ブルーアーカイブ─吉原炎上篇─   作:いちごミルク

13 / 16
もうすぐで決着。なかなか長かったですね


第十三話『猫耳のヘッドフォンは燃えても変わらない』

 城の最上階、重厚な鉄の扉の先にある管制室。そこを目指し、ミドリ、ユズ、アリス、そしてココナの四人は全力で走っていた。

 ──瞬間。廊下の左右にある襖が激しく弾け飛んだ。死角から鋭い穂先を持った長大な薙刀が、アリスの首を左右から挟み込むように迫る。

 

 「──っ!」

 アリスは反射的に膝を折り、独楽のように体を沈めて回避。そのままの勢いで、スーパーノヴァの砲身を右側の襖に深く突き刺し、壁越しに潜んでいた敵を粉砕。

 返す刀で左側の襖へと飛び込み、虚を突かれた敵の首筋へ、鋼のような回し蹴りを叩き込んだ。

 

「次です! ユズ、ミドリ、ココナ、来てください!」

 

 ユズが震える手で薙刀を振るったしかし、相手は百華の精鋭。ユズの拙い一撃を軽くいなし、逆にユズの武器を切り裂かんばかりの鋭い一撃を放つ。宙に舞い、とどめを刺そうと跳躍する敵兵。

 

「アリスちゃん!」

 

「任せてください!」

 

 ミドリの肩をアリスが蹴って、天空へと舞い上がった。

 

「ゲーム開発部、コンビネーションアタックです!」

 

 空中で三人が交錯した刹那──襲いかかった三人の百華生徒は一瞬にして床へと叩き伏せられました。

 残るはあと一人。片腕を負傷しているアリスでは倒しきれない。──その時、ユズは床に転がっていた敵の薙刀を素早く拾い上げ、決死の表情で最後の一人を制圧した。

 

「や、やった……?」

 

「さっすがユズです! MVPですよ!」

 

 アリスは着地するなり満面の笑みでユズに抱きついた。

 

「ひゃあぁっ! ア、アリスちゃん、痛い、傷が痛いから離れて……っ!」

 

 半泣きになるユズの姿にミドリが苦笑しながら二人の頭を軽く小突いた。

 

「二人とも、遊んでる暇はないよ。お姉ちゃんたちが命懸けで時間を稼いでくれてるんだから。……行こう、ココナちゃん!」

 

「……はい!」

 

 ココナは力強く頷き、四人は管制室の階段を駆け上がった。

 

 

* * *

 

 

「いっけぇぇぇ! モモイィィ!!」

 

 ルミの魂の叫びが響き渡る。

 

「うぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 モモイの全身のバネを乗せた木刀が、夜王キサキの顔面を真っ向から捉えた。鈍い衝撃音と共にキサキの大傘が空中へと高く舞い上がり、床に虚しく落下する。

 

「ぬぅ……っ!?」

 

 キサキの視界が歪んだ。鼻腔から溢れる鮮血。それを見ていた壁際のケイは──頬を紅潮させ、狂気にも似た歓喜の笑みを浮かべた。

 

「あっ……ハハッ」

 

「ぬ、ぅぅおおお!!」

 

 キサキが反撃の拳を振り上げようとするが、モモイの猛攻はそれを許さない。

 

「ぁぁぁあああああああ!!」

 

 一発。

 二発。

 三発。

 四発。

 五発──。

 

 モモイは狂ったように木刀を振り抜き続ける。一撃ごとに大気が震え、衝撃波が周囲の瓦礫を吹き飛ばす。キサキも思わず吐血した。

 呼吸をさせるな。隙を与えるな。ここで決めなければ、次は、ない。今ここで、夜の女王に終焉を叩きつけるのだ。

 

「うぉぉぉおおあぁぁぁ!!」

 

 モモイは獣のような咆哮を上げ、木刀をキサキの腹部へと深々と突き立てた。そのまま自身の全体重をかけ、キサキを押し込む。背後の瓦礫をぶち抜き、さらにその先の巨大な柱へとキサキを叩きつけた。

 

「これで……おしまいだぁぁぁ!!」

 

「ぐ、がぁ……っ!」

 

 爆風のような土煙が舞い上がり静寂が訪れま。崩れた瓦礫の中で、キサキは大量の血を吐き出す。

 これで終わり──いや、まだ終わっていない。

 

 煙の向こう側から、憎悪に満ちた、呪いのような叫びが響き渡った。

 

「貴様……貴様ァァァァァァ!!」

 

 キサキは己の腹を貫く木刀を、血に濡れた手で力任せに握りしめていまその瞳には、もはや王としての威厳ではなく、底なしの殺意だけが渦巻いていたのだった。

 

 

* * *

 

 

「ココナちゃん、早く!」

 

 管制室の入り口では追いついてきた百華の残党を食い止めるため、アリス、ユズ、ミドリの三人が必死の防衛戦を繰り広げていた。

 

 ココナは制御パネルの前に飛びついた。ユウカやノアから教えられた、ミレニアムのハッキング技術。その記憶を総動員し、指先を躍らせる。

 

「お願い、動いて……っ!」

 

 何層にも張り巡らされたセキュリティロックを最短ルートで解除。そしてついにシステムの中枢が解放されま。コンソールから城の天井部──巨大ハッチを強制開放するための無骨なレバーがせり上がってくる。

 

 ココナはそのレバーに両手をかけて全力で引こうとした。しかし長い間放置されていたからか、レバーは錆び付いてビクともしない。

 

(私だって……私だって、戦うんだぁぁぁ!!)

