人類時間保証機構 カルデアスライナー CHALDEAS LINER   作:まだら模様

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軽ーく書きました。
相変わらずのガバガバ設定の突貫工事なので期待しないでください…


第一話「俺、参上」

 

 

 南極というのは、想像以上に静かな場所だった。

 

 羽田から輸送機で十数時間。砕氷船に乗り換えてさらに数日。到着した先にあったのは、果てしない白と、吹き荒れる風と──そして、こんな場所には似つかわしくないほど巨大な施設だった。

 

 「カルデア」。

 

 正式名称、人理継続保障機関カルデア。

 

 召集通知を受け取ったとき、俺はそれが何なのかまったく理解できなかった。封筒の差出人欄には「時計塔認定・魔術師養成機関 カルデア」とあり、中身には「あなたの協力を必要としています」という、やけに簡素な文面しかなかった。

 

 俺、野上立花には魔術の素養などない。魔術師の家系でもない。どこにでもいる、ごく普通の青年だ。なのになぜこんな場所に呼ばれているのか、到着した今もまだよくわかっていない。

 

 ただひとつ言われたのは、「あなたにしかできないことがある」ということだった。

 

 ……まあ、正直に言うと、それだけで来てしまったんだが。

 

 「野上立花さんですね」

 

 施設に入ると、すぐに声をかけられた。

 

 白いコートを纏った、小柄な少女だった。亜麻色の髪を後ろで束ね、大きな目でこちらをまっすぐ見上げている。年齢は俺より少し下くらいだろうか。でも立ち姿にどこか凛とした雰囲気があって、ただの少女には見えなかった。

 

 「はい、そうですが」

 

 「お待ちしていました。私はマシュ・キリエライトと申します。カルデアのスタッフです。本日はご来館ありがとうございます──あ、いえ、ご来所、です」

 

 少し噛んだ。でも慌てて言い直すその様子が妙に親近感を呼んで、俺は思わず小さく笑った。

 

 「野上立花です。よろしく、マシュさん」

 

 「はい。よろしくお願いします、先輩」

 

 先輩。

 

 なんで初対面でそう呼ぶんだろうとは思ったが、不思議と嫌な感じはしなかった。

 

 

 

 

 

 案内されたのはカルデアの中央管制室だった。

 

 広い。ものすごく広い。半球状の天井一面にホログラムが広がっていて、そこには無数の数値と、光る球体──「カルデアス」と呼ばれる人理観測装置らしい──が浮かんでいた。

 

 部屋の中心で仁王立ちしていたのは、白銀の髪をした女性だった。年齢は二十代後半くらい。整った顔立ちをしているのに、なんというか、常に険しい。存在感が圧力として伝わってくるタイプだ。

 

 「来たわね」

 

 「オルガマリー所長です」とマシュが小声で教えてくれた。

 

 オルガマリー・アニムスフィア。カルデアの所長。マシュの説明では、この施設の最高責任者らしい。

 

 「野上立花ね。あなたのことは調べてあります。魔術の素養はなし、魔術師の家系でもなし、特筆すべき経歴もなし」

 

 「……はあ」

 

 「でもあなたには、カルデアのコフィンに対するレイシフト適性が百パーセントある。それだけで、ここに呼ぶ価値は十分です」

 

 百パーセント。

 

 俺はその意味を理解しようとして、うまくできなかった。コフィン──時間遡行装置への適性が、満点ということ。通常はどれほど優秀な魔術師でも数パーセントがいいところだという。なのにどうして俺が。

 

 「理由は後で説明します。今は──」

 

 そのとき、管制室の端にいた白衣の男が手を振ってきた。

 

 「やあやあ、新顔くん! 僕はロマニ・アーキマン。カルデアの医務室長だよ。気軽にロマンって呼んでね」

 

 「どうぞよろしく。ロマン先生」

 

 「先生はよして。あと君、初対面なのに全然緊張してないね。度胸あるなあ」

 

 「緊張しても仕方ないので」

 

 「ははは、それはそうだ」

 

 ロマニはくしゃっとした笑顔で笑った。なんというか、妙に親しみやすい人だ。

 

