数日経ったが何も起きなかった。だが何も起こらない事が逆に怖い。
看守の追加と【密告】の導入は余りにも残酷だ。二人以上の投票で一人を一日懲罰房に送られる。邪魔者を排除も疑心暗鬼を引き起こす事も簡単にできてしまう。誰が誰に投票したのか分からないから更にタチが悪い。
それにあの黄色の看守、アレはなんなんだ?
…昨日、クロノちゃんが転んだ時、手を出して起き上がらせてくれた。動きが大袈裟で芝居かがっている。王子様とか騎士みたいな振る舞いをしている様に見える。しかし、看守は看守だ。黒色の看守の隙を埋める様に牢屋敷内を巡回している。
監視の目が増えた事、それと、怪しい動きや行いは【密告】され懲罰房送りになるかもしれない。そんな不安が日に日に増してきている。
午後、私はクロノと一緒に図書室で本を片っ端から見ては棚の中や底に何かないか探索していた。英語とは違う言語が書かれた物より、過去捕まった少女のメモや日記がないか調べる。前に見つけた英語で書かれた文書も見てみたが全く分からない。
「何も無いな……。」
「せめて、せめて英語で書かれた文章を読めればいいのだが……。」
結局の所収穫無かった。しかし、全部の棚を調べてない以上は全部調べる予定だ。生き残るには情報が必要だからだ。
ふと、何か気配がした気がしてその方向は視線を動かす。
椅子に腰掛けて肘をテーブルに置いて小さくて古びた日記の様な本を気だるそうに見ている少女がいた。確か……。やべ、取り敢えず魔女図鑑で……。【深浦ミナミ】ちゃんだったか。人見知りが激しい人らしいのはショウコちゃんから聞いている。
すこし、じーっと見ていると目が合った。困惑しながらあたふたし始める。取り敢えず英語の事ダメ元で一回聞いてみようか。
「あの……。ミナミちゃんだよね。聞きたいことが……」
声をかけた瞬間、さらに挙動不審にキョロキョロし始める。
あっ、これ典型的なコミュ症だ。
「この紙に書いてる英語なんだけど。私とクロノちゃんじゃ読めなくて。ミナミちゃんは読める?」
「………… ヨ、ヨ、ヨメルヨ……」
コクコク
「読めるの!?」
「……!」
ビクンッ!
大きな声を出してしまい驚かせてしまった。凄いビクビクして全く目を合わそうとしない。私も目を合わせて喋るのが苦手だがここまでとは……。
「驚かせてごめん…… ミナミちゃん。別の紙に翻訳して書いて欲しいんだけどできる?」
「ハイ……… ソノ……… デキマス…… 」
コクコクコク………
なんか申し訳なくなってくる。気持ちは分かるよ。断りずらいよね。本当にごめん。
…ってか本当に読めるんだな。
スラスラと書いていって字も綺麗だし丁寧だし文系か?凄いな……
10分ほどで翻訳された文書が出来ていた。途中悩む所はあったけど黙々とやっている所を見ると彼女は日常的に英語や色んな文章を読んできたのだろうと想像できる。
ミナミちゃんは私にスッと紙を手渡すと古びた日記帳の様な物を読み始めた。私は渡された紙を見た。
西暦一五XX年 春
宛 本国ならびに騎士団
差出 騎士 オリヴィア・ウィンチェスター
命により、俗に「魔女」と呼ばれる者共が棲まう孤島へ赴き、その性質と脅威の有無を見定めた。以下、この目で見たままを記す。
島の館は城塞ではない。憩いの場である。人と異なる力を用いるのは事実だが私が見た限り、その力は日常を支えるために使われていた。
ある者は火を灯しパンや菓子を焼き
ある者は植物を育み実りを得て
ある者は食べ物を凍らせて保存させ
ある者は怪力で貨物を運んだいたり
刃や魔法を私に向ける者は、私の滞在中にはいなかった。
