魂の寄る辺、生きる寄す処   作:少彦名

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「何をそんなにヘソを曲げている」

ぐ、と酒を煽る宿儺
つい先程まで、この屋敷でどんちゃん騒ぎの大宴会をしていた鬼たちが遠巻きにこちらを伺うのを見やり、膝に縋りつくように眠る子供たちの頭を撫でる

「……なんで、俺以外に受肉してんの」

「は」

目を見開いて、息を呑んだ宿儺
意表を突いたのだろう
俺が、こんな

「器としての矜持か。否、違うな」

コイツに重い感情を向けてるなんて思うわけがない

「快い」

……なんで
そんな嬉しそうなんだよ

「今のお前は、快いな」

そう言って、目を細めてさぁ
俺の手を、振り払ったくせに
今更、繋ぎにくんなよ
目を逸らし、ビクビクとしながら控えていた女鬼に声をかける
この女鬼は、この屋敷の主人がこの京を離れる時、病を患っていたというだけで捨て置かれ、恨み辛みから鬼になったのだとか

「ごめん。この子たちを寝かせるのに布団か何かない?」

「ふとん、ですか…?」

「え、えっと」

もしかして、この時代にはない?

「しとねを用意しろ。吾子らにはふすまを」

「はい、ただいま」

「吾妹は一等柔らかいのが好みだ」

わぎも?

「ここにいるのは鬼ばかりだ。人ならざるものの耳にお前の名が渡るわけにはいかんのでな?」

「お前はいいって?」

「クハッ!神を殺すのも面白そうだ」

「さいってー」

おあ、もう
なんでこんなやつに惚れちまったんだろ


意味はない、あんたに語るほどの意味はないんだ

「おいちぃ」

 

「それはようございました」

 

目の前でニッコリと笑う白髪の麗人

裏梅という推しの右腕である

今、俺たちが食べているのは索餅という唐菓子の一種

チュロスみたいでおいしい

 

「さすがにそろそろゆうじをはなしてほしい」

 

「うむ。かえせ」

 

「かえせー」

 

ぶうぶうと文句をいうのは仕方がない

だって俺たち、子供だから

 

「うるさいぞ」

 

「申し訳ありません、宿儺様。若様たちと戯れておりました」

 

「よい。湯を持て」

 

「は」

 

元はどこぞの貴族の娘だったそうだが、鬼と成り、自由を得た鬼女が裏梅と代わり俺たちの相手をする

この鬼女は初めこそはビクビクとしていたが、今は俺たちの乳母としてその才覚を抜かりなく発揮している

推しはただ手入れのされたすぐに過ごせる屋敷を手に入れるために、下卑た鬼たちが集っていたこの屋敷に押し入った

珍しい女の鬼が男を待っていると聞いてやってきた鬼たちは、次々と鬼女に惚れては勝負をふっかけて負けていくうちに、いつしか大所帯になっていたそう

その勝負を推しも受けた

異形かつ男たちをちぎっては投げをした推しに畏れながらも、鬼女は今までの男たちと同様に勝負をふっかけた

で、推しが勝ったので今の屋敷の主人は推しである

そんな鬼女は、光源氏よろしく俺たちに英才教育をしようと躍起となっている

いや、俺たち全員古文漢文大好きだから、なんとなく読めるけどさぁ

 

「きさらぎ」

 

「はい」

 

「ここはふるいみやこときいた。あたらしいみやこはどんなみやこだ?」

 

「ここは、かつて長岡京と呼ばれおりました。新たな京の名は、平安京。新たな京は名のある陰陽師による守りがあると聞きます。その陰陽師が配下とする十二柱の式神もまた、強い力を持つとか」

 

兄の問い

ほうほう

陰陽師、ね

呪術師も含んだ術師たちを、全員そう呼んだとか

 

「おんみょーじのなは?」

 

「安倍晴明、とお聞きしています」

 

「せーめー?」

 

「狐の子、とも言われていたそうですよ」

 

一体ここは、なんの世界なのやら

陰陽師が登場する作品は結構な数がある

情報が足りなすぎる

 

「ああ、そういえば。雑鬼たちからうすらと聞きましたが、最近、末の孫が出仕し始めたそうですよ。年の離れた末の孫で、随分と可愛がられたのだとか」

 

孫!!

ここは少年陰陽師の世界か!

マジか!

もっくん!

もっくん会いたい!

 

「いずれお会いできるやもしれませんね。宿儺様は強いので。では、今日の手習いを始めましょう」

 

今度、京まで遊びに行きたいな

で、さっさと会って遊んでから帰る!




三日三晩
宿儺と共に過ごした
宿儺は言葉にはしなかったけど、俺と同じ気持ちらしい
子供たちはあの女鬼が乳母になって面倒を見てくれている

「起きたか」

「すくな」

ほんと、俺のことなんで好きになってくれたんだろ
ゆる、と頬を撫でられてくすぐったさに首を窄める
ほんの微かに、子供たちの喜ぶ声が聞こえた

「いま、なにしてんの?」

「鬼どもが相撲をとっておる。吾子らも混ざってな」

「ちびっこずもう?」

「ああ。そのようなものだ」

じゃあ、今の声は高く持ち上げられたりして下されたからかな
半ば襲撃みたいな感じで押し入ったのに、子供たちと仲良くしてくれんの凄いな
体を起こし、ぐうっと伸びをする
平安時代の布団は、しとねっていう畳に重ねて使うシーツみたいなやつと、ふすまっていう着物みたいなやつ
別に高速道路の上でも寝れるけど、体が凝る

「慣れんか」

「ん。まぁね。布団は俺の時代の方が良かったんじゃない?」

「……まぁ、そうだな」

「次行くとこが、俺のいた時代に近いと良いね」

俺の言葉に、目を見開いた宿儺
俺、お前のこと離すつもりなんてないんだけどな

「小僧」

「なぁに?」

「お前も混ざりに行くか?」

本当は嫌なくせに

「んーん。ここにいる」

「……そうか」

今は、もう少しだけ
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