表通りに面した、表長屋に設けた店
その戸口に戸板を立てていた如月が、誰かを見つけたらしい
今日も閑古鳥の鳴く小料理屋とらや
外から来た俺たちが開いた小料理屋は、良くも悪くも話の種
この隠れ里は、良くも悪くも閉鎖的で、排他的だ
そして、口さがない
如月が声をかけた幼児は、この里で村八分となっている幼児
薄汚れた身なりを見るに、まともな世話をされていないのだろう
「ぁ、う…あの、ごはんくださいってばよっ」
ズボンのポケットから、くしゃくしゃになった紙幣を取り出した幼児
土間の流しで洗い物をしていた手を止めて、番台で帳簿をつけている裏梅と、囲炉裏間で酒を飲んでいる宿儺を見る
宿儺が目線を巡らせ、ほんのわずかに長く止まった位置を数える
ん、三人ね
「まぁ、いらっしゃい、小さなお客さん」
戸板で完全に外の目を遮った如月が、その幼児を店の席に案内する
「これが、献立ですよ。今日のおすすめはおむすびです」
「じゃ、じゃあ、おむすびくださいってばよ!」
文字の読み方すら教えて貰えていないし、礼法も何もかもわからないのだろう
それでも、まずは空腹にひもじい思いをしている子供にお腹いっぱい食べさせてあげないと
「いらっしゃい。小料理屋とらやにようこそ。お名前は?」
「、 ナ、ナルト!! だってばよ!」
「ナルトくんか。はじめまして」
如月が席を離れるのに合わせて、ナルトくんの隣に座る
如月がおにぎりを用意しているのを見つつ、微笑む
「はじめまして?」
「ナルトくんに、お願いがあってね。うちの子たちと、お友達になってほしいんだけど」
「ともだち?」
「そう。うちな子たち、ここに来たばっかりでお友達がいないの。だから、ナルトくんが初めてのお友達になってくれないかな?」
「! な、なる!なるってば!ともだち!」
「ありがとう。今、連れてくるね」
裏梅が帳簿を書く手を止めて、ナルトくんを見る
物珍しげに店内を見渡す様子に、腹の中にいるものを除いては普通の子供のように見えた
宿儺の近くで静かにお絵描きや折り紙をしていた子供たちを手招く
「ナルトくん」
「!」
「この子たちなんだけど…ほら、挨拶してご覧」
子供たちの背を押す
うーん?
警戒してる?
「おれ、はるき。おまえは?」
「ナルト!ナルトだってば!」
「ナルト…ん。わかった。こっちはおとうと。ゆづきとゆうか」
「よろしくだってばよ!」
うん
なんとかなりそうかな?
ナルトくんの許可も出たことだし、みんなでご飯にしようか
「ぜんっぜん来ないってばよ!!」
「おいおい…もう3時間も待ってるぞ…」
「先方、相当お冠でしょうね」
「やぁ諸君。今日は鳥に追いかけ回されてね」
「遅ぇっってばよ!!!」
今年のルーキー九人と、その担当である上忍三人が集まったのは、とある楼閣の正門前
その楼閣の上階の回廊から見下ろす
この楼閣は、今存亡の危機にあった
楼閣一の妓女、水晶姫
彼女を身請けするために、とある豪商の若旦那が日々頑張っているという
楼主は、妓女を大切にしてくれるだろう人に身請けさせたいが、ある国の豪族が彼女を身請けしたいと言い出したという
その豪族は、すぐに身請けするが飽きれば手酷く捨てるという
それを知った楼主は、豪族の要求を突っぱねたがそれに激怒され、この楼閣を潰すという
咄嗟に水晶姫自ら、それぞれで組を作った三本勝負の智慧比べを申し出たことで事態は収まったが、次に豪族がこの楼閣に赴くのは一月後
それまでに、豪族よりも智慧のある身内を集めなければならない
「水晶姫。どうやら教養が深いのが一人来るぞ」
「まぁ。どうして分かるのですか?」
「俺たちと同じ女に礼法作法を習ったやつだ」
「なるほど。わかりました。試しは行いますが、よろしいですね?」
「あの程度の試しなら難なく突破するぞ」
「部屋は俺たちと一緒でいい」
兄たちが彼女…水晶姫と話しているのを聞きながら、俺は立ち上がった
水晶姫の傍らに付き従う見習いの妓女として女装させられているのは、俺だけ禪院フェイスだからだろう
俺だけ、伏黒恵受肉体の時の肉体だからか、兄たちや悠仁と顔つきが違う
少し化粧するだけで、見られる顔になったと騒がれたくらいだ
まぁ、ギリギリ女の子に見えなくもないか、と言ったところではあるが
「紫水、黄水、準備を」
「はい」
「精々頑張れw」
「そうだな、紫水姫w」
後で兄たちの足を踏んでやろう
このヒールのある靴で踏めばさぞや痛いだろう
「紫水、その、教養の深い子はどんな子なの?」
「金糸の髪に藍玉の瞳を持つ、俺と同じ歳のやつだ。そそかっしいにはそそっかしいが、スイッチが入れば思慮深くなる。あれは忍なんざよりも、お飾りにした方が映えるだろうな。気質的には動いていたいのだろうが」
「それほど……忍の子たちの前で、それを露呈させてもいいのかしら?」
「構わない。忍には必要のない知識だしな」
「そう……」
ナルトが言うには、班を受け持つ上忍が遅刻癖があると言う
事前に、集合時刻をとんでもなく早い時間に指定しているので、向こう側からすれば、遅刻したというイメージになる分、こちらの要求が通りやすくなるだろう
「郵便でーす」
「はい。ご苦労様です」
店前の打ち水をしていた如月が手紙を受け取ったらしい
風を通すために、部屋を部屋を仕切る襖を開け放っているので、表の声が丸聞こえなのである
奥座敷から見える中庭を見ながら、二人でゆったり過ごしているのは今は店を閉める中休みの時間だからだ
この店は、夜明けから午前と日暮れから日付けが変わるまでの変わった時間に店を開く
主に、忍者の皆さん宛に弁当を販売している
夜勤明けや早朝から里を出る忍者が持ち運びやすいおむすび弁当
自宅に帰りゆっくり食べれるように汁物付きの定食弁当
それから、一品だけ買いたい人用の単品惣菜
要予約で宴会もできるようにしてあるのだが、これがまた需要がある
朝早く、夜遅くに開いている店が少ないのは、どこの世界でも共通らしい
「おい」
「ああ、ごめんごめん。誰宛の手紙なのか気になって。また裏梅に釣書かもね」
「よそごとを考えるな」
「ん」
宿儺が体を倒し、膝を枕にする
足、痺れるんですけど
「硬い」
「文句言うならしなきゃいいでしょうよ」
満足そうに鼻を鳴らしちゃってまあ
「旦那様、奥方様、よろしいですか?」
「どうしたの?如月」
「いえ、若様たちから私に手伝って欲しいと手紙が」