランプで表される。

数字は難易度。大きいほど難しい。

スートはゲームの種類を表す。

スペードは肉体型。

ダイヤは知能型。

クラブはバランス型。

ハートは心理型。

今回のゲームは、ハートの六。

つまり心理型のゲームだ。

幽鬼は状況を整理した。

最低購入金額を下回らないように、できるだけ少なく買う。

お店は五つ。おそらく後半ほど最低金額が高くなる。

もし序盤でお金を使いすぎれば、最後に足りなくなる――そういう設計のゲームだろう。

ただし今回はハート。心理戦が仕掛けられる可能性が高い。

過剰に買わせて、後続を詰ませる。疑心暗鬼を誘発する。

そういう展開もあり得る。注意して進める必要がある。

結果から言えば、最初の店は驚くほど簡単だった。

税込100円のお菓子を十個。それをセルフレジで購入。無事クリア。

 

(5/23)

 

「ずいぶん簡単なんですね」

桃乃はお菓子をばくばく食べながら言った。

幽鬼は首を横に振る。

「油断しないほうがいいよ。今回のゲームは、たぶん難しいほうだから」

駄菓子屋を出ると、桃乃は満足そうに袋を抱えていた。

「おいしかったです」

すでに三つほど食べ終わっている。

「ゲーム中なのに食べてるんだ……」

青井が小さくつぶやいた。

桃乃は首をかしげた。

「だってお腹すきますし」

「そういう問題じゃないと思うけど……」

そのやり取りを見ながら、幽鬼はスマホを確認した。

画面が切り替わっている。

 

(6/23)

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。