 その少し後ろに、見るからに天才然とした女性がいた。茶色の巻き毛に、品のある笑み。

 

 「私はレオナルド・ダ・ヴィンチ。君が噂の特異点くんだね。ふふ、面白い体質だ。会えて光栄だよ」

 

 「……ダ・ヴィンチ、って、あの?」

 

 「そのダ・ヴィンチだよ。驚いた? まあここはそういう場所だから、追々慣れてくれたまえ」

 

 サーヴァント、という概念についてはその後ロマンから教えてもらったが、正直まだあまり実感が湧いていない。

 

 

 

 

 

 案内される途中、廊下の窓から外を見た。南極の白い大地が広がっている。こんな場所に、これほどの施設がある。魔術師というのはどれだけの金と技術を持っているんだろうと思った。

 

 「驚いてないね」

 

 隣を歩くダヴィンチが、楽しそうに言った。

 

 「カルデアスを見ても、私を見ても。普通の人はもっとびっくりするものだけど」

 

 「驚いてないわけじゃないけど、騒いでも状況は変わらないので」

 

 「ふうん」ダヴィンチは顎に指を当てた。「合理的だね。でもそれ、寂しくならないかい」

 

 「寂しい?」

 

 「驚いたり、感動したり、そういう感情を省エネするのが習慣になると──大事なところで反応できなくなることがある。まあ、余計なお世話だけど」

 

 俺は少し考えた。

 

 「省エネしてるつもりはないですけど」

 

 「そうかい。じゃあいいんだ」

 

 ダヴィンチは軽やかに笑って、先を歩いていった。なんとなく、この人は俺のことを試しているのかもしれないと思った。

 

 

 

 

 

 説明を受けた後、俺はコフィン室に案内された。

 

 カプセル状の装置が整然と並んでいる。これが、人間を過去に転送するための装置──タイムレイシフト型コフィン。俺が乗ることになる「棺桶」だ。

 

 「今日はまず機器の確認をします」とオルガマリーが言った。「レフ、頼めますか」

 

 「もちろんです、所長」

 

 応えたのは、眼鏡をかけた長身の男だった。穏やかな笑みを浮かべたその人物──レフ・ライノールは、カルデアの技術主任らしかった。

 

 俺はコフィンの隣に立ち、説明を聞きながら、ふと室内を見渡した。

 

 ここには俺以外にも、何人かレイシフト適格者がいるらしかった。みんな、専門的な訓練を積んだ魔術師たちだろう。そんな中に、素人同然の俺がひとりいる。

 

 (場違いだな)

 

 そう思った瞬間だった。

 

 

 

 

 

 ──爆発が、起きた。

 

 

 

 

 

 轟音。熱波。視界が真っ白に染まって、体が吹き飛ばされる感覚。

 

 気がついたとき、俺は床に倒れていた。

 

 煙が充満している。どこかで警報が鳴り響いている。コフィンのいくつかが破損し、火花を散らしていた。

 

 「──っ、何が」

 

 立ち上がろうとして、足に力が入らない。でも不思議と痛みはなかった。爆発の中心にいたはずなのに、俺の体には傷ひとつない。

 

 周囲を見ると、他の適格者たちが次々と倒れていた。コフィンが起動し、彼らを強制的に「眠り」に就かせているように見えた。

 

 「レフ──!」

 

 オルガマリーの声が聞こえた。

 

 「レフ、これはどういうこと!?」

 

 「申し訳ありません、所長」

 

 煙の中から現れたレフ・ライノールは、もう笑っていなかった。整った顔に、冷たい光だけがある。

 

 「これは──必要なことだったのだよ」

 

 裏切り。

 

 言葉にしなくても、その意味は伝わった。俺はゆっくりと体を起こしながら、状況を把握しようとした。コフィン室の半壊。スタッフたちの昏睡。そしてレフの変貌。

 

 (なんで俺は──平気なんだ)

 

 それだけが、わからなかった。あれほどの爆発の中心にいて、なぜ俺だけが無傷で意識を保っていられるのか。

 

