魂の寄る辺、生きる寄す処   作:少彦名

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ダンっと勢いよく叩きつけられた女生徒
後ろ手に抑えつけ、その喉元に手を回したのは、悠花だった

「やめな、悠花」

悠雪は悠月を抑えている
士郎は中腰になり、俺と悠花を交互に見る

「……悠仁が腹を割って話しているのに、コイツはどうだ?手の内をコソコソと隠したままだろ」

「それはこっちもだからなぁ。お互い様だろ?離してやんな」

「嫌だ」

この子は、もう
おそらく、いるであろう空間を見る

「出てきな。うちの子供たちは、アンタが隠れているのが嫌みたいだ」

姿を現したのは、一人の赤い男
……ああ、そうか
そうなるのか

「マスターを離してもらおうか」

「それはそっち次第じゃねぇの?うちの子供がそこまで敵意を向けるってことは何かしらそっちに非があるんだろうよ」

両面宿儺としての、何かが琴線に触れたのだろう

「悠花。お前は何が気に入らないのさ」

「……放っておけば、悠仁を殺しにくる」

「俺を?どうして」

「“小僧”」

悠雪の声に、思わず目を見開いた
悠雪に顔を向ける
目尻の下の傷跡のような隙間から、ギョロリ、と瞳が覗いて赤い男を見る
ほんの少しだけ、両面宿儺としての意識が表層に現れていた
それを見て、息を呑んだのは赤い男と女生徒

「“大丈夫”。眠っていて、“宿儺”」

しばらく、複眼が俺を見つめてきた
納得はしていないのだろう
不服そうに歪み、再度鋭く男を見る
じわり、じわりと浮かび始めていた呪印が薄れ、完全に複眼も閉じてしまう

「何者だ、貴様は…」

「まぁ、わかりやすく言えば…鬼、かなぁ」


永遠なんて誰が望んだ

「悠花。ゆーか」

 

悠仁が俺の頭を膝の上に乗せて、機嫌取りをしている

兄たちは、変わんねぇなぁ、と様子見

下の兄が遊んでいたソシャゲ

そのソシャゲの推しは、第一が先ほどの青い男、第二が目の前の赤い男だという

 

「いつもよりご機嫌斜めだね」

 

だって

いわゆる原作破壊やってる悠仁が、世界の異物と認識されて殺されるかもしれない

その可能性があるのわかってるはずなのに

どうして兄たちは

 

「こんな感じでごめんね。うちの子、どうにも甘ったれで」

 

「甘ったれはそれだけだが」

 

「ついでに言うなら泣き虫もだな」

 

「一番我儘だったの悠雪だし、一番夜泣き酷かったの悠月だけど?」

 

ふい、と横を向く兄たちに、唯一届く足で脇腹を蹴る

油断してたところに、いい場所に当たったのか、思わず声の漏れた下の兄がベシッと足を叩いてきた

痛い

 

「喧嘩すんなら叩き出すよ」

 

もう一度蹴ってやろうとした足を下ろす

グリグリと悠仁の腹に頭を擦り付け、沸き起こっていた殺意を鎮めていく

くあ、とあくびを漏らした上の兄

トラ転で、俺たちの容姿が両面宿儺になった理由は、魂の欠片が混ざったから

混ざった魂を通じて、本来の両面宿儺がこちらを覗き見れることに気がついたのは、悠仁だった

特に、魂の欠片の比重がわりかし多い上の兄は、両面宿儺とよく繋がる

上の兄が言うには、疲れるそう

 

「俺はね。元々とある鬼神と呼ばれた男が現代に復活するために用意された器だったんだ。ただ、器としては、精神が強固だった。魂を抱えて、仕舞う、檻として機能してしまった。だから、俺の中からその男はいなくなった」

 

両面宿儺は、だから伏黒恵を器とした

 

「同級生もさ。耐性があった。その男は猛毒で、誰でも器になれるわけじゃなかったのに。同じ時代に器たり得る肉体が二つもあったもんだから、結局、都合のいい方に乗り換えた」

 

俺の顔は、伏黒恵と同じだ

両面宿儺が、伏黒恵に受肉したことがあるからだ

 

「色々あったけど、男のことは倒したよ。男…宿儺は、ずっとひとりでいようとしたからさ。一緒に生きてみようって言ったのに、手を振り払われちゃった」

 

再び、うすらと開いた上の兄の複眼

悠仁は、気づかない

 

「のくせしてさぁ。こうやって、子供の姿で戻ってきて。びっくりだよね」

 

「……第三魔法…?いや、それよりもさらに高次元の…?」

 

魂の生成は、アインツベルンとかいう家の目指す到達地点だったっけ?

