ブルーアーカイブ─吉原炎上篇─   作:いちごミルク

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これにて最終話。思ってたよりも銀さんモモイが親和性が高くてびっくり。自分で書いてるくせにもっと銀さんモモイが見たいと思ってしまいました。


最終話『昼間に飲むジュースはひと味違う』

 吉原の喧騒から少し離れた、断崖絶壁の頂。そこはかつて夜王が忌み嫌い、しかし最後には焦がれた太陽の光が、どこよりも早く、そして長く降り注ぐ場所。

 

 そこに簡素な墓があった。ただ土をこんもりと盛り上げ、その中央に彼女が愛用していたあの大傘が突き刺してあるだけの、無骨な墓標。

 その前に一人の少女が腰を下ろしていた。アビドスが誇る『暁のホルス』小鳥遊ホシノ。

 

「またえらく暑苦しい所に眠らされたもんだねぇ。……ざまぁみやがれ、ってところかな。キサキちゃん」

 

 ホシノは墓標を細めた目で見つめながら、独り言をこぼした。そこへ一人の歩音が近づいてくる。

 

「遊女たちがさぁ。あの世では思う存分、お日様を浴びさせてあげようって言って、ここを選んだんだって」

 

 やってきたのはモモイだった。全身を包んでいた包帯も少し減り、制服も新調されている。モモイはホシノの隣に並んで腰を下ろした。

 

「はい、これ」

 

 ホシノから手渡されたペロペロキャンディを口に放り込み、モモイは「どしたの?」と隣のホシノに尋ねる。しかしホシノは何も答えず、ただ静かに土の山を見つめていた。

 

「……友達、だったんだね。ごめん」

 

「いや……。ムカつく子ほど、居なくなるとね。……どうやら、君の墓参りにも行くことになりそうだよ。良かったね、モモイちゃん」

 

「いや、私の方が先に行くよ。毎日通いつめるんだから」

 

「いーや。私はそれをさらに上回っていくよ。ジェット機で駆けつける」

 

「いーや。私のジェット機の方が早いし」

 

「いいや。私のジェット機の方がチケットが安い」

 

 そんな子供じみた言い合いを数回繰り返し、二人は「ハハッ」と乾いた笑い声を上げた。

 

「相変わらず派手にやってるらしいね。まさか、あのキサキちゃんまで倒しちゃうなんて。……次はこのホシノちゃんとやってみる?」

 

「冗談じゃないよ。あんなもの、ただの袋叩きだよ。私一人じゃ、どうにもならなかった」

 

 モモイが謙遜するように言うと、ホシノの表情から笑みが消え、真剣な眼差しがモモイに向けられた。

 

「──君はそう思っていても、ケイちゃんはそうは思ってなかったようだよ」

 

 どうやら現在、キサキを殺したのは『春雨』のケイであるということになってるらしく。キサキの死は、吉原の統治能力を査定した結果、組織が下した『処置』であると。強大すぎたキサキの力を疎んでいた春雨にとって、それは好都合な幕引きだった。その功績により、ケイは吉原の全権を任せられたのだとホシノはかたった。

 

「だけど、ケイちゃんは吉原に指一本触れようとはしない。人員も出さなければ、干渉もしない。完全な手放し状態。……ケイちゃんは吉原なんて場所には、最初からこれっぽっちも興味がなかったんだ」

 

 ホシノは言葉を切り、真っ直ぐにモモイの瞳を見つめた。

 

「ケイちゃんが興味があるのは──モモイちゃん。君だ。余計な連中が君に手を出せないように、彼女は吉原を手に入れた。……結果として、吉原は救われたけど。君、そのうち殺されるよ」

 

 ホシノの、いつになく鋭い警告。モモイはそれを真正面から受け止め、同じように真っ直ぐな目を返した。そしてゆっくりと立ち上がると、いつものように飄々とした態度で背を向ける。

 

「そ。じゃあ今度会ったら、助かったって言っておいてよ」

 

「……アリスちゃんは、ケイちゃんを救いたいって思ってる。どんなことをしてでも、ケイちゃんが以前のような妹に戻ることを望んでいるんだ。……君がケイちゃんと対峙する時が来ても、きっと……」

 

 モモイの足が止まった。顔はホシノに向けず、ホシノもまた、座ったままモモイを振り返らない。

 

「君ならどうする? アリスちゃんの前で、ケイちゃんに命を狙われた時。君ならどうする?」

 

 モモイは答えなかった。

 

