ブルーアーカイブ─吉原炎上篇─   作:いちごミルク

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第六話『ケンカの横槍は危険』

 キサキの剛拳と、ケイの凶刃。先ほどまでの狂気的な激突は、一つの肉体と一本の傘によって強引に幕を引かれていた。

 

「そこまでです。お二人共、落ち着いてもらいましょう」

 

 間に割って入ったのはミナ。彼女は愛用の傘を武器にケイを抑え込み、自らの左腕を犠牲にしてキサキの拳を止めていました。

 腹部にはケイの指先が刺さり、左腕の肘から下は鈍い音を立てて瓦へと落下する。ゆっくりと拳を引き抜くと、ケイは少し悔しそうにしながら、指先に付着した血をペロリと舐めとった。

 

「たった腕一本で貴女たちの喧嘩を止められたら上出来だ。私の腕に免じて、どうかケイの不始末を許してください」

 

 不満げに舌打ちをするキサキに向かって深く頭を下げた。戦うことしか頭にないケイに代わり、状況を察したミナが説得を試みる。

 なにも春雨はキサキを殺しに来たのではなく、より良い関係を築きに来ただけだろう、と。

 

「いっそ、この街が欲しいと正直に言った方が正しいのではないか?」

 

「上も怖いんでしょう。門主様の怖さは私やケイが一番よく知っている。上の小物共は、門主様が裏切らないという証が欲しいだけなんですよ」

 

「……隠居し、余生を送ろうとする病人にたかろうなどとは。随分と酷いものじゃな。──興が冷めたわ」

 

「門主様!」

 

 キサキはミナの声を無視し背を向けて歩き出した。

 

「金でも商いでも好きにするがいい。そんなくだらぬもの、妾はもう要らん。だがこの街──妾の国を奪おうというのであれば、ぬしらは夜王の真の姿を見ることになるであろう」

 

 明確な氷のような殺意を二人へと向けた。──そんな殺意よりも冷たく、ケイは吐き捨てる。

 

「興ざめしたのはこっちですよ。そんなに自分の作ったおもちゃが大事ですか? ならばそのままここで干からびて死んでいけばいい──貴女は、殺すにも値しない」

 

 そのままケイは屋根から飛び降りた。

 

「干からびて死んでいけ? ……フッ、とうの昔に干からびておるわ。日も浴びられぬというのに、どうしてこんなに渇くものかな……」

 

 

* * *

 

 

 キサキの城、正門。そこには薙刀を手にした二人の門番生徒が、上階の騒ぎを不安げに見上げていた。

 

「まただ……キサキ様の部屋の方からだよ」

 

「やっぱり、私たちも応援に行かないか?」

 

「ダメだよ。もう仲間が向かった。こういう時ほど警備を怠っちゃいけない。隙をついて曲者が侵入するかもしれないでしょう?」

 

「その通り」

 

 聞き覚えのある声に、二人が振り向く──そこにはルミが立っていた。

 

「頭!」

 

「崩壊したパイプの撤去作業に行ってたんだ。居なくてごめんね」

 

「でも良かった。頭が来てくれれば安心です!」

 

 門番の生徒たちが顔をほころばせる。

 

「うん。キサキ様のことは私に任せて。貴女たちはここの守りをお願い」

 

「はい!」

 

 意気揚々と返事をする二人の門番。しかしルミの後ろには……明らかに不自然なほど胸が強調された着物姿の少女たちが四人、怪しく立っていた。

 

「いい? 不審者は一匹たりとも通しちゃダメよ。ちょっとでもピンと来たら110番よ? ヘマしたら承知しないからね」

 

 モモイの言葉に「はーい♡」と元気よく答える三人。ルミに引き続いて当たり前のように門を通ろうとするが──当然のように門番の薙刀が交差して道を塞ぎました。

 

「頭。曲者です」

 

「あ、いや、不審者じゃなくて……新入りだよ」

 

「新入り!? こんな怪しい奴らがですか!?」

 

 すると、モモイ、ミドリ、ユズ、アリスは、不自然に盛り上がった胸をたゆんたゆんと揺らしながら、グルグル回ってポーズを決める。

 

「モー子です!」

 

「ミエ子でぇす!」

 

「ユ、ユーちゃん、です……」

 

「アリ美でーす!」

 

「「「「四人合わせて、はち切れピーチ四太夫!」」」」

 

 再び、薙刀がガチリと交差した。

 

「頭。やっぱり曲者です」

 

「いや、だから新入りだってば」

 

「大丈夫なんですか? こんなの連れてって……キサキ様の方がはち切れますよ?」

 

「股間が?」

 

「んなわけねぇだろう!? 鏡見てこいシリコン四太夫! そもそも、こんな使えなさそうな奴らを連れて行くのは危険です!」

 

「大丈夫よ。どうせキンタマ様のことだから、また女と一発しけこんでるだけよ、騒ぎすぎ」

 

「キンタマ様って誰だよ!? キサキ様だろ! 『キ』しか合ってねぇじゃねぇか! どんなシケこみ方したらあんな騒ぎになんの!?」

 