 答えはすぐに来た。ただし、まったく予想していない形で。

 

 

 

 「よう」

 

 

 

 声が、した。

 

 俺の──頭の中に、直接。

 

 低くて、どこか乱暴で、でも不思議と怯えを感じさせない声だった。

 

 (誰だ)

 

 「誰だじゃねえよ。俺様だよ、俺様。せっかく来てやったのに随分な挨拶だな」

 

 姿は見えない。でも声は確かに聞こえる。俺の頭の中で、はっきりと。

 

 「……イマジン、か」

 

 「おっ、知ってんじゃん」

 

 声が少し明るくなった気がした。

 

 カルデアに来る前、ロマンから少しだけ聞いた話が頭に浮かぶ。時間の狭間に潜む存在。人間に契約を持ちかけ、望みを叶える代わりに取り憑く──イマジン。

 

 「お前に取り憑いてやるよ。俺の名前はモモタロス。覚えとけ」

 

 「……それで?」

 

 「それでって何だよ。ビビれよ。怖がれよ。もうちょっとリアクションってもんがあるだろ」

 

 「取り憑かれたら困るな、とは思ってるけど」

 

 「……お前、絶対普通じゃないな」

 

 俺の中でモモタロスが何かをしようとする気配があった。押し込んでくるような、侵食してくるような感覚。でもそれは──するりと、流れた。砂が指の間からこぼれるみたいに、何も残らない。

 

 しばらくの沈黙。

 

 「……なんで効かねえんだ」

 

 困惑した声。さっきまでの威勢がきれいに消えている。

 

 「俺が特異点だからじゃないか」

 

 「特異点?」

 

 「時間の影響を受けない体質、らしい。イマジンの契約も、同じように受け付けないんじゃないか」

 

 また沈黙。今度はさらに長い。

 

 「……意味わかんねえ」

 

 「俺もよくわかってない」

 

 「じゃあなんで平然としてんだよ」

 

 「平然としてないと困るから」

 

 そう答えながら、俺は立ち上がった。煙の向こうでレフとオルガマリーが対峙している。マシュの声もどこかから聞こえた。今は状況を整理しなければいけない。

 

 モモタロスが、もう一度だけ押し込んでくる気配があった。やっぱり流れた。

 

 「……くそ、ほんとに効かねえ」

 

 「諦めたほうがいい」

 

 「諦めるか! 俺はモモタロスだぞ!」

 

 「知ってる。さっき自己紹介してた」

 

 「うるせえ!」

 

 なんというか、思ったよりも話が通じる存在だった。怖いとか、気持ち悪いとかいう感覚が不思議と湧いてこない。ただ、頭の中に赤くて乱暴な何かがいる、という感じ。

 

 俺は煙の中を歩きながら、マシュの声がした方向に向かった。

 

 

 

 

 

 管制室に戻ると、そこには予想外の光景があった。

 

 デッキの端──カルデアの「ホーム」と呼ばれる区画に、一両の電車が停まっていた。

 

 赤と黒と金のカラーリング。どこか荘厳で、でも妙に生き物めいた気配を持つ、奇妙な列車。

 

 「デンライナー……」

 

 俺の頭の中でモモタロスが反応した。「あっ」という、小さな声。

 

 「知ってるのか」

 

 「知ってるも何も……俺の電車だよ」

 

 「お前の?」

 

 「乗ってたんだよ、ずっと。なんでこんなとこに──」

 

 そのとき、電車の扉が開いた。

 

 中から出てきたのは、ひとりの老紳士だった。品のある黒のスーツに、穏やかな笑みを浮かべた白髪の男性。年齢は見た目よりずっと上のような気もするし、まったく測れないような気もした。

 

 「やあ」

 

 老紳士は、まるで旧友に会うような口調で言った。

 

 「待っていたよ、野上立花くん」

 

 「……あなたは」

 

 「オーナーと呼んでおくれ。この電車の、まあ言ってしまえば持ち主だ」

 

 俺の頭の中でモモタロスが「あ、オーナー」と言った。知り合いらしい。

 

