幽鬼たちは、食堂でご飯を食べていた。
周囲ではざわざわといろんな人がご飯を食べながら仲良くおしゃべりしている。
ご飯といっても、米というわけではない。
白っぽいような、黄色っぽいような、何とも言えない色をしたものが、器に盛られている。
見た目は、赤ちゃんが食べる離乳食というものに近い。
何が入っているのかは、よく分からない。
幽鬼はスプーンですくって、口に運んだ。
味も、よく分からなかった。
特別うまいわけでもない。
まずいわけでもない。
ただ、食べられる。
それだけだった。
「……なんなんだろうな、ここは」
墨家が、いかにもまずいと言いたそうな顔で言った。
幽鬼は答えなかった。
答えようがなかった。
そもそも。
ここが何なのか、まだ何も分かっていない。
この食堂に来る前.....
幽鬼たちが最初に目を覚ました場所。
そこは、寝室だった。
そう呼ぶしかない部屋だった。
広い。
とにかく広い。
床には、ふかふかのベッドが大量に敷き詰められていた。
数えようとしたが、途中で面倒になってやめた。
少なくとも百個。
いや。
もっとある。
この部屋だけで、ちょっとしたホテルくらいの人数が寝られそうだった。
壁には、妙な飾りが並んでいる。
ロケット。
魔法少女が持っていそうなステッキ。
勇者が持っていそうな剣。
どれも、子供部屋に置かれていそうなものばかりだった。
ただ。
大人が何百人近くいる場所に置かれていると、どうにも違和感がある。
天井にも、妙なものがあった。
赤ちゃん用のベッドの上についている、あの名前の分からないやつ。
三本くらいに分かれた棒の先に、丸いものがくっついている。
それが、いくつも天井から吊り下げられていた。
ゆっくり回転しているものもある。
幽鬼は、昔どこかで見たことがある気がした。
赤ちゃんを寝かせるときに使うもの。
たぶん、そんな感じだった。
「……子供向けなのかな」
幽鬼が呟く。
この場所は。
自分たちを、子供として扱っている。
そんな気がした。
「……そういえば」
幽鬼は、少し前に確認したゲームのルールを思い出した。
寝室の壁に取り付けられた画面。
そこには、ゲームの情報が表示されていた。
難易度 はあとのじゅう
ゲーム:『たんけん』
ルール:
『たんけんでゴールの鍵を見つけましょう。』
それだけ。
あまりにも簡単だった。
どこにあるのか。どうやって見つけるのか。
何も書かれていない。
「これ、本当にゲームなんですかね」
幽鬼が言った。
「さあな」
墨家は匙で離乳食をつついた。
「少なくとも、今のところはゲームっぽくない」
それは幽鬼も同じだった。
ゲーム会場にしては、あまりにも普通だった。
危険そうな場所もない。
罠が仕掛けられている様子もない。
殺し合いをさせるような設備もない。
そもそも。
ゲームをクリアするために何をすればいいのかすら分からない。
「……あ」
幽鬼は、ふと思い出した。
「そういえば、さっき案内してくれた人って知り合いなんですか?」
「いや、たぶん初対面。だよな」
白士もうなずいた。
幽鬼たちが寝室でゲーム解説画面を見終わったあと。
近くにいた女が話しかけてきた。
毛糸みたいにひょろひょろとした体つきの女だった。
白士と墨家を見るなり、目を輝かせていた。
『白士さんですよね!?』
『墨家さんも! 私、ずっと尊敬してて……!』
若干のうさんくささを感じたものの、たぶん二人のファンだったのだろう。
そんなことを言いながら、彼女はこのゲーム会場について色々と教えてくれた。
この食堂についても、ゲーム会場についても。
このゲーム会場には部屋が六つある。
最初にいた寝室
ジャングルジムの部屋
ボールプールの部屋
食堂
図書館
浴室
「なるほどな」
墨家が頷く。
「一応、生活できるようにはなってるわけか」
