ブルーアーカイブ─吉原炎上篇─   作:いちごミルク

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ちょっと将来に関わるかなり重要なことがあって更新できませんでした。すみませぬ。これからはぶっ通しで最後まで行くので、じっくり楽しんでください


第十二話『水商売の女は信用するな』

 その姿は痛々しく、額からは絶え間なく血が溢れ、制服はボロボロに裂けている。しかしモモイの瞳に宿る光だけは湿った地下の空気さえ焼き尽くさんばかりに輝いていた。

 モモイは震える手で地面に深く突き刺さっていた刀の柄を掴み、軋むような音を立ててそれを引き抜く。

 

「貴様……まだ動けるというのか」

 

 キサキは忌々しげに呟いた。

 

「へっ……眩しくて、眠れやしないよ。これは流石に星一レビューかな……」

 

 血をボタボタと床に滴らせながら、不敵に口角を上げた。

 

「っ……モ、モモイさん!」

 

 手すり越しにココナが叫んだ。その声を聞いたケイは狂気すら孕んだ称賛の笑みを浮かべる。

 

「ハハッ、立つんですか。凄いですね……まだやるんですか」

 

 一階の影からルミが歩み寄ってきた。ルミはどこか呆れたような、それでいて心の底から嬉しそうな表情を浮かべ、モモイを見つめる。

 

「これは悪いことしちゃったね。てっきり死んでると思ったけど……だけどそのザマ。正直、もう戦力としては役に立ちそうもないね」

 

「ほざきな、デカ耳。そりゃこっちのセリフだっての。今更ノコノコよく来れたものだね」

 

「肉まんの匂いを辿って、地獄から這い出てきたのさ」

 

「御足労を労いたいところだけど……お腹すいちゃったから、先に一口齧っちゃったよ」

 

「……ハハッ! そんなに私と間接キスでもしたかったの? 隅に置けないね、ミレニアムの遊び人は」

 

 二人がそんな冗談を交わしている間にも、ルミに率いられた百華の生徒たちが次々と一階へと降り立った。皆キサキの圧政に、そして『太陽』を奪われた日々に終止符を打つべく、武器を手に取った者たちである。

 

「新しいのだよ。肉まんにピザまん。ついでにあんまんも食べたいな。食べたのなら、きっちり買って返しな。──地上でね」

 

 ルミの言葉に、モモイは刀を正眼に構えた。

 

「ったく、食いしん坊め。こりゃ──勝っても負けても地獄そうだね!」

 

 モモイが構え、ルミが構え、百華の全員が武器を掲げた。

 その中心に立つキサキは、圧倒的な数に囲まれながらも、微動だにしない。ただその怒りは沸点を超えようとしていた。

 

「死に損ないどもめ……。貴様らのような小物が何人集まろうと、何も変えられぬことがなぜ分からぬ! なぜ死なぬ! なぜ立ち上がる! ──なぜ、貴様がその目をしている!!」

 

 キサキはモモイを睨みつけながら──大傘を地面に叩きつけた。凄まじい衝撃で床板が弾け飛び、木片が舞い上がる。しかしその爆風の中でも、モモイの視線は一切キサキから逸れなかった。

 

「気に食わぬ! その目をやめぬか!!」

 

「──行け! ココナァァ!!」

 

 モモイの叫びが城内に轟いた。

 その声を合図に、百華の生徒に抱えられたココナとシュンが動き出す。

 

「モモイさん! ルミさん!」

 

 

* * *

 

 

「「「うぉぉぉぉぉ!!」」」

 

 モモイ、ルミ、そして百華の生徒たち。全員が地を這うような雄叫びを上げ、キサキに向かって突進する。

 モモイの刀とルミの短刀が、左右からキサキを挟み撃ちに──しかしキサキは大傘でモモイの刃を受け止め、ルミの短刀を素手で掴み取った。

 両手が塞がったその一瞬、周囲の生徒たちが一斉に斬りかかるが、キサキは掴んだ短刀ごとルミを振り回し、周囲に投げつけた。

 

「くっ……!」

 

 モモイは刀の刃を滑らせ、柄頭をキサキの顔面へ叩き込もうとする──か、キサキはその動きを完全に見切っていた。

 

「ぬぅん!」

 

 キサキの手刀が放たれると同時に硬質な音が響き、モモイの持つ刀が中央からへし折られた。さらにキサキの鋭い蹴りがモモイの腹部を貫く。

 

「がはぁっ……!」

 

 血を吐きながら、モモイは壁まで吹き飛び激突。その隙を逃さず、百華の生徒たちが無数のクナイを放った。しかし、キサキは足元の床を蹴り上げて盾とし、一瞬にして間合いを詰めると、生徒たちを次々と切り裂いていく。

 

 ──渇く。どうしようもなく、心が渇く。

 何度地にひれ伏させても、何度その希望を無惨に断ち切っても、彼女たちは泥を啜りながら立ち上がってくる。

 

(同じだ……。この瞳、この気高い魂……シュンと同じ……!)