 

 ココナは細い腕に全神経を集中させ雄叫びを上げた。

 

 

* * *

 

 

 キサキが咆哮と共に、モモイの喉元へ手を伸ばした──その刹那、背後から放たれた無数のクナイがキサキの腕や肩を貫いた。

 

「今だよ、モモイ!」

 

 ルミが叫びと共に、モモイはキサキの体を蹴って大きくバックジャンプ。

 降り注ぐクナイの雨。キサキはそれをガードしようとしますが、物理的な圧力に押され、崩落しかけていた壁の向こう側へと飲み込まれていった。

 

「やった……倒したのか!?」

 

「夜王を……ついに……!」

 

 吉原に歓喜の嵐が巻き起こった。百華の生徒たちは互いに抱き合い、ルミもまた膝をつきながら安堵の息を漏らす。

 ──しかし、ただ一人。モモイだけは視線を外さなかった。

 

「……まだだ!」

 

 モモイの叫びと同時に煙の中から三本のクナイが放たれた。それは──油断していたルミを正確に狙っていた。

 モモイは叫ぶより早く、ルミの体を突き飛ばした。代わりに三本のクナイは、モモイの肩、脇腹、そして太ももを深く貫く。

 

「あ……が、は……っ」

 

「モモイ!!」

 

 ルミが駆け寄るが、煙の奥から高笑いと共にキサキが歩いてきていた。

 

「ぬるい……ぬるいわ! 貴様らごとき、か細き光がいくら集まろうと、この夜王を干からびさせることはできはせぬ! この深き夜を、照らすことなどできはせぬわ!!」

 

 キサキは全身に力を込める。──すると、刺さっていたクナイが全て弾き飛ばされ、傷口が一瞬にして塞がっていくかのような錯覚を覚えるほどの威圧感が放たれた。

 

 ──あれだけやって、まだ倒れないのか。

 絶望が再び百華の生徒たちの顔を覆い、ケイは遠くで楽しげに口笛を鳴らした。

 

「太陽などとは程遠い……。吹けば一瞬で消える、蝋燭の火のような脆弱な光。それが貴様らだ。大人しく妾に鎖で繋がれておれば、生かしてやったものを。……火種は消さねばなるまい。その鈍く光る光をな!」

 

 ルミに支えられ、モモイは再び立ち上がった。

 その姿を見て、百華の生徒たちは再び武器を構える。しかし──モモイはそれを片手で制した。

 

「もう、いいよ。……私一人で、十分だ」

 

「モモイ、何を言って……!」

 

「その火は、とっておきな。……明日の、美味しい料理を作るためにね」

 

 モモイはルミに向かって不敵にウィンクを送った。

 

「武士道とやらか? 己一人の命を捧げて、他の生徒の免罪を請おうというのか。……無駄だ。貴様が終われば、次はルミ、そして百華……全員、皆殺しにしてやるわ」

 

 キサキの殺気が膨れ上がる。しかしモモイは静かに、崩壊した壁の先──暗く無機質な空が見える場所へと歩き出した。

 

「……消させやしないよ。もう、誰も」

 

 モモイは独り言のように、けれど確信を持って言った。

 

「たとえ蝋燭の火だとしても。集まれば闇を照らせるんだ。……キサキ。貴女には、私の火は消せないよ。何度消そうとしたって無駄。……私には、とっておきの『火種』があるからね」

 

 モモイは信じていた。別れた三人が、今この瞬間も、自分以上に激しく戦っていることを。

 ミドリ。ユズ。アリス。三人が、自分が負けるなんて一ミリも思っていないことを。希望に満ちた顔で、アリスが道を切り開き、ユズが背中を支え、ミドリが全てを指揮していることを。

 

「あの子たちがいる限り……私は、何度消されても、何度でも燃え上がるんだよ!!」

 

 

* * *

 

 

 管制室。ココナのレバーを握る手に、ふと温もりが重なった。それは幻影。ここにはいないはずの、シュンの手。それだけではない。

 モモイの手。ミドリの手。ユズの手。アリスの手。さらに、遠くミレニアムで待っているユウカやノアの手。ルミの手。百華の生徒たちの手──。

 

 吉原の底で、震えながら明日を待っていた遊女たちの手。何十、何百という『手』がココナの小さな手に重なり、一つの大きな力となる。

 

「っ──ぉぉぉぉおおあぁぁぁぁ!!!」

 

 ココナは自分の全存在をその腕に込め、錆び付いたレバーを一気に──引き抜いた

 

 ──地響きが、城全体を震わせる。

 モモイの背後、吉原の最上部を覆っていた巨大な装甲板がゆっくりと、そして確実に左右へと分かれていく。

 

「な……なんだ、これは……っ。この光は……!!」

 

 キサキが信じられないものを見るかのように目を見開いた。この地を支配し続けてきた『常夜』の空が裂け、そこから一本の、強烈な光の柱が降り注ぐ。

 モモイはその光を背に浴びながら、キサキを真っ向から見つめた。

 

「貴女なんかに……私たちの火は、消せやしない!!」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。