ブルーアーカイブ─吉原炎上篇─   作:いちごミルク

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超描きたかっただけのやつです。キャラ崩壊もしまくりますんで、どうかご容赦ください。


第一話『財布は尻ポケットに入れるな』

 空は平等だ。

 誰にでも分け隔てなく日の光を浴びせてくれる。でも空は時に私たちに試練を与える。夜が来たり、雨や雲で太陽を隠してしまったり。

 それでも、私たちは決して迷ったりはしなかった。明けない夜などない。やまない雨はない。何より心に太陽があれば、私たちは決して迷わないでいられる。

 でも、その時の私たちは分かっていなかった。日の光が強ければ強いほどに、影もまた、くっきりと濃い闇を浮かび上がらせることを──。

 

 春原ココナは遠い日の記憶を反芻していた。それは姉である春原シュンの言葉。悲しそうに、けれど慈しむように語りかけてきた姉の顔。

 地下の世界には、本物の空はない。閉ざされた無機質な天井を眺めながら、ココナはただ失われた光を求めていた。

 

 

* * *

 

 

 ミレニアムの大通りをモモイは歩いていた。本日は晴天。気分のよくなる日差しを浴びながら、足取りは軽やかに、鼻歌混じりで人の間を通り抜ける。

 

「ふんふふーん♪」

 

 その時──向こうから歩いてきた春原ココナと肩がぶつかった。ココナは「あ、ごめんなさい」といい、モモイは「んー、気をつけてねー」とノールックで軽く手を振り通り過ぎた。

 ──フッ、と。ココナはニヤりと笑うと路地裏にそそくさと入り込んだ。手の中には鮮やかな手つきで盗みとったモモイの財布があった。

 

「ふふっ、チョロいですね」

 

 期待を込めて財布を開けるが──ない。札がないのはもちろん、小銭も十円玉ばかりで五十円玉すら見当たらない。入っているのはゲームの特典カードと萎れたレシート。

 

「ほとんど空じゃないですか……! やっぱりミレニアムの人はダメですね。これなら私の財布の方が──」

 

 ココナは自分の財布を確認しようとするが──ない。ない。ない。あるはずの感触がない。身体中をパタパタと叩いて確認するが、どこにもない。

 すると路地裏の入口を「ひぃふぅみぃ……」と札を数えながら歩く影がココナの視界に入った。

 

「イヤッホーイ! わらしべ長者だやったー! これでパフェ食べて、余ったお金で新作ソフト買っちゃお!」

 

 モモイが手にしているのは確実に自分の財布。ココナは思わず路地裏から飛び出て叫んだ。

 

「そ、それ私の──あ」

 

 ギギギ……と首を回したモモイの目が赤く光った。まるで獲物を見つけた獣のように。やらかした、とココナは顔を青ざめる。

 

「みぃーつけた──こんのコソ泥がぁぁぁ!」

 

「ひ、ひぇぇぇぇ!」

 

 

* * *

 

 

「……ぐすっ、うえぇぇん……」

 

 近くのファミレス。頭に巨大なタンコブを作ったココナが、テーブルの向こう側で半泣きになっていた。その前には、ココナの全財産で注文させられた特大キャラメルパフェが鎮座している。

 

「相手が悪かったねぇ。この私から財布をすろうなんて、百年、いや千年早いよ!」

 

 モモイはパフェを豪快に頬張りながら、説教を垂れる。

 

「盗みってのはね、相手の懐に手を忍ばせる度に、自分の懐からも大事な物がこぼれ落ちてるもんなのよ。わかる?」

 

「も、もういいでしょう……? パフェを奢ったんですから、み、見逃してくださぁい……」

 

「さてねぇ。頼み事をするなら筋くらいは通してもらわないと。……ところで、私の財布に入ってたお金返してよ」

 

「か、金って……貴女の財布、最初から空っぽだったでしょう!?」

 

 ココナが必死に抗議をするが、モモイはニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべる。

 

「いーや、入ってたね。今日は部費を使って、部室のサーバー用の新しいパソコンを買うつもりだったの。七万……いや、八万はあったかなぁ?」

 

「あ、貴女! 子供にパフェ奢らせたうえに、たかるつもりですか!? どういう高校生ですか貴女は──」

 

 モモイはココナの首根っこを掴んで持ち上げた。

 

「自分が子供だって自覚がある子は、もう立派な大人なのー。大人はちゃんと罰を受けて、責任を取らなきゃいけないんだよー?」

 

「ま、待って! 待ってください先生! お願いします!」

 

「だーれが先生だい。貴女みたいなチンチクリンな女の子を担任に持った記憶はないよ」

 

「ぅ、待ってください! 私、どうしてもお金が入り用なんです……!」

 