 

 キサキは、立ち向かってきたルミと、死力を尽くす百華の精鋭たちを一瞬のうちに薙ぎ倒した。ルミさえも壁際まで殴り飛ばされその場に崩れ落ちる。

 

「要らぬ! この常夜に! この妾に! 太陽など要らぬわ!!」

 

 ルミは意識が遠のきそうになる中、必死に床を這いずった。その指先が、モモイが落とした『木刀』に触れようと、歯を食いしばり、折れた誇りを繋ぎ止めるように両腕を動かす。

 

「貴様らが如きか細い炎など、妾が必ずかき消してやる。その忌まわしき体と魂を、無に帰してな」

 

 ──ルミの背後に影が落ちる。振り返った時には、既にキサキの大傘が天高く振り上げられていた。

 

 

* * *

 

 

 その頃、ココナは戦火を逃れ、城の奥深くを走っていた。シュンは体力のある百華の生徒に担がれ、必死に追随している。

 

「いたぞ! 反逆者共だ! シュン様を逃がすな!」

 

 ──廊下の先からキサキに忠誠を誓う追手たちが現れた。数少ない護衛の生徒たちがシュンを、そしてココナを守るために必死に応戦する。

 

「……これは、逃げ切れるものではないですね。ココナちゃん、貴女だけでも行って」

 

「シュン姉さん……っ!」

 

「安心して。ココナちゃんだけ逃げろ、なんてもう言いません。……戦いましょう、みんなで一緒に」

 

 シュンはココナと目を合わせた。

 

「私がここにいれば、敵を惹きつけられます。……ココナちゃん、貴女は『管制室』に行ってください」

 

 ここ吉原の城は、かつてミレニアムが建造した巨大な造船所を改装したもの。空を覆う鉛色の防壁。それはキサキが光から逃れるための盾。

 けれど、そのハッチを、管制室から強制的に開放することができれば──。

 

「そのために、シュン姉さんを囮にする……なんて、そんなこと……!」

 

 ココナが唇を噛んだ。

 

「逃げた先に自由なんてありはしない。戦わなきゃ。檻の中で戦わなければ、檻を蹴破らなければ、本当の自由なんて手に入りはしない……。お願い、最後まで戦わせて。ココナちゃん」

 

 ココナはぐっと拳を握り、シュンに背を向けた。

 

「シュン姉さん……今度会う時は、鉄格子なんてありませんから……思い切り、甘やかしてくださいね」

 

「……フフッ。変わりませんね、甘えん坊な私の妹は」

 

 ココナは走り出した。その小さな背中を、いつの間にか大きくなっていた背中を、シュンは慈しむように見つめていた。

 涙を堪えて、暗い廊下を駆け抜けるココナの前に、三つの影が立ちはだかる。

 

「準備は出来ましたか、甘えん坊さん!」

 

 ──アリスの声。顔を上げると、そこにはボロボロで片腕を負傷しながらもレールガンを構えるアリス、そして満身創痍ながらも武器を握りしめるミドリとユズが立っていた。

 

「……それじゃあ、行こうか」

 

「──吉原に、太陽を取り戻しに!」

 

 ユズとミドリの言葉に、ココナは覚悟を決めた顔で力強く頷いた。

 

 

* * *

 

 

 ルミに向け、キサキの大傘が振り下ろされた──瞬間。鋭い音が響き、一本のクナイがキサキの腕を貫く。

 

「なっ……!?」

 

 ──立ち込める煙の中から、薙刀を手にしたモモイが弾丸のような速さで飛び出してきた。

 

「ぁぁぁあああ!!」

 

「貴様っ!!」

 

 交錯する二つの影。モモイの薙刀がキサキの肩を深く貫き、同時にキサキの大傘がモモイの脇腹に叩きつけられた。

 

「う、ぐぅ……!」

 

「……っ!」

 

 互いに激痛に顔を歪めるが、立ち直りはキサキの方が早かった。肩に薙刀を刺したまま、キサキは大傘を大きく振りかぶる。

 

「死ねぇい!!」

 

 荒れ狂う嵐のような連撃。モモイは死に物狂いでそれを回避した。一度、二度、三度。避けて、避けて、避けまくる。

 繋ぎ止めろ魂を。手繰り寄せろ生を。しがみつけ、すがりつけ、泣きつけ、噛みつけ。どんなになっても──守り抜け。

 

「これで、終わりじゃあ!!」

 キサキの掌底がモモイの刀に叩きつけられた。金属の悲鳴と共に刀が粉々に砕け散りる。

 無防備になったモモイ。キサキは勝ち誇ったように、大傘を振り上げた。

 

「──」

 

 ──わずかに。モモイの口角が上がった。

 

「いけぇぇぇ!! モモイ──!!」

 

「うぉぉぉぉぉ!!」

 

 モモイは全身のバネを使い、渾身の力を込めてそれを振り抜いた。鈍い、けれど確かな重みを伴った衝撃。──モモイの『木刀』がキサキの顔面に、真っ向から叩きつけられた。

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