呪具が飛ばしたのは、わかりやすく言えばパラレルワールドとか
そんな世界だった
神隠しの魔鏡
それが、悠雪の持っていた呪具の異名だという
「旅行行きたかったのはわかったからさ。勝手にこんなことすんのやめてね」
「だって、ゆうじがいやなかおしてた」
「…そんなにしてた?」
「してた」
「そっかー」
悠月も悠花も、俺を心配していた
なら、仕方ないか
「今日の宿、探さねぇとなぁ」
冬木、というこの町
どこか、陰鬱としか空気が流れているのは、気のせいではなさそうだ
悠雪、と新たに名前をもらった兄が掠め取ってきた鏡
その鏡は、神隠しする鏡なのだとか
不老となった悠仁が、気兼ねなく暮らしていくために、必要な呪具
年を取らないのを隠すために、居場所を転々とせざるを得ない悠仁だ
この呪具があれば、悠仁を知らない土地に行ける
まあ、帰れるかは不明だが
「おいおいおい、マジか」
災害の発生
兄の体に思わず力が入った
まあ、お前元々そういう仕事してたもんな
俺もだけども
「……ごめん」
悠仁は俺たちを守る方を取ったか
子供、しかも幼児三人を連れて、あの規模の災害から人を救い出せるかと聞かれれば…かなり厳しいだろうな
でもこれは、ただの災害ではないな
ん??
ちょっと待てよ?
このシーン、みたことがあるような…?
マジか
この世界
某きのこの某運命の世界か!
第四次聖杯戦争の終盤、セイバーによる聖杯破壊の時
第五次の主人公たちは生き残るから問題ないが、なぁ
「ゆーじ」
「なに?」
「あっち。のりょい」
「! しっかり捕まっててな」
俺と弟は抱き直される
兄が背中にしっかり捕まったのを確認して、悠仁は走り始めた
風を切る音に、轟々と燃える音
焼ける匂いに悠仁に捕まる手に力が入る
地面を踏み締める
砕けようとも、構わずに
そうして、見上げたそれ
破滅の泥を吐き出すそれ
「悠雪!斬って!」
兄の腕が持ち上がる
「“りゅうりん”“はんぱつ”“つがいのりゅうせい”────《かい》」
生まれ出ようとしていた何かが、両断される
カタチとなる前に祓われたそれ
兄がやったのは、世界を断つ斬撃
やってみたらできた、という兄に悠仁がとんでもなく慌てていたのは面白かった
これで災害が広がるのは食い止められるだろう
「っし、あとはここの人たちがどうにかするだろ」
「おなかすいた」
「ふはっ、じゃ、どっか食えそうなとこ探すか!」
いや、この状況じゃ生存者として救助されると思うぞ
悠仁の目は、眼下の金髪の男に向けられた
男も、こちらを面白そうに見上げるのみ
お互いに、見て見ぬふりだ
悠仁が、跳ぶ
だから、そっちに行ったら救助されるぞ
「大丈夫ですか!?」
「……え」
「要救発見!男性一名、子供三名、外傷は確認できません!」
「??」
ここは流されるのが吉、だろうな
「お父さん!もう大丈夫ですよ!お子さんたちは全員無事ですよ!」
「はぁ……?」
「よく頑張りましたね!」
なあ、兄よ
一旦鏡で戻らないか?
やだ?
そうか
「ゆーじ……」
きゅ、と胸元の服を掴んで見上げる
は、と俺を見下ろした悠仁が、なぁに、と声をかけてくる
ま、兄弟で一番振りが上手いのは俺だからな
ここは俺が泥を被ってやろう
「いっちゃ、や」
へにょ、と眉尻を下げてみれば、悠仁は
「おいてかないよ。ずっと一緒だから」
そう言って、俺に頬を擦り寄せた
「おい」
戦闘音が聞こえるもんだから、慌てて帰ってきて、今
居候してる家でなんだかよくわからない揉め事が
あの女の子の方は士郎を庇ってるようだし、味方か?
「うちで何やってんだ」
「チッ。今日は運がねぇ日だな」
男は全身青いボディスーツに赤い槍を持っている
おそらく、あの槍は呪具だろう
女の子はこちらも青いがバトルドレスとかいうやつだろう
武器は、一見じゃわからないな
「……悠雪、どっちが敵だ?」
「男」
悠雪の返答とほぼ同時
男の懐に潜り込む
長柄物を使う相手のアドバンテージは、間合いの広さ
だからこそ、その内側に入る
「なっ…!」
「《黒閃》」
初手
男に対する牽制の一撃
速いな
庇ったか
「…………テメェ、なにもんだ?」
「ただの老兵だよ。さっさとうちから出てってくんねぇかな。お互い、あまり手の内は見せたくねぇだろ」
「随分と戦い慣れてんな。相当名のある手練れとみたが……生身の人間だな?」
なるほどなぁ
これが、サーヴァントってやつか
切嗣に聞いてはいたけど、どうしたもんか
「……俺はここの居候の身なんだが…死んだここの主人が知ってたよ。聖杯戦争ってやつのことをな」
「へぇ?生身で俺に挑もうってか」
「まぁな。アンタ……俺が知る最強よりは弱ぇもの」
男を煽る
男の槍が、神速の突きを放つ
拳で払い、再び男に肉薄する
男を殴り上げ、蹴り飛ばす
姿が消え、男の気配が遠ざかる
「俺、アイツを追うけど、表の奴らはどうする?」
「悠仁、腹が減った」
「ええー…」
何故にこのタイミングで
「……悠月、悠花、表の人たちお迎えしておいで」
「! お待ちを。一体あなたは何者ですか」
「それも全部、表の人たちも含めて話してやるよ。切嗣に頼まれてんだ」
切嗣の名前を出せば、ハッとしたように俺を見る女の子
悠月と悠花が連れてきたのは、女生徒
姿は見えないが、もう一人いるらしい
悠雪たちが通う学園の女生徒の制服を着ている
「いらっしゃい。色々とお互いに説明しなきゃならんだろうし。士郎、まずは着替えておいで」
「悠仁さん?爺さんに頼まれてたって、何が…?」
「何ってそりゃあ…聖杯戦争について」
それと、切嗣の娘についてだな