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幽鬼と金子がゲーム会場へ向かって、しばらく経ったころだった。
「青井さん……やっぱり私のこと怒ってるよね」
黒糖がぽつりと聞いた。
「い、いえ……ゲームなので……」
青井はおびえたように答えた。
明らかに気にしている。
当然だ。
幽鬼さんがいなければ、私は死んでいた。
けれど、それを態度に出してはいけない。
逆らってはいけない。
言い返してはいけない。
幽鬼さんたちがいなければ――
いや。
私は、誰かと一緒にいないと生きていけない。
このグループから出るわけにはいかない。
不快にさせてはいけない。
困らせてはいけない。
桃乃がこちらを見ている。
桃乃は別に悪い人ではない。
どちらかと言えば、いい人だと思う。
だが――
別に、私のために何かをしてくれるわけでもない。
ただ、何も言わずにこちらを見ているだけだ。
「あー、そういえば」
黒糖が少し明るい声を出した。
「幽鬼さんって、もう28日もこの世界で生きてるらしいですけど……本当にすごいですよね」
話題を変えようとしているのだろう。
私たちにとっての共通の話題は、
この世界と――
幽鬼さんのことくらいしかない。
私たち三人は、昨日会ったばかりだ。
仲がいいわけでもない。
昔からの知り合いでもない。
幽鬼さんたちが戻ってくるまで、
この狭い廃墟で、ただ待ち続ける。
それは思った以上に――
しんどいものだった。
私はしゃべることが苦手だ。元の世界はそれで何度も怒られた。
普通にしゃべりなさい。落ち着いて、緊張しなくてもいいよ。
何度も何度も違う人に言われ続けた。
人と交わらなくても生きていける強さが私も欲しかった。
幽鬼さん.....あの人は別世界の人間だ。人と問題なく交わることができるが、別に人そのものを欲していない。あんな強さを私も持っていたら。どれだけ幸せだっただろうか。
あと6日。それが私の残りの命。
次のゲームでは私はきっと生き残れない。明日のことを考えたくない。朝が来るのが怖い。夜が来るのも何もかもが怖い。
そのときだった。
空が、ざわめいた。
黒い何かが――
空を覆うように、こちらへ向かってくる。
カラスだ。
何十羽も。
何百羽も。
羽音が、廃墟の上で渦を巻く。
不気味な鳴き声が、空気を震わせた。
――その瞬間。
パンッ。
銃声が鳴った。
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幽鬼が金子を背負って住みかの廃墟へ戻ってきたとき。
そこに――
青井だったものがあった。
体の中身をほじくられたような。
ゲームでも、めったに見ないような光景だった。
幽鬼は即座に壁に身を隠した。
周囲を警戒する。
耳を澄ます。
風の音。
遠くのカラスの鳴き声。
それだけだ。
人の気配はない。
幽鬼は警戒を緩めないまま、廃墟の中をくまなく調べた。
部屋。廊下。階段。
だが――
誰もいない。
犯人も。
黒糖も、桃乃も。
金子は吐いた。
幽鬼は最初、
「見ないほうがいい」
と言った。
だが金子は聞かなかった。
そして、見た。
「……誰が、こんなことを」
震える声で言った。
幽鬼は青井の死体を観察する。
「体を調べたけど……弾痕みたいなものがあった」
「じゃあ、犯人は……密会って人たちですか」
「さあ」
幽鬼は短く答えた。
「密会の人間かもしれないし」
「密会から銃を手に入れた誰かかもしれない」
少し考える。
「ただ、理由がよくわからない」
幽鬼は青井の死体をもう一度見た。
「乱暴された跡もないし……」
「金目のものを奪われたわけでもない」
廃墟の中は静まり返っていた。
さっきまで、ここにいたはずなのに。
青井も。
黒糖も。
桃乃も。
まるで、
最初から誰もいなかったかのように。
青井の遺体を、二人で近くに埋めた。
そのあと、幽鬼と金子は廃墟の近くを歩いた。
青井が死んだ場所に、今は戻りたくなかった。
それに。
黒糖たちが、もしかしたら戻ってくるかもしれない。
そんな期待もあって、
廃墟からあまり離れない場所を、