「ミレニアムの子って、不思議だよね。憎んだ相手の墓まで作るなんて。……憎しみがあっても、そこに同じだけ愛情がある。私は、ダメ。愛情があったとしても、一度憎めば全てが黒く染まる。……あの時私は黒く染まった。そして、ケイちゃんの全てを黒く染めてしまった。……もしかしたら、君なら……私とは違う答えを……」

 

 ホシノはそこまで言うと、それ以上は飲み込み、フッと自嘲気味に笑った。

 

「ちょっと喋りすぎたかな。忠告はしたよ。先輩の責任としてね。──じゃ、死なないでよ」

 

 モモイは何も言わず、そのまま歩き出すのだった。

 

 

* * *

 

 

「あぁぁぁ……良かったぁ。結果オーライだよね、これ!」

 

 吉原の中心街。かつての重苦しい空気はどこへやら。復興の槌音が響く街角で、ユズが大きく伸びをした。

 

「兎にも角にも、吉原に平和が訪れたんだし。ハッピーエンドってことでいいんじゃないかな?」

 

 ミドリがヘラヘラと笑いながら言うと、その横から不満げな声が響いてきた。

 

「──何がオーライですか! このこのぉ!!」

 

「あいたたっ!? 何するのアリスちゃん!」

 

「わぁん! やめてぇぇ!」

 

 アリスが、ヘラヘラしていたミドリとユズの頬をギューッと引き伸ばしていた。

 

「その気になれば、この街なんてケイたちはどうにでもできるってことなんですよ!? そもそも、なんでケイはアリスたちを泳がせておくような真似をしてるんですか! アリスたちをおちょくっているのですか!? ムキーッ!」

 

「や、やめてぇぇぇ……! ほっぺた千切れるぅぅ!」

 

 アリスはユズの上に馬乗りになり、その柔らかな頬をムニムニと全力で揉みしだいている。ユズはなすがまま、半泣きになってジタバタしていた。

 

「心配はいらないよ。私が生きてる限り、ケイはここには手を出さないから」

 

 モモイが椅子に座りながら言った。

 

「? お姉ちゃん、それどういうこと?」

 

「ま、そういうことだよ」

 

「全然分かんないんだけど……」

 

 ミドリが不満そうに口を尖らせると、モモイは近くの屋台で買った団子をヒョイっと投げた。ミドリは文句を言いながらも、それを反射的に口でキャッチする。

 

「しかし、つくづく難儀な人たちだね。さっさとこんな面倒な所なんて捨てて、外で生活すればいいのに」

 

 モモイが周囲を見渡して言うと、人混みの中からルミが顔を出した。

 

「そうもいかないのさ。この街に売られた生徒たちは、一年生の、まだ何も知らない頃に連れてこられた人ばかりだからね。外でどうやって生きていけばいいのか分からない、自由の意味すら知らない人も多いんだ。そんな遊女たちを捨ててはおけないって、シュンが残ることを決めたのさ」

 

 自分たちで、新しい吉原を。後輩たちに見せても恥ずかしくない、立派な学園をここに作ろう──。それが、生き残った彼女たちの誓いだった。

 

 ……ユズは不安げな表情で、新しく改装された店並みを見渡した。看板には、『アワアワ天国』『ビッグランド』『まぐわいシスターズ』などなど。

 どこをどう見ても、絶望的にいかがわしい名前ばかりが並んでいる。

 

「……あの、ルミさん。どの辺が変わったんですか?」

 

「お、いい質問だね。遊郭が無くなって、ヘ〇スとかソ〇プが増えたよ。あとキャバクラとかお〇パブも人気だねぇ」

 

「──全然変わってないじゃん!! 全然後輩たちに恥ずかしいじゃん!! 『これ何のお店?』って聞かれても答えられないよ!!」

 

 ユズの悲鳴のようなツッコミに、モモイが「まままま」と手を振ってなだめる。

 

「いいじゃん。今までは『強制』されてたのが問題だったんでしょ? 今は『選択の自由』があるわけ。着物だけじゃなく、ナースにミニスカポリスとか、色んなコスチュームを選べる自由がね……」

 

「それ、モモイが自由になってるだけでしょ!?」

 

「いやいや、もう鎖は解かれたんだよ。呪縛は解かれた。ほら、見てみなよ」

 

 モモイとユズが視線を向けた先。そこには──黒いボンデージに身を包み、冷徹な表情で鎖のリードを引っ張るドS嬢も、その先で下着姿で四つん這いになり、「ワン!」と元気よく吠えている天雨アコの姿があった。

 

