ブルーアーカイブ─吉原炎上篇─   作:いちごミルク

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キリがいいので今回は短めです


第四話『見開きを使えたらジャンプっぽかった』

「スーパーノヴァ……!? ま、まさかアリスと同じロボットですか……!?」

 

「どうやら、せっかく用意してくれてたルミの逃げ道も既に手が回っていたようだね」

 

 軽くモモイは言うが頬には冷や汗が流れていた。

 

「──違う」

 

「……え?」

 

「あれはキサキの回し者じゃない。あれは……なんなんだ、あの禍々しい気配は……」

 

 沈黙を守っていた少女が、ゆっくりと、けれど有無を言わせぬ圧を伴って口を開いた。

 

「その子供をこちらによこしなさい」

 

 ──反射的、そして本能的にルミは後ずさりした。

 

「モモイ……ヤバいです。とびきりヤバい匂いがします……血の匂い。幾多の戦場を生き抜き、魂まで染み込んだ濃い血の匂い──これは、本物の『戦闘兵器』の匂いです」

 

 なぜこんなところに──という思考回路にリソースが削がれた瞬間、少女は地を蹴って接近してきた。ルミは咄嗟に数十本のクナイを放つが少女はレールガンの砲身で軽く防いだ。

 ──背後。視界が途切れた瞬間に回り込んでいたルミは少女の顔面に向かってクナイを放つ。

 

 死角から放たれたクナイは少女の顔面に直撃──していない。放たれたクナイを歯で噛み止めた少女は乾いた音を出しながら噛み砕いた。

 抵抗する間もなく接近し、少女はルミの顔面と腕を掴んで床に叩きつけた。

 

「ぐ、はっ……!」

 

 追撃の拳を何とかクナイで捌きながらルミが叫ぶ。

 

「早く! 今のうちに逃げて!」

 

 飛び上がってクナイを散弾銃のように広範囲に投げつけるが、少女はそれを刹那の間に掻い潜り、空中のルミを無慈悲に殴り飛ばした。

 

「ルミさん──!」

 

 ユズは叫んだ──が、少女の姿が消えていた。少女は床を通る配管の下に潜り込み、猛獣のような速度で鉄板を叩き壊しながら移動していた。

 狙いはココナ。咄嗟にアリスとミドリ、ユズは回避。モモイはココナの腕を掴んで引き寄せるが、それよりも床から飛び出したレールガンの砲身が腹部を貫くのが早かった。

 

「ごふっ……!?」

 

 鮮血を吐き出すモモイ。少女は自由になったココナを小脇に抱え上げると、邪魔だと言わんばかりにモモイの胸元を蹴り飛ばした。

 

「モモイ──!!」

 

 壁まで吹き飛ばされたモモイの姿にアリスが叫んだ。

 ユズとミドリはあまりの光景に戦慄し、動くことすらできない。圧倒的な、絶望的なまでの強さ。全員でかかっても、指一本触れられるかどうか確信が持てないほどの戦力差。

 

「ぅ、は、離してください……!」

 

 必死に抵抗するココナだが少女の腕は万力のように動かない。

 

「っ! ココナを返してください!」

 

 アリスは邪魔な高下駄を脱ぎ捨てて走り出した。初速は十分。攻撃なら当たる──その瞬間、フードの奥から赤い瞳がアリスの双眼に入った。

 ──見たことがある。見た覚えがある。忘れるはずのない目をしていた。

 

「なっ……」

 

 鏡を見ているかと思うほど自分とそっくりで。それでいて決定的に何かが違う──少女の姿に言葉を失った。

 

「邪魔です。退いてください」

 

 少女は無感情に、けれど深く凍てつくような声を出しながらレールガンを振り上げた。

 

「言ったはずですよ──弱い貴女に、興味はない、と」

 

「ケ──」

 

 名を呼ぶよりも早く──レールガンは下へと叩きつけられた。

 

「アリスゥゥゥゥ!!」

 

