今際の国で飯を食う。   作:有栖結華

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はあとのろく(2)

次の店を案内します

2F 衣料品店

 

「二階か」

幽鬼たちはエスカレーターを上った。

ショッピングモールは静まり返っていた。

照明は点いているのに、人の気配がない。

営業しているはずなのに、誰もいない店。

並んだ商品。

無音の通路。

慣れていない人間には、かなり不気味な光景だ。

青井は明らかに足取りが重くなっていた。

「だ、大丈夫なんでしょうか……」

「ゲームだからね」

幽鬼は軽く言った。

「たぶん、死ぬのはルール破ったときだけだよ」

その言葉に、誰も安心はしなかった。

しばらく歩くと、目的の店が見えてきた。

大きな衣料品店だ。

入口の上にはポップがぶら下がっている。

 

全品セール!

電子決済使えます

 

いかにも普通の店だ。

だが店の前に立った瞬間、スマホが鳴った。

 

代表者を一名選択してください

 

また沈黙が落ちる。

誰も前に出ない。

当然だ。

駄菓子屋は簡単だったが、それは結果論だ。

次も同じとは限らない。

「……私が行きます」

手を挙げたのは金子だった。

 

「いいの?」

幽鬼が聞く。

金子は小さく頷いた。

「さっき桃乃さんが行ってくれたので」

「誰かがやらないと進まないですし」

覚悟を決めた顔だった。

「じゃあ...お願い」

金子は店の中へ入った。

その瞬間。

 

買い物を開始します

最低購入金額は5000円です

 

「五千円か」

幽鬼は小さくつぶやいた。

駄菓子屋の五倍だ。

予想通り、金額は上がっている。

店内を見回す金子の様子が外から見えた。

Tシャツ。

ズボン。

コート。

靴下。

普通の服屋だ。

金子は一つのTシャツを手に取った。

値札を見る。

「……二千円」

「結構高いですね」

外にいる幽鬼たちにも声が聞こえた。

「三枚買えば六千円か」

金子はしばらく考えてから、別の商品を見始めた。

靴下。

三足セット。

値段は――

「千五百円」

「こっちの方が調整しやすそうですね」

金子は靴下を三つ取った。

4500円。

「あと五百円……」

店内を歩き回る。

そして見つけた。

ハンカチ。

値段は――

500円。

「これで五千円ですね」

金子はレジへ向かった。

セルフレジだ。

商品を通す。

ピッ

ピッ

ピッ

ピッ

画面に合計が表示される。

5000円

数秒の沈黙。

そして――

 

買い物成功

 

(7/23)

 

店の外で、全員が息を吐いた。

金子が戻ってくる。

「思ったより普通でしたね」

「うん」

幽鬼は頷いた。

「今のところはね」

桃乃はお菓子を食べながら言った。

「これなら余裕じゃないですか?」

幽鬼は少しだけ笑った。

「どうだろうね」

そして静かに言った。

「ハートのゲームはね」

「簡単に見える時ほど危ないんだよ」

そのとき。

またスマホが鳴った。

 

(8/23)

 

次の店を案内します

3F

生活雑貨店

 

幽鬼は画面を見ながら思った。

まだ、なにも起きていない。

だが。

この静けさは、

嵐の前の静けさの可能性が高い。

 

「三つ目か」

幽鬼は小さくつぶやいた。

エスカレーターを上ると、モールの静けさがさらに強く感じられた。照明はすべて点いているのに、人の気配がまったくない。商品だけが並び、店の看板だけが光っている。

青井が小声で言う。

「……ここ、本当に営業してたんですよね?」

「さあね」

幽鬼は軽く答えた。

「今はゲーム会場だけど」

やがて目的の店が見えてきた。生活雑貨店だった。棚にはタオルや鍋、文房具、洗剤などが整然と並んでいる。どこにでもある普通の店だ。

入口に立つと、スマートフォンが鳴った。

 

 

代表者を一名選択してください

 

少しの沈黙のあと、紅野が手を挙げた。

「私が行きます」

「いいの?」

幽鬼が聞く。

「二人がもう行ってくれましたし」

そう言って店の中へ入る。

その瞬間、アナウンスが流れた。

 

買い物を開始します

最低購入金額は20000円です

 

 

「二万円です」

紅野が棚を見ながら言う。

鍋 4500円

タオルセット 3000円

フライパン 3500円

「雑貨にしては高いですね」

紅野は商品をカゴに入れ始めた。

鍋、フライパン、タオル、洗剤。

計算しながら選んでいく。

 

店内を歩き回り、レジの近くまで来た。

 

セルフレジの横には小さなゴミ箱が置かれている。

中には、くしゃくしゃに丸められた紙が一つだけ。

 

紅野の視線が一瞬そこをかすめるが、すぐに商品に戻る。

「……まあ、いいでしょう」

紅野はカゴを持ち直した。

 

(9/23)

 

ふと思い出すように振り返る。

「幽鬼さん」

「チラシ、持ってますよね?」

幽鬼はポケットから紙を取り出す。

「あるよ」

「生活雑貨のところ、いくらって書いてあります?」

幽鬼は読み上げる。

「鍋2000円、フライパン1500円、タオル1000円」

紅野は驚いた顔をした。

「やっぱり、値札と違います」

外にいる金子が言う。

「ほんとだ……」

紅野は商品を取り出し、チラシの値段を基準に計算し直す。

鍋、フライパン、タオル、洗剤......

 

「これで……二万円ぴったりです」

 

しかし、セルフレジに商品を通すと――

ピッ

ピッ

ピッ

ピッ

合計 10000円

紅野の表情が凍った。

「……え?」

次の瞬間、アナウンスが鳴る。

 

買い物失敗

 

天井から細い光が落ちた。

レーザー。

それは一瞬だった。

紅野の頭を、まっすぐ撃ち抜いた。

紅野の体が崩れ落ちる。

床に血が広がる。

青井が悲鳴を上げた。

「いやあああっ!」

桃乃は言葉を失う。

再び静まり返った。

スマートフォンが鳴る。

 

(10/23)

 

代表者死亡

新しい代表者を選択してください

制限時間60秒

 

(11/23)

 

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