「ちょっとぉぉ!? 思いっきり鎖に繋がれてる人いますけど!? 自分から呪縛されに行ってる人いるよ! ゲヘナの風紀委員が何やってるの!?」

 

 ユズは泡を吹いて倒れそうになりながら、ルミに詰め寄る。

 

「ルミさん! これ、ココナちゃんは大丈夫なんですか!? ちゃんと真っ当な教育を受けられてるんですか!?」

 

「ココナなら大丈夫だよ。今はおもちゃ屋さんでバイトしてるからね」

 

「良かったぁ……。せめておもちゃ屋さんなら、子供らしい真っ当な……」

 

 ……視線の先、ド派手なピンクの看板を掲げた『大人のおもちゃ屋』のカウンター。そこには、エプロン姿のココナがちょこんと座っていた。

 

「ただのアダルトショップじゃん!! 悪いけど『おもちゃ屋』って言われた時点で、ちょっと予想してたよ! 来るなよって思ってましたからね!」

 

「そう? じゃあ次は改善を検討するよ」

 

「頑張らなくていいですから!」

 

 そこへココナが「皆さん! お久しぶりです!」と満面の笑みで駆け寄ってきた。

 しかしココナの両手には、何やら卑猥な形をした棒状の物体が握られており、スイッチを入れるたびに「ギュインギュイン」と凄まじい振動音を立てている。

 

「ココナちゃんはモビルスーツみたいな音を出して近づいてこないで!」

 

「会いたかったんですよ! 私、この街で頑張──あ」

 

 勢い余ったココナが、派手に地面にすっ転んだ。

 手に持っていた『卑猥な棒』が手元から弾け飛び──不運にも通りかかったゲヘナの不良生徒のお尻に、吸い込まれるように突き刺さった。

 

「お、おどれは……っ! 何さらしてくれとんじゃぁぁぁい!!」

 

「ひ、ひぃぃぃ! ゆ、許してくださぁい!」

 

 凄まじい振動と共に不良生徒がのたうち回り、ココナは涙目で逃げ出した。

 

「ちょ、ルミさんヘルプ! 事件発生……ギャァア!? どこ狙ってるんですか!?」

 

 ユズは飛んできたクナイを頭に突き刺され、さらには何故かとばっちりで ゲヘナの不良にココナ共々追いかけられる羽目に。

 

「アタシの初めてを返せぇぇ!」

 

「「ご、ごめんなさいぃぃぃ!」」

 

 そのカオスな光景を、周囲の人々は笑って眺めていた。

 少し離れた茶屋の椅子に腰掛けたモモイ、ミドリ、アリスも、微笑ましそうにその騒動を見守っている。

 

「どうですか? 私たちの学園は」

 

 不意に声をかけられて三人は振り返った。そこには車椅子に乗ったシュンが、穏やかな表情で佇んでいる。

 

「はい! どこかの学校とそっくりです!」

 

「そうだね。私たちのミレニアムと、何も変わらないよ」

 

「下品で、凶暴で。優しくて、冷たくて。笑顔も、涙も、お天道様もある。……ただの、普通の学校だよ」

 

 モモイが締めくくると、シュンは愛おしそうに、そして嬉しそうに微笑んだ。

 

「素敵でしょ?」

 

 

* * *

 

 

 ──夕暮れにはまだ早い、高い空。

 

 ユズとココナは「ヒンヒン」と情けない声を上げながら、ゲヘナの不良に尻を叩かれ。

 アリスは「未知のアイテムを発見しました!」と叫びながら大人のお店に突入しようとし。

 ミドリは「双子姉妹百合……」と呟きながら、明らかに健全ではない本をこっそり購入。

 ルミはせっせと湯気を上げる肉まんを作り、通りかかる人々に手渡していく。

 

 そんな、どこにでもある平和な学園の風景。

 シュンは、モモイの持っていたトックリに、黄金色のオレンジジュースを注いだ。モモイはそれを手に取り、一気にクイッと飲み干す。

 

 喉を通り抜ける、冷たくて甘酸っぱい感覚。

 モモイは、活気あふれる街の音を聞き、隣で微笑むシュンの顔を見た。そして、空高く、真っ直ぐに自分たちを照らしている太陽を仰いだ。

 

「──おいし」




ついに終わりです。これまでありがとうございました。拙い初投稿ですみませんでした。ブルーアーカイブ×銀魂はなかなか書いてて楽しかったです。今度はギャグ回も書いてみたいと思ったり。あとはかぶき町四天王編とか、一刻傾城編とかも書いてて楽しそうですね。またちょくちょく書かせて頂きますので、どうぞよろしくお願いします
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