今際の国で飯を食う。   作:有栖結華

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すぺえどのさん(1)

(0/20)

 

幽鬼と金子がゲーム会場へ向かって、しばらく経ったころだった。

「青井さん……やっぱり私のこと怒ってるよね」

黒糖がぽつりと聞いた。

「い、いえ……ゲームなので……」

青井はおびえたように答えた。

 

明らかに気にしている。

当然だ。

幽鬼さんがいなければ、私は死んでいた。

 

けれど、それを態度に出してはいけない。

 

逆らってはいけない。

言い返してはいけない。

 

幽鬼さんたちがいなければ――

 

いや。

 

私は、誰かと一緒にいないと生きていけない。

このグループから出るわけにはいかない。

 

不快にさせてはいけない。

困らせてはいけない。

 

桃乃がこちらを見ている。

 

桃乃は別に悪い人ではない。

どちらかと言えば、いい人だと思う。

 

だが――

別に、私のために何かをしてくれるわけでもない。

ただ、何も言わずにこちらを見ているだけだ。

 

「あー、そういえば」

 

黒糖が少し明るい声を出した。

 

「幽鬼さんって、もう28日もこの世界で生きてるらしいですけど……本当にすごいですよね」

 

話題を変えようとしているのだろう。

私たちにとっての共通の話題は、

この世界と――

幽鬼さんのことくらいしかない。

 

私たち三人は、昨日会ったばかりだ。

 

仲がいいわけでもない。

昔からの知り合いでもない。

 

幽鬼さんたちが戻ってくるまで、

この狭い廃墟で、ただ待ち続ける。

 

それは思った以上に――

しんどいものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はしゃべることが苦手だ。元の世界はそれで何度も怒られた。

普通にしゃべりなさい。落ち着いて、緊張しなくてもいいよ。

何度も何度も違う人に言われ続けた。

人と交わらなくても生きていける強さが私も欲しかった。

幽鬼さん.....あの人は別世界の人間だ。人と問題なく交わることができるが、別に人そのものを欲していない。あんな強さを私も持っていたら。どれだけ幸せだっただろうか。

あと6日。それが私の残りの命。

次のゲームでは私はきっと生き残れない。明日のことを考えたくない。朝が来るのが怖い。夜が来るのも何もかもが怖い。

 

そのときだった。

 

空が、ざわめいた。

 

黒い何かが――

空を覆うように、こちらへ向かってくる。

 

カラスだ。

 

何十羽も。

何百羽も。

 

羽音が、廃墟の上で渦を巻く。

不気味な鳴き声が、空気を震わせた。

 

 

――その瞬間。

 

パンッ。

 

銃声が鳴った。

 

(1/20)

 

幽鬼が金子を背負って住みかの廃墟へ戻ってきたとき。

そこに――

青井だったものがあった。

 

体の中身をほじくられたような。

ゲームでも、めったに見ないような光景だった。

 

幽鬼は即座に壁に身を隠した。

周囲を警戒する。

 

耳を澄ます。

 

風の音。

遠くのカラスの鳴き声。

 

それだけだ。

 

人の気配はない。

 

幽鬼は警戒を緩めないまま、廃墟の中をくまなく調べた。

 

部屋。廊下。階段。

 

だが――

誰もいない。

 

犯人も。

 

黒糖も、桃乃も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金子は吐いた。

 

幽鬼は最初、

「見ないほうがいい」

と言った。

だが金子は聞かなかった。

 

そして、見た。 

「……誰が、こんなことを」

 

震える声で言った。

幽鬼は青井の死体を観察する。

 

「体を調べたけど……弾痕みたいなものがあった」

 

「じゃあ、犯人は……密会って人たちですか」

 

「さあ」

 

幽鬼は短く答えた。

 

「密会の人間かもしれないし」

 

「密会から銃を手に入れた誰かかもしれない」

少し考える。

 

「ただ、理由がよくわからない」

 

幽鬼は青井の死体をもう一度見た。

 

「乱暴された跡もないし……」

「金目のものを奪われたわけでもない」

 

廃墟の中は静まり返っていた。

 

さっきまで、ここにいたはずなのに。

 

青井も。

黒糖も。

桃乃も。

 

まるで、

最初から誰もいなかったかのように。

 

 

 

 

 

 

 

青井の遺体を、二人で近くに埋めた。

そのあと、幽鬼と金子は廃墟の近くを歩いた。

青井が死んだ場所に、今は戻りたくなかった。

それに。

黒糖たちが、もしかしたら戻ってくるかもしれない。

そんな期待もあって、

廃墟からあまり離れない場所を、

あてもなく歩き続けた。

 