初めは警戒した。孤児院を出た日から義父は私にこう教えた。優しく甘く見えるものほど先に疑えと。目に見えない物を見分けろと。ゆえに剣を手放さず、相手の目も、背後も、常に測っていた。
だが、魔女たちは私を客人として迎え入れて、開かれていた茶会にも招き入れた。剣を持った異国の女をすぐに敵とはしなかった。食事を分け、道を教え、言葉の足りない私の沈黙を急かさなかった。
騎士として宣誓する。
この島に住む魔女達は害をなす人達でも敵でもない。
脅威にはならない。皆善良で心優しい人達だ。
噂や私達には理解及ばない力があるから。という根拠に刃を向けるのは、私の騎士道に反する。義父が私に授けた誇りと騎士道は、強者や邪悪な者を討つことより先に、清き善良な者の盾となり害さないことにある。
本報告は、その誇りと騎士道に従った結果である。
以上、虚飾なく報告する。
騎士 オリヴィア・ウィンチェスター
500年前の騎士の報告書、しかもこれはメルルが言っていた騎士が書いた物なんだろう。これを読む限りは誇り高い騎士だったんだろう。
横を見るとクロノちゃんがマジマジと食い入る様に見ていた。
ロマンを感じるのはすごく分かる。500年前の騎士が書いた物が読めるのだから。
「騎士の報告書と…… 中々そそられる文章であるな…… なんかカッコいいな」
「ミナミちゃん、ありがとう。脱出には役に立ちそうにないけど牢屋敷の事を知れる資料としては良い者だし。」
「…………」
コクコクコクコク……
ミナミちゃんは頷くとまたすぐに古びた日記を読み始める。人見知りが激しくて一人が好きな人なんだろう。
何か言葉に出来ない違和感を覚える。ミオが【煽動の魔法】を使った時の違和感の様な。
気になったのでクロノに聞いてみた。
「クロノちゃん、ミナミちゃんについてどう思う?」
「ミナミちゃん?
… … … … … 特に何も……。強いて言うならあまり目立たない者だな。としか……。あまり印象にないな。翻訳したと言うのに印象にないな。なんでだろ?
ん〜〜…… 分からん。」
「まぁ、いいか。」
これがミナミちゃんの【魔法】なのかは分からないが何かおかしい。…でも本人に直接言うのは気不味いと言うか…。暫くしてから【魔法】について聞いてみよう。
夜、晩御飯を食べ、私とクロノはシャワー室へ来ていた。丁度ミオも来ていて一緒にシャワーを浴びた。
何故か私に視線が集中していた。特に胸に。
「やっぱり、改めて見ると…… その…… 大っきいな……」
「何食べたらそうなるの?やっぱり牛乳かしら?」
「動く時にサラシを巻かないと揺れるから大変だぞ。」
「あ〜〜… 魔女化しそう。成長期にこんな環境に入れられるなんて……。」
「そ、その…… 少し揉んでいいか?」
「な、何言ってるの?え?」
「【揉んでもいいわよね】」
「揉ませてもらうぞチサト殿」
ミオちゃんやりやがった!【煽動の魔法】使いやがった…!おい、後ろから抱きつくな!床タイルだから滑りやすくて変に抵抗できないだろ!
や、やめ…………
あっ………
酷い目にあった。
あの後、クロノちゃんとミオちゃんに好き放題された。ちょっと悪い気はしなかったし、ちょっと楽しかったがこれっきりにして欲しい。
脱衣室に入り私は着替える。服を全て着替える。あれ……?
「クロノちゃん、ミオちゃん、私の刀知らない?」
「え?置いてたの見たわよ?そこにないの?」
「チサト殿がそこに置いたの我が見てるぞ。まさか…… ないのか……?」
「これは…… 不味くないか?兎に角探さないとマズイな… 」
この後、大慌てで皆んなに連絡して刀を探してもらったが見つからなかった。武器の紛失は不安を更に加速させてしまった。