 少女の一撃は、巨大な排気パイプそのものを粉砕。凄まじい衝撃波と共に配管が崩落し、モモイたちは真っ逆さまに暗い奈落へと落下していった。

 舞い上がる鉄屑と砂煙を、下の遊郭にいた生徒たちが不思議そうに見上げています。破壊された配管の端で、ケイに抱えられたココナが悲痛な声を上げました。

 

「──モモイさん!!」

 

 少女は落下していく影を一度も見ることなく、冷淡に呟いた。

 

「はぁ……。後で、キサキにドヤされそうですね。……ま、大丈夫でしょう。キサキはこんな街よりも、あの花魁様にご執心のようですし。これくらいやらなければ、死なない人もいましたしね……。もう、関係ありませんが」

 

 

* * *

 

 

 ──モモイたちは墜落してはいなかった。

 ルミが空中で、ロープを繋げたクナイをまだ崩れていない配管の支柱へと投擲し、落下を回避していたのだ。

 縄を必死にルミが掴み、その下にモモイ、ミドリ、ユズ、そして気を失ったアリスが数珠繋ぎになって耐えていた。

 

 やがて、全員が近くの置屋の屋根の上へと落下。ユズは腰を強打しながらのそのそと起き上がる。

 

「み、みんなは大丈夫?」

 

「私はなんとか……」

 

 ミドリが荒い息をつきながら答えるが、視線はモモイに抱えられたアリスに注がれていた。

 

「アリス! しっかりして、アリス!」

 

 ボロボロになったアリスの肩をモモイは揺さぶる。

 

「ココナちゃんが連れ去られちゃった……。あの子は、一体何者なの……!?」

 

 ユズの問いに、ルミが吐き捨てるように言った。

 

「……おそらく、あれは『春雨』の手の者だよ」

 

「春雨!? 春雨って、あの宇宙海賊の……!?」

 

 吉原の遊女たちの中には、自ら進んでこの地に足を踏み入れた者もいるにはいる。だがその多くは不当な人身売買によって流れ着いた生徒たち。その巨大な利権と闇の流通に深く関わっているのが、宇宙海賊『春雨』だった。

 そして──この吉原を統べる『夜王』竜華キサキこそが、かつて春雨で幹部を務めていた少女である。

 

 『夜王』という称号は、単にこの常夜の街の主であるからだけではない。

 万物を飲み込む闇、そしてその闇すらも凌駕する深淵として、光の届かない種族たちが住まう星々を次々と武力制圧した実績──まさに『夜の女王』としての恐ろしさから名付けられたものだった。

 

「夜の、女王……」

 

「夜王は、有象無象の強者がひしめき合い、弱者がゴミのように捨てられる『監獄星』と呼ばれる場所で、一大勢力を築き上げた怪物だ。あの『暁のホルス』の小鳥遊ホシノとも、かつて肩を並べていたほどの実力者だよ」

 

「ホシノさんと……どうやら私たちは、とんでもない化け物に喧嘩を売っちゃったみたいだね」

 

 傷ついたアリスの頬を撫でた時、気絶していたアリスの瞼が開かれた。

 

「モ、モイ……」

 

「アリス、大丈夫!? どこか変なところはない!?」

 

 ユズとミドリも慌てて駆け寄ってきた。アリスは弱々しく首を振ると──先程の少女の影を追うように空を見上げました。

 

「本当に……本当にやばいのは……そいつじゃありません。アリスから分裂した陰の存在。アリスの……アリスの──」

 

 

 吉原の大通りを、一人の少女が悠然と歩いていた。

 灯篭の光を反射する美しい白髪をなびかせ、陶器のような白い肌を惜しげもなく見せつけるその姿。

 行き交う生徒たちや、百戦錬磨の遊女たちでさえも、彼女の冷酷な美しさに見惚れ、恋をしたかのように頬を赤らめて立ち尽くす。

 

「アリスの──双子の妹。天童ケイです……!」

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