あてもなく歩き続けた。
「幽鬼さん……」
金子がぽつりと聞く。
「どうして密会を探さないんですか」
幽鬼は少しだけ考えてから答えた。
「手がかりがなさすぎる」
「それに、探したところで青井さんが生き返るわけでもない」
少し間を置く。
「私たちは、そんなことに構っている余裕もない」
「金子も……今回のことは忘れて、ゲームのことを一番に考えたほうがいい」
金子は言い返したかった。
けれど。
もう、何かをしゃべる気力すら、
あまり残っていなかった。
二人は廃墟に戻った。
黒糖たちの帰りを待つために。
だが。
一日。
二日。
待っても、
誰も帰ってこなかった。
「幽鬼さん。今日はゲームに参加しませんか」
金子が言った。
「ゲーム会場にもしかしたら、密会について知っている人がいるかもしれません」
「金子……そういうのはやめたほうがいいよ」
幽鬼は首を振った。
「変に嗅ぎまわって目をつけられるのはまずい。ゲーム中ならなおさら……」
金子は幽鬼をまっすぐ見た。
「私は、青井さんを殺した人たちを絶対に見つけ出します」
「幽鬼さんが今日はやめておくなら、私一人でも行きます」
幽鬼は少し考えた。
そして、
金子と一緒にゲームに参加することにした。
日が落ちた。
廃墟から、かなり近い場所がゲーム会場になっていた。
幽鬼と金子は、会場へ向かった。
そこは――
教会だった。
フォン。
ゲーム会場に入ったときの、いつもの音が鳴る。
入口のすぐ先には、
いつもの紙とスマートフォン。
だが今回は――
それが、大量に置かれていた。
参加人数 無制限
スマートフォン 一人一台まで
スマートフォンを手に取り、奥へ進む。
すると。
そこには――
たくさんの花嫁たちがいた。
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「服を着替えるそうですわ」
聞き覚えのある声がした。
御城だ。
御城が指さした先には、
純白の花嫁衣装が並んでいた。
どんな参加者にも対応できるように、
サイズは様々だ。
幽鬼と金子も衣装に着替えた。
結婚前に花嫁衣装を着ると、
婚期が遅れるとか、
結婚できなくなるとか――
そんな話をどこかで聞いたことがある。
だが幽鬼は、
結婚どころか恋愛感情の回路があるかどうかすら怪しい。
だから特に気にはならない。
けれど、
金子はどうだろう。
初めて会ったときから、
どこか育ちの良さを感じていた。
もし金子が結婚したら――
父親は泣くかもしれない。
もしかしたら、
「娘はやらん」と言って、
花婿を殴ろうとするかもしれない。
そんなことをぼんやり考えながら、
幽鬼はゲームの準備を終えた。
「御城さん」
着替え終わるとすぐに、
金子は御城に声をかけた。
「密会の居場所を教えてください」
「……幽鬼さんのお知り合いですわね」
御城は少し首をかしげる。
「どうしましたの? いきなり」
御城はしゃがみ込み、
金子と目線を合わせた。
まるで、
小さな子供に接するかのように。
「私の大切な友達が殺されました」
金子はまっすぐ御城を見た。
「あなたが何か知っているなら、すべて教えてください」
一瞬、息を吸う。
「教えてくれないのなら――」
「私はあなたのことを許しません」
珍しく、
金子は大きな声を出していた。
周囲の花嫁たちも、
ざわりと金子の方を見る。
御城は少しだけ目を細めた。
「ただで教えろ、と?」
「それに――」
「貴方が許さなかったからといって、何になりますの?」
御城は、穏やかな笑みを浮かべたまま言う。
「知っていますか」
「子供の言葉を聞いてくれるのは、相手が優しいから」
「そして」
「子供が馬鹿なことを言っているから、微笑ましくて」
「適当に話を合わせてくれるだけですよ」
20分ほどしてから
アナウンスが鳴った。
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ゲームを開始します
難易度 すぺえどのさん
ゲーム:「バージンロード」
ルール:
バージンロードを歩きましょう。
幸せな結婚ができますように。