衛宮家に訪れた、隣家の娘
俺が出かけていない時は、子供だけのこの家に出入りして面倒を見てくれている
10年間の話をするために引っ張り出してきたらしいアルバムを見ながら、俺の顔を見比べる
確かに、十年前の写真から今まで、俺の姿は変わってないからね
「あはは…」
「いつまで経っても若々しいし、何かコツでもあるのかしら?」
そろそろ、この土地を一度離れた方がいいのかもしれない
最近、鏡を見ないけどどこにあるんだろうか
「悠仁、そろそろ止めた方がいいんじゃないか?」
「んー?」
悠花が見た先で、一人の少女に正座させられる士郎とアーチャー
アーチャーは、士郎の将来の姿だ
それは、初めて見た時からわかっていた
「キリツグもバカよね!ちゃんと魔術を教えてないんだから!」
「えーと、い、イリヤ?」
「後でバーサーカーとかけっこの刑よ!」
それはヤバい
「少しは手加減してやってよ?アーチャーはともかく、士郎は死ぬぞ」
「その時はその時よ!だってちゃんと教えてないキリツグが悪いもの!あと、セイバーのマスターなんかになっちゃうシロウが悪いのだわ!」
すまん
士郎にアーチャー
俺にはこのお転婆娘を止められない
「…………ブレーカーすぎるだろ」
悠月が頭を抱える
ブレーカーって何?
珍しく、弟たちが喧嘩していた
さすがに術式なしでやってるが、なかなか見応えあるな
「目玉焼きには醤油だろうが!」
「いいや!塩胡椒だ!」
喧嘩の理由はくだらないが
おっと、お互いにいいクロスカウンターが入った
呪力も使ってないのか
素の身体能力だけで言えば、悠仁に受肉していた時の両面宿儺の方が上だ
つまり、上の弟の方が上である
しかも呪力なしとはいえ手加減もなんもしてない
結果として、上の弟はその場で仰け反るだけに止まり、下の弟は吹っ飛ばされた
思いっきり塀に激突した下の弟
「ちょっ、何の音!?」
「悠仁」
悠仁は仰け反っていた姿勢を戻し、ぐい、と口元に垂れる血を拭った上の弟を見て、慌てていた
「何があったの!?」
「目玉焼きに何をかけたら美味いかで喧嘩してる。術式と呪力は使ってない」
上の弟が下の弟の胸ぐらを掴み上げる
下の弟は、膂力の差で伸びていた
「悠仁は何をかける派だ?」
「ソース」
「……俺もだ」
クツリ、と笑う
喧嘩もほどほどにね、と家の奥に戻っていった悠仁
上の弟を見れば、憮然とした顔をしている
「醤油だろ」
「ソースの方が甘味がある。悠仁は甘い卵焼きが好きだからな。ソース一択だろう」
「……子供舌め」
兄に対してなんて言い草だ
悠仁が好きなものと同じものを食べて何が悪い
「俺自身の好みはポン酢」
「第四勢力ぶち込んでくるなよ」
反転術式でさっさと怪我を治した上の弟は、縁側に下の弟を放ってこちらを伺う視線の主の方を見る
「何のようだ」
「……手合わせ、願えないかしら」
「俺はやらん」
縁側に上がり、足で下の弟を蹴り起こす
身じろいだ下の弟に、上の弟は室内に入っていく
「悠月、相手しないのか」
「怠い」
俺の言葉に短く返して、与えられた自室に向かっていく
下の弟が呻きながら体を起こし、俺を見る
「暇だろ」
「俺が相手しろと?」
クロスカウンターの決まった頬は痛々しく腫れている
後で反転術式を使うのだろうが、人前ではさすがにやらない
上の弟がいうには、この世界ではそういった特異な存在はどうやらホルマリン漬けにされかねないらしい
現に、悠仁のことを狙った奴らがいる
悠仁には気づかれないように処分したが
「……一分だけな」
つっかけを履いて庭に出る
そろそろ一度引っ越そうか、といった悠仁の言葉に片付けをしていたから服装はジャージ姿である
隣の藤村さんとこの爺さんや兄ちゃんたちへの挨拶も済んだし、学園も退学手続きをとった
あとは、家の片付けだけ
とはいえ、居候だからほとんど私物はないが
ジャケットを脱いだ遠坂が、構えた
「悠雪、殺すなよ」
「善処はする」
殺したら後が面倒くさい
この世界には呪霊がいないしな
胴を狙った発勁
その手を逆手どり、背負い投げる
投げた先には、士郎
「と、遠坂ァ!?」
「へ?キャァァア!!」
あ
思いっきりスカートだったな
ラッキースケベじゃないか、士郎
「じゃあ、行こうか」
悠雪が手の中で転がした鏡
その鏡の効果は、身をもって知っている
「何のようですか」
「フォッフォッフォ。そう、怖い顔をするでない」
度々、子供たちにちょっかいをかけてくる、酷い死臭のする老爺
よく家に来る少女にとっては義理の祖父
間桐家の老害
最期、だしな
「悠雪、いいよ」
す、と手刀を掲げた悠雪
「“龍鱗”“反発”“番いの流星”」
掌印、呪詞を省略せずに、放たれる一撃
「《解》」
世界を断つその一閃は、老爺の核となっていた蟲を斬った
これからが大変だろうけど
きっと、士郎を中心に助け合って過ごすだろう
「行こう」
悠雪が掲げた鏡に、俺の大切な、可愛い子供たちと俺の顔が映った