魂の寄る辺、生きる寄す処   作:少彦名

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虎杖悠仁にとって、両面宿儺宿儺は忘れることができない男だった
師が、兄が、そして自分たちが
文字通り、死力を尽くしてようやっと倒した男
師は、自らを最強だと言った
それでも、悠仁はあの男ほどに強い術師を知らない
決して折れぬ意志で、皆で掴み取った勝利の果てに
悠仁は、ひとりの強さを持つ男に憐憫の情を抱いてしまった
呪いではない生き方を共にと、手を差し伸べた
けれども
呪いなのだと、この手を振り払った男
最期の最期まで、救いを拒んだ男
そんな男の魂を、忘れられるはずもなかった

「…………すくな…?」

今にも崩れ落ちそうな、トタンの隙間に身を寄せ合う幼な子
ブカブカなTシャツ一枚は肩から落ちそうで
生にしがみつく瞳は野生の獣のよう
フラリと近づいた悠仁を見て

「……こぞー?」

確かに悠仁を呼んだ幼い高い声に、とうの昔に凍てついた心臓が大きく鼓動を打った
ああ
あゝ
嗚呼!
歓喜のままに、手を伸ばす
幼い子供特有の、内臓に押し上げられぽこりと出た腹
踏めばパキリと音を立てて折れそうなほど、小枝のように細い骨
転んだのか、泥に塗れ雨風に濡れて冷たい肌

「おかえり、宿儺」

神様ってやつは、俺に褒美でもあげるつもりなのだろうかとバカみたいなことを思う
悠仁によく似た生得領域にいた宿儺
絶望した伏黒を乗っ取った宿儺
最期に戦った生前の姿の宿儺
その姿のまま、幼くなった宿儺たち

「帰ろっか」

今度は、手を振り払われなかった


出会いは惨憺、けれど宿命

「釘崎、ちょっとだけ匿ってくんね?」

 

「……アンタ、その子供たち…いや、いいわ。いらっしゃい」

 

「おう。お邪魔します」

 

小さな弟たちは、男に抱えられて

俺は男の背にしっかりとしがみついて、男と共に訪れたのは老女の家

老女は男と俺たちを見て、目を丸くするに止め、男とともに自分たちを家の中に招き入れた

男と共に押し込まれた風呂場

小さな体は不便で、男に体を洗われるのを大人しく受け入れる

 

「熱い?大丈夫?」

 

「ん」

 

男と共に風呂に入り、湯船でしっかりと温まった

弟たちはこくり、こくりと船を漕ぎ、男になされるがまま

風呂から上がれば、バスタオルを持った老女が立っていた

 

「うおっ!?」

 

「一人よこしなさい。そのままだと風邪引くわ」

 

「いや、俺マッパなんだけど…」

 

「うるさいわね。アンタもこっちも枯れてんでしょうが」

 

半分寝かけている弟たちが拭かれて、老女に抱っこされて連れていかれる

男に頭を拭かれながら、男を見上げる

 

「なぁに?」

 

「……こぞー」

 

「ッ、そうだよ。宿儺」

 

男の目には、俺たちは推しの姿に見えているらしい

推しの姿で転生したことに大歓喜、これからの人生に絶望してたところにこの男…虎杖悠仁と出会えたのは勝ち確決定演出だった

騙しているようで申し訳ないが、いわゆるトラック転生をしたらしい俺たちはこの世界で生きる術はない

推しの魂の寄る辺を離してなるものかと弟たちと結託

悠仁は、俺たちを連れていく選択をした

 

「…っクシュッ」

 

「! 湯冷めしちゃうな。このバスタオル被っててな」

 

悠仁は用意されていたスウェットに着替え、俺を抱き上げて移動する

居間のソファには、すっかり寝入った弟たちが寝かされていた

 

「憂憂?」

 

「お久しぶりですね」

 

「小さい子供の服なんて持ってないでしょ。服を持ってきてもらったのよ」

 

「大体3歳と5歳くらいですね。そちらの子にはこのサイズでいいでしょう」

 

着せられたのはポロシャツと短パン

俺は推しの生前姿がベースだが、流石に腕は二本で、顔面の歪な骨の盛り上がりもない

目は四つだし、呪印もあるが

ソファの方に押しやられ、シャツにサスペンダー付きのズボンを履いた子供三人に囲まれる

 

「虎杖。この子たち、育てるつもりなんでしょ」

 

「……おう。俺が、アイツの。宿儺の魂を見間違えるはずもねぇし、呪力もわかる。こいつらは、宿儺だよ。なんで、ガキの姿でいるのかはわかんねぇけど」

 

「調べてはみますが、この子たちの戸籍はまずないと思った方がいいかもしれませんね。と、なれば戸籍の用意はお任せを。特別価格で提供しますよ」

 

「その時は頼むわ」

 

悠仁は、俺の方に近づいてくる

膝をついて、頭を撫でる

 

「お前、随分と変わったのな。手を振り払うと思ってたのに」

 

「こぞー?」

 

「悠仁だよ。俺の名前、知ってるでしょ」

 

それは、呼んでもいいってことか?

 

「……ゆーじ?」

 

ああ

きっと、寂しかったんだな

 




上層部との話し合いを終えた
正確には両面宿儺の魂の欠片を持つ、三人の子供たちは物語のようにしか俺のことを知らなかった
術式も使えるようだが、恵まれた身体能力で遊ぶ方が好きなようで、きっとあの宿儺のようにはならないだろうと思った
俺が死ぬ時に、子供たちを連れていく
それを、認めさせた

「ゆうじ!」

きゃらきゃらと、子供たちの笑い声が響く
思わず綻んだ顔
戸籍を用意するために、名前も誕生日も、一から考えた
子育ては初めてだけど、いい子達だからそこまで苦労はしない
先輩の孫たち、そして、宇宙人たちが遊び相手になってくれていた

「はいはい。ここにいるって」

「りょこーいこ!このじゅぐでいろんなとこいける!」

「……え?」

「すみません!回収した呪具をえらく気に入られてしまって…!」

遊んでいたわけではなく、呪具を取り返すために追いかけていたらしい
弾丸のように駆けてきて飛びついてきた二人の子供たちを抱きとめて、呪具らしい鏡を持つもう一人が俺に触れる
ぐわんっと揺れた景色
目を開いた時、そこは見知らぬ場所だった
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