今まで見てみたかったクロスオーバーをAIに任せて作ってみました。AIに抵抗がない方は是非楽しんでお読みください
第1話:白銀の不条理と、消失する夕飯
北側諸国の冬は、ただひたすらに白く、そして峻烈な静寂に支配されている。
天を衝くような針葉樹の森は分厚い雪に覆われ、肺の奥まで凍りつくような鋭い風が、何百年も変わらぬ子守唄のように吹き抜けていた。生命の息吹すら拒絶する過酷な白銀の世界。
その手付かずの雪原の中心に、ポツンと、ひどく場違いな原色が立っていた。
鮮やかな黄色のスーツに、薄汚れた赤いマント。
そして、雪の照り返しを受けてピカピカと乱反射する、滑らかな禿頭である。
「……さっむ」
男――サイタマは、吐く息を白く染めながら、間延びした声でぼやいた。
彼はつい先ほどまで、元の世界で「神」の力を与えられた怪人と対峙し、星空すらも布切れのように掴み取るほどの宇宙規模の空間操作の渦中にいたはずだった。次元の境界そのものが崩壊するほどの死闘。いや、彼にとっては少し派手な暇つぶし程度の出来事であったが、その余波によって、気づけばこの見知らぬ極寒の雪山へと放り出されていたのである。
しかし、サイタマの心臓が高鳴ることはない。彼はすでに、あらゆる障害を克服し、己の限界すらも突破した果てに「悟りの後に続く絶対的な虚無」へと到達してしまっている。強さの頂点を極め、もはや何者も自分を脅かすことができないという平穏は、皮肉なことに、彼から生きる実感と情動を奪い去っていた。だからこそ、宇宙の法則が捻じ曲がり別次元へ転移するという超常的な事象に巻き込まれても、彼の心には一滴の波紋も生じなかった。
「あーあ、今日のスーパーのタイムセール、間に合わなかったな。せっかく白菜が安かったのに……」
赤いマントに積もった雪を無造作に払い落としながら、サイタマは深くため息をついた。未知の異世界への恐怖や、元の世界への帰還方法に対する切実な探求心よりも、今夜の鍋の具材を逃したことの方が、彼にとってはよほど深刻でリアルな喪失なのだ。
とりあえず寒さをしのごうと歩き出そうとしたその時、彼は自身の頭部に奇妙な違和感を覚えた。冷たい風とは異なる、何かしっかりとした質量が頭に「乗っている」ような感覚。
彼は無意識に手を伸ばし、自らのつるりとした頭頂部を撫でた。
「……ん?」
滑らかな頭の左右、側頭部の上あたりから、何かが生えていた。硬く、冷たく、天に向かって緩やかに湾曲した黒曜石のような物体。
「角(つの)……?」
サイタマは近くの凍りついた湖面まで歩き、磨き上げられた氷の鏡に映る自分の姿を覗き込んだ。間違いない。黄色いスーツの気の抜けた顔はいつも通りだが、立派な二本の黒い角が、まるで最初からそこにあったかのように鎮座している。
「マジかよ……」
彼は、地球が滅亡の危機に瀕した時よりも遥かに絶望的な声を出した。
「髪の毛が生えるならまだしも、なんで角が生えんだよ。これじゃヘルメットかぶれなくなるじゃん……つーか、寝癖みたいなもんかこれ?」
彼はしばらく角の根元を掴み、本気で引っこ抜こうと力任せに引っ張ってみた。しかし、それは頭蓋骨にしっかりと癒着しているらしく、強く引くと自分の首の骨がメキメキと嫌な音を立てたため、あっさりと諦めた。
彼には知る由もないことだが、この世界の法則においてその角は、人類を言葉で欺き狩る怪物「魔族」であることを示す、決定的な視覚的指標であった。
「まあいいか。悩んでもしょうがねえし」
彼は数秒で現実を受け入れた。あるいは、考えるのを完全に放棄した。
雪をざくざくと踏みしめながら、当てもなく歩き始める。極寒の冷気によって体温を奪われるほどのダメージはないが、純粋に、そして猛烈に腹が減ってきた。できれば温かいものが食べたい。うどんとか、出汁の効いたおでんがいい。
しばらく雪深い森を進むと、前方の茂みから低い唸り声が聞こえた。
現れたのは、巨大な白い狼のような姿をした獣だった。飢えた赤い瞳と、全身から漏れ出す微かな魔力。それは紛れもなく、この過酷な森を縄張りとする凶暴な魔物であった。魔物は明らかに、目の前にいる黄色いスーツの男を「脆弱な餌」として捉えていた。
「おっ、犬か? いや、ずいぶんデカいな。まあいい、ちょうど腹減ってたし、今日の鍋の肉にはなるだろ」
サイタマの言葉が終わるか終わらないかのうちに、獣が雪を蹴り立て、鋭い牙を剥き出しにして彼の喉元へと一直線に飛びかかってきた。
その速度は常人であれば反応すらできない致命的な一撃だったが、サイタマにとっては、止まっている風景を眺めるに等しい。彼は飛んでいる鬱陶しいハエを払うかのように、無造作に右手を軽く横に振った。
『パンッ!』
張り詰めた冷たい空気を引き裂くような、乾いた破裂音。
獣の巨体は、サイタマが空気を叩いただけで生じた物理的な衝撃波をモロに受け、空中で跡形もなく弾け飛んだ。
「よし、これで肉は確保――」
だが、サイタマが期待した「新鮮な肉」が雪原に転がることはなかった。
獣の身体は一瞬にして黄金色に輝く無数の粒子――マナの粒子へと分解され、サラサラと風に吹かれて虚空へと完全に溶けて消えてしまったのである。
「……えっ?」
サイタマは、何もなくなった空中で右手を止めたまま、呆然と立ち尽くした。
「肉……消えたぞ? なんで? ホログラムか何かだったのか?」
この世界における「魔物」は自然界の動物とは異なり、死後に粒子となって分解・消滅するという絶対的な生態学的法則がある。しかし、サイタマの常識にそんなファンタジー世界の法則など存在しない。彼の前にはただただ、「夕飯の肉を理不尽に没収された」という残酷な現実だけが残されていた。
「……なんだよこの世界。変な角は生えるし、肉は消えるし。最悪だ」
彼はがっくりと肩を落とし、深いため息をついた。これほどまでに悲壮感の漂う最強の男の姿は、元の世界でもなかなかお目にかかれないだろう。
気を取り直して遠くを見渡すと、冷たい針葉樹の隙間から、うっすらと立ち昇る細い煙が見えた。おそらく人間の集落か、何かしらの生活の営みがあるのだろう。
「あっちに行けば誰かいるだろ。とりあえず、スーパーか市場の場所でも聞かなきゃな」
世界を容易く滅ぼすほどの絶対的な力と、底なしの虚無を抱えた男は、ただ「温かいうどんを食べたい」という極めて小市民的な願いだけを胸に、ゆっくりと煙の上がる方向へと歩を進めていった。
彼がこの世界の理を根本から揺るがす存在として認識され、悠久の時を生きる魔法使いと相見えるのは、もう少しだけ先の話である。