 

「幽鬼さん……」

 

金子がぽつりと聞く。

 

「どうして密会を探さないんですか」

 

幽鬼は少しだけ考えてから答えた。

 

「手がかりがなさすぎる」

「それに、探したところで青井さんが生き返るわけでもない」

少し間を置く。

 

「私たちは、そんなことに構っている余裕もない」

「金子も……今回のことは忘れて、ゲームのことを一番に考えたほうがいい」

金子は言い返したかった。

 

けれど。

 

もう、何かをしゃべる気力すら、

あまり残っていなかった。

 

 

 

 

 

二人は廃墟に戻った。

黒糖たちの帰りを待つために。

 

だが。

 

一日。

 

二日。

 

 

待っても、

誰も帰ってこなかった。

 

 

 

 

「幽鬼さん。今日はゲームに参加しませんか」

 

金子が言った。 

「ゲーム会場にもしかしたら、密会について知っている人がいるかもしれません」 

「金子……そういうのはやめたほうがいいよ」 

幽鬼は首を振った。

「変に嗅ぎまわって目をつけられるのはまずい。ゲーム中ならなおさら……」

金子は幽鬼をまっすぐ見た。

 

「私は、青井さんを殺した人たちを絶対に見つけ出します」

 

「幽鬼さんが今日はやめておくなら、私一人でも行きます」

 

 

幽鬼は少し考えた。

 

そして、

金子と一緒にゲームに参加することにした。

 

 

 

日が落ちた。

廃墟から、かなり近い場所がゲーム会場になっていた。

幽鬼と金子は、会場へ向かった。

 

 

そこは――

 

教会だった。

 

 

フォン。

 

ゲーム会場に入ったときの、いつもの音が鳴る。

 

入口のすぐ先には、

いつもの紙とスマートフォン。

 

だが今回は――

それが、大量に置かれていた。

 

 

参加人数 無制限

スマートフォン 一人一台まで

 

 

スマートフォンを手に取り、奥へ進む。

すると。

そこには――

たくさんの花嫁たちがいた。

 

(2/20)

 

「服を着替えるそうですわ」

 

聞き覚えのある声がした。

 

御城だ。

 

御城が指さした先には、

純白の花嫁衣装が並んでいた。

 

どんな参加者にも対応できるように、

サイズは様々だ。

 

 

幽鬼と金子も衣装に着替えた。

 

結婚前に花嫁衣装を着ると、

婚期が遅れるとか、

結婚できなくなるとか――

そんな話をどこかで聞いたことがある。

 

だが幽鬼は、

結婚どころか恋愛感情の回路があるかどうかすら怪しい。

だから特に気にはならない。

 

 

けれど、

金子はどうだろう。

 

初めて会ったときから、

どこか育ちの良さを感じていた。

 

もし金子が結婚したら――

父親は泣くかもしれない。

 

もしかしたら、

「娘はやらん」と言って、

花婿を殴ろうとするかもしれない。

 

 

そんなことをぼんやり考えながら、

幽鬼はゲームの準備を終えた。

 

 

「御城さん」

 

着替え終わるとすぐに、

金子は御城に声をかけた。

 

「密会の居場所を教えてください」

 

 

「……幽鬼さんのお知り合いですわね」

 

御城は少し首をかしげる。

 

「どうしましたの? いきなり」

 

御城はしゃがみ込み、

金子と目線を合わせた。

 

まるで、

小さな子供に接するかのように。

 

 

「私の大切な友達が殺されました」

 

金子はまっすぐ御城を見た。

 

「あなたが何か知っているなら、すべて教えてください」

 

 

一瞬、息を吸う。

 

 

「教えてくれないのなら――」

 

 

「私はあなたのことを許しません」

 

 

 

珍しく、

金子は大きな声を出していた。

 

周囲の花嫁たちも、

ざわりと金子の方を見る。

 

 

 

御城は少しだけ目を細めた。

 

 

「ただで教えろ、と?」

 

 

「それに――」

 

 

「貴方が許さなかったからといって、何になりますの?」

御城は、穏やかな笑みを浮かべたまま言う。

 

「知っていますか」

 

「子供の言葉を聞いてくれるのは、相手が優しいから」

 

「そして」

 

「子供が馬鹿なことを言っているから、微笑ましくて」

 

「適当に話を合わせてくれるだけですよ」

 

 

20分ほどしてから

アナウンスが鳴った。

 

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ゲームを開始します

難易度 すぺえどのさん

ゲーム:「バージンロード」

ルール:

バージンロードを歩きましょう。

幸せな結婚ができますように。

 

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