 空中で足をバタつかせながら、ココナは必死に手を合わせる。その切実な瞳に、モモイは少しだけ毒気を抜かれたように眉を下げた。

 

 

* * *

 

 

 山海経高級中学校。キヴォトスの中でも閉鎖的で保守的な歴史を持つ学園であったが、生徒会『玄龍門』のトップ竜華キサキの手腕により、その知名度は広まっていき、他校との交流も盛んになっていった。

 その極めつけと言っていいのが百鬼夜行連合学院との提携により作り出された──地下都市『吉原桃源郷』である。

 

 数多の欲望を抱えた様々な生徒が訪れる常夜の街。着物を着た生徒が艶やかな瞳で誘惑し、自らの解放に身を委ねる。極彩色の毒が蠢く歓楽街。

 モモイとココナはエレベーターを降り、隠された地下の世界へと足を踏み入れた。

 

「えー可愛いー! ね、先輩といけないことしない?」

 

「わ、わわ、私はそんなの興味ないってぇ! 後で! 後でちゃんと来るからー!」

 

「どうせ来るなら今でもいいでしょーう?」

 

「うわぁん! 離してぇ!」

 

 モモイは豪華な着物を着た花魁の生徒たちに揉みくちゃにされていた。なんとか脱出に成功したものの、リボンは解け、服ははだけてボロボロ。

 ココナへと追いついたモモイは乱れた髪を整えながら口を開いた。

 

「このマセガキめ……。色仕掛けで私をたらしこもうなんて、気が利くじゃん。でも私は大人の女だからねー。そんじょそこらの女の子じゃ満足しないよ」

 

「顔真っ赤にしてキョドってた癖に……」

 

「うーるーさーいー! 不意打ちだったからびっくりしただけだもん! 本来は、あの辺のランクの子を用意してもらわなきゃね!」

 

 モモイが指さしたのは、街の中心にそびえ立つ最も豪華な建物の最上階。そこには、絢爛豪華な着物を纏い、月の光さえ霞ませるような美貌を持った女性が座っていた。

 

「……あれはダメです。先生じゃあ一生かかっても手が届きません」

 

 ココナは静かに言った。

 

「シュン太夫。この街一番の花魁です。気に食わなきゃどれだけ積まれようが殿様だって相手にしません。真の高嶺の花です」

 

 ココナは慣れた足取りである店の前まで歩き、見世番の生徒にクシャクシャになった千円札を渡した。

 

「今日も持ってきました」

 

「へいへい、まったく。毎日毎日ご苦労なこったねぇ、おチビちゃん」

 

 モブ生徒は鼻を鳴らしながら、その金を受け取った。

 

「ちゃんと帳簿に付けておいてくださいよ」

 

「ほいほい、わかってるよ」

 

 そのやり取りを不思議そうに見ていたモモイが尋ねた。

 

「何それ? 貯金?」

 

「決まってるでしょ──女の人を買うんですよ。シュン太夫に会うために、私はお金が必要なんです」

 

 

* * *

 

 

「──あはははは! 貴女が? 吉原一の花魁を? 落とすって? あはは! お腹痛い!」

 

 ミレニアムのセミナー室にて、珍しくユウカが机を叩いて大爆笑していた。隣にいるノアも口元を抑えて必死に笑いを堪えているが、肩が激しく震えている。

 

「ふ、ふふっ……笑っちゃ……笑っちゃダメですよユウカちゃ──あはは!」

 

「……ムーっ!」

 

 二人の態度に怒ったココナは頬を膨らませてそっぽを向いた。その光景を見ていたユズは苦笑いをしながら口を出す。

 

「あ、あんまり笑っちゃダメですよ。ココナちゃん、可哀想です……」

 

「細かいことはいいじゃないですかぁ、ユズ。もしかして、自分より年下に先を越されそうで焦ってるんですか?」

 

「あ、焦ってないもん! アリスちゃんのバカ!」

 

「ぐえぇぇ、ユズが、ユズが狂暴化しましたぁ!」

 

 ユズは珍しく顔を真っ赤にして怒るとアリスの背後に回り込んでガッチリと裸絞めを決めた。

 

「ココナちゃんだっけ? まだココナちゃんは子供でしょ? でもまだ小さいのにあんな場所に行くなんて……」

 

「それを言うならミドリさんも子供じゃないですか! 私はもう先生とお店に入れるくらいには大人のレディなんですよ!」

 

「は? お姉ちゃん? お姉ちゃんには私しかいないんじゃないの?」

 

「んなとこ行ってな──痛い痛い!? ちょっ、内腿を噛みにくるな! またキスマーク付けるつもりか、このっ!」

 

 必死にミドリの頭をぺしぺしと叩く。完全に「スイッチ」が入った妹をアリスが縄で拘束するのを横目に、モモイは深いため息をついた。

 