 「カルデアに何か?」

 

 「何か、というわけではない。ただ──時間というのは、複雑でね」

 

 老紳士は穏やかな目で俺を見た。

 

 「人理継続保障機関が直面しようとしている問題は、カルデアだけでは解決が難しい。時間の流れに干渉するイマジンが、各特異点に潜伏しているから。だから──協力することにした」

 

 「カルデアと、デンライナーが?」

 

 「そういうことだ。この場所の名前も、少し変わることになるね」

 

 オーナーは電車を振り返り、それからもう一度俺を見た。

 

 「人類時間保証機関──カルデアスライナー。それが、これからの君たちの名前だ」

 

 そのとき、電車の中からもう一人出てきた。

 

 俺と同じくらいの年齢の、ショートヘアの女性。どこか険しい顔立ちをしているが、整っている。腕を組んで、まず電車を振り返り、それからこちらを一瞥した。

 

 「……また増えたの、厄介ごとが」

 

 「ハナ、お行儀よく」

 

 オーナーが穏やかに言う。ハナと呼ばれた女性は「わかってる」と短く返した。

 

 「野上立花、でいいのね」

 

 「はい」

 

 「覚えておく。私はハナ。この電車の──まあ、管理みたいなことをしてる。よろしく」

 

 「よろしくお願いします」

 

 「敬語はいい。どうせすぐに崩れる」

 

 ハナは言い切って、また電車の中に戻った。オーナーが「素直な子なんだよ」と申し訳なさそうに笑った。俺は「そうですね」と答えた。

 

 

 

 

 

 その後の時間は慌ただしかった。

 

 レフは──どこかへ消えていた。煙と混乱の中で姿をくらませたらしい。オルガマリーは悔しそうな顔をしながらも、すぐに立て直しにかかった。昏睡した適格者たちは生命維持はされているが、起こすことができない状態だという。

 

 つまり、動けるのは。

 

 「先輩、大丈夫ですか」

 

 隣にいたマシュが声をかけてきた。盾を携えたデミ・サーヴァント。この状況で一番頼れる存在かもしれない。

 

 「平気。マシュは?」

 

 「私も大丈夫です。ただ──」

 

 マシュが管制室の大画面を見上げた。そこには、燃えている映像が映し出されていた。

 

 炎の海。

 

 建物も、道路も、すべてが燃えている。現代の街並みが、跡形もなく。

 

 「特異点F──西暦二〇〇四年の冬木市です」

 

 ロマンが静かに言った。「最初の目的地。人理が焼却された痕跡が最初に現れた場所。ここを修正しなければ、すべては始まらない」

 

 「行くの? 今すぐ?」

 

 「行けるのが、君とマシュしかいない今となっては──そうなるね」

 

 俺は画面の炎を見つめた。

 

 頭の中でモモタロスが、ぼそっと言った。

 

 「……行くのか」

 

 「行かないといけないみたいだから」

 

 「巻き込まれたな、俺も」

 

 「嫌なら出て行けばいいんじゃないか」

 

 少しの間があった。

 

 「……嫌じゃねえよ、別に」

 

 声が、少しだけ低くなった。照れているのか、それとも別の何かか。

 

 「面白そうだし。それに──お前みたいなやつ、初めてだ」

 

 「そうか」

 

 「そうかって何だよ。もっと喜べよ」

 

 「喜んでる。声に出してないだけで」

 

 「……ほんとに変なやつだな」

 

 俺はオーナーに向き直った。静かに立つ老紳士は、何も言わずに待っていた。

 

 「カルデアスライナーで、特異点まで行けるんですか」

 

 「もちろん。それがこの電車の役目だから」

 

 「わかりました」

 

 俺は一度だけ深呼吸して、マシュを見た。

 

 「行こう、マシュ」

 

 「はい、先輩!」

 

 オルガマリーが小さく、でも確かな声で言った。

 

 「──グランドオーダー。発令します」

 

 

 

 

 カルデアスライナーのエンジンが、静かに、唸り始めた。

 

 

 

            

 

 

 

 

 電車の中は、思ったより広かった。

 