「そうみたいです」
幽鬼は立ち上がった。
「ちょっと見てきます?」
「私はいいや」
「そうですか」
墨家は食堂の椅子に座ったままだった。
白士は、少し離れたところで周囲を観察している。
食べ終わった後の皿を片づけた後、幽鬼は一人で歩き始めた。
ゲーム会場は寝室を中心に5つの部屋につながった構造をしていた。
幽鬼は寝室の部屋を通った後、順に他の部屋を身に向かった。
一つ目。
ジャングルジムの部屋。
中に入ると、巨大なジャングルジムが置かれていた。
ジャングルジムというのは小さい頃はとても面白い遊具に感じるが、大きくなると内側の方に行って遊ぶのが難しくなり、上の方を歩くだけの微妙な遊具に感じるものだ。
だが、自分が子供に戻ったのかと錯覚するほどにジャングルジムは巨大だった。
大人が遊んだとしても全く問題ないほどのサイズだった。
二つ目。
大量のプラスチック製のボールが入った部屋。
ボールプールというやつだ。大型ショッピングモールでたまに見かける、対象年齢何歳以下のやつだ。
足を踏み入れただけで、ボールがざわざわと動いた。
ボールの中に何かないかと思い、潰してみたり、いろいろ探してみたが特に何もなかった。
三つ目。
図書館。
壁一面に本が並んでいる。
小説もある。
漫画もある。
図鑑のようなものもある。
子供向けの本も多かった。
そして。
もう一つ。
浴室。
ここだけは、生活するための施設として普通だった。
浴槽。
シャワー。
洗面台。
そして、棚には替えのスモックやタオルが大量に置かれていた。
そして。
幽鬼は改めて、寝室を見た。
人が多い。
とにかく多い。
このゲーム会場には、かなりの人数がいる。
数えた人によれば、三百人ほど。
三百人。
ゲームの参加者としては、異常な人数だった。
それなのに。
誰も慌てていない。
誰もゲームを攻略しようとしていない。
ベッドで寝ている人。
本を読んでいる人。
食事をしている人。
ボールの部屋で遊んでいる人。
ジャングルジムで遊んでいる人。
まるで。
ここで生活しているみたいだった。
「……三百人もいるのに、なんで誰もクリアしようとしてないんですか?」
たまたま近くにいた、さっき道案内してくれた毛糸のような女に聞いてみた。
「ビザが減らないからです」
「……え?」
「このゲームに参加してから、ビザの日数が減ってないんですよ。実は私、この世界に着てから一番最初に参加したゲームがこれで、もう30日は経ってるんです。」
「なんで?」
「さあ。でも大丈夫ですよ。そのうちだれかがクリアしてくれますから。」
幽鬼は周囲を見る。
三百人。
これだけの人数がいて。
誰も出ようとしていない。
「その....貴方はゲームをクリアするために何か行動したいというわけではないの?」
女は目線だけを動かし、周囲をきょろきょろと見ながら答えた。
「ええ、当たり前ですよ。何にもしなくても悠々自適な生活を送れる。現実世界よりも何なら充実してるんじゃないですか?」
ゲームをクリアするために動いている幽鬼たちのほうがむしろ珍しい。そんな感じの雰囲気だった。
幽鬼は寝室に置かれたゲーム解説画面を見る。
『たんけんでゴールの鍵を見つけましょう。』
鍵。
それだけが、ゲームをクリアするための条件として書かれている。
どこにあるのか。
何の鍵なのか。
それすら分からない。
「……探してみるか」
幽鬼が呟いた。
別に、今すぐクリアしなければならない理由があるわけではない。
それでも。
何も分からないまま、ここでダラダラ過ごすのは。
少し気持ちが悪かった。
幽鬼は食堂に戻った。
「師匠」
白士を見る。
「ん?」
「ちょっと探してみませんか。鍵」
白士は幽鬼を見た。
そして。
ほんの少しだけ笑った。
「そうだな」
その返事を聞いて。
幽鬼は..........