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あの後、幽鬼と金子は今日のゲームに参加することにした。
青井と桃乃、黒糖は今日はやめておくそうだ。
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日が落ちた。
街は昼間とは別の顔を見せていた。
静まり返った通りの向こうに、ぽつりと光が灯っている。
近くに明かりのともる場所が見えた。
ゲーム会場だ。
幽鬼と金子は、その光に向かって歩く。
少しして、幽鬼が口を開いた。
「金子。本当にいいの?」
金子が幽鬼を見る。
「今言うのもなんだけど、別に今日ゲームをする必要はないし……桃乃たちと一緒の方がいいんじゃない?」
金子は少しだけ考えてから答えた。
「いえ、大丈夫です」
迷いのない声だった。
幽鬼は少しだけ目を細める。
この子は、私たちの中で一番年下なのに――。
妙にしっかりしている。
少し歩いてから、幽鬼はもう一度口を開いた。
「金子はさ」
「元の世界に帰りたい?」
金子はすぐに答えた。
「当たり前です」
「そうじゃないわけないですよ」
幽鬼は小さく笑う。
「そうだね」
「確かに……そうだよね」
その言葉は、どこか独り言のようだった。
幽鬼は前を向いたまま、ゲーム会場の光を見つめていた。
ゲーム会場は――
カラオケ店だった。
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「カラオケはやったことがないんだよね」
幽鬼は言った。
「私もありません」
金子が答える。
「まあ、本当にカラオケをするかは分からないけどね。というか、建物からゲーム内容をそんなに予想できるようなものでもないし」
「でも小さめの建物ですし、体を動かすタイプではなさそうですよね」
「どうかな。過去にやったゲームだと、バッティングセンターなのに頭を使わされたこともあったし、学習塾なのに走らされたこともあるからね」
金子は少し驚いたような顔をした。
そんな会話をしているうちに、二人は店の入口の前に立っていた。
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ドアを手で押すと、重たい音を立ててゆっくり開いた。
中は静まり返っている。
幽鬼と金子は店の中に入った。
フォン。
電子音が鳴る。
入ってすぐのところに、いつもの紙とスマホが6台置かれていた。
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参加人数 6名
スマートフォン 一人一台まで
周囲を見渡したが、特に誰もいない。
(私たちが最初に来たのか?)
店内は薄暗く、受付カウンターの奥にはいくつものカラオケルームの扉が並んでいた。
壁には色あせたキャンペーンポスターや曲ランキングの紙が貼られている。
幽鬼は少し歩いて、入口近くのソファに目を向ける。
「とりあえず、座って待つ?」
そう言ってソファに腰を下ろそうとした、そのとき――
ガタガタガタッ。
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店の奥の廊下から、何かが倒れるような音がした。
幽鬼と金子は同時に顔を上げる。
「御城さん!! どうされたんですか?」
ひょこひょこと、小柄で毛糸のように細い女の子がカラオケの部屋から現れた。
「何でもないですわ」
小柄な女の子とは別の部屋――音のした部屋から、金髪の……漫画でしか見たことのないような巨大な縦ロールの女性がすこし不機嫌そうな顔で姿を現した。
思わず目を奪われる。
漫画の中から出てきたような、完璧な縦ロール。
背筋を伸ばした立ち姿、整いすぎている顔立ち。
美人、という言葉だけでは足りない。
女性はふとこちらに気づいた。
きつそうな眼付きだ。
男性なら分かるのかもしれないが、美人な女の人に見つめられると、嬉しいより先に恐怖が来るものだ。
黄金比のように整った美しさは暴力的で、なにもされていないのに、まるで自分が攻撃されているような感覚になる。
幽鬼は、自分の見た目は悪くないほうだと思っている。
それでも、この人に見られるとどうにも緊張してしまう。
しかし、
次の瞬間。
その女性は、ふっと表情を柔らげ、優雅に微笑んだ。
緊張が、少しだけほどける。
「初めまして。わたくし、御城と申しますわ」
丁寧に頭を下げる。
「あなたたちのお名前を聞いてもよろしくて?」
緊張からの緩和。
無意識に顔がほころびそうになるのを、幽鬼はなんとか抑えた。
「幽鬼です」
「金子です」
金子も軽く頭を下げる。
すると、先ほどの小柄な女の子が、ぴょこっと顔を出した。
「あっ、私は毛糸っていいます!」
かなり大きい声で、元気よくあらわれる。
毛糸が早口かつ大きな声で続ける
「いやーこのカラオケ店すごいですねー、いやほんとカラオケ店なんて私全然しばらく言ってなかったんですけど、最近のお店はやっぱり設備がたくさんあって....あっ私今から歌いましょうか?人数集まるまで退屈でしょう?わたしこれでも..」
「毛糸」
御城が静かに名前を呼ぶ。
「……はい」
毛糸はぴたっと黙った。
御城はにこやかなまま、しかしどこか圧のある視線を向ける。