 乗り込んでみると、カフェのような内装になっている。カウンターには気の良さそうな女性がいて、「いらっしゃいませ~」と穏やかに笑った。ナオミ、という名らしい。

 

 「コーヒー飲みますか?」

 

 「いただきます」

 

 「えっ飲むの」とロマンが小声で言った。「あれ、すごく不味いよ」

 

 「失礼ですよ、ロマン先生」とマシュが困り顔をした。

 

 渡されたコーヒーを一口飲んで──俺は笑いをこらえた。ロマンの言う通りだった。でも出してくれた手前、何も言わなかった。

 

 「どうですか?」

 

 「美味しいです」

 

 ナオミが嬉しそうに笑った。それでいいと思った。

 

 そのとき、車内の隅から何かがぬっと現れた。

 

 いや、正確には何かが──俺の体から出てきた。

 

 赤い、人型の影。ゆらゆらと揺れるそれは、あっという間に実体を持ち、そこに立った。がっしりした体格に、赤いコートめいた体表。顔はデフォルメされたような、どこか怪異じみた造形。

 

 「よっしゃ出てきた! 狭かったぞ、中!」

 

 モモタロスが、大声で言った。

 

 車内が一瞬で静まり返った。

 

 マシュが盾を構えかけた。ロマンが「うわっ」と引いた。ナオミが「あら」と言った。

 

 「落ち着いて。敵じゃない」

 

 俺が言うと、マシュが「……先輩、これは」と問いかけてきた。

 

 「俺に契約を持ちかけてきたイマジン。でも特異点だったから失敗して、今は……まあ、同居してる」

 

 「どんな説明だよ!」とモモタロスが叫んだ。「もっとかっこよく紹介しろ!」

 

 「じゃあどう紹介すればいい」

 

 「俺はモモタロス! 最強のイマジンだ! 覚えとけ!」

 

 自己紹介した。

 

 しばらく沈黙が続いた後、ロマンが「……なんか思ったより陽気な存在だね」とつぶやいた。

 

 「陽気ってなんだよ!」

 

 「いや、もっと怖い感じかと思ってたから」

 

 「怖いわ! 俺は怖いイマジンだわ!」

 

 「うん、でも喋り方がなんか……」

 

 「なんかって何だよ!」

 

 モモタロスとロマンの言い合いが始まった。その横でナオミが「もうコーヒーいかがですか」と二人に差し出したので、会話が一瞬止まった。

 

 なんというか。

 

 カルデアスライナーというのは、こういう場所らしい。

 

 俺は窓の外を見た。時間の流れの狭間を走るこの電車の外側には、何もない。ただ光だけがある。過去へ、特異点へ向かって、電車は走り続けている。

 

 「なあ」

 

 モモタロスが、唐突に俺の隣に座ってきた。ロマンとの言い合いを途中で切り上げて。

 

 「お前、怖くないのか」

 

 「何が」

 

 「これから行くとこ。燃えてる街とか、なんかよくわかんないやつと戦うとか」

 

 「怖いよ」

 

 「じゃあなんで」

 

 「行かないといけない理由がある方が、怖い理由より大きかったから」

 

 モモタロスが、少し黙った。

 

 「……なんだよそれ」

 

 「うまく言えないけど、そういうことだ」

 

 「ふん」

 

 モモタロスは腕を組んで、ふいと窓の外を向いた。

 

 「まあ、俺がいてやるから安心しろ。俺は最強だからな」

 

 「ありがとう」

 

 「礼を言うな、照れるだろ」

 

 「照れてるのか」

 

 「照れてねえ!」

 

 マシュがこちらを見て、小さく微笑んでいた。ロマンが「なんか仲いいね君たち」と言った。

 

 「仲良くない!」とモモタロスが叫んだ。

 

 俺は何も言わなかった。言わなくていいと思った。

 

 

 

 電車はやがて速度を上げ、光の中に溶けていった。

 

 行き先は、二〇〇四年──炎の冬木。

 

 人類時間保証機関カルデアスライナー、最初の特異点への旅が、今始まった。

 

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