「しっかし、将来有望だねぇ。その年齢で女の子に興味持つなんて。英雄、色を好むってね。しかも、その子のためにスリまでして貢いでるなんてさ」

 

 その言葉にココナは不意に俯いた。

 

「……まだ子供の私がお金を手に入れる方法は、限られてます。だから……」

 

「吉原でトップの花魁に会うなんて、天文学的なお金が必要でしょ。その日を生きるのもギリギリの貴女が、なんでそこまで固執するの? 正直に話しなよ。ミレニアムが誇るセミナーさんたちなら、なんか良い案出してくれるかもよ?」

 

 今さっきまで笑っていたユウカとノアもこの時は真剣な眼差しになっていた。

 ──この人たちならば話してもいいかもしれない。信じられるかもしれない。ココナはぽつりぽつりと話し始めた。

 

 ──五ヶ月前。ココナは姉であるシュンに何も告げられず、山海経の外に捨てられた。

 目を覚ました時、彼女を拾ってくれたのは百鬼夜行の心優しい生徒。しかし、その恩人は病で亡くなってしまう。

 

 死の間際、その生徒はココナに言った。

 

『貴女は捨てられたんじゃない。救われたの。貴女の姉様は、深い闇の中から貴女だけを外へ逃がしてくれた。誇りに思いなさい。彼女は今も常世の闇の中……一人、日輪の如く燦然と輝いているわよ』

 

「……会いたいんです。会って、本当のことが聞きたい。なんで……なんでシュン姉さんが私を捨てたのか」

 

 ココナの目から熱いものが流れた。ポトポトと膝を濡らし、体が震え始める。

 

「でも……姉さんは……私の方を見ようともしてくれない……っ! 手なんかまるで届かないんです! だから私は姉さんに一時でも会おうと……必死にお金を手に入れようと、泥棒までして……」

 

 ユズやアリス、ミドリが悲痛な顔を浮かべる中、ユウカは冷徹に言い放った。

 

「本末転倒ね。お姉さんに会うためにそんな真似をして、お姉さんが喜ぶと思っているの?」

 

 ユウカの言葉にココナはさらに深く項垂れる。

 

「──働いていきなさい、ここで。吉原のトップに会えるような大金は出せないけれど、生活の足しになるくらいはあげるわ。だから、二度とスリなんてやるんじゃないわよ」

 

「……ありがとう、ございます。ユウカさん……っ」

 

 込み上げてくる大粒の涙を手首で拭きながら、何度も頭を下げた。──そんなココナの肩を、モモイが優しく叩く。

 

「ついでに、私の財布から盗んだはずの『十万円』の分もしっかり稼いでね♡」

 

「っ……それは最初からなかったでしょう! というか、なんでさりげなく三万増えてるんですか!」

 

「……利息だよ」

 

 モモイは茶目っ気たっぷりにウィンクをして、セミナー室を後にする。

 

「それじゃ、始めるわよ。ノア」

 

「了解しました、ユウカちゃん」

 

 キラン、と。ユウカとノアの目がキラン、と煌めいた。

 

「ふぇ?」

 

 迫りくる二人の威圧感にココナは思わず後退りするのだった。

 

 

* * *

 

 

「ンギャァァァァァ!!」

 

 ココナの絶叫がミレニアムに響き渡った。

 常設されてあるシャワールーム。ココナはノアの手によって衣服を剥ぎ取られ、隅々まで磨き上げられていた。

 

「その手を退けてください。ちゃんと洗えないでしょう?」

 

「ひゃ、そ、そこは自分で洗えます! 私は大人ですから──あっ♡」

 

 

 しばらくして、お風呂から顔を真っ赤にして出てきたココナは、ユウカによってミレニアムの制服を着せられていた。ユウカとお揃いの、キリッとした黒いジャケット。

 鏡に映る自分を見て、ココナは少しだけ照れくさそうに頬をかいた。

 

「……へぇ、思ったより似合ってるじゃない」

 

 ユウカはじっとココナを見つめていた。その目が、心なしか怪しい光を孕んでいることに気づいたノアは無言でユウカの脇腹を小突くのだった。

 

 ──それからの時間は滝のように過ぎていった。

 

 セミナーの会計仕事を手伝わされ、ノアと共に膨大な書類を整理し、部活動報告書を出さない不届きな部活への突撃に同行する。

 そして、仕事のストレスが溜まったユウカやノアに、ぬいぐるみのように抱きしめられて甘やかされる日々。

 

 忙しくも、温かい毎日。

 梅花園にいた頃以来の、家族のような賑やかさ。荒みかけていたココナの表情には、いつしか明るい笑顔が戻っていた。

 

「……ふっ」

 

 その光景をモモイは影から見つめ、静かに笑うのだった。

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