「いや、夜王とか呼ばれてるんでしょ? そりゃあ、とんでもないバズーカ搭載してるんじゃないの?」

 

「そういう意味じゃねぇよ!! つかバズーカは付いてねぇよ!?」

 

 あまりにも頭のおかしい掛け合いに、ルミはこらえきれずに少し笑いながら言った。

 

「少し頭のおかしい奴らだけど、腕は立つよ。心配しなくていい」

 

「頭がそこまで言うのなら……」

 

「お通りください」

 

 門が開かれ、四人とルミは意気揚々と中へ。

 

「や、やったね。なんとか誤魔化せたみたいだよ」

 

「ユズ、ちょっと恥ずかしがりすぎじゃない? おっぱい大きくなったんだから、もっとはしゃいだらいいのに」

 

「別に嬉しくないし……」

 

 歩いていく四人の背中に、門番の生徒たちが声をかけた。

 

「お気を付けてくださいね」

 

「──死出への旅路を」

 

 

 城の扉が閉められた──瞬間。四方八方から無数のクナイが投げつけられた。

 

「っ──!!」

 

 モモイ、ミドリ、アリス、そしてルミは即座に武器を抜き、飛来する鉄の雨を捌く。ユズは「ひぇぇ!?」といいながら壁際に寄ってクナイを間一髪回避していた。

 

「どうやら、猿芝居は全部無駄だったようだね。ぜーんぶお見通しってわけか!」

 

 ──城の中には、既に多くの百華の生徒たちが集結し、モモイたちを包囲していました。

 

「頭。あんたが賊に加担するとは。吉原を裏切ればどうなるか、あんたが一番知っているはずだ」

 

「そうかい。いったいどうなるって言うの? ぜひお教え願いたいものだね」

 

 モモイが不敵に笑い、一歩前に出た。

 

「こんなにたくさん集まって──お別れパーチーでも開いてくれるの?」

 

 ……。カッコイイ台詞をカッコイイ顔で言い放つモモイだったが、その額にはクナイが一本、深々と突き刺さっていた。

 

「モモイ。本当にお別れだよ」

 

 ユズが冷ややかな目で告げる。

 

「え、何が?」

 

「何が? じゃないよ! 何回ぶっ刺さってんの!? おでこにブラックホールでもあるの!?」

 

「え? 何が? 刺さってないよ何も」

 

 しれっとクナイを引き抜き、背後に隠す。が、額からは依然として鮮血が噴き出していた。

 

「刺さってたでしょ!? 今明らかに顔が赤くなってるでしょ! 照れてるでしょ!」

 

「ちょっと、いい加減にしてください! 決めるときはバシッと決めてくださいよ!」

 

「そうだよ、お姉ちゃん。私たちの面子にも関わることなんだから、しっかりして」

 

 アリスもミドリも呆れ顔。……だが、二人の額からも、しれっと血が垂れていた。どちらも背中にクナイを隠している。

 

「刺さってたよね!? 二人とも明らかに刺さってたよね!?」

 

「フッ。今からその調子だと、先が思いやられるね──貴女たち! そんなことでは、百年かかっても夜王には勝てないよ!」

 

 ……勇ましくルミは吠えたが、背中にはクナイが四本ほどハリネズミのように刺さっていた。

 

「ツッコミづらいんですけど……。そっとしといた方がいいよね、あれ? 知らないフリした方がいいよね、アレ?」

 

 百華の生徒たちが武器を構えた。

 

「裏切り者には死を。それがここの掟! その命をもってして、最後の掟を守るがいい!」

 

「嬉しいねぇ。遊女総出の総仕舞とは、女の子冥利に尽きるよ。だけどさぁ、こう貧乳ばかりだと興も醒めるってもんだよ。女の子はさぁ、やっぱり──」

 

 モモイ、ミドリ、ユズ、アリスは一斉に着物を剥いだ。そこにあったのは巨乳──ではなく、上半身にしっかりと巻き付けられた、巨大な丸い爆弾だった。

 

「爆乳でござんしょう!」

 

 ルミが鮮やかな手つきてマッチに火をつけ、モモイの胸元の導火線に灯します。

 そしてモモイは──ニタァと邪悪に笑いました。

 

「さぁ、楽しいパーチーの始まりだーい!」

 

 ──直後、巨大な爆発が発生。城全体を揺らす轟音と衝撃が、その場にいる全員を飲み込んだ。

 

 

* * *

 

 

 一方その頃、城の居間。ケイは退屈そうに畳に寝転がっていた。

 

「大した騒ぎですねぇ」

 

「あんたが起こしてくれた騒ぎよりはマシだろう」

 

 損傷した左腕に器用に包帯を巻きながらミナは吐き捨てた。

 

「なんですか、まだ怒ってるんですか? 過ぎたことは忘れないと長生きできませんよ?」

 

「はぁ……ケイ。お前、最初から門主様とやり合うつもりだっただろう?」

 

「フフッ。バレました?」

 

「『バレました?』じゃないよ、スットコドッコイ。おかげで門主様が目当てにしてたガキに逃げられただろ」

 