悠仁が時々ドイツに行くのは、悠仁の魂の状態を調べる代わりに、ある少女との交流をするためだとは聞いてる

それが、第三魔法とかいうやつに関係してるのか?

 

「宿儺が言うには、ふらふらしてた生きても死んでもいない魂に自分の魂混ぜて、俺のとこに落としたんだって。どこまで規格外なんだって話だよ。まぁ、そんなわけで、俺は半分人間で半分呪いでさ。こう見えて94歳」

 

「きゅうッ…!?嘘でしょ!?」

 

「不老ではあるけど、不死ではないから、さすがに死ぬような怪我したら死ぬと思うけどね」

 

少し話し過ぎな気がするぞ、悠仁




「よっ。いい月だな、ランサー」

教会の屋根
そこに座る、男の背後に降り立ち声をかければ、警戒を保ちつつも霊体化ってやつを解いて姿を現す
気怠そうに槍を担いだ男は、俺を見て顔を歪める

「……テメェ…何しにきた」

「ははっ、言峰に一つ忠告をな。こう見えても、90超えてんだわ」

「……マジかよ」

教会の屋根に座る
ここでことを構える気はないし、そもそも、なんかよくわからないが悠月が気に入ってるっぽいんだよな、この男のこと

受胎九相図(きょうだい)を取り込んで、人間と呪いの間に迷い込んだって言えば伝わるか?」

「……今の時代に、そんな奴がいるとはな」

こちらが話をしにきただけとわかったのか、向こうも腰を下ろす
話が通じるやつっぽいな
助かる助かる

「加えてうちの子供たちは父も母もなく、突然現れた。今は俺が人として育ててっけど、俺が死んだらどうなるかわからん。だから、殺さないでいてくれると助かる」

「とんでもねぇ地雷じゃねぇかよ。んでそんなお前が敵の本拠地に来てんだよ」

「いざという時、俺の子供たちを殺して欲しいからだよ」

そうなる前に、鏡で向こうに帰るのだろうけど
目を見開いた男に、思わず笑う
まさか、殺して欲しいなんて頼まれるとは思ってなかったんだろう

「あの子たちに、人を殺してほしくないんだ。頼むよ」

「……死ぬつもりか?」

「死ぬつもりはねぇよ。でも、万が一ってこともある。その時は、さ」

「テメェ、それを子供には言ったのか?」

言ってない
後ろに増えた三つの気配からは、明らかに怒気と分かる呪力が放たれていた

「おかえり。やりたいことは終わった?」

「終わった。帰るぞ」

「はいはい。明日はあの子のお迎えだし、早く寝るとするか」

伸びをする
悠雪の頭を撫でて、男に背を向けた

「おい」

「……なんだ」

「テメェらはなんで産まれた」

男の問い
悠雪を見た、悠月と悠花
なるほど、両面宿儺としての割合は、悠雪が多いからね
言葉にするのは、悠雪の方が得意だろう

「俺のものを手に入れて、何が悪い」

「へぇ?テメェらが親と慕う男は、テメェらをいずれ殺すつもりみたいだがな」

手を差し伸べて、振り払われて、掴まれて
俺たちな呪い呪われ、呪い合う

「違うな」

悠雪の複眼が開く
呪印が浮かび上がり、ランサーを見下ろす

「“小僧が俺を連れて逝くのではない。俺が小僧を連れて逝く。ゆめ、間違うな”」

ああ
俺と一緒に、逝ってくれるんだ
俺の最後は、ひとりじゃない
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