そのとき。
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「あれー、私たちで最後なのかな?」
「………そのようです」
全然気づかなかった。
最後の参加者らしい二人が背後にいた。
入り口からスマホをとり、きょろきょろとしている。
一人は茶髪を束ねたサイドテール。
服装もどこか今どきで、ぱっと見ただけで明るいタイプの女の子だと分かる。
もう一人は眼鏡をかけている。
落ち着いた雰囲気で、見るからに頭が良さそうなお姉さんという感じだった。
二人は幽鬼と金子を見ると、軽く手を振った。
「………初めましてー」
サイドテールの女の子が、少し間延びした声で言う。
「わたし、智恵っていいます。こっちは――」
隣の女性が、小さく一歩前に出た。
「言葉です」
それだけ言って、幽鬼と金子に軽く頭を下げる。
六人の視線が、自然と集まった。
どうやらこれで――
参加者は全員そろったらしい。
その瞬間。
スマホから音が鳴った。
ペアを作ってください。
人によっては、かなり嫌なことを思い出しそうな指示だった。
幸い、今回は金子がいる。
幽鬼は金子と目を合わせる。
言葉にはしなかったが、互いに「一緒に組もう」という意思はすぐに伝わった。
他のメンバーも同じだった。
御城は毛糸と。
智恵は言葉と。
それぞれ自然にペアが決まる。
やがてスマホに新しい指示が表示された。
各ペアは指定された部屋に入ってください。
幽鬼たちは、ペアごとにそれぞれ別のカラオケルームへと入った。
部屋の中は思ったより狭い。
テーブルとソファ、そして壁に取り付けられたテレビ。
(カラオケって、こんな感じなんだ)
幽鬼が少しそわそわしていると――
テレビがついた。
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ゲームを開始します
難易度:だいやのきゅう
ゲーム:『でんしゃ』
ルール
11×11マスの中央に電車があります。
各ペアは毎ターン、1~20の数字の中から1つを選択します。
全員の選択が終わった後、電車はある法則に従って移動します。
各ペアは最初のターンに盤上の好きなマスを1つ選び、そこが自分たちの位置になります。
電車にひかれてしまうと、そのペアはゲームオーバー
電車が壁にぶつかる(マスの外に移動する)場合、電車は止まります。
数字選択後の際に、現在位置で電車が接している壁にぶつかる(マスの外に移動する)と確定した場合、移動する代わりに選択した値のうち最も小さい値(同点の場合は適応されない)を選択したペアがゲームオーバー
このゲームは、誰かがゲームオーバーするまで終了しません。
デンモクが光りだした。画面には盤面と数字の入力欄があった。
盤面は11×11
電車は中央――F6に置かれている。
最初に決めなければならないのは、自分たちの位置だ。
幽鬼は盤面を眺めながら言った。
「中央の近くはまずいよね」
「はい。電車がどんな動きをするか分かりませんから」
金子はうなずく。
安全を考えるなら、中央から離れた場所がいい。
となると、自然と候補は四隅になる。
しかし、金子は少し考えてから首を振った。
「……いえ、四隅はやめましょう」
「え?」
「まだ電車の動きが分かりません。極端すぎる位置は、逆に危険かもしれません。」
金子は盤面を指さした。
「ですから――」
金子は少し中央寄りのマス....C2を指した。
「ここにしましょう」
幽鬼は少し考えたが、反対する理由はなかった。
「じゃあ、それで」
二人は位置をC2に決めた。
次に決めるのは――数字だ。
1から20。
その中から一つ。
電車の移動ルールは分からない。
だからこそ、仮説を立てるしかない。
「もしですが」
金子が静かに言った。
「全員が選んだ数字の合計だけ、電車が進むと仮定した場合……」
幽鬼は少し顔をしかめる。
「それだと、誰も大きい数字を選びにくいね」
「はい」
もし誰かが大きい数字を出せば、電車が一気に進む可能性がある。
つまり。
自然と小さい数字を選ぶはず。
「安全にいくなら――」
金子はデンモクの画面を見ながら言った。
「1です」
最も小さい数字。
もし合計で動くタイプだとしても、電車の移動は最小になる。
そして。
「電車の位置から、最短でも七マス離れています」
「この距離なら、少なくとも最初のターンでひかれる可能性は低いと思います」
幽鬼は軽く息を吐いた。
「なるほどね」
完全な安全はない。
それでも。
現状、最も合理的な選択だ。
幽鬼はデンモクを手に取った。
画面には、数字が並んでいる。
その中から――
1を選んだ。
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しばらくして、アナウンスが鳴った。
全員の解答が出そろいました。
今回は
1。
1。
3。
です。
電車が動きます。
電車はF6→F7→F8と2マス進んだ。
「合計ではなかったようですね」
「そうだね。まあ私たちと同じ考えの人が1ペアいたみたいだね」
まだ何もわからない。ゲームが始まったばかりなのだから、これで法則を完全に推理することなどできない。
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