ガコッ。
鈍い音が鳴った。
祭壇の床が開き、
その下に階段が現れた。
地下室へ向かえ、ということだろう。
ざわざわと花嫁たちは騒いでいたが、
やがて一人、また一人と階段を降りていく。
幽鬼たちもそれにならって
階段へ向かおうとした、そのとき。
「ねえ、あなた。とても素敵ね」
背後から声がした。
「衣装、すごく似合ってる」
振り向くと、きれいな女性が立っていた。
「……どうも」
突然声をかけられて、幽鬼はうまく言葉を返せなかった。
女はそれ以上何も言わず、そのまま階段を降りていった。
「あいつ……」
御城が小さくつぶやいた。
「お知り合いですか?」
金子が聞く。
「……いえ。ただ、変な噂を聞いたことがあって」
御城は少し考えるように言った。
「伽羅色の女……」
「最近この世界に来た女には気をつけろ、と」
「彼女がそうかもしれないということですか?」
「もしかしたら、というだけですわ」
「それに今回のゲームは、対戦型ではなさそうですし」
「仮にそうだったとしても、そこまで気にする必要はないと思います」
幽鬼には、そんな風には見えなかった。
感じのいい、
きれいなお姉さん。
そんな印象しかない。
「とにかく、その……」
幽鬼は頭をかきながら言った。
「キャラメル色の女のことは、ゲームのあとに考えようか」
「伽羅色です」
御城は静かに訂正した。
「まあ……色としては、ほとんど変わらない気もしますけど」
三人は階段へ向かった。
(3/20)
階段を降りた先には赤い床の迷路が広がっていた。
少し暗くはあるが蛍光灯が点々とつけられており、近い位置なら問題なく見通せるくらいの明るさだ。
先人の花嫁たちがたくさん行先にいる。白い衣装なので、遠くでもちゃんと人がいるとちゃんとわかった。
幽鬼、金子、御城はとりあえず、先人の人たちについていくことにした。
今回は難易度が3で比較的簡単な方だが、油断はできない。ゲームでは些細なことであっさり死ぬことになる。
幽鬼は背後をしっかりと確認しながら進む。
前方はたくさんの人がいる。何かがあったとしてもすぐに気づけるし、前方の人が対処してくれる可能性が高い。
今回のゲームは一体何を狙ったものなのだろう。
ゲームのルールは基本的にクリア条件やゲームオーバー条件が比較的明確に書かれている。しかし今回はよくわからない。バージンロードを歩くというのはわかりやすい。この迷路の赤い床。これがバージンロードだということなのだろう。
ただ、よくわからないのは幸せな結婚ができますようにという内容。何の心配をしているんだ。余計なお世話だと言いたくなった。
前方から悲鳴が上がった。
ざわめきが広がる。
幽鬼は人波をかき分け、
何が起きたのか確認しに行った。
頭に矢が突き刺さった花嫁が、遠くに倒れていた。
純白の衣装は、
赤く染まっている。
また悲鳴が上がった。
今度は見えた。
壁の小さな穴から、矢が飛び出した。
花嫁の死体の近くにいた人物へ、まっすぐ向かっていく。
そして。
しばらくすると――
先ほどよりもさらに多くの矢が飛んできた。
そこには、
二つの赤い死体が転がっていた。
迷路に
トラップが仕掛けられているのだ。
幽鬼は、矢が飛び出した壁に近づく。
よく見ると、小さな穴が空いていた。
ほかの壁も確認する。同じような穴が、あちこちに空いている。
理不尽すぎる。
幽鬼は違和感を覚えた。
こういう、
即死の可能性が高いトラップは、
この難易度で
本当にあり得るものだっただろうか。
花嫁たちは、それでも前へ進み続けていた。
しばらく進むと、前方にドアが見えた。
あそこが出口なのか――
それとも、まだ途中なのか。
幽鬼は前方へと移動する。
金子と御城は、これまで通り後方に残した。
情報は前で集める。
金子のことは、今は御城に任せている。
協力型のゲームである以上、御城が意味もなく危害を加えるとは考えにくい。
それに――
御城もそれなりに経験を積んでいる。
先頭の花嫁が、ドアノブに手をかけた。
「――痛っ」
短い悲鳴。
次の瞬間、
指先から血が流れ落ちた。
ドアノブに、カミソリの刃が仕込まれていたのだ。
思い切り切ったのだろう。
手からは、無視できない量の血が流れている。
それでも彼女は、慎重にドアを開け、
先へ進んだ。
後続の花嫁が、それに続く。
――その瞬間。
壁から、矢が飛び出した。
彼女の手を貫く。
「っ――!?」
さらに、
間を置かず――
もう一本。
そして、
もう一本。
次々と、
矢が突き刺さる。
体が、針山のように貫かれていく。
やがて、
彼女は動かなくなった。
「……悪趣味ですね」
後方で、
御城が小さく呟いた。
「確かに、あまり気分のいいものでは――」
金子が言いかける。
「違いますわ」
御城は遮った。
「殺し方の話ではありません」
一拍置いて。
「このゲームの――ネーミングセンスです」
幽鬼は、先ほどの光景を思い返す。
血を流したのは、最初の女。
だが、近くの女も死んだ。
床。
赤い床。
バージンロード。
「……血か」
幽鬼が呟く。
御城は、わずかに口元を緩めた。
「ええ」
「矢が飛んでくる条件は、血が床に落ちたとき」
「そして――」
「その量が多いほど、飛んでくる矢も増える」
「死体からの出血は、カウントされない」
「つまり」
御城は静かに言い切った。
「出血している人間を殺せば、矢は止まりますわ」
一瞬、空気が凍りついた。
「……簡単なゲームです」
御城の声だけが、
やけに落ち着いていた。
(4/20)
その後なかなか花嫁たちは前に進もうとしなかった。
当然だった。
このゲームの仕様がわかった以上、一番槍で前に進みたくないのは当然だ。
幽鬼は先頭を進んだ。
御城と金子は後方に戻った。
私はこういうトラップを見つけるのが得意だ。
誰かがケガさえしなければ矢も飛んでこないのであれば、これが一番ゲームクリアに確実だ。
幽鬼は進んだ。
足元に透明な糸があった。
ワイヤートラップだ。
幽鬼は慎重にワイヤーをまたいで通り、後続の人もそれに続いた。
しばらく歩くと、落とし穴があった。
幽鬼は落ちかけたが、問題なく進んだ。
しばらく歩くと、いきなり前方の壁が迫ってきた。
幽鬼たちは引き返し、異なるルートを進んだ。
順調だ。油断するつもりはないが自分でもうまくいっていると思う。
罠もほとんど気づけているし、後続の人たちも問題なくついてきてくれる。
このまま警戒を怠らず、進めば問題ない。
そう思い始めた時だった。
「....つまんないなあ」
どこからか、そんな声が聞こえた。
バンッ
銃声が聞こえた。
バンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッ
銃声の音と矢の音が後方でたくさん聞こえた。
(5/20)