「あぁ、あの子供のことですか。すっかり忘れてました。大したもんじゃないですか。あの中を逃げ出すなんて。先が楽しみだねぇ」

 

 ミナは溜息をつきながら立ち上がった。

 

「楽しみにしてる場合か」

 

「駆け引きなんて必要ありません。吉原が欲しければ、キサキ殿を殺してしまえばいいですから」

 

「アホか! お前のせいで春雨と夜王が全面戦争を始めれば、真っ先に消されるのは私たちのような現場の下っ端なんだよ。……んで? その後、貴女様は海賊王にでもなられるんですか?」

 

 ミナは包帯の上から服を着直した。

 

「それもいいかもですね。上に行けば、それだけ強い人にも出会える」

 

「……あんたのところの部下は苦労してそうだな」

 

 愛用の傘を腰に差してミナは歩き出す。

 

「どこに行くのですか?」

 

「私は門主様の護衛だ。護衛は護衛らしく……いや、海賊王への道を切り開くとするよ。ハハハッ」

 

「頑張ってくださいねー」

 

 ケイはひらひらと手を振り、ミナは背を向けたまま手を振り返すのだった。

 

 

* * *

 

 

「ゲホッ……クソッ、煙玉! 私たちは斬る価値もないというのか!」

 

 爆発の煙に巻かれて咳き込んでいる隙にモモイたちは階段を駆け上がり、二階へと到達していた。しかし──階段を上り切ったところでルミが足を止める。

 

「ここでしばらく食い止める。……先に行きな」

 

「ルミさん!」

 

「ルミ……死ぬ気ですか?」

 

「部下の躾は、頭がするさ」

 

 ルミは最後の一つの肉まんを取り出した。

 

「火種。くれないと煙玉が使えない。あと、お腹が空いたからその肉まん頂戴」

 

「……最後に一口」

 

「ダメ。頂戴」

 

「……仕方ないね」

 

 ルミは苦笑し、マッチと肉まんをモモイに投げ渡す。

 

「お姉ちゃん、本当に置いていくの?」

 

「……そんなに食べたきゃ、食べに来て。必ず戻って、食べに来て。さっさと食べに来ないと、ペロペロ舐めて私のモノにしちゃうからね」

 

 モモイは肉まんをお手玉のように放り投げながら、廊下の奥へと歩き出した。その背中を見てルミはフッと鼻で笑う。

 

「貴女たちも早く行きな。何度も言わせないでよ。私が身命を賭して守るのはシュンのみ。貴女たちを守るために捨てる命なんて、持ち合わせていないよ。──早く行きな!」

 

 ルミの言葉に覚悟を感じたミドリ、ユズ、アリスは深く頷き、モモイの後を追いかけた。

 一人残ったルミは階段の下へと視線を向ける。そこにはかつての仲間たちが、武器を手に殺気立って迫っていた。

 

「そう。私は、シュンを命懸けで守る番人。私の太陽を。吉原の太陽を。吉原に光を導く、太陽を──!」

 

 百華の生徒たちが階段を駆け上がってくる。ルミはクナイを構え、凛とした声で叫んだ。

 

「死ぬ覚悟はできた! どこからでも来な! 何人たりとも、これより先には通さない!」

「太陽の番人、朱城ルミ──参る!」

 

 

* * *

 

 

「「「「オラァァァ!」」」」

 

 モモイ、ミドリ、ユズ、アリスの四人は最短距離を突っ走る。襖を蹴り飛ばし、広間を抜け、廊下を疾走。

 

「急いで夜王のもとへ! きっとそこに、ココナちゃんがいるはず!」

 

 しかし──その時だった。

 鋭い殺意を感知したアリスが横を向くと──襖を突き破りながら放たれた、傘の鋭い突きが迫っていた。

 アリスは咄嗟にスーパーノヴァで防御するが、至近距離で発射された仕込み銃の弾丸により、武器ごと吹き飛ばされて襖を突き抜け、隣の部屋まで転がっていった。

 

「アリスちゃん!?」

 

「こいつは驚いた。誰かと思えばゲーム開発部か。生きていたとは……ケイが聞いたら喜びそうな連中だ。ミレニアムにも、少しは骨のあるヤツがいたってね」

 

 煙の中から現れたのは──ミナ。傘を肩に担ぎ、まるで値踏みするように三人を見つめる。

 いよいよお出まし。キサキの護衛にして、この街で二番目の戦力を誇る実力者。前評判通りの威圧感にモモイの額から汗が零れた。

 

「ひい、ふう、みい、やあ……。一人はもうやったとして、それでも一人足りないな。あのルミは、下でくたばったか?」

 

「──随分と寝坊助さんですね……!」

 

 ──奥から飛び出してきたアリスの蹴りがミナの顔面を貫いた。不意を突かれたミナは襖を何枚もぶち抜き、床と天井に激突しながら蹴り飛ばされる。

 着地したアリスは、口に溜まった血をペッ、と床に吐き捨て、煙の奥のミナを睨み据えた。

 

「睡眠不足はお肌の天敵ですよ! アリスのモチモチお肌を見習ってください!」

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